著作権重要判例要旨[トップに戻る]







プログラムの著作物の侵害性が問題となった事例(5)
「公共工事用積算ソフト事件」平成140423日大阪地方裁判所(平成11()12875/平成150715日大阪高等裁判所(平成14()1763 

【コメント】本件における「原告の主張」は、次のようなものでした:
(1) 原告ソフトと被告ソフトの同一性、類似性について
 
次のア〜ウの事情に照らせば、原告ソフトと被告ソフトは偶然を超えた類似性を示していることは明らかである。
ア 条件値のチェック方法
 
原告ソフトにおいては、@使用条件のチェック(あらかじめ選択された「条件」を使用不可能にする機能)、A関連チェック(他の条件との整合性のない条件が入力されないようにする機能)、B範囲チェック(実数入力の場合に、入力値の範囲をチェックする機能)の3種類のチェック方法を準備したが、被告ソフトにおいても、同じ3種類のチェック方法が用いられている。
 
(以下、略)」

(控訴審における原告主張の追加部分)

 「公共工事用積算ソフトにおいて,最終的に算出された価格を出力する際に,項目によって,千円未満や小数点以下などを切り捨てたり四捨五入するなど,端数処理の作業が必要になることがある。この作業を「計算補正」という。そして,各計算補正作業に付けられた番号を「計算補正区分」という。
 
原告ソフトと被告ソフトの計算補正区分は,並び順が一致し,かつ,被告ソフトの計算補正区分は,原告ソフトの計算補正区分プラス100であって,極めて類似している。
 
さらに,原告ソフト及び被告ソフトには,いずれも,将来に使用の可能性があるためにあらかじめ用意されているものの,実際には現在使用されていない計算補正区分があるが,これも一致している。
 
これらのことは,被告ソフトが原告ソフトを複製又は翻案したことの証拠である。」 


【原審】

 
被告ソフトは、原告ソフトを翻案したものか
 
[原告ソフトと被告ソフトのソースコードの比較について]
 
著作権法により保護される著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同法211号)とされているように、著作権法は、創作性ある「表現」を保護の対象としている。しかも、プログラムの著作物(同法1019号)に対する保護は、その著作物を作成するために用いる解法(プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法)に及ばない(同法103項)とされている。
 
したがって、プログラムの著作物は、プログラムの創作性ある「表現」について著作権法上の保護が及び、「表現」されたものの背後にある原理、アイデア等についてはその保護が及ぶものではないと解される。
 
原告は、原告ソフトと被告ソフトとが類似することの根拠として、@条件値のチェック方法、A仕様書(金抜き設計書)の出力禁止情報の制御方法、B既定値の表記及び処理内容を指摘するが、既定値の表記に関する主張事項を除けば【控訴審で次のように変更:「B既定値の表記及び処理内容,C計算補正区分及びD諸雑費及び小計を計算するためのデータの与え方を指摘するが,既定値の表記及び計算補正区分に関する主張事項を除けば」】、いずれもプログラムの表現上の類似点ではなく、アイデアに属する部分の類似点であるというべきである。
 
しかしながら、原告ソフト及び被告ソフトにおけるこうした類似性も、プログラムの表現上の類似性を示す徴表となり得る余地があるので、以下検討する。
 
[条件値のチェック方法について]
 
原告ソフト及び被告ソフトは、いずれも、@使用条件のチェック(あらかじめ選択された「条件」を使用不可能にする機能)、A関連チェック(他の条件との整合性のない条件が入力されないようにする機能)、B範囲チェック(実数入力の場合に、入力値の範囲をチェックする機能)の3種類のチェック方法を用いていることは争いがない。
 
しかしながら、…によれば、広島県等の公共土木のコードブックにおいて、使用条件チェックとして「A条件33〜36のみ計上」、関連チェックとして「C<3、H<3のときはエラーとなる」、範囲チェックとして「範囲:1〜36か月」などの表現により、3種類のチェック方法が記載されていることが認められ、これによれば、上記3種類のチェック方法は上記のコードブックの記載に従い、これを被告ソフトに取り込んだものと解する余地があり、そうすると、3種類のチェック方法は誰がプログラムを作成しても同じようになる部分というべきであるから、上記の事実関係から、直ちに、被告ソフトが原告ソフトが有するユニークな特徴点において類似するとすることはできない
 
(略)
 そして、プログラムの表現上の類否は、本来ソースコードを対比すれば、複製権ないし翻案権を侵害するものか否かが立証できてしかるべきところ、上記で検討したとおり、原告ソフトと被告ソフトのソースコードを比較した結果に基づく立証によっても、被告ソフトが原告ソフトを複製ないし翻案したものであることを認めるには足りないというべきである。

【控訴審】

 
当審も,被告ソフトが原告ソフトを複製又は翻案したものであるとは認められないと判断する。その理由は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決…記載のとおりであるから,これを引用する。
 
(略)
 
[計算補正区分について]
 
…によれば,原告ソフトと被告ソフトの計算補正区分を対比すると,@計算補正区分の並び順が一致し,A被告ソフトの計算補正区分が原告ソフトの計算補正区分プラス100となっており,B将来に使用の可能性があるためにあらかじめ用意されているが,実際には現在使用されていない計算補正区分が一致しているなど,両者の間に類似性があることが認められる。
 
しかし,公共工事用積算ソフトにおいては,算出された金額を出力するに当たって,どの桁まで表示するか,それ以下については切り捨てるか,四捨五入するかなどは,地方自治体の作成した施工単価条件表に定められており,これに従って計算補正をするプログラムを作成する限り,現実に使用される計算補正は一致するのが当然である
 
実際には現在使用されていない計算補正区分について,将来追加される可能性を考慮して,容易にプログラムの修正を行えるように,あらかじめ設定しておくことは,不自然な処理ではない。
 
そして,将来,どのような計算補正が追加される可能性があるかは,現在使用されている計算補正の種類から,ある程度予測することが可能であると認められる(例えば,現在,切捨てと四捨五入においては,「少数第1位止」から「少数第5位止」までが使用されているが,切上げにおいては,「少数第1位止」のみが使用されている場合は,切上げについても,将来,「少数第2位止」から「少数第5位止」までが使用される可能性があるとの予測が成り立つ。)。
 
そうすると,原告が,将来追加される可能性を見越して,あらかじめ設定した計算補正の選択は,原告ソフトに特有のものであるとはいえない。したがって,原告ソフトと被告ソフトの現在使用されていない計算補正区分が類似しているからといって,被告ソフトが原告ソフトを複製又は翻案しているということはできない
 
しかも,計算補正は,前記前提となる事実記載の公共工事用積算ソフトのうち,算出された金額を出力する場合等に端数を処理するという機能を担当するにすぎないから,ソフト全体から見ればごく一部にすぎない。
 
そして,被告ソフトのソースコードは開示され,原告は,被告ソフトのソースコードを解析するための十分な能力及び時間があったにもかかわらず,他に原告ソフトと被告ソフトの表現上の類似性についての主張立証がされていないことを考慮すると,計算補正区分が類似しているという一事をもって,プログラム全体についての同一性,類似性を認めるには至らない
 
なお,計算補正区分の並び順が一致し,計算補正区分が類似していることは,プログラムの表現上の類似点であるという余地があるから,プログラム全体についての同一性,類似性が認められないとしても,計算補正に関するプログラムの部分について,著作権侵害が成立する余地がある。
 
しかし,前記のとおり,公共工事用積算ソフトを作成するに当たって,どのような計算補正を選択するかは,地方自治体の作成した施行単価条件表に基づいて決まることであり,将来追加される可能性がある計算補正の選択も含めて,原告ソフトに特有なものであるとはいえない。そうすると,計算補正区分の並び順及び計算補正区分の番号の付け方について創作性があるとはいえないから,原告ソフト中の計算補正に関するプログラムが独立してプログラムの著作物であるということはできない
 
したがって,計算補正に関するプログラムの部分について著作権侵害が成立するということもできない。











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