著作権重要判例要旨[トップに戻る]







訴訟上の信義則
「キューピー著作権確認事件」平成170215日大阪高等裁判所(平成16()1797 

【コメント】本件は、原告が、被告において、「被告イラスト」と及び「被告人形」の複製を製造し、これを譲渡、公衆送信等する行為は、原告の有する著作権を侵害するとして、被告に対し、これらの行為の差止め等を求めるとともに、原告がキューピー作品(イラスト画)にかかる「1909年作品」、「1910年作品」及び「1912年作品」を著作物とする各著作権を有することの確認を求めた事案です。

 
なお、上記差止め等に関しては、原告は、主位的請求として、1909年作品の著作権に基づき、予備的請求1として、1910年作品の著作権及び同作品を二次的著作物とする1909年作品の原著作権(著作権法28条)に基づき、予備的請求2として、1912年作品の著作権及び同作品を二次的著作物とする1909年作品及び1910年作品の各原著作権(著作権法28条)に基づき、予備的請求3として、別紙記載の人形(「1913年作品」)を二次的著作物とする1909年作品、1910年作品及び1912年作品の各原著作権(著作権法28条)に基づき、予備的請求4として、1913年作品を二次的著作物とする「1901年作品」、「1903年作品」、「1904年作品」、「1905年作品」、「1906年作品」、「1907年作品」及び「1908年作品」(以上1901年作品、1903年作品、1904年作品、1905年作品、1906年作品、1907年作品及び1908年作品を総称するときは「キューピー関連作品」という。)の原著作権(著作権法28条)に基づき、請求しました。 


 訴訟上の信義則について
 
前記のとおり、第一次訴訟における訴訟物と本件訴訟における訴訟物とは異なる。
 
しかしながら、権利の行使は、信義に従い誠実にこれをしなければならず(民法12項)、民事訴訟においても、「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」(民事訴訟法2条)ものである。民事訴訟において、後訴の請求又は後訴における主張が前訴のそれの蒸し返しにすぎない場合には、後訴の請求又は後訴における主張が信義則に照らして許されないと解すべき場合があり得る。信義則によって後訴の請求又は後訴における主張が許されないものとするかどうかを判断するに当たっては、前訴と後訴の内容、当事者が実際に行った訴訟活動、前訴において当事者がなし得たと認められる訴訟活動、後訴の提起又は後訴における主張をするに至った経緯、訴訟により当事者が達成しようとした目的、訴訟を巡る当事者双方の利害状況、当事者の衡平、前訴の判決によって紛争が決着したと当事者が抱く期待の合理性、裁判所の審理の重複、時間の経過などを考慮して、後訴の提起又は後訴における主張を認めることが正義に反する結果を生じさせるような場合には、後訴の請求又は後訴における主張は信義則に反し許されないものと解するのが相当である
 
そこで、これを本件についてみるに、原告は、第一次訴訟では、1913年作品の著作権(複製権、翻案権等)の侵害に基づく被告イラスト及び被告人形の複製行為等の差止め及び廃棄並びに損害賠償及び不当利得返還の各請求をし、控訴審において、前記1913年作品と同じ人形に係る著作権を有することの確認請求を追加したものである。そして、…によれば、第一次訴訟の経過として、次の事実が認められる。
 
(略)
 
そこで、以上の事情に照らして検討するに、まず、第一次訴訟と本件訴訟は、いずれも、ローズ・オニールが創作したすべてのキューピーに関する著作物の著作権者であると主張する原告が、その中の一部の作品を根拠として、被告イラスト及び被告人形の複製等の行為について差止め及び廃棄並びに損害賠償及び不当利得返還の各請求を行っているものである。そして、これらの各請求の根拠となった作品、とりわけキューピー作品(1909年作品、1910年作品、1912年作品及び1913年作品)については、原告自身、互いに原著作物と二次的著作物の関係にある可能性があることを前提としているものである。
 
原告は、第一次訴訟においては、1913年作品における表現上の特徴には、1909年作品及び1910年作品に既に表れていた表現的特徴のほか、1913年作品に固有の表現的特徴を含めて1913年作品における特徴すべてに権利主張するものである旨主張しているが、このような主張は、第一次訴訟控訴審判決も理由中で引用している最高裁平成9717日第一小法廷判決)の採る著作権法の解釈と相容れない独自の見解というべきである(前記でもみたように、原著作物の著作者と二次的著作物の著作者とが同一人の場合であっても、原著作物の著作権に基づく請求、二次的著作物の著作権に基づく請求又は原著作者として有する著作権法28条の権利に基づく請求は、それぞれ訴訟物を異にするから、固有の表現的特徴についてのみ著作権の認められる二次的著作物に基づく請求の中で、原著作物の既に表れていた表現的特徴をも含めて主張することは許されない。)。
 
原告は、独自の法解釈論を主張することはともかくとして、第一次訴訟においても、本件訴訟と同様の請求を行うことは可能であったものであり、これを妨げるような事情が存在したともうかがわれない。しかるに、原告は、第一次訴訟で、長期間にわたる審理の過程において裁判所から再々求釈明を受けているにもかかわらず、結局、そのような請求を行わず(なお、前記の第一次訴訟控訴審における訴訟物の追加に関する主張にしても、上記の独自の法解釈論の枠内での不明確なものでしかない上、それ自体、後記の第一審の口頭弁論期日における自らの陳述の趣旨に正面から反するもので、訴訟上の信義則〔禁反言〕に照らして不当なものといわざるを得ない。)、かえって、同訴訟第一審の口頭弁論においては、1909年作品及び1910年作品の各著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはない旨陳述したのであるから、原告主張の当事者の合理的意思なるものを考慮に入れても、1909年作品及び1910年作品の各著作物について著作権の保護を求めることを放棄したものと裁判所及び被告に理解されてもやむを得ないものというべきである。
 
そして、1909年作品及び1910年作品の二次的著作物であることを自認しつつ、1913年作品の著作権に基づく差止め等を請求すること(第一次訴訟)と、1913年作品に依拠したとして、1913年作品を二次的著作物とする原著作物である1909年作品、1910年作品及び1912年作品の各著作権に基づき、若しくは著作権法28条の規定する二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利として、又は1909年作品、1910年作品及び1912年作品のあるものを原著作物として、これらのうちの後発の作品を二次的著作物として著作権法28条の原著作者の権利として差止め等を請求することは、法的な構成は異なるものの、実質的には同一の紛争を蒸し返すものと評価できる
 
他方で、ローズ・オニールが死亡してから50年以上経過し、被告がキューピーを使用するに至ってから約70年経過した状態で、初めて著作権に基づく請求なり訴訟提起なりを受けた被告としては、原告が第一次訴訟において1909年作品や1910年作品の表現上の特徴も踏まえた主張をしながら、これらを原著作物とする主張をしない旨明言したことにより、今後1913年作品以外の作品の著作権に基づく訴訟提起はなされないであろうと期待したとしてもやむを得ないものというべきである。
 
そうすると、確かに、第一次訴訟における訴訟物と本件訴訟における訴訟物とは異なるものの、本件訴訟のうち、とりわけ主位的請求、予備的請求1ないし3は、実質的には第一次訴訟の蒸し返しというべきであるし、原告が、第一次訴訟において可能であった請求を、第一次訴訟の判決確定後、訴訟物が異なることのみを根拠として、あるいは第一次訴訟においては特段の言及をしなかった1912年作品の著作権を根拠として、本件訴訟を提起して第一次訴訟とほぼ同様の請求を行うことは、信義則に反し、禁反言の法理からしても不当であり、また、原告・被告間の紛争解決としても適正・衡平を著しく欠く行為というべきである。
 
したがって、本件訴訟のうち、差止め及び廃棄並びに損害賠償及び不当利得返還に係る主位的請求、予備的請求1ないし3については、本件訴訟でそのような請求をすることは、訴訟上の信義則に反するものというべきであるから、本件訴訟のうち上記部分は不適法なものとして却下すべきである。
 
被告は、原告は、第一次訴訟から一貫して、キューピーとは1909年作品において初めて創作されたと主張してきているのであるから、それ以前に制作された作品が、キューピー作品の原著作物であることを前提とする予備的請求4は、訴訟上の信義則に著しく反すると主張する。
 
しかしながら、自己の主張と矛盾する内容の主張に係る請求を予備的請求としてできないわけではないし、そのような請求を後訴ですることも、それだけで直ちに訴訟上の信義則に反して許されなくなると解するのも相当ではない。本件訴訟の予備的請求4に係る1901年作品等のキューピー関連作品については、キューピー作品と異なり、第一次訴訟において、原告が将来にわたって権利行使をしないと陳述したような事実もない。他に、予備的請求4を訴訟上の信義則に照らして排除しなければならないほどの事情も見出し難い。
 
また、被告は、1909年イラスト画及び1910年イラスト画に係る各著作権の確認請求についても、以上と同様の理由により、訴訟上の信義則違反として却下されるべきであるとも主張するが、第一次訴訟における原告の言動は、同訴訟で問題となっていた訴訟物に関する限りのものと解されるから、著作権の確認請求まで放棄したものと解することはできないし、その他、本件訴訟において確認請求をすることまで訴訟上の信義則に照らして排除しなければならないほどの事情も見出せない。
 
したがって、上記確認請求及び予備的請求4についても訴訟上の信義則に反して許されないとする被告の主張は、採用することができない。











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