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プログラムの製作代金に関する確認書の有効性が争われた事例
「インターネットパソコン勉強プログラム作成請負代金請求事件」平成140917日東京地方裁判所(平成14()1572 

【コメント】本件は、原告が、被告からコンピュータープログラムの作成を請け負い、これを完成して引き渡したが、被告がその請負代金を支払わないとして、主位的に、請負代金の支払を求めた事案です。 

 [本件における事実関係]
 
…を総合すれば,次の各事実が認められる。
 
原告はコンピューターソフトウェアの開発及び販売を目的とする有限会社であり,被告は,学習塾の経営並びにこれらに関するノウハウの販売等を主たる目的とする株式会社である。
 被告は,平成103月ころ,インターネットを使ったパソコン勉強プログラムの作成及びそのプログラムを学習塾に対して利用させるサービスの漠然とした構想を有し,これに「E−STATION」なる名称を付していたが,自らは具体化した構想もこれを開発する能力も有しなかったため,これを実現することができずにいた。そこで,被告代表者は,以前から面識のあった原告代表者に対し,平成113月ころ,上記構想の実現への協力を依頼した。
 
原告と被告は,パソコンを使って勉強を行うプログラムの製作について協議したが,被告代表者の意向により,インターネットを通じて学習塾の生徒に練習問題を解かせ,そのデータを積み上げて,生徒個人の情報としてデータベース化し,生徒個人の個性,能力に応じた進度で学習効果を高め,他の塾の生徒ともインターネットを通じて競い合い,学習の実を上げていくシステムを原告代表者が発案した。原告は,このプログラムの試作品を作り,同年秋ころ被告代表者に見せ,同人の了解を得たため,具体的なプログラムの製作に入った。
 
(本件合意の成立)
 
平成121月ころから原告と被告は,本格的にインターネットを使って行うパソコンによる勉強プログラムの製作について協議した。そして,同年6月ころ,原告と被告は,インターネットを使ったパソコン勉強プログラム製作及びそのプログラムを学習塾に対して利用させるサービスである「Juku−Net」を開始することを決定した。被告が発注者となり,原告が作成した設計書に基づき,そのプログラムの製作を原告が請け負い,プログラムの利用開始と共に事業を展開することになった。その際,被告にはコンピューターがなかったため,とりあえず原告のコンピューターにプログラムを入力し,サーバーコンピューターにアップロードし,それを被告が利用する方法を採用することとし,被告は原告にサーバーコンピューターの利用料として月額5万円を支払うこと,また平成121月当初は原告・被告間に代金支払について具体的な構想が思い浮かばなかったため,原告は試作品製作も含め請負代金は仕事量に応じ,月単位の人工(にんく)での計算をし,月毎に請求し,基本的には請求の翌月払いということに取り決めた。その後,具体的な代金を確定しないまま本件プログラム完成に至るまで同様の報酬計算及び支払方式をとることも合意された。
 
(本件プログラムの利用開始)
 
平成128月ころ,原告は,「Juku−Net」のプログラムを一応完成させ,被告の利用に供した。原告は,自社のサーバーコンピューターに同プログラムをアップロードし,各学習塾の生徒が利用できるようにした後,被告が各塾に利用開始を告げ,その生徒らがインターネットを通じて同プログラムの利用を開始した。
 
このころ,本件プログラムを利用した事業の話が,原告及び被告とその周辺の者を巻き込んで起こり,原告らは,これを行うための新会社「グッドスピード」を立ち上げたが,具体的な事業を行うことなく休業状態となった。被告の従業員3名が同社に移籍したものの,同人らは元々塾講師であり,同社の仕事になじめずやがて退職した。
 
(被告の代金不払いと本件確認書による合意の成立)
 
被告は,本件プログラムの製作代金等として,平成1210月ころまでに206万円を支払ったが,やがて支払が滞るようになった。原告の督促により,同月中にさらに60万円を支払ったが,その後は一切の支払ができなくなった。
 
そこで,原告と被告は,被告の支払うべき代金額を確定させるとともに被告の支払額を軽減させるため,両者間の契約内容を確認し,確認書を取り交わすことにした。これが本件確認書であり,原告と被告は,平成121120日付けでこれを取り交わした。確認書で確認された条項は,…に記載したとおりである。その中で,本件プログラムの製作代金を666万円と定め,未払の代金400万円については,うち100万円を同年1130日までに,うち300万円を同年1225日までに支払うこととされ(4項),同年1130日支払分までの原告の作業は終了していることが確認された(7項)。さらに,もし原告が当該期限までに支払を確認できない場合は,原告は本件プログラムの使用を中断することができ,当該期限から1週間以内に支払を確認できない場合は,本件プログラムは原告の所有物としてそれ以降の作業を終了することができる旨及び上記300万円の支払がされない場合には,原告は併せて残金の支払を請求できる旨が定められた(5項)。
 
この間も,原告は,被告に本件プログラムを提供し続け,被告はこれを使用していた。
 
しかしながら,その後も被告は本件確認書で確認された金額を支払うことができなかったため,原告は,同年1211日,本件プログラムの提供をいったん中止した。これに対し,被告代表者は,原告に電話をかけてきて,原告代表者に対し,脅迫的な言辞を述べた。このため原告は,代金の支払がなかったものの,やむを得ず本件プログラムの提供を続けた。
 
被告が資金繰りに窮した状況は変わらず,被告は,訴外マリンに被告の地位を有償で譲渡することを図り,訴外マリンとの話合いに原告も参加させるなどした。訴外マリンからは,原告に対し,プリントアウト用ページ出力ソフトの製作対価として100万円を支払うとの提案がされたが,本件確認書で確認された未払代金の支払等について全く触れられていないことなどから,原告は,この提案を拒絶した。
 
その後も原告は,故障による中断などを除き,本件プログラムの提供を続けたが,訴外マリンを入れた話合いも進展しないことから,平成1335日をもって,本件プログラムの提供を中止した。
 
[被告の主張に対する判断]
 
上記認定の事実が認められるところ,被告は,@仕事の未完成,A本件確認書で確認された合意の無効,をそれぞれ主張するので,以下これらの主張につき検討する。
 
(仕事の未完成の主張について)
 
上記認定のとおり,原告は,本件プログラムを完成して,原告のコンピューターに入力し,サーバーコンピューターにアップロードし,それを被告に利用させていたもので,被告からの代金支払がないにもかかわらず,ごく例外的な故障による中断を除き,本件プログラムの提供を継続していたものである。被告が本件プログラムを利用していたことは,被告も認めており,本件訴訟の答弁書においても,「同年(平成12年)1120日現在Juku−Netで期末試験に備えて勉強している480名の生徒」と述べるなど,既に本件プログラムが,各塾の生徒が利用できるような状況にあったことが明らかである。
 被告は,管理画面等(プリントアウト用ページ出力,クラス分け表示ページ等)の製作をしないと会員から会費を得られるプログラムにはならないから,本件プログラムの製作は完成していない,と主張する。
 
しかしながら,本件確認書において,7項に「サイバーDは平成121130日入金分までの作業は終了しており」と確認されているし,また,同確認書の「本件成果物の説明」で,「下記@は,本書に記載されている日付けで製作が完了しています。」とあり,「@ 平成121118日現在,以下のURLで稼動しているすべてのシステムURL(省略) A 上記に付帯して以下のシステム (1) 生徒ごと及びその生徒が所属している塾ごとの間違った問題数(選択可能)の問題形式でのプリントアウト用ページ出力(但し有料コンテンツとして)。 (2) 各学習を開始する際に,ユーザーが「テスト」「練習」どちらから学習を開始するか,選択できるシステム。 (3) 生徒の回答入力速度に応じたクラス分け(1級〜10級)及びその内容を表示するページ(生徒が直接確認できること)。」とあるので,被告が本件プログラムが未完成であると主張する根拠である「管理画面等」は,上記のAに当たるもので,本件確認書において製作代金の範囲に含まれていないことが明らかである。
 
さらに,本件訴訟提起前における一連の交渉経緯の中で,被告が原告に対して本件プログラムが未完成であるとの事実主張していたことをうかがわせる証拠も存しない。
 
次に,本件確認書による合意が無効であるとの主張について検討する。
 
[本件確認書による合意が無効であるとの主張について]
 
被告が,本件確認書による合意が無効であると主張する根拠は必ずしも明らかでないが,@同確認書を持参して押印を求めたのが,被告の元従業員であった人物であったので,よく内容を確かめないで押印したこと,A同確認書で確認された平成121130日を支払期限とする100万円は,新会社グッドスピードに移籍した元被告従業員3名の給料に充てるという条件であったのに,それまでに上記元被告従業員3名が同社を退職せざるを得ない状況に追い込まれたので,上記金員支払の条件が失われた,の2点を主張するものと解される。
 
しかしながら,まず@についていえば,内容を十分に確認しなかったというだけでは,合意が無効となるものではない。そのうえ,被告の主張によっても,原告から請負代金の執拗な取立てがあったというのであり,平成1210月に60万円を支払った際にも,被告代表者の高齢の母親から借金をしたうえで,これが最終の支払であることを確認して支払ったというのであるから,そのような状況下で,原告から届けられた書面に,十分に内容を確認することなく押印するなどということは到底考えられない。これらからすると,上記@の無効となるべき事由は認められない
 
さらに,Aについても,本件確認書による合意の成立に被告の主張するような条件が付されていたことを認めるべき証拠は存しない(原告に支払う請負代金が,これと別の主体であるグッドスピードに渡って,元被告従業員3名の給料に充てられるなどということも通常考えられないから,このような条件が付されていたということ自体,不自然なものである。)。したがって,この主張も認められない。
 
また,そのほかに,本件確認書による合意を無効と解すべき事由も認められない。
 
以上のように,本件確認書による合意については,これを無効と解すべき事由は認められないから,原告は,仕事を完成させて被告に利用させている以上,本件確認書で確認された内容に基づき,被告に請負代金の支払を求めることができるというべきである。
 
なお,被告は,原告が本件プログラムが停止したりすることがないよう,エンジンをメンテナンスすべき義務があり,原告の同義務の不履行をも主張するが,本件確認書の文言上,原告の請求する400万円は,本件プログラムの製作費であり,その後の提供に対する利用料とは無関係であることが明らかであるから,この主張も理由がない。











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