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著作権の「二重譲渡」が問題となった事例(3)
「キューピー著作権確認事件」平成170215日大阪高等裁判所(平成16()1797/「キューピー事件」平成130530日東京高等裁判所(平成11()6345
 

「キューピー著作権確認事件」

 
キューピー著作権は原告に譲渡されたかについて
 
…によれば、以下の事実が認められる。
 
ローズ・オニール制作の著作物に係る著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理するRO遺産財団に承継され、Hが遺産財団管理人に選任された。Hは、1964年(昭和39年)16日に、米国ミズーリ州タニー郡検認裁判所に対し、遺産の配分確定書並びに相続権の分配決定の申立てを行い、その際、遺産については、現金が61247ドル、その他の動産なしと報告した。同検認裁判所は、同月16日、これを正確であると認めて相続の権利を決定し、同年318日、Hはその任務を終了した。しかし、1997年(平成9年)714日、ローズ・オニールの新たな財産(ローズ・オニールの創作した絵画等の著作権、ローズ・オニールの著作物に対する編集権等及び外国におけるライセンス収入等)が発見されたとして、Iから米国ミズーリ州タニー郡巡回裁判所に対し遺産財団管理人選任の申立てがされ、同裁判所は、同月15日、Iを新RO遺産財団の管理人に選任した。
 
原告は、平成10年(1998年)51日、新RO遺産財団から、「ローズ・オニールが創作したすべてのキューピーの作品に対する日本における著作権」(「The Japanese copyright to all the Kewpie works created by Rose O'Neill」)及び「キューピーの作品に関する日本に基づくすべての権利」(「All rights under the Japanese law related to the Kewpie works, including any rights having accrued」)について、頭金として15000米ドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピーに係る原告自身の純収入の2%を支払うほか、キューピーの作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた。
 
一般に、物権の内容、効力、得失の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ(法例10条(管理人注:現「法の適用に関する通則法」13条)参照)、また、物権が相続財産の処分として譲渡された場合に適用されるのは、原因事実の完成した当時における著作物の所在地法というべきである(最高裁平成638日第三小法廷判決参照)。
 
本件では、日本において保護されてきた著作権の、日本における譲渡契約が問題となっているものであるから、譲渡契約及びその結果の著作権の変動に関する準拠法は、我が国の法令であると解するのが相当である。
 
そして、我が国の法令の下においては、上記著作権譲渡契約により、キューピー著作権は、新RO遺産財団から原告に移転したということができる。
 
被告は、RO遺産財団管理人Hが遅くとも194865日までにキューピー作品に係るすべての著作権をJに譲渡したのであるから、新RO遺産財団管理人がこれを原告に対して譲渡することはできないと主張し、Jへの譲渡の証拠として、Hの手紙やKJの相続人)の手紙を提出する。これらの手紙の中で、Hは、キューピーの抱き人形を除いて、すべてのキューピーの権利をJ氏に売却した旨(「I have sold all Kewpie rights to Mr.Joseph Kallus,(中略), except the Cuddly Kewpie.)述べ、また、Kは、ローズ・オニールがキユーピー人形に関して有していたすべての権利はJに譲渡した旨述べている。
 
しかしながら、仮にRO遺産財団管理人HJに対しキューピーに関する著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、前記のとおり、新RO遺産財団から原告に対する著作権譲渡の有効性については、著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、キューピーに関する著作権について、Jに対する譲渡と原告に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、原告に対するキューピーに関する著作権の移転が効力を失うものではない
 
そして、被告は、キューピー著作権について譲渡を受け、あるいは利用許諾を受けるなど、原告がキユーピー著作権の譲渡を受けたことについて対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しない。したがって、原告は、被告に対して、対抗要件の具備を問うまでもなく、その著作権を行使することができる
 
なお、原告は、新RO遺産財団から1909年イラスト画、1910年イラスト画及び1913年作品の各著作権の譲渡を受けたことについて我が国著作権法771号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10825日に登録を受けた結果、対抗要件を具備していることとなるから、この点においても、被告の主張は理由がない
 
被告は、原告が本件訴訟において「キューピー作品」について1909年以降の作品と定義していることをもって、譲渡契約にある「キューピー作品」にはそれ以前のキューピー関連作品が含まれておらず、原告はキューピー関連作品の著作権については譲渡されていないと主張する。しかし、譲渡契約書においてそのような限定があるということはできず、限定がないことを述べる新RO遺産財団の管理人の宣誓供述書が提出されているのであり、他に被告の主張するような限定がなされていたことをうかがわせる証拠はない。
 
被告は、米国著作権登録原簿上、キューピー関連作品が一部となっているイラスト全体の著作物の著作権者は出版社となっているから、ローズ・オニールや(新)RO遺産財団が著作権を有することはなく、譲渡することもできないと主張するが、これは編集著作物の著作権というべきである。
 
被告は、第一次訴訟が当初新RO遺産財団管理人によって提起されていたこと、その後、原告が新RO遺産財団から著作権の譲渡を受けたとして当事者変更の申立てを行ったこと、原告が著作権の譲渡を受けたと主張しながら、その契約書の存否や内容を控訴審の結審直前まで明らかにしなかったこと、また、明らかにされた契約内容によれば、損害賠償請求額10億円と比較して著しく低額の15000米ドル(約180万円)であったこと、などの事情からすれば、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約の存在自体が否定されると主張する。
 
しかしながら、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約については、…証が提出されており、被告の指摘する事情をもってしても上記譲渡契約が存在しないということはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
 被告は、原告と新RO遺産財団管理人との間の著作権譲渡契約は、実質的には原告が我が国において訴訟を提起し、キューピーに関する著作権に基づくロイヤリティを徴収すること等を目的とするものであって、訴訟信託行為というべきであるから、信託法11条あるいは弁護士法73条に反するものであって無効であると主張する。
 
しかしながら、原告は、実際にキューピーに関する作品等の普及活動等を行っている者であるから、その著作権について譲渡を受ける動機や目的を有する者ということができるので、我が国におけるキューピーに関する著作権の譲渡を受けたとしても、そのことから直ちにその譲渡行為が訴訟信託行為であるということはできない。また、原告は、訴訟自体を弁護士に委託して遂行しており、新RO遺産財団としても原告に訴訟行為を信託しなければならない必然性はない。その他、原告と新RO遺産財団との著作権譲渡契約が、原告に訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする訴訟信託に当たる、あるいは弁護士法73条に反すると認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の主張は理由がない。

「キューピー事件」

 
[本件著作権の控訴人に対する譲渡について]
 
相続人が、その相続に係る不動産持分について、第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は、法例102項により、その原因である事実の完成した当時における目的物の所在地法であって、相続の準拠法ではないことは、判例とするところであるから(最高裁平成638日第三小法廷判決)、本件著作権の譲渡は、アメリカ合衆国国民であり同国ミズーリ州において死亡した亡ローズ・オニールの相続財産の処分ではあるけれども、本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は、相続の準拠法として同州法とされるべきでないことは、上記判例の趣旨からも明らかである。
 
そして、著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。
 
まず、著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断する。いわゆる国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法例71項により、第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が定められるべきものと解するのが相当であり、仲裁契約中で上記準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきものとされている(最高裁平成994日第一小法廷判決)。
 
著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法は、法律行為の準拠法一般について規定する法例71項により、第一次的には当事者の意思に従うべきところ、著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、契約の内容、当事者、目的物その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである。控訴人の主張する本件著作権の譲渡契約は、アメリカ合衆国ミズーリ州法に基づいて設立された遺産財団が、我が国国民である控訴人に対し、我が国国内において効力を有する本件著作権を譲渡するというものであるから、同契約中で準拠法について明示の合意がされたことが明らかでない本件においては、我が国の法令を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。
 
証拠によれば、以下の事実が認められる。
 
本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理する遺産財団に承継され、ミズーリ州タニー郡巡回裁判所により、ポール・オニールが遺産財団管財人に選任された。ポール・オニールは、1964318日、同裁判所の命令を受けて任務を終了したものの、1997714日、ローズ・オニールの新たな財産が発見されたとして、デビッド・オニールから同裁判所に対し遺産財団管財人選任の申立てがされ、同裁判所は、同月15日、デビッド・オニールを遺産財団管財人に選任した。
 
控訴人は、平成1051日、遺産財団から、本件著作権を含むローズ・オニールが創作したすべてのキューピー作品に係る我が国著作権等を、頭金として15,000アメリカドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー製品及び物品に係る控訴人自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた。
 
被控訴人は、控訴人が本件著作権等の対価を当審口頭弁論終結日まで明らかにしなかったことを理由に控訴人主張の譲渡が虚構である旨主張し、確かに、この点に係る控訴人の訴訟遂行は問題なしとしないが、このことから直ちに、上記著作権譲渡契約の存在を否定することはできず、他に上記の認定を左右するに足りる証拠はない。
 
したがって、控訴人と遺産財団とは、本件著作権について、上記譲渡契約を有効に締結したということができる。
 
次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断する。一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法例10条は、その趣旨に基づくものであるが、その理由は、物権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である。
 
そうすると、本件著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるから、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、上記の本件著作権譲渡契約が締結されたことにより、本件著作権は遺産財団から控訴人に移転したものというべきである。
 
[本件著作権の第三者への譲渡について]
 
被控訴人は、遺産財団管財人ポール・オニールが遅くとも194865日までに本件著作権を含むキューピー作品に係る著作権をジョゼフ・カラスに譲渡したと主張する。
 
しかしながら、仮に、遺産財団管財人ポール・オニールがジョゼフ・カラスに対し本件著作権を譲渡し、この譲渡契約が有効であるとしても、上記のとおり、遺産財団から控訴人に対する本件著作権譲渡による物権類似の支配関係の変動については、本件著作権の保護国である我が国の法令が準拠法となるから、本件著作権について、ジョゼフ・カラスに対する譲渡と控訴人に対する譲渡とが二重譲渡の関係に立つにすぎず、控訴人に対する本件著作権の移転が効力を失うものではない。
 
我が国著作権法上、被控訴人は、本件著作権について、譲渡を受け、又は利用許諾を受けるなど、控訴人が本件著作権譲渡の対抗要件を欠くことを主張し得る法律上の利害関係を有しないから、控訴人は、被控訴人に対し、対抗要件の具備を問うまでもなく、本件著作権を行使することができる。なお、本件著作権譲渡の法律効果について我が国著作権法が適用されるということは、著作権譲渡の対抗要件についても同様であることを意味するところ、控訴人は、遺産財団から本件著作権の譲渡を受けたことについて、我が国著作権法771号に基づく著作権の登録申請手続を行い、平成10825日に登録を受けた結果、上記対抗要件を具備していることは上記認定のとおりであるから、この点においても、被控訴人の主張は理由がない
 
[訴訟信託について]
 
上記のとおり、本件著作権譲渡契約の有効性については、我が国の法令が準拠法となるところ、我が国の法令上、遺産財団から控訴人に対する本件著作権の譲渡が訴訟行為をさせることを主たる目的とする訴訟信託に当たると認めるに足りる証拠はない。
 
被控訴人は、控訴人が本件著作権の譲渡を受けて間もなく本件訴訟を提起したことを主張するが、このことから直ちに訴訟信託が推認されるものではない上、控訴人は、上記認定のとおり、遺産財団に対して相当額の対価の支払を約し、また、本件訴訟の遂行を弁護士である訴訟代理人に委任し、同代理人が原審及び当審の口頭弁論期日に出頭して訴訟を遂行していることは訴訟上明らかであるから、この点においても、本件著作権の譲渡が訴訟信託であるとは認め難い。











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