著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権等管理事業者に求められる注意義務(2)
「『チユーリツプ』・『コヒノボリ』作詞者認定事件」平成50316日東京高等裁判所(平成1()2844 

 被控訴人は、控訴人協会は、昭和5712月、「チユーリツプ」、「コヒノボリ」の作詞者は【P9】であるから従来の無名著作物からその旨切り換えて管理されたいとする右【P9】からの申出に対し、右【P9】と共謀の上、同583月、レコード会社等に対して、「チユーリツプ」の歌詞一番の作詞者は【P9】、「コヒノボリ」の作詞者は右【P9】と変更する旨通知し、以後、録音許諾申請を右作詞者名で行わせ、また、レコードのラベル等の表示に右作詞者名を表示させ、被控訴人の氏名表示権を侵害していると主張するので、以下、この点について検討する。
 
(略)
 
そこで、以下、控訴人協会のした前記決定の当否について検討する。
 
…によれば、控訴人協会は、「音楽の著作物の著作権者の権利を擁護し、あわせて音楽の著作物の利用の円滑を図り、もって音楽文化の普及発達に資することを目的」とし(定款4条)、「音楽の著作物の著作権に関する仲介業務を行うこと」を主たる業務とする(定款51号)、我が国における唯一の団体として昭和14年に設立された社団法人であることが認められる。控訴人協会のかかる目的、業務の性格等に照らすと、著作権者の確定の問題は、前記の「音楽の著作物の著作権者の権利を擁護」する上においてはもとより、控訴人協会の前記の業務を適正に行う上での出発点をなす重要な事項というべきである。したがって、音楽著作権の管理契約等の締結に当たって、著作者の確定に疑義が存し、控訴人協会において通常要求される職務上の注意義務を尽くしたならば著作者でないことが判明し得たにもかかわらず右注意義務を怠った場合はもとより、右注意義務を尽くしてもなお著作者であることに疑義が残存するにもかかわらず右疑義ある者を著作者と確定して取り扱うことは、特段の事情がない限り、違法となるというべきであり、これによって真実の著作者について生じた損害を賠償する義務があるというべきである。そこでこれを本件についてみるに、確かに、前記の公表された各資料に【P9】が「コヒノボリ」あるいは「チユーリツプ」の作詞者として記載されていることは既にみたとおりであるから、これをみる限りにおいては、控訴人協会の前記判断は一応の根拠を有するものということができる。しかしながら、「コヒノボリ」及び「チユーリツプ」の作詞者の問題については、前記に認定したとおり、被控訴人であるとする記事が「赤旗」紙上に掲載され、この記事を読んだP6の仲介で控訴人協会において当時の常務理事であったP10や同資料部長のP52と被控訴人が面会し、被控訴人は、同人等から著作権信託等に必要な関係書類一式を交付されたという事実が既に昭和45年後半当時から存在しているのであり、かかる事実からすると、前記の各曲の作詞者を【P9】と確定することには疑義が存し、かつ、控訴人協会においては右疑義の存在を認識していたものであることは明らかなところというべきであり、そうすると、前記の各資料は、公表の事実それ自体を証するものであるとはいえても、肝心のP9が作詞者であるという点については、何ら前記の疑義を解消するものでないことは明らかである。
 
この点について、控訴人協会は、控訴人協会が前記決定をした当時における「チユーリツプ」の作詞者の確定資料からは、【P9】の著作者性について、法律上の評価の対象とするに足りる程度の疑義は存在しなかったと主張するが、前記の認定事実に照らすと、かかる主張が採用できないことは明らかというべきである。また、控訴人協会は、被控訴人から控訴人協会への何らの報告あるいは届出もなされていない以上、疑義は存在しなかったと主張するところ、被控訴人が東邦音楽大学で【P9】と面会した後、控訴人協会に著作権信託等の手続を採っていないことは、前記に認定したとおりであるが、かかる事実があるからといって、前記の疑義が解消されたものでないことはいうまでもないところであるし、また、この点について何ら調査することなく、かかる事実のみから前記の疑義が解消したものと解することも相当ではないというべきである。したがって、この点に関する控訴人協会の主張も採用できないというべきである。
 
また、控訴人協会は、前記決定は、昭和571227日付けの訴外協会及び【P9】から連名で提出された届出に基づくものであるところ、右届出に記載された「わたしの赤ちゃん」五月号による公表は、著作権法14条の公表に該当し、【P9】はチユーリツプの著作者と法律上推定されるから、右推定を覆す合理的理由のない状況下において、右法律上の推定に従った控訴人協会の前記決定に誤りはないと主張する。
 
確かに、前掲「わたしの赤ちゃん」五月号によれば、作詞を【P9】とした「チユーリツプ」の楽譜が掲載されているのであるから、右は著作物の公衆への提供に際し、【P9】の実名が著作者名として通常の方法により表示されている場合に当たるから、著作権法14条により、右【P9】が「チユーリツプ」の歌詞の作詞者としての推定を受けるものというべきであり、被控訴人主張のように、無名著作物であるからといって右推定規定の適用がないと解すべき根拠はない。
 
しかしながら、「チユーリツプ」に関して前記に認定したとおりの控訴人協会が十分に認識しているべき事情が存したところ、…によれば、昭和4581日実業之日本社発行の堀内敬三著「定本 日本の唱歌」には、「チユーリツプ」の作詞者として【P55】(これが被控訴人の変名であることは、前掲「赤旗」の記事から明らかである。)が、また、昭和54415日株式会社全音楽譜出版社発行のP59編「みんなでうたおう こどものうた 1」にも同様の記載が認められるところ、これらの記載によれば、被控訴人も著作権法14条の著作者としての推定を受けることは明らかであり、しかも、これらの書物は控訴人協会において、前記のような疑義の存在を契機として調査するならば極めて容易に知り得るものであることは弁論の全趣旨により十分認めることができるところであるから、控訴人協会が主張するとおりであるとしても、なお、前記の疑義が解消したとする合理的理由があるとはいえないというべきである。したがって、この点に関する控訴人協会の主張は採用できない。
 
さらに、控訴人協会は、チユーリツプの歌詞についての著作権管理継続に関する前記届出に対して、法律上推定される著作者を著作者として業務を遂行したものであり、単なる疑義の存在を理由として著作権管理を拒否できず、前記の管理継続の決定は、正当な業務行為に該当し、これによって生じた侵害の結果について控訴人協会に回避可能性がないと主張する。しかし、控訴人協会が主張する法律上の推定に関する主張が採用できないことは前記のとおりであり、前記認定の著作者の確定に関する疑義を単なる疑義ということは相当ではなく、かかる疑義がある場合に、疑義が解消されるまで著作者の確定を留保する取扱いをすることは何らできないことではないから、控訴人協会に回避可能性がないとすることはできない。したがって、この点に関する控訴人協会の主張も採用できない。
 
そして、控訴人協会が「チユーリツプ」の著作者を【P9】と決定すれば、控訴人協会の使用許諾を受けてその歌詞を使用するレコード会社等は、右の歌詞を公衆に提供ないし提示するときに、「チユーリツプ」の著作者を【P9】と表示することになることは当事者間に争いがなく、このことは、控訴人協会が【P9】を著作者と決定した「コヒノボリ」についても同様の関係にあるものと認められるのであり、この事実によれば、控訴人協会の前記各曲の著作者を【P9】とした決定は、情を知らない出版社等をして被控訴人の氏名表示権を侵害させる結果を招来するものであるから、控訴人協会のした前記の著作者の決定行為は、違法であり、かつ、過失があることは明らかであるから、前記の届出行為をした【P9】と連帯して、これによって被控訴人に生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。











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