著作権重要判例要旨[トップに戻る]







イラストのエージェンシー業者の注意義務
「恐竜のイラスト無断改変事件」平成110921日東京高等裁判所(平成10()5108等) 

 [承諾の有無について]
 
…によれば、本件利用の経緯について、次のとおりの事実を認めることができる。
 
総合広告代理店であるアド・エヌは、オートバイ部品メーカーであるキジマから、製品カタログの制作の依頼を受けた。アド・エヌのデザイン担当者であった【D】は、右カタログの表紙のデザインを行うに当たって、適当な素材を探していたところ、控訴人キーフォトスから送付されていた控訴人アートバンク作成の「ザ・ベストイラストレーションVo1・3増補改訂版」に掲載されていた本件著作物が最もイメージに合う作品であったことから、平成61125日、控訴人キーフォトスに対し、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいとの希望、そのためイラストの一部を切除したとの希望、予定している具体的な合成の方法等を電話で伝えて、本件著作物の借受けを打診した。
 
控訴人キーフォトスは、本件著作物が、用途制限「扱いC」、すなわち、利用申込みの都度、貸出しの可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったため、本件打診書に所定事項を記入したうえ、欄外に、本件著作物を模した簡略な絵を描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記したうえ、平成61125日、本件著作物を管理している控訴人アートバンクに、本件打診書を送付した。控訴人アートバンクは、本件打診書に、「※おいそがしいところ、どうぞよろしくお願い申しあげます」と書き添えたうえ、同日、被控訴人にこれを送付した。
 
被控訴人は、本件打診書に記載された顧客、仲介者、使用媒体、使用期間、著作権料について了解し、控訴人アートバンクに対し、貸出承諾書(以下、原判決と同様に「本件承諾書」という。)に、本件打診書欄外の付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記したうえ、同日、控訴人アートバンクに送付した。控訴人アートバンクは、被控訴人から送られた本件承諾書のうち、宛先欄の「殿」の文字を斜線で消し、文書の左上に控訴人キーフォトスの担当者名を書き加えて、同控訴人に送付した。
 
控訴人キーフォトスは、同日、アド・エヌに、合成使用につき被控訴人から承諾を得られた旨連絡し、写真貸出票に「※合成用の為、飛んでいる恐竜をカットする。→OK1125作家【C】氏本人より」と記載したうえ、本件著作物のポジを貸し出した。
 
アド・エヌは、借り受けた本件著作物について本件利用を行い、製品カタログを完成させてキジマに引き渡し、キジマは、これを広く業者向けに頒布した。
 
右認定の事実によれば、被控訴人が、本件著作物の改変の内容として、本件打診書で明確にされている翼竜の切除及びこれに伴う合成(ここにいう「合成」とは、「合成写真」の例に見られるような、二つ以上のものを合わせて一つのものにする、というだけの普通の意味での「合成」である。)として予測される範囲のものについて承諾を与えたことは認められるものの、その範囲を超える改変、特に、本件著作物の特徴である写実性、緻密さが失われるようなティラノサウルス自体の色調、輪郭、細部等についての大幅な変更をすることまで承諾したとは、とても認めることができない。このことは、控訴人らの指摘するカラオケの広告及び墓地の広告において、本件著作物中のティラノサウルスの周辺部にカラオケのマイクや墓石が配されたりの大きな改変がなされているものの、ティラノサウルス自体の写実性、緻密さは全く損なわれていないことからも裏付けられるものである。
 
アド・エヌによる改変作業の結果がどういう表現になるのかは、承諾請求の段階ではアド・エヌ自身にも確定的には明らかにはなっていなかったのであり、被控訴人は、右のような事情を理解、認識したうえ、本件著作物が素材として改変利用されることを承諾していたとして、これを根拠に、被控訴人は本件利用を承諾していたとする、控訴人らの主張は採用できない。
 
具体的な表現が最終的にどのようなものになるかを承諾請求の段階で確定的に明らかにすることができないことは、控訴人ら主張のとおりであろう。しかし、そのことは、決して、最終的に行われる改変の結果を、承諾請求の段階で一定範囲に制限することと両立し得ないものではない。これは論ずるまでもないことである。そして、前記認定のとおり、本件著作物は、利用申込みの都度、貸出しの可否について、著作者たる被控訴人の判断を必要とするものであったのであるから、本件著作物に関しては、利用申込みの都度、希望されている本件著作物の利用の改変内容について説明して貸出しの可否を問い、被控訴人の承諾を求める必要があったのであり、現に、控訴人らは、承諾を求めるために本件打診書を被控訴人に送付しているのである。控訴人らは、広告業界に控訴人ら主張のような事情があればあるほど、本件著作物に関しては、利用者の行うべき改変と著作者である被控訴人の承諾との間にずれを生じさせないようにより注意深くあらねばならなかったのである。
 
[控訴人らの過失の有無について]
 
控訴人アートバンクは、イラストレーターからの委託に基き、料金をとってイラスト作品を顧客に貸し出すことを業として行っているものであり、控訴人キーフォトスは、控訴人アートバンクの代理店としてイラスト作品貸出しに係る代理店業務を行っているものであるから、両者は、協力して、その管理するイラストに係る権利について善良なる管理者の注意をもって事務処理をすべき義務を負っているものと解され、顧客から、その管理するイラストであって、本件著作物のように利用申込みの都度イラストレーターにより貸出しの可否の判断がなされることにされているもの(「扱いC」のもの)につき改変利用の希望があり、これをイラストレーターに取り次ぐ場合には、顧客の希望する改変の内容、方法、範囲について正確に把握し、これを、誤解の生じないように正確にイラストレーターに伝えて承諾の可否について打診し、イラストレーターが了解を与えた場合には、その内容を誤解の生じないような形で正確に顧客に伝えることにより、顧客による著作者人格権等の侵害が発生することのないよう細心の注意を払うべき義務があったものと解すべきである。
 
ところが、前記認定のとおり、控訴人キーフォトスは、アド・エヌから、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいという希望、そのためイラストの一部を切除したいとの希望、具体的な合成の方法等を聴取しておきながら、本件打診書の欄外に、本件著作物を模したイラストを描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記しただけで控訴人アートバンクにこれを送ったのであるから、アド・エヌの希望する改変の内容、方法、範囲について、誤解の生じないように正確に被控訴人に伝えて承諾の可否について打診するための行動をとったとはいえず、かえって、アド・エヌの希望する改変が翼竜の切除と恐竜自体の改変を伴わない合成のみであるかのように誤解される状況を作り出しているのであり、また、被控訴人から、右付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された本件承諾書の送付を受けたにもかかわらず、その内容を誤解の生じないような形で正確にアド・エヌに伝えず、被控訴人からアド・エヌの希望どおりの改変の承諾を得られたかのような連絡をしたのである。控訴人キーフォトスの右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。
 
また、控訴人アートバンクは、控訴人キーフォトスから受け取った本件打診書の記載内容が、翼竜の切除が顧客の希望に入ることについては誤解のおそれはないものの、その理由として、「(合成使用したい為)」との文言も含んでいて、翼竜の切除以外の改変も予定されていることがうかがわれ、しかもその内容が必ずしも明確でないものであったにもかかわらず(「合成使用」の用語が、デジタルデータ化した上での組合わせ、変形、色変換の作業を指すものとしても使用されうることは、控訴人ら自身の主張するところである。)、控訴人キーフォトス及びアド・エヌに尋ねて詳細を確認することもせず、漫然と、被控訴人に送付し、被控訴人から「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」とだけ付記された返答を受け取ったのにも、何らの確認行為もしないで漫然と控訴人キーフォトスにこれを送付したものである。控訴人アートバンクの右行為が前記義務に違反することは明らかというべきである。
 
以上のとおり、右に述べた控訴人らの行為は、いずれも、本件著作物に関して被控訴人が有する同一性保持権の侵害の発生を防止すべき義務に違反してなされたものであって、控訴人らのいずれにも過失があり、アド・エヌによる同一性保持権侵害行為(本件利用)がこれらがなければ発生しなかったことは明らかであるから、控訴人らの右各行為は、被控訴人の有する本件著作物に関する同一性物保持権を侵害する共同不法行為を構成するものである。
 
(略)
 
控訴人らは、被控訴人にも落度があったのであるから、損害額の5割は相殺されるべきである旨主張する。
 
しかしながら、アド・エヌが希望する改変利用の内容が、控訴人キーフォトスによって、誤解を生じやすい文言のものとされたことは、前記認定のとおりであり、このような場合に、著作者人格権の侵害が発生することのないように未然に防止すべき義務は、少なくとも主としては控訴人らにあるというべきであって、仮に被控訴人に何らかの意味で完全ではないところがあったとしても、それを理由に過失相殺するのが相当であるとは思われない。控訴人らの主張は、採用することができない。











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