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利用許諾契約の解釈(17)-ロイヤリティー支払合意の成立が認められなかった事例-
「百貨店顧客分析・管理ソフト委託業務契約事件」平成190425日東京地方裁判所(平成17()8240 

【コメント】本件は、破産者バディ・コミュニケーション株式会社(以下「バディ」という。)の破産管財人である原告が、バディが被告ハドソンから発注を受けて所定のコンピュータプログラムを作成し、同プログラムの著作権を有することを前提に、主位的請求として、被告ハドソンに納入した同プログラムの複製物を被告ハドソンが他社に販売又は貸与する場合には、その販売及び貸与について被告ハドソンからバディに対してロイヤリティを支払う旨の合意が成立したとして、当該合意に基づき、被告ハドソンに対し所定額のロイヤリティの支払等を求めた事案です。

 
なお、本件においては、次のような事実関係がありました。

 (原告及び被告ハドソン間の取引の概要)
バディは、平成94月ころ、被告ハドソンとの間の請負契約に基づき、丸井今井百貨店に対し、顧客分析・管理システム(「本件システム」)を納入した。

被告ハドソンは、その後、本件システムを「P2/S」・「P2/R」等という商品名で、丸井今井以外にも導入し、導入先に合わせてカスタマイズ(仕様変更)を行った。

バディは、被告ハドソンとの契約に基づき、これらの作業に携わり、それぞれの作業の成果を、各導入先に納入した。

 
(バディの被告ハドソンに対する別件の訴訟提起)
バディは、被告ハドソンに対し、平成1411月ころ、横浜地方裁判所小田原支部に委託業務料支払等請求事件(以下「別訴」という。)を提起し、平成131月から平成142月までの業務委託料の支払及び立替金の返還を請求した。別訴においては、本件システム等の大丸等への導入に係るロイヤリティの請求はされていない。別訴については、平成18925日、控訴審において和解が成立して終了した。 


 バディと被告ハドソン間のロイヤリティ支払合意の有無について
 
[事実認定]
 
(略)
 
[検討]
 
以上の事実に基づいて検討すると,バディと被告ハドソン間にロイヤリティ支払の合意があったとは認められず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。理由は以下のとおりである。
 
具体的な交渉の経過が認められないこと
 
前記とおり,B(管理人注:バディ代表者)とA(管理人注:被告ハドソンの担当者)との数回にわたる打合せの場面において,ロイヤリティに関する具体的な交渉がなされたとは認められない。
 
すなわち,原告は,平成9422日の打合せ時に,初めて,本件システムのパッケージ販売についての話があり,その際,ロイヤリティ支払について言及されたこと,同年731日の打合せ時にも再度ロイヤリティ支払の話があり,平成101019日にロイヤリティ支払の合意が成立した旨主張するが,ロイヤリティの計算基準,支払方法,支払時期,今後の見通しなどについて,BとAの間で,又は,その他のバディ側担当者と被告ハドソン側担当者との間で,具体的な話合いが行われたと認めることはできない。
 
たしかに,BがAとの打合せ時に作成したとするメモには,ロイヤリティに関する記載があり,ロイヤリティに関する事項が話題になったことがうかがえるが,これらのメモの記載は,ロイヤリティの計算基準,支払方法,支払時期,今後の見通しなどについての具体的な記述がされておらず,支払に関する合意が成立したと評価し得るような具体性を有する話合いがされたことを示すものとはいえない。ロイヤリティ額についても,原告は,平成9731日の打合せ時に,Aから,各エンドユーザー当たり1200万円から1300万円の予定であるとの話があったと主張し,また,平成101019日の打合せ時には,各エンドユーザーへの小売価格(貸与価格)の3分の1と合意された旨主張するところ,いったん話が出された1200万円から1300万円の金額が,各エンドユーザーへの小売価格の3分の1の金額に変更されるに至る事情や両者の関係は何ら説明されていないし,上記の小売価格の3分の1の金額という取決めについては黙示の合意であるとしながら,その黙示の合意の成立を基礎付ける具体的な交渉の経過(双方が前提として認識しているべきロイヤリティの相場や業界常識などについての言及)をうかがわせる証拠もない。
 
さらに,Bは,ロイヤリティ額算出の基礎とすることを考えて,Aに,本件各システムの販売代金を聞き出そうとしたが,教えてもらえなかった旨述べるところ,両者の間で,販売額を基礎に算出したロイヤリティ額が支払われるとの合意が成立しているのであれば,その基礎となる金額が開示されるのが当然であり,仮に開示されなかった場合には,その旨を強く要求していくのが契約当事者として自然な対応であるにもかかわらず,Bが,上記のように,開示がない状況を打開する手段をとっていないことからすれば,ロイヤリティ額について,具体性のある合意がされていたとは推認し難いといえる。
 
合意の内容に関する書面は作成されていないこと
 
原告が主張するロイヤリティ支払合意については,これを示す契約書,覚書等,何らの書面の作成もされていない。
 
Bは,平成101019日の打合せ時に,ロイヤリティ支払に関する書面の作成を依頼したが,Aにはぐらかされた旨述べるが,その後,契約書等の作成に関する話合いや,バディからの申入れがされたことをうかがわせる証拠はない。Bは,Aと,直接会って打合せを行うほか,メールでの連絡を行っていたのであり,業務委託料について,打合せの際にAから示された金額と,その後にメールで示された金額とが異なっていた際には,打合せ結果を記載しつつ,確認する内容のメールを返信することもあり,このような具体的交渉が行われていた状況にかんがみれば,少なくともバディ側においては,契約書等の書面作成の申入れや,書面作成の意向を伝えることが十分可能であったと考えられるのであり,そのような経緯もない以上,書面作成に関する話合いの機会を持つように働きかけたこと自体がなかったものと推認するのが相当である。
 
また,平成129月ころに,被告ハドソンからバディに対し,業務委託基本契約案が示されたが,結局,バディはその内容に同意せず,契約書が作成されなかった経緯において,同契約書案についてAと交渉をしたDは,バディが同意し難い理由等をAに伝えているが,その際,業務委託契約に基づく成果物が被告ハドソンに帰属する旨の条項について,変更の希望があることを明確に連絡しながら,ロイヤリティ支払に関する具体的な内容について申し入れたり,バディ側の対案を送付するなどの交渉をしたことは全く認められない。
 
本件訴訟に至るまで,ロイヤリティの請求が行われていないこと
 
バディは,被告ハドソンとの間でロイヤリティ支払の合意が成立したと主張する平成101019日以降,本件訴訟提起(平成17425日)に至るまで,被告ハドソンに対し,ロイヤリティの支払を請求していない。
 
この点について,Bは,ロイヤリティよりも業務委託料の支払確保を重視していたこと,Aの機嫌を損ねることにより業務委託料の不払や契約を失うことなどの営業上の損失を回避する必要があったこと,下請けとしての立場の弱さがあったことなどを理由として述べる。
 
しかしながら,業務委託料の支払確保を重視し,それを優先させることは,そもそも,ロイヤリティの支払請求をしないことの理由にはならないものと考えられるところである。一般的には,取引関係が継続している中で,一時期に多額の請求をすることにより,相手方とのわずかな考え方の相違が表面化し,増幅され,その後の交渉に支障が出たり,関係が悪化するようなことが想定できなくはないので,請求を控える必要がある場合もあり得るであろうが,本件の場合,被告ハドソンの作成した業務委託基本契約書案において,バディの考えていた契約条件,とりわけ,成果物の帰属について,相容れない考え方を示された際,また,バディから被告ハドソンに未払業務委託料等として6900万円余を請求しながらその交渉が難航していた際,そして,その後交渉が決裂して,別訴を提起するに至った際,さらに,別訴において,立替金請求の請求拡張をした際など,バディと被告ハドソンとの考えの違いが明確となる状況が,既に何回も生じていたのであるから,上記の一般的に想定し得る状況とは異なっており,ロイヤリティの支払請求をしない合理的な理由は見い出し難い。Bは,ロイヤリティの支払がないのであれば,本件各システムの販売等を許諾することはなく,カスタマイズ作業を受注することもなかった旨述べるが,そのように毅然とした対応を予定しているのであれば,なおさら,上記のような場面においてもなお請求をしないという対応は不自然といわなければならない。Aの機嫌を損ねることにより業務委託料の不払や契約を失うことへの配慮,下請けとしての立場の弱さという,Bが述べるその他の理由についても,バディの立場においても平成12年までの業務委託料が清算済みであったことを前提にすると,そもそも業務委託料の不払のおそれがあるのか疑問がないではないし,上記理由自体の当否はひとまず措くとして,いずれも,本件訴訟に至るまで支払請求をしていなかったことを合理的に説明するものとはいえない。
 
以上のとおり,客観的な事実経過及びバディの対応は,ロイヤリティ支払の合意の存在とは整合しないのであって,結局,同合意は成立していないものといわざるを得ない











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