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黙示の利用許諾を認定した事例(12)-黙示の包括的許諾を認定した例A-
「地方局番組背景音楽契約事件」平成171222日東京地方裁判所(平成16()17750 

【コメント】本件は、別紙記載のテレビ番組において使用された各楽曲を作曲し、編曲し、かつ、これを実演した原告が、被告は、ローカル番組放送一回分を前提として各楽曲を各番組内において使用するという原告との許諾契約に反し、各楽曲を使用したテレビ番組について、数次にわたる再放送(ローカル番組)、全国放送、他局への放送権の許諾ないし譲渡を行ったとして、被告に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求又は上記使用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及び実演家の著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求並びに上記作曲・編曲された楽曲の一部について原告が著作権を有することの確認を求めた事案です。

 
本件においては、次のような事実関係がありました。

被告は、昭和56年ころ、原告に対し、被告が制作するテレビ番組に使用する背景音楽及び効果音(「背景音楽等」)を作曲・編曲し、かつこれを実演することを申し込み、原告はこれを了承した(以下、背景音楽等の制作に関する契約を「本件契約」という。)。

原告は、昭和56年から平成143月までの間、本件契約に基づいて、背景音楽等を自ら制作し、録音したテープ等を被告に提供し、被告は、提供された各楽曲の一部をテレビ番組において使用した(以下、原告が本件契約に基づいて上記期間内に制作した楽曲等を総称して「本件楽曲等」という。)。

被告が原告に対し本件契約に基づいて支払った対価の額は、合計約6259万円である。

被告は、本件楽曲等を使用したテレビ番組の一部について、ローカル番組(被告のみにおいて静岡県内に対してする番組放送)として再放送し、あるいはこれを全国放送(被告の系列のテレビ放送局を通じる等により日本全国に対してする番組放送)、さらには、放送権の許諾ないし期間を定めた放送権の譲渡(以下、これらを総称して「本件再放送等」という。)をするなどした。 


 当裁判所は,本件契約においては,本件各番組の本件再放送等に伴う本件楽曲等の使用について,原告から被告に対し包括的許諾があったものであり,その許諾の対価が既に支払済みであるものと認める。その理由は次のとおりである。
 
[本件契約締結の経緯,本件楽曲等の内容,演奏時間,使用目的,制作過程及び使用状況等について]
 
(略)
 
[本件再放送等に対する原告の対応について]
 
(略)
 
上記認定事実によると,原告は,本件各番組の多くが,20年以上にもわたり再三再放送され,テレビ放映されているのみならず,本件各番組の再放送の事実は,新聞の番組予定表やその番組紹介コーナーなどの記載からも容易に知り得るものであり,また,原告は,20年以上にもわたり,本件楽曲等の制作に際して,被告社内に出入りし,台本を見ながら,担当ディレクターと打ち合わせをしているのであるから,担当ディレクターとの会話等から本件各番組の一部が再放送されたことや全国放送されたことを当然に知っていたものと認められる。
 
[本件差押事件の経緯等について]
 
静岡地方裁判所裁判官は,平成101029日,債権者をB,債務者を原告,第三債務者を被告とし,「債務者(原告)が第三債務者(被告)に対して有する音楽制作著作権契約に基づく音楽制作代金請求債権(3646810円)」を差押債権とする債権差押命令を発令し,同差押命令は,同月31日,被告に送達された。原告は,平成10116日,同決定の送達を受け,被告に対し,「…良き知識を教えて下さい。」などと付記して同決定をFAX送信し,その対応策について相談した。被告は,社員であるDが担当者となり,顧問弁護士であるF弁護士に対応を相談した。F弁護士は,Dに対し,現時点において原告に対する未払の対価が存在するか否かを調査し,存在する場合には支払を停止するように指示した。Dは,社内における調査及び原告に対する聞き取り調査を行い,当時,原告に対する未払の対価は存在しないことを確認し,平成101111日ころ,差押債権は存在しない旨の陳述書を静岡地方裁判所に提出した。Bは,これにより,債権不存在を理由として本件差押事件を取り下げた。
 
(略)
 
上記認定事実によれば,原告は,本件差押事件及びBとの和解において,Dと数回,話合いを行い,Bに対する債務の弁済について対応策を協議した過程において,Dに対し,本件再放送等について,原告が被告に対し,本件楽曲等の著作権に基づく使用料請求権を別途に取得しているなどという主張は一切しておらず,かえって,被告は,原告との協議を経た上で,Bに対し,本件楽曲等については,「作品の売買契約である」旨返答していたものである。
 
上記各認定事実によると,本件楽曲等は,数秒から長くても数分程度の短いものであり,テレビ番組の映像のイメージに合わせて挿入される背景音楽等であり,本件各番組と一体となって使用されることが当然の前提となっているものである。また,テレビ番組が,本件各番組のように,ローカル番組として再放送されたり,全国放送されたりすることはよくあることである。さらに,スポット用の背景音楽等については,スポット番組の性質上,反復継続的に使用されることは当然の前提とされているものである。そして,被告は,従前から,このような背景音楽等については,いわゆる「買い取り」の合意をしていたことから,本件契約についても同様に理解していたものであること,及び,原告も,本件各番組について,約22年の長期間にわたり,本件再放送等がなされており,これがテレビで放映されるだけでなく,新聞のテレビ番組予定表やその番組紹介欄にも掲載され続けてきており,本件再放送等の事実を当然に認識し得る状況が続いていたにもかかわらず,約22年間,本件再放送等について追加の対価を請求していなかったことからすれば,原告は,被告に対し,本件契約により,本件楽曲等に関する本件再放送等も含めた利用について,その都度支払を受けた報酬をもって,少なくともこれを包括的に許諾していたものと認めるのが相当である。また,原告は,平成10年の本件差押事件とこれに続く和解交渉等において,原告が被告に対し本件楽曲等の本件再放送等に伴う対価請求権を有しているとの主張を一切しておらず,このような請求権がないことを前提として行動しているものであり,このことも本件楽曲等の利用について包括的許諾があったことを強く推認させるものである。
 
原告は,@原告は,被告担当者からは,「ローカル番組放送用に楽曲を提供する」という説明しか受けていない,A被告が原告に支払った対価は,本件楽曲等の使用料としてローカル番組放送一回分のみを前提として算定されている,B原告は,スポットについても,せいぜい1年程度の使用を前提とする対価しか受領していない,C著作権買い取りが事実であれば,被告から原告に対し,追加支払は一切されないはずであるにもかかわらず,被告は,平成28月ころ,テレビ番組「家康人間学」シリーズを財団法人放送番組センターに総額1560万円で譲渡した際,原告に対し,「著作権料として」金50万円を支払った,Dテレビ番組は,通例,第一次利用としての番組一回分の放送を最優先に制作され,音楽家や実演家等の関係者との間でも,放送一回分を前提に契約が締結されるのが通常である,E原告は,音楽制作に没頭するタイプであり,新聞やテレビ番組を確認することはしていないのであり,また,被告が本件再放送等の事実を一切原告に知らせていなかったため,本件再放送等の事実を全く知らず,約22年にわたり対価請求をすることができなかった,F本件差押事件に関しては,当時,原告と被告は放送番組制作に向けて利害が一致しており,被告としても原告をかばいたいと考えていたこともあり,差押債権者であるBに対する回答も,できる限り差押えが功を奏しないように配慮したものである,G全国放送であることを示す「JNN共同制作」等のスーパーは,オンエア直前に初めて挿入されるものであるから,原告は,制作時点において全国放送であることを知ることができないとして,本件契約においては,本件楽曲等は,「ローカル番組放送一回分」に限り,使用許諾されたにすぎない,と主張する。
 しかし,上記@の原告の主張については,原告と被告との間の本件契約の内容について,明確な契約書がないことは事実であるものの,原告と被告との間において,本件楽曲等の利用について,包括的な使用許諾がなされたとみるべきことは前記認定のとおりである。
 
上記A及びBの原告の主張については,本件楽曲等についての適正な包括的使用許諾の対価は,原告の音楽家としての客観的評価,本件楽曲等の内容,演奏時間,使用用途,背景音楽等の重要性等の要素によって総合的に決定されることであり,被告が原告に対し支払った対価の額が,ローカル放送1回限りの使用許諾料であるとか,スポットと呼ばれる短い番組については1年間の使用許諾に相当する料金にすぎないと認めるに足りる証拠もないといわざるを得ない。
 
上記Cの原告の主張については,被告は,確かに,平成28月ころ,テレビ番組「家康人間学」シリーズを財団法人放送番組センターに総額1560万円で譲渡した際,原告に対し,金50万円を交付している(争いがない)。しかし,同金員の交付の趣旨については,番組譲渡に伴う楽曲の著作権料であるのか,番組を高く譲渡することができたことに対するいわゆる大入り袋的な金銭給付であるかについて争いがあるところであり,被告が原告に対し本件契約による許諾料以外に金銭を支払ったのは,この件限りであって,その後,本件再放送等について,被告から原告に対し何らの支払がなされていないにもかかわらず,原告から被告に対し何らの不服も述べられていないこと,及び,前記のとおり,原告は,平成10年の本件差押事件において,Bから被告に対する債権の差押えを受けるという緊急事態にまで至っているにもかかわらず,その際においてさえ,ほかからの借入れまでしてBに対する債務を弁済していながら,被告に対し,本件再放送等について追加的な対価の支払請求をしていないことからすれば,上記50万円の支払は,本件各番組の譲渡に伴い著作権である原告の権利処理に必要な対価として支払われたものとまでは認められず,単に,被告が上記番組を高額で譲渡することができたことから,同番組の関係者に対し,大入り袋的に支払われたものにすぎないものと認められる。
 
上記Dの原告の主張については,テレビ番組は,音楽家や実演家等の関係者との間でも,放送一回分を前提に契約が締結されるのが通常であるかどうかは本件全証拠によっても必ずしも明らかではなく,また,仮にそうであるとしても,本件契約については,前記認定の本件における特殊な事情からすれば,前記のとおり認定すべきであることに変わりはない。
 
上記Eの原告の主張については,原告が,本件再放送等の事実を知り得る機会は無数に存在し,原告が本件再放送等の事実を全く知らなかったとは容易に想定することができないことは,前記認定のとおりである。しかも,原告は,長年にわたり,毎週のように本件楽曲等の制作のために被告に来社していたのであるし,その間,被告のディレクターなどと,本件各番組の中には,評判がよいなどの理由により再放送されたり,他局等に放送権の譲渡あるいは許諾等がされていることなどについて,長期間にわたり,話題にも上らなかったということは極めて不自然なことである。また,原告は,音楽教室を主宰し,多種多様な音楽活動を行っていたのであるから,原告が,本件再放送等について一切知り得ないほど,社会から隔絶した状況で音楽活動に没頭していたと解することはできない。
 
上記Fの原告の主張については,そもそも,原告が被告に対し本件再放送等について使用料請求権を有していると認識していたとすれば,被告に対し多額の使用料請求権を有することを主張するのが本筋であり,到底採用し得ない主張である。
 
上記Gの原告の主張については,原告は,被告の担当ディレクターから番組の説明を受けながら本件楽曲等の制作を行うことは前記認定のとおりであり,全国放送予定のものはその際にその説明を受けるであろうし,原告がそのことを知らないまま今日に至っているということが考えにくいことは,前述のとおりである。
 
原告の上記各主張はいずれも前記認定を左右するものということはできない。
 
(略)
 
[結論]
 
前記認定のとおり,本件契約における本件楽曲等の包括的使用許諾は,被告による本件各番組の利用に伴う使用については,本件再放送等(再放送,全国放送,放送権の許諾ないし譲渡等の一切の利用)について包括的許諾があり,その許諾料はその都度支払われてきたものと認められる。したがって,本件再放送等により,原告の著作権及び実演家としての著作隣接権が侵害されたものとは認めることができない。
 
よって,原告の被告に対する本件楽曲等に関する著作権侵害に基づく損害賠償請求又は本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及び本件楽曲等に関する実演家の著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。











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