著作権重要判例要旨[トップに戻る]







英文科学技術書の翻訳が問題となった事例
「カイロプラクティック英文書籍無断翻訳事件」
平成120512日東京地方裁判所(平成10()16632/平成131127日東京高等裁判所(平成12()2902 

【コメント】以下の判示中「SOT」又は「S.O.T.」とは、「SACRO OCCIPITAL TECHNIC」(頭蓋骨調整法)という意味です。 

【原審】

 
…によると、本件対照表の各左欄記載の本件書籍の部分は、同各右欄記載の本件著作物の部分を翻訳したものであることが認められる。本件対照表の各左欄記載の本件書籍の部分のほとんどは、本件対照表の右欄記載の本件著作物の部分をそのまま直訳したものというほかない。一部には、本件対照表の右欄記載の本件著作物の部分をそのまま直訳したとまでいうことができない部分もあるが、次に例示するとおり、その違いはきわめて少ないから、本件対照表の各左欄記載の本件書籍の部分が、同各右欄記載の本件著作物の部分を翻訳したものであるとの右認定を左右するものではない。
 
(略)
 
また、被告【B】は、本件著作物及び本件書籍は、共にSOTに係る科学技術書であるから、その性質上、著作すべき対象、技術、理論が類似することは当然であるとも主張するが、右認定のとおり、本件対照表の各左欄記載の本件書籍の部分は、同各右欄記載の本件著作物の部分のほとんど直訳というべきものであるから、共にSOTに係る科学技術書であるから必然的に類似したというようなものでないことは明らかである。

【控訴審】

 
当裁判所も、原判決添付対照表(本件対照表)の各左欄記載の本件書籍の部分のほとんどは、本件対照表の右欄記載の本件著作物の部分をそのまま直訳したものと認めるものであり、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決…に説示されているとおりである。…
 
以下は、控訴人らが、当審において、本件著作物と本件書籍との間では文章表現が異なる部分がある、あるいは不可避的に同一ないし類似する表現となるなどと主張する点についての判断である。
 
本件著作物三の9720行目で「STAND TO HEAD OF TABLE. PATIENT BRINGS ARMS OVERHEAD INTO EXTENDED POSITION.」との記載に対応するのは、本件書籍一の965行目における「ドクターはテーブルの頭方に立ち、患者は腕を伸ばして頭の上45度に持っていきます。」との記載であり、「頭の上45°に持っていきます。」の「45°」の表現は本件著作物三にはない
 
しかし、本件著作物三の上記「PATIENT BRINGS ARMS OVERHEAD INTO EXTENDED POSITION」との表現を、その意味を念頭に置いてより分かりやすくするために意訳したものと認められ、これをもって翻訳の域を出ているものと認めることはできない
 
(略)
 
本件著作物三の25534行目から36行目の「BOTH PATIENT AND DOCTOR CAN INHALE TOGETHER. . . WHEN INHALATION IS IN PROCESS, PULL DOWNWARD SLIGHTLY ONTO PATIENT'S CLOSED FIST AND HOLD FOR FIVE SECONDS. . .PATIENT EXHALES AND SO DOES THE DOCTOR.」との記載部分は、本件書籍一の1445行目から7行目における「患者とドクターは一緒に息を吸い、息を吸い込んでいるときに、患者の握り拳にのせた手を軽く下方に引き3秒間保持します。患者が息を吐くときは、ドクターも一緒に吐きます。」との記載に対応する。
 
この記載に関し、控訴人Aは、「これは横隔膜ヘルニアの治療法についての記述である。S.O.T.の一般的知識に基づいて書かれたものであり、治療法の記述であって厳格に表現されなければならず、もし大幅に違っているとすれば、それは逆に危険である。例えば、外科的手術法についての記述ではどの部をどのように切開するという記述は同一になってしかるべきである。本件著作物では「5秒」とされていて、本件書籍では「3秒間」と記述されている。これは控訴人Aの約20年の臨床経験から「5秒間」では多くの場合、患者が苦痛を訴えるだけでなく、少なからず筋肉の痙攣を引き起こす危険があったため「3秒間」という記述になったものであり、横隔膜ヘルニアの治療における筋肉の痙攣発症の限界域が「3秒」であることを見極めたことになる。」と主張する。しかし、上記記載のうち「3秒間」以外の表現は、本件著作物の表現をほぼ直訳したものと認められるので、本件書籍一の上記記述は翻訳の範囲内に属するものというべきである。S.O.T.の一般的知識が必然的に上記記載となってくるものであることを認めるべき証拠はない。
 
(略)
 
本件書籍三37頁末行〜381行の記載に対応する本件著作物五21頁末12行は「ALWAYS MANIPULATE FROM ABOVE DOWN AS IF YOU WERE DRAINING A TUBE」(直訳は、「管を排水するかのように、必ず上から下にマニピュレーションしなさい。」)というものであるが、本件書籍三の上記記載は、「必ず管の中身をしぼり出すように、上から下へ行います。」というものである。この部分は単に意訳の範囲に属するものというべきである。
 
[翻訳か否かに関する総合判断]
 
本件対照表の本件著作物と本件書籍との記載の対応をみてみると、本件著作物の記載を意訳した部分も多いところ、意訳部分をもって翻訳に当たらないとすることはできない。控訴人らは、S.O.T.技法の記述に由来する表現の必然性があると主張するが、本件著作物が、言語及び図形の著作物であり、そこに独自の表現がされているものであることは明らかである。その表現内容がS.O.T.技法に係るものであることから、S.O.T.にかかわる用語や一般的な医学用語が多く使われることも当然のことであるが、特に本件対照表に摘示の本件書籍の記載に対応する部分の表現が、他のS.O.T.技法を解説した著作物であって本件著作物より前に刊行されたものの表現と同じようなものとなり、そのようになることに必然性が存するものであることを認めるべき証拠はない。本件書籍の本件対照表左欄の部分のうち、前記で説示した部分を除く部分が、右欄記載の本件著作物の対応部分を翻訳したものであることは、…号証によって認定することができ、控訴人Aが独自に叙述したものであるとすることはできない。
 
例えば、本件書籍三の27頁にある「心臓の病変には、いろいろなケースがあるので、ここでは臨床上の分類は割愛させていただきます。」との表現は技法の叙述でないことは明らかであり、これに対応する本件著作物五17頁にある「CARDIAC LESIONS ARE MULTIPLE, AND NO EFFORT WILL BE MADE HERE TO CLINICALLY CLASSIFY THEM.」との表現と一致するものであり、本件著作物を翻訳したものにほかならないことになる。…











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