著作権重要判例要旨[トップに戻る]







完全独占的通常実施権に基づく差止・損害賠償請求の可否
「パンチパーマ用セツトブラシ意匠商品製造販売事件」
昭和591220日大阪地方裁判所(昭和57()7035 

 【A】が本件意匠権を有していることは当事者間に争いがなく、…によれば、原告は【A】と昭和56930日本件意匠権の範囲全部につき、【A】が原告に専用実施権を許諾すること、【A】は自ら本件意匠を実施せず、また原告以外の第三者に許諾することができないこと、原告は実施料として1個につき20円を支払うこと、【A】は原告の実施権の登録手続に協力することを内容とする契約をなしたこと、しかし、侵害品が出回つた際【A】が侵害排除義務を負うとの約定は右契約書にはなく、原告は被告のイ号物件につき【A】に相談したところ、原告の方で裁判をするよう促がされ本訴提起に至つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
 
右専用実施権の設定につき登録を経ていないことは当事者に争いないところ、原告は未登録の専用実施権であつてもこれに基づき、差止・損害賠償請求権を行使し得る旨主張するが、意匠法273項、特許法9812号によれば、専用実施権の設定は、これを登録しなければその効力を生じないものとされ、それはいわゆる対抗要件ではなく効力発生要件と解すべきであるから、前記のとおり登録のない本件専用実施権は未だその効力を発生せず、また、右登録の効果を対抗要件と同一視して、不法行為者である被告には右登録の欠缺を主張し得る正当な利益を有しない旨の原告の主張も理由がない。よつて原告の専用実施権に基づく請求は理由がない。
 
そこで次に原告の独占的通常実施権の主張につき判断するに、通常、権利者と実施権者間で専用実施権の設定が約されたが、その登録に至らない間にもその実施が許諾されている場合には、実施権者は右実施につきいわゆる独占的通常実施権を付与されたものと同一視することができ、またそうみることが当事者の意思に合致するものと考えられ、本件においてもこのような設定を妨げる事情は見当らない。
 
よつて原告は独占的通常実施権を付与されたものと認められるところ、前認定の事実によれば、それは権利者が自己実施及び第三者に実施許諾しない旨の特約のある講学上いわゆる完全独占的通常実施権であると認められる。
 
そこで完全独占的通常実施権(予備的に債権者代位権)に基づく差止・損害賠償請求の可否について判断する。
(一) まず、完全独占的通常実施権の性質について検討するに、意匠法282項には、「通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をする権利を有する。」と規定しており、右の規定よりすれば、通常実施権の許諾者(権利者)は、通常実施権者に対し、当該意匠を業として実施することを容認する義務、すなわち実施権者に対し右実施による差止損害賠償請求権を行使しないという不作為義務を負うに止まり、それ以上に許諾者は当然には実施権者に対し、他の無承諾実施権者の行為を排除し通常実施権者の損害を避止する義務までも負うものではない。これを実施権者側からみれば、通常実施権者は権利者に対し、当該意匠の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。そして、完全独占的通常実施権といえども本来通常実施権であり、これに権利者が自己実施及び第三者に対し実施許諾をしない旨の不作為義務を負うという特約が付随するにすぎず、そのほか右通常実施権の性質が変わるものではない
(二) そこで差止請求権について判断するに、通常実施権ひいては完全独占的通常実施権の性質は前記のとおりであるから、無権限の第三者が当該意匠を実施した場合若しくは権利者が実施権者との契約上の義務に違反して第三者に実施を許諾した場合にも、実施権者の実施それ自体は何ら妨げられるものではなく、一方そのように権利者が第三者にも実施許諾をすることは、実施権者に対する債務不履行とはなるにしても、実施許諾権そのものは権利者に留保されて在り、完全独占的通常実施権の場合にも右実施許諾権が実施権者に移付されるものではないのであるから、実施権者の有する権利が排他性を有するということはできず、また条文の上からも意匠法37条には差止請求権を行使できる者として、意匠権者又は専用実施権者についてのみ規定していること(しかも、本件において原告は専用実施権の登録をなすことにより容易に差止請求権を有することができること)を考慮すると、通常実施権者である限りは、それが前記完全独占的通常実施権者であつてもこれに差止請求権を認めることは困難であり、許されないものといわざるをえない。
 また、原告は債権者代位権に基づき権利者の差止請求権を主張する。しかし、右債権者代位制度は元来債務者の一般財産保全のものであり、特定債権保全のために判例上登記請求権及び賃借権の保全の場合に例外的に債務者の無資力を要することなく右制度を転用することが許されているが、右はいずれも重畳的な権利の行使が許されず、権利救済のための現実的な必要性のある場合であるところ、完全独占的通常実施権は第三者の利用によつて独占性は妨げられるものの、実施それ自体には何らの支障も生ずることなく当該意匠権を第三者と同時に重畳的に利用できるのであり、重畳的な利用の不可能な前記二つの例外的な場合とは性質を異にし、代位制度を転用する現実的必要性は乏しく(しかも本件において原告は登録により容易に差止請求権を有することができる)、債権者代位による保全は許されないというべきである。
 
更に、完全独占的通常実施権の権利者に対する請求権は、無承諾実施権者の行為の排除等を権利者に求める請求権ではなく、当該意匠の実施を容認すべきことを請求する権利にすぎず(本件においても前記認定のとおり権利者の【A】に第三者の侵害行為を差止めるべき行為義務は認められない)、通常実施権者が権利者の有する侵害者に対する妨害排除請求権を代位行使することによつて権利者の実施権者に対する債務の履行が確保される関係にはないのであり、また、本件全証拠によるも【A】が無資力であるとは認められないから、結局債権者代位による保全の必要性も欠くといわざるをえない。
 
したがつて、原告の主張する差止請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(三) 次に損害賠償請求権につき検討するに、条文上意匠法は39条(損害の額の推定等)、40条(過失の推定)の規定を設け、意匠権者と専用実施権者について規定しているものの、右規定は損害額及び過失の推定についての特別規定であり、完全独占的通常実施権者に損害賠償請求権を否定する趣旨とは認められず(このことは意匠法37条に差止請求権につき意匠権者又は専用実施権者と規定しているのに対し、損害賠償請求権についてはかかる規定が存しないことによつてもうかがわれる)、結局完全独占的通常実施権者の損害賠償請求権については民法の一般原則にゆだねているものと解される。
 
通常実施権の性質は前記判示のとおりであるが、完全独占的通常実施権においては、権利者は実施権者に対し、実施権者以外の第三者に実施権を許諾しない義務を負うばかりか、権利者自身も実施しない義務を負つており、その結果実施権者は権利の実施品の製造販売にかかる市場及び利益を独占できる地位、期待をえているのであり、そのためにそれに見合う実施料を権利者に支払つているのであるから、無権限の第三者が当該意匠を実施することは実施権者の右地位を害し、その期待利益を奪うものであり、これによつて損害が生じた場合には、完全独占的通常実施権者は固有の権利として(債権者代位によらず)直接侵害者に対して損害賠償請求をなし得るものと解するのが相当である。











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