著作権重要判例要旨[トップに戻る]







利用許諾契約の解釈(15)-違約金支払規定と公序良俗A-
「キャバレー‘ゴールデンミカド’事件」昭和450430日大阪高等裁判所(昭和42()1342 

 (当事者双方の業務)
 
被控訴人協会が「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」による許可を受けた我国唯一の著作権仲介団体であつて、内外の音楽著作物につき各著作権者より著作権の信託的譲渡を受けてこれを管理し、右管理にかかる著作物の我国内に於ける使用者に対しその使用を許諾して各使用者から著作物使用料を収取し、これを内外の著作権者に分配することを主たる業務とするものであること、並びに控訴会社が風俗営業に関する事業を営む会社であって、昭和38101日以来大阪市…の営業所に、バンドステージ、ピアノ、フロアー、客席及び楽団等の設備を設け「ゴールデンミカド」と称するキヤバレーを経営していることは、当事者間に争いがなく、…を綜合すると、被控訴人協会は、現に管理著作物につきそれぞれその著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて、これを管理しているものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
 
(被控訴人の管理著作物約定使用料の請求について)
 
…を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右すべき証拠はない。即ち、
一、昭和3810月初頃、被控訴人協会関西営業所職員Dは、控訴会社が前記の如く同月1日よりその営業を開始したことを新聞広告によつて知り、その営業の性質上同会社が管理著作物を使用するものと考えて、同月4日控訴会社を訪ね、当時控訴会社経営の実権を掌握していた常務取締役Fに面会して同人から控訴会社の営業の規模、管理著作物の使用状況等について説明を受け、控訴会社が管理著作物を使用していることを確認した上、「音楽と著作権」と題するパンフレツトと共に「音楽著作物使用許諾契約申込書」用紙2通、「著作物使用料規程」1部を交付し、管理著作物を使用するには被控訴人協会の許諾及び所定の使用料の支払が必要であることを説明して、早急に右使用許諾契約締結の申込をするよう要求したところ、控訴会社は右要求に応じて同月21日被控訴人協会関西営業所に右申込書2通を送付した。
二、同月24日右Dが「契約書」用紙2通を持参して控訴会社を訪ねたところ、控訴会社に於ては、営業部長Gが右Dに対し控訴会社が営業を開始したばかりであることを理由に、当分の間使用料を減額するよう申入れてその諒解を得て細目を決定した上、予めFの指示を受けていた同会社経理部長Aが右契約書用紙2通に控訴会社代表者の記名印及び印を押捺した
三、Dは右契約書用紙を一旦被控訴人協会関西営業所に持帰り、直ちに被控訴人協会側の調印をすませた上、内1通は協会に留め、他の一通を控訴会社に郵送したが、右契約書には、管理著作物の使用料、不履行の場合の措置及び契約の存続期間に関し
(イ) 管理著作物使用料は、演奏の有無回数に拘らず、月額5万円(但し12月は6万円)とし、控訴会社はこれを毎月10日被控訴人協会の事務所に持参して支払う。但し昭和3810月から昭和393月末日迄の使用料は特に月額4万円とする。
(ロ) 控訴会社が3ケ月以上右使用料の支払をしないときは、控訴会社は被控訴人協会に対し、使用料の外に、違約金として月額使用料の倍額を支払う
(ハ) 控訴会社が本契約に違反したときは、被控訴人協会は催告をしないで直ちにこれを解除することができる。
(二) 契約期間は昭和38101日より昭和39930日までとする。但し、期間満了時に当事者のいずれかから特に異議を述べない限り、本契約と同一の内容を以て契約を更新したものとする。
という趣旨の記載がある。
 
右に認定した事実によれば、昭和381024日被控訴人協会と控訴会社との間に、右契約書記載通りの内容の管理著作物使用許諾契約が成立したものと認めるべきである
 
(略)
 
控訴会社の前記約定使用料の支払は常に12ケ月遅れてなされており、前記契約期間の満了する昭和399月分を同年1111日に支払つた後は、右使用料を全く支払わなくなつたので、その後被控訴人協会関西営業所職員は再三に亘つて控訴会社を訪ね、或いは電話でその支払方を請求したけれども、控訴会社に於ては役員が支出の決裁をしないことや手許不如意を口実に支払の猶予を求めるばかりで、格別使用料の減額を求めることはなく、昭和41610日付書面で被控訴人協会に分割払の認容方を求めた際にも、使用料の額そのものについては何等言及するところがなかつた。
との事実が認められるのであつて、右事実によれば、前記契約はその(ニ)の条項により、昭和39101日、昭和40101日及び昭和41101日、相次いで従前通りの内容で更新されたものとする外はない。
 
そして記録によれば、被控訴人協会が昭和4251日付本訴準備書面を以て前記(ハ)の約定に基き控訴会社の右使用料不払を理由として右契約を解除する旨の意思表示をなし、同準備書面が同月2日控訴会社の原審訴訟代理人に到達したことは明らかであつて、右契約は同日限り終了したものと認められるから、控訴会社に対し、昭和39101日以降右契約終了前である昭和42430日迄1ケ月5万円(但し12月は6万円)の割合による合計158万円の約定使用料の支払を求める被控訴人協会の請求は理由がある。
 
(被控訴人の約定違約金の請求について)
 
前述の通り被控訴人協会と控訴会社の間には、控訴会社に於て管理著作物の使用料を3ケ月以上支払わないときは、当該使用料の外、その倍額の違約金を被控訴人協会に支払う旨の約定が存するところ、控訴会社は、右違約金の額が使用料の額に較べて不当に高額であるから右約定は公序良俗に反する無効のものであり、且つ右約定に基く権利の行使は信義則に違反するものであるから許容すべきでないと主張するので、この点について考えるに、…を綜合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。即ち
一、控訴会社の経営する前記キヤバレーの営業日数は平均1ケ月25日、平均入場料は200円以上500円未満、客席数は約280であつて、控訴会社は右キヤバレーに開業以来二ツの楽団を常置して間断なく軽音楽を演奏させており、その中には少くとも160曲(但し演奏時間は1曲につき5分未満)の管理著作物が含まれている。
二、一方、被控訴人協会は「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」第3条第1項の規定に基き、昭和15219日主務大臣の認可を受けて「著作物使用料規程」を定め、その内容はその後数次の変更を経たが、昭和36725日の認可により変更され前記契約締結の際の基準とされた右規程によると、管理著作物の実演の内、軽音楽11回の演奏による使用料は、収容人員500名未満、使用時間5分未満、平均入場料200円以上500円未満の場合は1曲につき400円と定められており、これをキヤバレー、カフエー等の社交場に於て使用する場合は右使用料の5割の範囲内で使用状況及び演奏時間を斟酌してこれを決定することとされているところ、被控訴人協会に於てはその斟酌の方法として収容人員500名未満のものを更に100名単位で段階的に区分し、各社交場の客席数に応じて減額することとしている。
三、右の基準を控訴会社の場合に、客席数280250として控え目に適用すると、別紙計算表記載の通り1曲当り100円となるから、160曲の使用料は6,000円、1ケ月平均25日の使用料は15万円となるけれども、被控訴人協会は、前記契約締結の際控訴会社が減額方を求めたことと控訴会社が管理著作物の継続的利用者であることを考慮し、特約によつてその3分の1である5万円(但し12月は6万円)を1ケ月の使用料と定めると共に、控訴会社がこの減額された使用料すら3ケ月以上も支払わないようなときは、被控訴人協会が右規程によつて取得することのできた額と約定使用料との差額10万円を控訴会社に負担させる意味で、月額使用料の倍額を違約金とする前記約定がなされたものである。
 
以上の事実からすれば、右違約金の約定の当否を考えるには、その額を決定する基準とされた前記「著作物使用料規程」の合理性ないし拘束力の有無が検討されなければならないところ、先ず、被控訴人協会の営む著作権仲介業は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基き主務大臣(昭和43年法律第99号による改正後は文化庁長官、以下同じ)の許可を受けなければ営むことができないものである(同法第2条)ばかりでなく、主務大臣に対する業務報告書及び会計報告書の提出を義務づけられ、主務大臣は業務報告、帳簿書類の提出及び業務執行方法の変更等を必要に応じて仲介業者に命ずることができ、事務所等の臨検検査権を有し、更に事情によつては前記許可の取消や業務執行停止の措置すら採り得る(同法第6ないし第9条)のであつて、仲介業者は国の強力な監督下に置かれているのである。そして、同法第3条は、著作物使用料について、仲介業者に著作物使用料規程を定めて主務大臣の認可を受けることを義務づけ、主務大臣は、認可申請のあつた規程の要領を公告して利害関係人等に意見具申の機会を与えた後、著作権制度審議会の諮問を経た上でなければ右認可を与えることができないこととしているのであって、右規定の趣旨は、これにより著作物使用料規程の内容が合理的且つ公正であることを保障するとともに、著作物の利用を簡易且つ円滑化し、以て著作物利用者を保護することにあると考えられる。そうだとすれば、かかる慎重な手続を経て認可された著作物使用料規程は、特にこれを不当とするような事情の認められない限り、公正且つ妥当な内容を有するものと推定すべきであるし、また、右規程は、前述のように強力な国の監督に服する業者がこれに準拠することを義務づけられている(同法第2条第2号参照)こととの均衡上、当事者がこれによる意思を有すると否とに拘らず当然当事者を拘束するとまではいえないにしても、少くとも当事者がこれによらない意思を表示しない限り、これに準拠する意思で著作物使用契約を締結したものと観なければならない。本件に於ても、前認定の通り被控訴人協会が主務大臣の認可を受けて定めた前記「著作物使用料規程」が存するのであるから、特約のない限り、控訴会社の管理著作物使用料は右規程によつて算出するのが相当であるところ、前認定の通り、右規程によつて算出した控訴会社の使用料額は1ケ月15万円であるから、被控訴人協会は控訴会社に対し本来これと同額の使用料の支払を求め得たこととなるのであるが、それにも拘らず、被控訴人協会が控訴会社との間にその管理著作物使用料を1ケ月5万円(但し12月は6万円)と約定したのは、管理著作物の継続的利用者である控訴会社に対する優遇措置であつて、前記違約金は、これによつて間接的に使用料の支払を強制すると共に、右優遇措置にすら甘んじない不誠実な管理著作物利用者に対する制裁の意味で定められたものというべきである。そして、右使用料の特約はその限りに於て前記規程の適用を排除するものではあるけれども、この特約のために右規程に準拠した使用料額がその合理性を失うものでないことは勿論であるから、控訴会社が3ケ月以上前記約定使用料を支払わない場合は、右規程によつて算出した使用料額を標準として、当該約定使用料の外、その2倍の違約金を支払うこととした右違約金の約定は、12月以外の月の分については、結局右規程によつて算出した本来の使用料額に復したに過ぎず、また毎年12月の分がその他の月より2万円多額になるとしても、これを不当に高額であるということができないことは明らかであつて、右違約金の約定が公序良俗に違反するものとなし得ないことはいうまでもなく、更にかかる事態を招来した責任は前記優遇措置により3分の1に減額された使用料さえも支払わなかつた控訴会社にあるのであるから、被控訴人協会が右違約金請求権を行使することを以て信義則に違反するものであるということもできない
 
してみれば、控訴会社に対し前記使用料債務不履行の期間中、1ケ月10万円(但し12月に限り12万円)の割合により、合計316万円の違約金の支払を求める被控訴人協会の請求も亦理由があるものとしなければならない。











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