著作権重要判例要旨[トップに戻る]







タイプフェイスの著作物性(4)
「‘岩田書体’文字設計図事件平成50428日東京地方裁判所(平成4()4807/平成51118日東京高等裁判所(平成5()1972 

【コメント】本件は、原告が、「岩田書体文字設計図」(原告設計図)について著作権を有するとして、原告設計図によって主にワープロ用の文字を複製し、第三者に譲渡している被告の行為が原告の有する当該著作権を侵害するものであるとして、被告に対し、前記行為の差止めを求め、これに対して、被告において、原告設計図の著作物性等を争った事案です。

 
なお、「原告設計図」とは、「2.15インチのサイズの文字の場合には、フォント用紙に縦横とも54.6ミリメートルの正方形の文字枠が細線で設定され、右の54.6ミリメートルの中心を示す短い線が、その枠外の上下左右の四箇所に文字枠を設定する直線に接して記載され、このような文字枠内に、縦横とも50ミリメートルの大きさの文字が墨で記載されている」のものです。

 
以下、【】は、控訴審で追加された箇所です。 


 原告は、原告設計図は文字の枠という図面中に各文字の重心と文字のふところを典型とする空白の大小をどのように表現し、一連のまとまりの文字として読み易くかつ美しくするか、という思想を創作的に表現したものであって、著作権法第1016号にいう図形の著作物に該当する旨主張するので、検討する。
 
…によれば、原告設計図には、正方形の文字枠、その枠の中心を示す短い線及び文字が記載されているものであるが、同設計図は「設計図」と称されているものの、表現しようとしている内容やその表現形式において、他の、例えば建築物や機械の設計図等の場合とは著しく異なるものである。すなわち、建築物や機械の設計図に記載された文字、数字及び図形等は、これらが本来的に有する情報伝達能力を使用して、最終的な製作目的である建築物や機械の具体化という思想を表現しているのに対し、原告設計図に記載された文字は、この文字が本来的に有する情報伝達能力を使用しているのではなく、記載された文字の形自体により、いわば文字を図形として利用することにより、当該文字に関する重心や空白の大小といった原告主張のような思想を直接的に表現しているものである。
 
図形著作物も著作物である以上、思想又は感情の創作的表現物でなければならないが、原告設計図に記載された正方形の文字枠は平面上の一定の区画を示す方法としてはありふれた表現方法であるし、文字枠の中心線を示す短い線も一定の線分の中心を示す方法としてはありふれた表現方法であって、また前記の認定事実に照らせば、このような正方形の文字枠や中心を示す線は、原告主張のような書体や一定区画における文字の配置の思想を表現する方法としてごく普通に用いられるものであって、正方形の文字枠や中心を示す線に創作性があると認めることはできない。したがって、原告設計図の図面著作物性は、【各文字の重心と文字のふところを典型とする空白の大小からの観点を含めた、】一定区画に記載された図形としての文字について、検討されなければならない。
 
文字は、これを共有する人間相互間において思想や感情その他の情報を表現し伝達するための手段としての記号ないし符号であることから、その形は同一ないし類似することが本来的に予定されているものである。本件においても、原告が昭和2210月に設立されて以来原告設計図を作成してきたことは当事者間に争いがないが、情報伝達機能を担う文字の性格から考えて、原告が設立される以前から、同設計図に記載された一定区画中の各文字体に近似する文字が多数存在したであろうことは容易に推測できるものである。しかも、文字は、それが共有されるようになってから極めて長い間、文字による情報がよりよく伝達されるように、書体や【重心の位置、】空白部分を含めて一つの文字の書き方に工夫がなされ、また連続する各文字相互間の配置方法に工夫が加えられてきたことは明らかであるから、文字を作成するについて何らかの工夫が加えられたとしても、それが通常行われる範囲内の手法でなされる限り、そしてまた、以前から存在した文字に比べて顕著な特徴を有するものでない限り、作成された文字に、著作物性を認めることはできないというべきである。
 
そこで、原告設計図についてみてみると、原告設計図の一定区画に記載された文字は、別紙を見ても明らかなように、標準明朝体等の書体の文字体が一定区画に黒く記されたものであるし、また原告自身も原告設計図が一連のまとまりの文字として読み易くかつ美しくする目的のもとに作成されたものであることを認めているところであって、文字の書体や【重心の位置等】一定区画における配置方法等に何らかの工夫があったとしても、それは文字の有する本来の情報伝達機能をよりよく発揮させる範囲内のものにすぎないから、図形著作物性を考えるに当たって、通常行われる範囲内の手法で記載したものということができる。
 
また、原告としては、原告設計図に記載されたそれぞれの文字が、以前から存在した文字に比べて、いかなる特徴を有し、その創作性はどこにあるのか等をも具体的に明らかにしなければ、原告設計図の著作物性に関する主張立証がなされたものとはいえないところ、原告は、右の点に関する具体的な主張立証をなしていないから、原告設計図中の文字が、以前から存在している同種の文字に比べて顕著な特徴を有するものと認めることはできない。
 
以上に述べたところから明らかなように、原告設計図中の文字およびその書体に著作物性を認めることはできないし、また、文字枠及び中心を示す線それ自体に創作性を認めることはできないから、文字並びに文字枠及び中心を示す線からなる原告設計図に著作物性を認めることはできない。











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