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タイプフェイスの著作物性(3)
「写植機用文字盤搭載文字事件」平成10308日大阪地方裁判所(昭和58()4872 

 本件書体の著作物性について
 
以下、右の認定、判断を前提として、本件書体の著作物性について検討する。
 
我が国の著作権法は、その211号において「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物とすると定義し、同条2項において「美術の著作物」には美術工芸品を含むと規定している。そして、これについては、著作権法の制定経過や意匠法等工業所有権制度との関係等を考慮し、美術に関連するもので著作権法で保護されるのは、純粋美術に属するものや美術工芸品であって、図案やひな形等実用品に関するものでいわゆる応用美術の範囲に属するものは、原則として、これに含まれない。実用品に関するもので保護されるものがあるとしても、それは一品製作的なものに限られると解するのが一般である
 
しかるところ、本件書体が、一般の実用的な印字を目的とする写植機に搭載された一組の実用的な文字に関するものであること、こうした実用的な文字書体の製作は、印刷活字等既存の定型化、規格化された文字書体を前提として、その枠内で行われるのが通例であることは、前示のとおりである。
 
そこで、右のような点を参酌して考えると、本件書体のような文字の書体であって、なお、著作権法の保護の対象になるものがあるとすれば、それは、当該文字が持っている本来の情報伝達機能を失わせる程のものであることまでは必要でないが、当該文字が本来の情報伝達機能を発揮するような形態で使用されたときの見やすさ、見た目の美しさだけでなく、それとは別に、当該書体それ自体が、これを見る平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものでなければならないと解するのが相当である。
 
そして、本件書体については、それが製作される以前からあった他者製作の同種印刷活字文字や写植用文字等の書体に比して、どこがどのように異なるのか、本件原字全体、少なくとも、その明朝体文字なら明朝体文字、ゴシック体文字ならゴシック体文字全体を通覧した場合に認識できるそれらの文字に特有な創作的デザイン要素は何なのか、その創作性の内容を具体的に確定できるだけの資料はない。しかし、別紙書体一覧表に記載されている本件書体の文字を通覧しただけでも、本件書体が、実用性の強いものであって、右にいう程度の美的創作性を有しないものであることは、明らかである。本件原字全体及び本件各文字、いずれについても、原告主張のような著作物性を認めることはできないというほかはない。
 
そこで、次に、法的保護利益について検討する。
 
…によれば、本件書体のような実用的な文字の書体についても、その製作者は、これをよりよくその実用目的に適したものにするために、あるいはより見やすく美しいものにするために等様々な観点から、創意、工夫を凝らし、新しい書体の製作や改良に努めていること、こうした書体の製作や改良の作業には、多くの労力と時間、そして費用を要すること、そのため、原告が所属する写植業界等では、他人が製作した書体の文字を使用する場合には、その製作者ないし保有者に対し、使用についての許諾を求め、更に対価を支払うことも、かなり広く行われるようになってきていること、以上のような事実を認めることができる。
 
右のような事実を参酌すると、前記判示の著作物性の認められない書体であっても、真に創作性のある書体が、他人によって、そっくりそのまま無断で使用されているような場合には、これについて不法行為の法理を適用して保護する余地はあると解するのが相当である。
 
しかしながら、本件の場合、本件書体の創作性の内容が必ずしも明らかでないことは前示のとおりである。また、既に判示したところに照らすと、被告書体の文字も本件書体の文字も、いずれも前示のような一定の枠内で製作されたものであるから、その書体が、ある程度、似ているように見えるのは仕方のないことであると考えられる。ところが、被告書体の文字と本件書体の文字との間にいくつかの相違点がみられることも、前示のとおりである。こうしたことを総合考慮すると、一見、被告書体が、本件書体に似ていることは否定できないとしても、だからといって、直ちに、これをそっくりそのまま流用したものであるとまで断じることはできない。そして、他に、不法行為の法理を適用すべき理由は認められない。そうすると、原告のこの点の主張も理由がないというほかはない。











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