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信託受託者の管理著作物に関する損害賠償請求権の存否が争われた事例
「韓国楽曲の著作権信託譲渡契約事件」
平成220210日東京地方裁判所(平成16()18443 

【コメント】本件は、著作権等管理事業者であり、韓国の楽曲について著作権の信託譲渡を受けたと主張する原告が、通信カラオケ事業者である被告に対し、著作権(複製権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求等を求めた事案です。

 
なお、本件においては、「争いのない事実等」として、次の事実関係がありました。

原告は、平成144月に設立され、音楽著作物の著作権に関する著作権使用料の徴収及び管理等を目的とする株式会社であり、著作権等管理事業法に基づき、同年628日付で文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者である。

訴外株式会社ザ・ミュージックアジア(以下「TMA」という。)は、平成133月韓国法に基づき設立された、韓国ソウル市を本店所在地とし、著作権信託管理等を目的とする株式会社である。TMAは、本件訴訟係属後である平成18104日、臨時株主総会決議において解散の決議がされ、平成19328日、清算結了による閉鎖登記がされた。

原告は、「請求対象楽曲」(原告にその著作権が帰属していたと主張する楽曲)に対する韓国の作詞家、作曲家、音楽出版社等の著作者(以下「原権利者」という。)の著作権について、()原権利者とTMA間の著作権譲渡契約(以下「原権利者・TMA契約」という。)により、TMAに対して、又は、()原権利者と原告間の著作権信託譲渡契約(以下「直接契約」という。)により、原告に対して、いずれも上記著作権を譲渡ないし信託譲渡したと主張する。

TMAと原告は、平成141017日及び平成15918日、TMAが、原告に対し、現に所有する著作権及び将来取得する著作権を信託財産として譲渡し、原告は、これを管理する旨の著作権信託契約(以下「TMA・原告契約」という。)を締結した。

TMAは、原告に対し、平成18714日付け書面により、平成15918日付けTMA・原告契約19条に基づき,同契約を解除する旨の意思表示をした(ただし,解除の効力については争いがある。)。

原告は、「確認書AC」を提出しているが、その記載内容は、概ね次のとおりである:
 
「確認書A」は、原権利者が、原権利者・TMA契約の対象となる楽曲を明確にする目的で作成されたものであり、原権利者が、添付された楽曲リストの楽曲について、TMAに著作権を譲渡していたことを確認している。
 
「確認書B」は、原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が、TMAに対して、自己の楽曲の著作権を譲渡していること、TMAの解散後は、既に発生し徴収分配が未了の著作権使用料は、原告から直接分配を受けることを希望すること、原告が、信託受託者として、徴収分配等の管理を行うために訴訟を提起し、訴訟当事者として訴訟を続行する権限を有することを、それぞれ確認している。
 
「確認書C」は、原権利者・TMA契約を締結していた原権利者が、TMAに対して、自己の楽曲の著作権を包括的に信託譲渡していること、又は、直接契約を締結している原権利者が、原告に対して、著作権を信託譲渡していることを、それぞれ確認している。 


 争いのない事実等のとおり,TMAと原告は,平成141017日及び平成15918日,TMAが現に有する著作権及び将来取得する著作権を,原告に信託譲渡し,原告がこれを管理する旨の著作権信託契約(TMA・原告契約)を締結したこと,このうち,平成15918日付けTMA・原告契約には,TMAからの契約の解除について,「甲(TMA)は,信託期間内においても書面をもって乙(原告)に通知することにより本契約を解除することができる。この場合本契約は,通知の到達の日から6か月を経過した後最初に到来する331日をもって終了する。」(191項)との定めがあったところ,TMAは,原告に対し,平成18714日付け書面により,上記契約条項に基づき,同契約を解除する旨の意思表示をし,平成19331日が経過したことが,それぞれ認められる。
 
そして,外国法人であるTMAと原告との間で締結されたTMA・原告契約における解除の効力については,債権的法律行為の効力等について定める法の適用に関する通則法7条により,当事者の選択した地の法が準拠法となると解される。本件においては,TMA・原告契約は,準拠法を日本国法と定めているから(32条),我が国の法律が準拠法となる。
 そうすると,TMAによる上記契約条項に基づく解除は,「信託ノ解除ニ関シ信託行為ニ別段ノ定アルトキ」(旧信託法59条。なお,TMA・原告契約には,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条により,旧信託法が適用される。)に該当するから,これにより,同契約は,平成19331日の経過をもって,解除により終了したと認めるのが相当である。
 
原告は,委託者であるTMAによる一方的な解除は効力を有さないと主張し,委任契約に関する「有償委任において委任が委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としているときは,一方的な解約が認められない」との判例(大正9年大判)を引用した上,TMA・原告契約は,原告が,第三者から著作権使用料を回収した場合に,手数料を一部控除して,TMAの原告への債務の弁済に当てるという内容である(同契約15条)から,上記判例と同様,一方的な解除は認められないと主張する。
 
しかしながら,仮に,信託契約であるTMA・原告契約について,上記判例と同様の考え方が当てはまるとしても,上記契約15条は,原告が,信託著作権の管理によって得た著作物使用料の中から管理手数料を控除することや,業務遂行に要する支出について定めるに止まり,単なる手数料の控除や報酬の特約以上に,受託者である原告についての何らかの経済的利益(例えば,受託者の委託者に対する債務の弁済等)について定めるものとはいえない。そうすると,TMA・原告契約は,有償委任契約ではあるが,当該委任が,委任者の利益とともに受任者の利益をも目的としていると認めることはできず,上記判例とは事案を異にするから,委任契約を一方的に解約できない場合には該当しないというべきである。
 
したがって,TMAによるTMA・原告契約の解約も有効と認められるから,原告の上記主張を採用することはできない。
 
次に,争いのない事実等とおり,TMAは,平成18104日,臨時株主総会決議において解散の決議をしたことが認められる。そして,争いのない事実等のとおり,TMAは,韓国法に基づき設立された,本店所在地を韓国ソウル市とする法人であり,TMAの属人法である韓国法においては,我が国と同様に,会社は,解散すると,以後は,清算の目的の範囲内において,会社の現務を結了し,債権を取り立て,債権者に債務を弁済し,残余財産を分配する等の清算事務を行うことができるにとどまるから,TMAにおいても,解散後は,清算の目的の範囲を超える行為を行うことはできず,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれに関しても,清算事務としての行為を行うことができるにすぎないものと解される。
 
そして,このような平成1810月から平成193月までのTMAの解散等の事情が,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約に定める信託関係に及ぼす影響については,債権的法律行為の効力等について定める法の適用に関する通則法7条,又は,法例71項により,当事者の選択した地の法が準拠法となると解される。本件においては,原権利者・TMA契約は,準拠法を韓国法と定め(19条),TMA・原告契約は,準拠法を日本国法と定めているから(32条),上記各契約においては,当事者がそれぞれ選択した上記の各国の法律が準拠法となる。
 
そうすると,TMAの解散後,TMAの下においては,上記各契約における本来の信託の目的を達することはできなくなるというべきであるから,原権利者・TMA契約については,韓国信託法55条により,また,TMA・原告契約については,旧信託法56条により,いずれも信託の目的が不達成に至ったというべきであり,信託の終了事由が発生したと認めるのが相当である。
 
なお,上記信託の終了事由に関し,原告は,原権利者・TMA契約の法的性質について,「音楽著作権譲渡契約書」という契約書の表題や「音楽著作権を…譲渡する」との約定(3条)等から,期限付き著作権譲渡契約であると主張するが,同契約では,対象となる作品の利用促進や権利の管理等を目的として,原権利者からTMAに対して著作権の譲渡がされていること(1条,3条,13条)等からすると,原権利者・TMA契約は,著作権の管理等を目的として,著作権が譲渡されているから,信託譲渡と解するのが相当である。
 
また,原告は,平成193月にTMAの清算結了による閉鎖登記が無効である等と主張する。しかしながら,原告も,TMAの解散等の経緯について争うものではなく,上記認定の経緯に照らして,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれにおいても,信託について終了事由が生じていることは明らかといえるから,本件においては,上記登記の効力について論ずるまでもなく,信託の終了事由が生じたことを前提に,著作権の帰属等について検討するのが相当と解される。
 
そこで,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約のいずれにおいても,信託の終了原因が生じたことを前提に,原告に当該楽曲の著作権が帰属しているか否かを検討する。
 
信託が終了した場合,残存する信託財産が帰属する主体については,信託行為において,残存信託財産の帰属権利者を定めているときは,その指定された者が帰属権利者となるとされる(旧信託法62条。韓国信託法600条。なお,残存信託財産中に,未収財産のある原信託の受益者も,特に制限する事由のない限り,指定された帰属権利者に該当すると解される。)。また,信託が終了した場合,上記の帰属権利者の利益を保護し,信託事務の残務処理を完全なものにするため,信託関係は,信託財産がその帰属権利者に移転するまでは,なお存続するとみなされるが(旧信託法63条,韓国信託法61条),このいわゆる法定信託については,帰属権利者が,上記の指定された帰属権利者である場合には,受託者が既存の信託における清算段階の事務を行うことになるから,原信託の延長として,従前の信託関係が存続するものと解するのが相当である。そして,この場合,受託者の職務権限は,基本的には従前と変わらないものの,法定信託の目的が,帰属権利者に対して残余財産を移転することであるから,その範囲内における残務の処理,信託財産の帰属権利者(受益者)への移転,対抗要件の具備,それらが完了するまで信託財産を保存し,適切に収益を上げること(ただし,直ちに回収し得ないような条件で投資してはならないとされる。)に限定されると解される
 
本件において,信託契約である原権利者・TMA契約では原権利者が,また,TMA・原告契約ではTMAが,それぞれ各契約の受益者に該当するところ,本件訴訟において請求されている,請求対象期間における請求対象楽曲の著作権に対する侵害に基づく損害賠償請求権は,残存信託財産中に存する未収財産であり,これは,上記各契約における各受益者に対して,順次移転されるべき財産であるから,上記各受益者は,「残存信託財産中に未収財産のある原信託の受益者」であり,信託行為中に指定された帰属権利者に該当するというべきである。
 
したがって,原権利者・TMA契約及びTMA・原告契約における信託の終了については,残存信託財産が帰属権利者に移転するまで,原信託の延長としての法定信託が存続すると解するのが相当である。
 
なお,被告は,上記「未収財産」とは,現実に回収し,受領した金銭等のみが該当するところ,本件では,このような財産は存在しないから,信託行為により指定された帰属権利者がある場合には該当しない旨主張するようであるが,上記「未収財産」について,いまだ回収がなされていない財産一般ではなく,現実に回収し受領した金銭等に限定的に解釈する合理的理由は認められないから,被告の上記主張は採用できない。
 
次に,本件の原信託の延長としての法定信託において,受託者が行うべき具体的な信託の清算事務の内容等について検討する。
 
本件においては,原権利者・TMA契約における受託者はTMAであり,TMA・原告契約における受託者は原告であるところ,両契約に基づく信託の終了時点において,TMAは,原権利者の請求対象楽曲の著作権を原告に信託譲渡し,原告は,信託財産である請求対象楽曲の著作権に基づいて,本件訴訟を提起し,既に発生している請求対象期間における請求対象楽曲の著作権侵害に基づく損害賠償請求を行っていたものであるから,受託者の清算事務としては,いずれもこのような信託財産の返還や損害賠償請求の処理,管理手数料等の精算等の事務を行う必要があると解される。
 
そして,このうち,信託財産である請求対象楽曲の著作権の返還については,引渡しを観念することはできず,また,上記著作権は,いずれも信託について著作権登録がされたものではないから,返還のために特段の手続を取ることを必要とせず,著作権は帰属権利者に返還され,返還事務としては既に完了した状態にあると解するのが相当である。他方,上記の損害賠償請求の処理については,従前,TMA・原告契約の受託者である原告において,本件訴訟を提起し,訴訟追行をしてきており,いまだに損害金の現実の回収・分配が完了したものではないから,原則的には,現実の回収及び分配が完了するまで清算事務が継続すると解するのが相当である。
 
しかしながら,本来,法定信託においては,既に終了事由の発生した信託において,帰属権利者に対して残余の信託財産を確実に移転することを目的としていることからすると,法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じており,帰属権利者において,早期に信託財産の返還を受け,その管理利用の在り方について改めて検討できる機会を付与されることが,帰属権利者の利益の観点から相当な場合には,帰属権利者に対して残余の信託財産(損害賠償請求権)を移転すれば足り,それにより清算事務は完了すると解するのが相当である。
 
本件において,争いのない事実等のとおり,TMAは,平成1810月に解散し,平成193月には清算結了の登記を了しており,平成217月時点においては,原権利者の半数程度とは容易に連絡が取れない状況となっていること等からすると,仮に,原告が,使用料相当額の損害金を回収したとしても,帰属権利者がその回収等を信託の清算事務として原告に委ねる旨の特段の意思を明確に表明していない限りは,その後の,原告とTMA間,TMAと原権利者間の各清算事務が円滑に遂行されることは到底期待できない。また,上記のとおり,信託財産のうち,著作権そのものについては,既に返還事務が完了した状態となっており,既発生の使用料相当額の損害賠償請求権についても,その回収方法を著作権の管理と併せて検討する機会を与えることが,帰属権利者の利益保護の観点から相当であること等からすると,帰属権利者において,既発生の上記損害金について,上記の意思を表明しない限り,法定信託における清算事務を継続することに著しい支障が生じているというべきであるから,受託者としては,帰属権利者に上記損害賠償請求権を移転すれば足り,それにより清算事務は完了すると解するのが相当である。
 したがって,本件では,帰属権利者が,原告に対し,信託の清算事務として,本件訴訟における使用料相当額の損害賠償請求権を行使すること,及び,訴訟を追行することを認めるとの意思を表明している場合(本件においては,確認書Bにおいて,原権利者のこのような意思が表明されている。)に限り,原告に上記の著作権侵害に基づく損害賠償請求権が帰属し,かつ,これを行使することができるというべきである。
 
この点,原告は,TMAの意思及び原権利者の保護の観点から,すべての請求対象楽曲について,原告に上記請求権が帰属すると主張するようであり,当時のTMA代表者作家3の陳述書においても,原告による訴訟の追行を要望する旨述べているが,TMAは,TMA・原告契約における受益者(帰属権利者)であるとともに,原権利者・TMA契約における受託者であり,当該信託の清算事務の範囲内において,信託財産である請求対象楽曲の著作権の帰属権利者である原権利者の意向に基づく行為のみをなし得るというべきであるから,作家3が上記のような供述をしたとしても,原権利者において訴訟追行等の意思を表明しない限り,作家3又はTMAの意向が法的意味を有するものではない。
 
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
 
(略)
 
被告楽曲目録8(TMA関連楽曲−韓国業法違反分)の楽曲について,被告は,TMAは,韓国の業法に違反し,著作権信託管理の事業許可を得ずに,著作権管理業を行っているから,TMAの締結した原権利者・TMA契約等は違法であり,原告には著作権管理権限がないと主張する。
 
しかしながら,業法上の許可を得ていないことが,直ちに私法上の契約の効力に影響し,契約が無効となるということはできず,他に私法上の契約を無効とすべき違法な事情を認めるに足りる証拠はないから,被告の主張を採用することはできない。

【コメント】本件については、後に控訴審において、上記と異なる判断がなされました。 











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