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一般不法行為の成否-容認事例E-
「ダスキン取締役会議事録等ネット公開事件平成171025日大阪高等裁判所(平成17()1300 

【コメント】本件は、1審被告がそのウェブサイトにおいて、「本件文書」(1審原告ダスキン代理人弁護士作成名義の意見書及び同原告の取締役会議事録)を電磁的記録に変換して公衆送信したことにより、1審原告ダスキンの名誉、情報プライバシー(人格権を含む。)又は信用が毀損され(民法709条、710条)、1審原告ダスキンが本件文書について有する著作権が侵害された(著作権法21条、23条)などと主張して、本件文書の公衆送信の差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案です。

 なお、本件においては、次のような経緯がありました。

1審被告は、平成1412月、大阪地方裁判所に、1審原告ダスキンに対する平成119月から平成1411月までの間に開催された取締役会の議事録の謄写請求につき許可を求めた(以下「本件謄写許可申請事件」という。)。

1審原告ダスキンは、本件謄写許可申請事件について、代理人弁護士作成名義の意見書(「本件文書1」)を提出し、同事件において謄写請求の対象とされた取締役会議事録の中には、申請の理由からして謄写の必要性のないものが含まれており、同事件における謄写請求は、対象とする議事録の期間及び記載事項を限定していないから、謄写許可申請は却下されるべきである旨の意見を述べた。

1審原告ダスキンは、平成15122日の審尋期日において、1審被告に対し、取締役会議事録の一部(「本件文書211」)を任意に開示し、1審被告は、本件謄写許可申請事件の申請を取り下げた。


 1審原告ダスキンの名誉,情報プライバシー又は信用の毀損の有無について
 
[本件文書1について]
 本件文書1は,本件謄写許可申請事件において,被申請人であった1審原告ダスキンが裁判所に提出した許可申請の許否に関する意見書(作成者は同原告の代理人弁護士)である。
 
…によれば,本件文書1は,本件謄写許可申請事件の申請人であった1審被告が受領した上記意見書の副本を電磁的記録に変換して公衆送信したものであり,その正本は同事件の裁判記録の一部であると認められる。
 ところで,取締役会議事録謄写許可申請事件はいわゆる非訟事件に属し,その審理は公益的要素が強く,場合によれば秘密性保持が要請されるところから,非公開で行われるものとされており(非訟事件手続法13条),その事件記録についても,裁判所の許可がなければ閲覧,謄写することができないものとして運用されている。
 
そして,当該事件において書面を提出する当事者も,当該書面が裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提とした上で,記載事項を検討し,これを作成しているものと推認されることからすると,書面の提出者は,その副本を相手方に交付する場合でも,相手方がこれを当該手続の進行のため等の正当な目的以外には使用しないことを当然に期待し得るものであって,本件におけるように,書面の提出者等の承諾を得ることなく,これをインターネット上で公開し,極めて広範囲の一般人がだれでも閲覧又は複写(ダウンロード)し得るような状態に置くようなことは,当該手続を非公開とした前記法規の趣旨,目的に反するとともに,書面を提出した当事者の信頼を著しく損なうものであって,信義則上許されないものといわなければならない。
 
そして,当該文書をみだりに公表されることがないという上記提出者等の期待ないし利益は法的保護に値するというべきところ,1審原告ダスキンのような法人も自然人と同じく法律上一個の人格者であってみれば,上記のような利益をみだりに侵害されてよいはずはなく,これを侵害された場合は,民法709条,710条に基づき,財産的損害のみならず,社会観念上,金銭の支払によって補填されるのが相当と考えられる無形的損害につき損害賠償を求めることができると解される(最高裁判所昭和39128日判決参照)。
 
1審原告ダスキンは,裁判所の許可がない限り閲覧,謄写されないことを前提として,代理人弁護士を介して本件謄写許可申請事件における自己の主張として本件文書1を提出し,その副本を1審被告に交付したというべきところ,無断で1審被告サイトで公開され,これにより前記利益を違法に侵害され,無形的損害を被ったものと認められる。
 なお,1審被告は,非公開手続で交付を受けた書面が,別の訴訟において証拠として用いられることは珍しくないなどと主張しているが,裁判手続における証拠としての提出とインターネット上の公開とは全く性質の異なる行為であるというべきである。
 
[本件文書2ないし11について]
 
取締役会議事録は,会社が業務執行に使用する目的で作成し管理する内部文書であるところ,商法260条の46項(管理人注:会社法371条参照)は,株主等がその権利を行使する必要があるときは,裁判所の許可を得て取締役会議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができる旨規定している。
 
そして,謄写又は閲覧が認められる場合でも,株主等の権利行使のため必要な範囲で認められるものであるから,これにより取得した書面等の使用は,当然に,閲覧謄写請求権行使の目的自体による制約を受けるものというべきである。
 
商法260条の46項の趣旨及び…に鑑みると,1審原告ダスキンは,本件謄写許可申請事件の平成15122日の審尋期日において,いわゆるインカメラによる審査をした裁判所の示唆を受けて,取締役会議事録の一部である本件文書2ないし111審被告に任意開示したものと推認されるところ,その際,1審原告ダスキンは,1審被告においても前記制約に従うことを当然の前提として期待していたものであることは明らかというべきである。
 
それにもかかわらず,1審被告は,1審原告ダスキンの承諾を得ることなく,取締役会議事録である本件文書2ないし11をインターネット上で公開し,極めて広範囲の一般人がだれでも閲覧又は複写(ダウンロード)し得る状態に置いたものであって,前記法規の趣旨,目的に反するとともに,1審原告ダスキンの信頼を著しく損なうものであり,信義則上許されないことは明らかというべきである。
 
そして,任意開示等した取締役会議事録(本件文書2ないし11)をみだりに公表されることがないという1審原告ダスキンの期待ないし利益は法的保護に値するというべきであるし,本件において,1審原告ダスキンは,1審被告の上記行為によって前記利益を違法に侵害され,無形的損害を被ったものと認められる。
 
(略)
 さらに,1審被告は,1審被告の行為によって,いかにして1審原告ダスキンの経済的側面における信用が低下するのか不明であるとも主張しているが,1審原告ダスキンは,業種的にも地域的にも極めて広範な活動をしている営利企業であるから,前記利益が侵害され,取締役会議事録等の,当然には公表されるべきものではない文書がその意に反して違法に公表せしめられることは,結局は,その経済的側面における信用(この場合は,利益や金銭と直結するものに限らず,ブランド力や暖簾のようなものも含め,広義に解釈されるべきである。)の低下につながるものであることは容易に推認し得るところである。
 
他方,1審原告らは,前記1審被告の行為により,人格権としての性質を有する名誉,情報プライバシーも侵害された旨主張しているが,1審原告らのいう人格権としての名誉,情報プライバシーなる利益の侵害の意味は必ずしも明確ではなく,結局のところ,1審原告ダスキンの前記利益が侵害され,当然には公表されるべきものではない文書がその意に反して違法に公表せしめられたこと,これにより1審原告ダスキンの無形的損害が生じたことを別の観点で法的構成するものにすぎないとも考えられるところである。
 
(略)
 
[違法性阻却事由の有無について]
 
1審被告は,1審被告の行為が名誉,情報プライバシー又は信用の毀損に該当するとしても,公共の利害に関し,専ら公益を図る目的でなされ,その内容が主要な点において真実であるか,若しくは真実と信じたことに相当な理由があるから,その違法性は阻却される旨主張する。
 
しかし,1審原告ダスキンとの関係で1審被告の不法行為とされるのは,前記のとおり,当然には公表されるべきでない1審原告ダスキン又はその代理人弁護士作成の文書を1審原告ダスキンの意に反して公表したことによって1審原告ダスキンの社会的評価を低下させたというものであるから,同文書の内容の真実性はそもそも問題にならない。
 また,本件においては,1審原告ダスキンの食品衛生法違反事件及びその事後処理が国民の関心事であり,同様の事件の再発防止が社会的に要請されていたことが認められるものの,既にみたとおり,1審被告が本件各文書を公表したこと自体が法規の趣旨,目的に反し,著しく信義に反するものであって,それ自体違法と評価されるものである以上,上記の点を考慮にいれても違法性が阻却されることはないというべきである。











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