著作権重要判例要旨[トップに戻る]







既存の著作物への依拠性(12)-楽曲の依拠が問題となった事例-
「『どこまでも行こう』・『記念樹』/作曲家事件」平成140906日東京高等裁判所(平成12()1516
 

【コメント】本件は、別紙楽譜の歌曲(以下、歌詞付きの楽曲として「歌曲」の用語を用いる。)「どこまでも行こう」に係る楽曲(「甲曲」)の作曲者である控訴人A及びその著作権者である控訴人金井音楽出版が、別紙楽譜の歌曲「記念樹」に係る楽曲(「乙曲」)の作曲者である被控訴人に対し、乙曲は甲曲を編曲したものであると主張して、控訴人Aおいて著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害による損害賠償を、控訴人金井音楽出版において著作権(編曲権)侵害による損害賠償をそれぞれ求め、他方、被控訴人が、控訴人Aに対し、反訴請求として、乙曲についての著作者人格権を有することの確認を求めた事案です。 

 [依拠性について]
 
被控訴人は、当審における本人尋問及び陳述書において、乙曲の作曲経過及び甲曲へのアクセス等に関し、…、おおむね以上の趣旨を供述ないし記載している。…
 以上のとおり、被控訴人は、依拠性を全面的に争うので、以下、依拠の事実を基礎付けるに足りる間接事実が認められるかどうかという観点から検討する。
 
(略)
 
以上の事実に、控訴人金井音楽出版代表者Uの陳述書及び弁論の全趣旨を総合すれば、甲曲は、昭和41年に公表された当時にコマーシャルソングとして広範な層の国民に絶大な人気を博したばかりでなく、その後も、長く歌い継がれる大衆歌謡ないし唱歌としての地位を確立し、昭和40年代から乙曲の作曲された当時(平成4年)にかけての時代を我が国で生活した大多数の者によく知られた著名な楽曲であることが認められ、被控訴人が本訴提起の直後に受けた放送記者のインタビューに対する応答からも、被控訴人自身、これと別異の認識を有していたわけではないことがうかがわれる。
 
(略)
 
そして、何より、甲曲と乙曲の旋律の上記のような顕著な類似性、とりわけ、全128音中92音(約72%)で両曲は同じ高さの音が使われているという他に類例を見ない高い一致率、楽曲全体の3分の1以上に当たる22音にわたって、ほとんど同一の旋律が続く部分が存在すること、乙曲は反復二部形式を採用しているものの、その前半部分と後半部分に見られる基本的な旋律の構成は、甲曲の起承転結の構成と酷似していること、他方、甲曲程度の比較的短い楽曲であっても、その旋律の組立てにはそれ相応の多様な創作性の余地が残されていると解されることは前示のとおりであり、以上のような顕著な類似性が、偶然の一致によって生じたものと考えることは著しく不自然かつ不合理といわざるを得ない。そうすると、このような両者の旋律の類似性は、甲曲に後れる乙曲の依拠性を強く推認させるものといわざるを得ない。
 
次に、依拠性を否定すべき事情として被控訴人の主張する点について検討する。
 
被控訴人は、乙曲はいわゆる詞先の曲であるところ、乙曲の歌詞から甲曲は連想されないことを理由に、依拠性は否定されるべきである旨主張する。確かに、乙曲がいわゆる詞先の曲であること自体は、上記の被控訴人本人(当審)及び同掲記の各陳述書により認められるところであるが、依拠の具体的な態様が、乙曲の歌詞からの連想という限定された思考経路をたどらなければならない必然性はなく、むしろ、曲想のかけ離れた楽曲間でも編曲が生じ得ること(例えば、クラシック音楽の繊細で落ち着いた曲想の旋律に依拠しつつ、情熱的な曲想の現代ポピュラー曲に改変するなど)を考えれば、乙曲がいわゆる詞先の曲であることは、依拠性を否定すべき事情としてさほど評価することはできない
 
(略)
 
さらに、被控訴人は、自身は経験と実績を十分有する作曲家であって、乙曲のような簡素な16小節の楽曲を制作するのに造作はなく、曲想のかけ離れた甲曲をわざわざ参考にする必要性がない旨主張し、陳述書及び当審における本人尋問の結果中にも同旨の記載及び供述があるほか、I証言では、被控訴人が甲曲に依拠して乙曲を作曲するような何ら利のないことをする必然性や動機がないことを指摘している。また、被控訴人が、日本作編曲家協会会長、社団法人日本音楽著作権協会理事、日本レコード大賞実行委員長、東京音楽大学客員教授等を歴任し、経験と実績のある作編曲家として高く評価されていることは証拠によって認められるところである。しかしながら、原曲のいわゆるデッドコピーに類するような楽曲を自らの作品と称して公表したといった事案であれば格別、被控訴人が、甲曲に依拠しつつも、自らの創作的な表現を盛り込むことによって、甲曲の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しない別個独立の楽曲である乙曲を作曲したと考えていたところ、結果的に、甲曲の表現上の本質的な特徴の同一性を損なうほどの創作的な表現が乙曲に盛り込まれなかったために、法的には甲曲に係る編曲権の侵害を生じたという事態は、被控訴人の上記経歴を考慮しても、なお起こり得ることであり、一般に経験則上否定されるべき事実ということはできない。したがって、被控訴人の上記主張及びこれに沿う証拠は、それ自体として、依拠性を否定すべき十分な根拠を有するものではない。
 
(略)
 
以上の認定判断を総合するに、甲曲は、昭和40年代から乙曲の作曲された当時(平成4年)にかけての時代を我が国で生活した大多数の者によく知られた著名な楽曲であって、甲曲と乙曲の旋律の間には乙曲が甲曲に依拠したと考えるほか合理的な説明ができないほどの上記のような顕著な類似性があるほか、被控訴人が乙曲の作曲以前に甲曲に接したであろう可能性が極めて高いことを示す客観的事情があり、これを否定すべき事情として被控訴人の主張するところはいずれも理由がなく、他に的確な反証もないことを併せ考えると、乙曲は、甲曲に依拠して作曲されたものと推認するのが相当である。この認定に反する被控訴人の当審における本人尋問の結果及び陳述書の記載は、採用することができない。











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