著作権重要判例要旨[トップに戻る]







プロデューサー業務委任契約の成立を否定した事例
「プーシキン美術館所蔵作品等テレビ番組製作事件」
平成160518日東京高等裁判所(平成15()4395 

【コメント】本件は、被控訴人らが、控訴人に対し、合計5編のテレビ放送番組(「本件各作品」)の製作業務一般(「プロデューサー業務」)を依頼したにもかかわらず、控訴人を中途で同業務から排除したり、報酬及び経費を支払わなかったりした等として、控訴人が、被控訴人らに、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。控訴人は、また、控訴審において、被控訴人会社との関係では、控訴人と被控訴人会社との間に、本件各作品について、プロデューサー業務委任契約が成立したとして、同契約に基づく相当な報酬の支払を求める、との請求原因を追加しました。
 
被控訴人らは、原審において、本件各作品について、控訴人が主張するプロデューサー業務を依頼したことはない、調査を依頼した作品についての必要な経費はすべて支払ったなどと主張し、控訴審においては、控訴人による請求原因の追加が、原審の審理経過に照らし、禁反言ないし信義則に反するとして、その追加的変更を許さない旨の裁判を求めました。
 
原判決は、控訴人の不法行為についての主張及び経費未払についての主張を認めず、控訴人の請求をすべて棄却しました。 


 控訴人は,当審において,控訴人と被控訴人会社との間の,本件各作品に関するプロデューサー業務の委任契約あるいはその前の段階の調査準備作業の委任契約に基づき,控訴人の製作プロデューサーという職業から法律上当然に報酬請求権が生じる,と主張する。
 
(略)
 
当裁判所は,控訴人の当審における新たな請求(契約に基づく報酬請求)は理由がないと判断する。その理由については,次のとおり付加するほかは,原判決…を引用する。
 
本件紛争に係る事実経過は,原判決…のとおりである。これによれば,控訴人が新たに追加した,契約に基づく報酬請求も,理由がないことが明らかである。
 
(略)
 
(本件作品1について)
 
控訴人は,被控訴人会社が,平成97月ころ控訴人に対し本件作品1のプロデューサー業務を委託したにもかかわらず,控訴人に対して報酬相当額を支払っていない,と主張する。
 しかし,本件作品1のための撮影は,平成109月ころ,将来撮影の機会を得られなくなるとの懸念から,具体的に放送番組が製作されるかどうか不確定のままに実施されたものであって,その後,テレビ局との間で同作品についての番組製作契約の締結に至らなかったものであり,このように発注元のテレビ局が決まらず,テレビ局から支払を受けられるかどうか,受けられるとしてその金額(製作予算)やテレビ局の希望する番組の具体的内容がどのようなものかが未確定の企画について,被控訴人会社が,同社に所属しない控訴人に対し,放送用の番組のプロデューサー業務を委託するとは通常考えられないことからすれば,被控訴人会社が本件作品1に関し控訴人が主張するようなプロデューサー業務を委託したと認めることはできない,というべきである。
 
被控訴人会社が,控訴人に対し,本件作品1について,本件作品1製作のための調査,撮影許可取得及び美術品の撮影を委託したことは認められる。しかし,被控訴人会社がこれらの業務について控訴人に対し報酬の支払を約したとは,認めることができない。すなわち,@控訴人と被控訴人会社との間では,本件作品1については,上記報酬の支払の有無及び金額についての具体的な話合いは全くされていないこと,A控訴人のようなフリーのディレクターに対して企画の取材や調査を依頼する際には,被控訴人会社のような依頼した側が調査費用等をすべて負担し,その企画がテレビ局に採用されて番組製作が決まった場合には,その者もディレクターや共同プロデューサーなどとして採用される機会が与えられるものの,取材や調査自体に対する報酬は支払わないとする業界の慣行があること,B被控訴人会社は,番組製作契約締結に至るか否か未定の段階で,仮払金(本件作品1については800万円)を控訴人に交付し,控訴人は,仮払金を,自らの裁量で取材や調査に自由に使用していること,C仮に,テレビ局との間で最終的に番組製作契約の締結に至らない場合には,それらの費用は,被控訴人会社のみがその危険を負担するのに対し,仮に,番組製作契約が成立した場合には,控訴人には,多額の報酬を得られる可能性があるとの利点があること,を考慮すると,被控訴人会社の控訴人に対する本件作品1の調査その他の準備行為の委任契約についての報酬の合意は,そのような慣行に沿ったものであると認めるのが相当である。
 
(略)
 
(本件作品3について)
 
控訴人は,被控訴人らが,平成107月ころ,控訴人に対し,本件作品3のプロデューサー業務を委託したにもかかわらず,控訴人に対して報酬相当額を支払わない,と主張する。
 
しかし,@控訴人が本件作品3の企画に関与していた平成119月ころまでは,エルミタージュ美術館との撮影契約が締結されておらず,NHKと被控訴人会社との間でも,本件作品3についての番組製作契約を締結するかどうかは確定していなかったのであるから,そのような段階で,被控訴人会社が,被控訴人会社に所属しない控訴人に対し,放送用の番組のプロデューサー業務を委託するのは不自然であること,A控訴人は,エルミタージュ美術館から撮影許可が下り,番組製作が可能となった平成119月ころ以降は,撮影に立ち会ったことも,撮影済みテープの編集作業やNHK担当者との打合せに参加したことも一切ないこと,B控訴人は,被控訴人Bから「ロシアの家族はいま」の共同プロデューサーを委託された際には,製作を開始する前に,被控訴人Bとの間でプロデューサー報酬の支払及び金額について協議し,同作品については被控訴人会社から控訴人に対し,プロデューサーとしての報酬が支払われているのに対して,本件作品3については,両者の間で,そのような協議は一切なかったこと,からすれば,反対の結論に導くよほど強力な証拠が存在しない限り,被控訴人会社が控訴人に対し本件作品3についてのプロデューサー業務を委託したと認めることはできないというべきである。本件全証拠を検討しても,そのような証拠を見いだすことはできない。
 
被控訴人会社が控訴人に対し本件作品3について,同作品製作のための調査及び撮影許可取得を委託したことは,認められる。しかし,被控訴人会社がこれらの業務について控訴人に対し報酬の支払を約したとは,認めることができない。すなわち,@控訴人と被控訴人会社との間では,本件作品3については,上記報酬の支払の有無及び金額についての具体的な話合いは全くされていないこと,A被控訴人会社は,仮払金(本件作品3については1230万円)を交付し,控訴人は,仮払金を,自らの裁量で取材や調査に自由に使用していること,B被控訴人会社は,テレビ局との間で最終的に番組製作契約の締結に至らない場合にはそれらの費用を一切回収できないという危険を負担しているのに対し,控訴人は,自らは何ら費用を負担せず,番組が成立した場合には多額の報酬を得られる可能性があったことからすれば,番組製作が未確定の段階における準備的な取材,調査活動については,そのための費用はすべて被控訴人会社が負担するのに対し,取材,調査に対する報酬は支払わないというのが業界の慣行であり,控訴人と被控訴人会社との合意もそのような慣行に沿ったものであるといって差し支えないこと,C控訴人が本件作品3に関して実際に行った業務は,数回ロシアに出張し,撮影許可取得のために関係者らと打合せをしたこと,D及びEらの調査結果を被控訴人会社に伝えたこと,仮払金の精算を行ったことなどであり,このような控訴人の活動のうち,ロシアへの出張及び関係者らとの打合せについては,当時,控訴人が共同プロデューサーとして「ロシアの家族はいま」の取材,撮影作業等のために,必要なものであったのであり,「ロシアの家族はいま」については控訴人にプロデューサー報酬が支払われていることからすれば,上記の控訴人の活動は,新たな報酬を生じさせるようなものとはいえないこと,からすれば,控訴人は,本件作品3の番組製作が決まる前に行う取材及び撮影許可取得の業務については,報酬が支払われないことを了解した上で被控訴人会社の委託を受け,当該業務を行ったと認めるのが相当である。
 
報酬請求についての上記認定・判断は,被控訴人会社がNHKとの間で本件作品3の製作契約を締結した後,控訴人を製作スタッフから排除し,ディレクターないしプロデューサーとして採用しなかったとしても変わりはない。すなわち,被控訴人会社がテレビ局との間で番組製作契約を締結した場合に,番組製作の共同プロデューサーやディレクターとしてだれを採用するかは,被控訴人会社が,控訴人のような立場で番組の企画段階に関与した者を採用することが多いとしても,それは事実上のものであり,最終的には,テレビ局側の意向も尊重した上で決定する事項であって,被控訴人会社が,本件のような場合に,常に控訴人を製作スタッフとして採用する義務を負うものということまではできない。本件においては,Dが,本件作品3について,ロシアでの実質的な準備作業を担当し,平成119月ころには数回にわたるテレビ放送番組製作の経験を積んでいたこと,及び,NHK側が,Dを重視しており,控訴人は本件作品3のディレクターとして適切ではない,と考えていたこと(被告B本人尋問の結果)から,被控訴人会社としても,テレビ局側の意向を尊重し,本件作品3の製作スタッフとして,控訴人を採用せず,Dを採用する結果となったと認めることができるのである。控訴人と被控訴人会社との間の本件作品3のための調査及び準備作業の委任契約は,前記のとおり,仮払金について,控訴人に広範な裁量権を認めること,及び,控訴人が本件作品3の製作スタッフとなり,多額の報酬を得る事実上の可能性が高いことから,その報酬を支払わないとの慣行に沿った合意が成立していたものであり,この合意は,上記のような事情で控訴人が本件作品3の製作スタッフに採用されなかったとしても,製作スタッフとなる可能性が高いことが事実上のものであったことからすれば,影響を受けないものというべきである。











相談してみる

ホームに戻る