著作権重要判例要旨[トップに戻る]







利用許諾契約の解釈(16)-契約の成立を否定した事例A-
「塾講師執筆テキスト事件」平成121026日東京高等裁判所(平成11()5784
 

 著作権の帰属を確認する契約の成否について
 
控訴人は、本件塾の開設前に、控訴人を含む本件塾の講師らと【B】(管理人注:被控訴人代表者)との間で、本件塾の講師が執筆するテキストの著作権が執筆者に帰属することを確認したうえで、それを前提として、控訴人ら執筆者は、その執筆に係るテキストの使用を被控訴人に許諾し、対価として使用料を受けるとの契約(本件許諾契約)が口頭で成立した旨主張する。
 
しかしながら、…によれば、本件塾開設前に、控訴人を含む本件塾の講師らと【B】との間で、被控訴人が本件塾テキストの執筆者に対し、その執筆するテキストに関する対価として金員を支払うとの契約が成立したことは容易に認められるものの、そのとき、テキストの著作権の帰属自体につき確認する合意が成立したことは、本件全証拠によっても認めることはできない。
 甲…号証(控訴人の陳述書)には、「鉄緑会を辞めるときにも問題になった「著作権」に関して資金を出す【B】氏との間で「テキストなど講義に必要な資料は、全て講師側で準備する。これら資料の著作権は各作成者である講師のものとする。そしてこれを使用する場合、使用料を支払う。」との条件を了解してもらったのです。何故このようなことをうるさく条件にしたのかというと、前の「鉄緑会」のときに講師が苦心して作ったテキストが講師が辞めた後、ただで使用されてしまったことがあったため、そのようなことのないようにするためだったのです。」との記載が、甲…号証(控訴人の陳述書)には、「私、【D】及び【C】は、「鉄緑会」においてはテキストの著作権がその作成者に留保されていなかったという反省に基づいて、当塾においてはテキストの著作権は当該テキストの作成者に帰属することを最重要原則として確認した上で、代表取締役である【B】氏にもこの旨を話し、了承をえました。」との記載がそれぞれあり、原審における原告本人尋問の結果中にも、控訴人、【C】、【D】が、【B】と、テキストの著作権の帰属について話し合い、テキストの著作権はその執筆者に帰属することを確認したとの陳述部分がある。
 
しかしながら、控訴人が、右のように、鉄緑会で、テキストの著作権を控訴人側に確保できなかったことに不満を抱き、本件塾で、テキストの著作権がその作成者に帰属することを最重要原則として確認しようとしたというのであれば、しかも、その意思を相手方に伝え、了解を得たというのであれば、将来に禍根を残さないように合意を文書化しようとするのが通常ではないかとも思われるのに、結局、文書が作成されていないとの事実などに照らすと、控訴人の右各陳述書の記載及び控訴人の右陳述に大きな証明力を与えることはできないものというべきである。
 
その他、テキストの著作権の帰属についての合意があったとする【D】の陳述書、【C】の書簡、【G】の陳述書、原審における証人【G】の証言などあるものの、いずれも、適確な裏付けを欠く、結論だけの記載ないし陳述といい得る範囲に属するものにすぎず、十分な証明力を認めることはできない。
 
控訴人は、テキストの著作権が控訴人らテキスト執筆者に帰属することを被控訴人が認めていたことの根拠として、本件塾の開設の2年目以降も、テキスト使用に応じて同額の金員が各講座のクラス数に応じて支払われていた事実を挙げ、2年目以降もこのような形でテキストに関する対価が支払われることは、テキストの著作権が被控訴人に帰属するという考え方(支払われる対価をテキスト作成料とする考え方)と両立し得ない旨主張する。
 
テキストに関する対価の支払が右のようなものであるとの事実は、被控訴人が、控訴人その他のテキスト執筆者に著作権が帰属することを認めたうえ、著作権使用許諾の対価として支払をしたと仮定した場合に自然なこととして理解できるものであることは、確かである。しかし、右事実は、右のように仮定しなくとも、十分に自然なこととして理解することが可能である。被控訴人にとって、本件塾で使用するテキストが価値あるものであることはいうまでもないことであり、その価値は、最終的には、テキストの使用状況によって決まるものであることも明らかであるから、テキストの著作権は被控訴人に帰属することを前提としつつ、その執筆に対する対価の定め方の一つとして右のやり方を採用したとしても、少しも不自然ではないからである。
 
このように、どのようにでも理解できるものをもって、一つの立場を裏付けるものとすることはできないのである。
 …を総合すると、本件塾開設前後のいきさつにつき、むしろ、次の事実を認めることができる。
 
B】、控訴人、【C】、【D】は、本件塾を開設するに先立って、平成43月ころ、【B】の自宅において、本件塾の運営方針について打合せをした。
 
控訴人は、学習塾の鉄緑会に勤務していたとき、自分の作成したテキストの著作権を控訴人側に確保できなかったことに不満を抱いており、その反省に基づいて、本件塾では、自己に有利な形にしておきたいと考えていた。控訴人は、知り合いの法律家などに相談した結果から、控訴人の執筆に係るテキストの著作権が控訴人に属する旨を被控訴人との契約で明確にしておかなくても、テキストの著作権が被控訴人に帰属することが合意されない限り、目的は達されると考えるに至り、【C】、【D】らと打ち合わせたうえ、本件塾の開設前における【B】との話し合いにおいて、あえて、講師が作成したテキストの著作権の帰属自体の問題を提示せず、端的に、そのテキストが講座で使用されれば、使用の程度に応じて対価を得られるような合意をすることを申し入れた。
 
一方、【B】は、塾の経営は初めてで、本件塾の講師が作成するテキストの著作権の帰属自体の問題について全く念頭になく、控訴人からのテキストに係る対価に関する申入れに対し、それが、テキストの著作権が控訴人ら執筆者に属することを自らが認めたものと解釈される余地があることには思い及ばず、控訴人らの話しぶりから、漠然と、23年で塾の運営が落ち着けば負担しなくてよいことになるのであろうという程度に考えており、控訴人、【C】、【D】らの右申入れを受諾した。
 
このようにして、控訴人、【C】、【D】らと【B】との間では、テキストの著作権の帰属自体について格別議論されることもなく、また、控訴人ら執筆者に係るテキストに関する対価が何に対するものかについて特定されることもなく、講師がテキストを自前で準備し、本件塾の講義に使用すれば、その対価として、クラスごとに1か月当たり数万円を支払う旨の合意をした。そして、右合意の内容さえも文書化はしなかった。
 
本件塾が開設されると、当初は、控訴人、【C】、【D】らは、思い思いに、講義に合わせて簡略なテキストを作成して講義に使用しており、そのうちに、次第に、テキストの体裁が整えられていった。【B】は、経理を【E】に委せており、【E】は、控訴人、【C】、【D】らに対し、「教材費」の名目で、給与の一部として、準備したテキストの使用に応じて、担当クラスごとに1か月当たり数万円という金員を支払っていた。
 
控訴人は、テキストの著作権が控訴人を含む執筆者に帰属することは、平成72月ころのミーティング(会合)において再確認されている、すなわち、平成72月ころの会合において被控訴人に提出した資料には、「これまでの契約内容を明確化するため」と明記したうえで、テキスト代に関して執筆者に支払われる金員は、「テキスト使用料」と書かれていたにもかかわらず、【B】は、その後も、従前どおり、テキスト使用料に関する金員の支払を続けたことからも明らかである旨主張する。
 
…によれば、次の事実が認められる。
 
控訴人、【C】、【D】らは、平成64月ころ以降、【B】の了解もなく、一方的に、テキストの表紙に、講座名、本件塾の名称、科目名に、「VERITAS数学科 【A】著」などといった記載を追加するようになった。また、控訴人、【C】、【D】らは、そのころ、給与体系の変更交渉の際に、一方的に、従来の「教材費」の語句に代えて「テキスト使用料」との語句を使用するようになった。しかし、控訴人を含む講師らと【B】との間で、講師が本件塾の授業で使用するテキストの著作権の帰属をどうするかなどといったことに関する話合いが行われたことはなく、控訴人を含む講師らが「テキスト使用料」との文言を使用して給与体系の変更の要求をしたのに対して、【B】において、給与体系の変更を承認しただけであった。
 
B】は、平成72月ころ、被控訴人の経営状況がおもわしくないことから、本件塾の講師の給与を削減した。ところが、控訴人を含む講師らは、これに反発し、同年3月ころに行われた会合において、【B】に対し、給与を従前のとおり支払うこと、「テキスト使用料」も従前のとおり継続して支払うことを申し入れ、講師らの集団退職を恐れた【B】は、これを了承し、その後も、講師らに対する「テキスト使用料」の名目による支払を続けた。このときも、控訴人を含む講師らと【B】との間で、テキストの著作権の帰属をどうするかなどといったことに関する話合いは行われなかった。
 
右認定の事実によれば、控訴人を含む講師らは、平成64月ころ以降、意図的に、テキストの著作権が執筆者に帰属し、被控訴人がこれを有償で使用しているかのようにみえる外形事実を作り出したことが認められるものの、その前提となるテキストの著作権の帰属や使用許諾についての【B】との間における意思表示の合致を欠いている、ということができる。講師らがテキストの表紙に、例えば「【A】著」などの語句を追加したり、「テキスト使用料」という語句を使用したりしたのに対し、被控訴人がこれを是正する格別の措置をとらなかったからといって、被控訴人のこの行為に対し、テキストが控訴人ら執筆者に帰属することを確認した、との評価、あるいは、被控訴人の支払うテキストに関する対価が、控訴人ら執筆者が著作権を有することを認めたうえでのテキストの使用料に変質することを認めた、との評価を与えることはできないというべきであるからである。
 
したがって、控訴人の右主張は、採用できない。その余の控訴人の主張も同様である。











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