著作権重要判例要旨[トップに戻る]







絵画の縮小カラーコピーの複製権侵害の成否
鑑定証書絵画複製事件平成221013日知的財産高等裁判所(平成22()10052/平成220519日東京地方裁判所(平成20()31609 

【コメント】本件は、画家であった亡Aの相続人である長男の亡B、養子(亡Bの長男)の被控訴人が、控訴人に対し、美術品の鑑定等を業とする控訴人において、亡Aの制作した「本件絵画1及び2」について、「本件鑑定証書1及び2」を作製する際に、本件各鑑定証書に添付するため、本件各絵画の縮小カラーコピー(本件絵画1の縮小カラーコピーを「本件コピー1」、本件絵画2の縮小カラーコピーを「本件コピー2」)を作製したことは、亡Aの著作権(複製権)を侵害するものであると主張し、同侵害に基づく損害賠償請求等を求めた事案です。 

 [認定事実]
 …によると,次の事実を認めることができる。
 
亡Aは著名な女流画家であり,本件各絵画は亡Aが制作した同人の著作物である。
 
本件各絵画は,題名がいずれも「花」であり,画面の大きさは,本件絵画1につき縦332㎝×横244㎝(面積81008),本件絵画2につき縦410㎝×横319㎝(面積13079)である。
 
本件鑑定証書1は,本件絵画1の所有者である美術商からの依頼に基づき,平成17425日付けの控訴人鑑定委員会委員長名義で,本件絵画1に係る「作品題名」,「作家名」,「寸法」等が記載されたホログラムシールを貼付した鑑定証書と,その裏面に本件コピー1(画面の大きさが縦162㎝×横119㎝。面積19278であって,原画である本件絵画1の面積の約238)を添付した上で,パウチラミネート加工されて製作されたものである。
 
本件コピー1は,本件絵画1を写真撮影・現像した上で,プリントされた写真をカラーコピーして作製されたものである。
 
本件鑑定証書2は,本件絵画2の所有者から委任を受けた美術商からの依頼に基づき,平成20625日付けの控訴人鑑定委員会委員長名義で,本件絵画2に係る「作品題名」,「作家名」,「寸法」等が記載されたホログラムシールを貼付した鑑定証書と,その裏面に本件コピー2(画面の大きさが縦152㎝×横120㎝。面積1824であって,原画である本件絵画2の面積の約139)を添付した上で,パウチラミネート加工されて製作されたものである。
 
本件コピー2は,本件絵画2を写真撮影・現像した上で,プリントされた写真をカラーコピーして作製されたものである。
 
被控訴人における絵画の鑑定業務においては,対象となる絵画の画題が「花」,「薔薇」,「風景」,「裸婦」,「静物」等共通する物が多いことから,鑑定対象の絵画を特定するために,また,これに加えて,鑑定証書の偽造防止のために,鑑定証書の裏面に鑑定対象の絵画の縮小カラーコピーを添付する扱いとしている。
 
[複製の成否]
 
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和5397日第一小法廷判決参照),前記のとおり,本件コピー1は,本件絵画1に依拠して作製されたもの,また,本件コピー2は,本件絵画2に依拠して作製されたものであり,その作製された画面の大きさは,それぞれ縮小カラーコピーというように,本件コピー1では縦162㎝×横119㎝,本件コピー2では縦152㎝×横120㎝等であるから,本件各絵画の大きさとは自ずと異なるが,本件各絵画と同一性の確認ができるものであり,本件各コピーの前記認定の作製方法及び形式からして,本件各絵画の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから,このような本件各絵画の再製は,本件各絵画の著作権法上の「複製」に該当することが明らかである。
 
この点について,控訴人は,本件各コピーは,いずれも著作権法が本来その保護の対象とする芸術性,美の創作性や感動を複製したものではなく,流通の安全性を図り不正品を防ぐ単なる記号の意味合いにすぎないもので,美術の著作物の複製が著作権法上の「複製」に該当するために必要な鑑賞性を備えず,本件各コピーの作製は同法上の「複製」に該当しないと主張する。
 
しかしながら,絵画は,絵画の描く対象,構図,色彩,筆致等によって構成されるものであり,一般的に創作的要素を具備するものであって,それ自体が控訴人の主張する鑑賞性を備えるものであるから,当該絵画の内容及び形式を覚知できるものを再製した以上,その絵画が有する鑑賞性も備えるものであって,絵画の複製に該当するか否かの判断において,絵画の内容及び形式を覚知させるものを再製したか否かという要件とは別個に,鑑賞性を備えるか否かという要件を定立する必要はなく,控訴人の主張は採用することができない。
 
また,控訴人は,本件各コピーを観ることによって本件各絵画の特徴を感得することができたとしても,その感得の対象はあくまでも縮小カラーコピーである本件各コピーの特徴にすぎないと主張する。
 
しかしながら,上記のとおり,本件各コピーによって本件各絵画の内容及び形式を覚知するに足りることは前記認定のとおりであるから,これをもって本件各絵画の複製を認定することに問題はなく,控訴人の主張は,本件各コピーの作製が著作権法上の「複製」に該当しないという意味であるとしても,これを採用することができない。

【参考:原審の判示部分】

 
美術の著作物は,一般に,形状,色彩,線,明暗により表現された著作物であり,このうち,絵画は,画材,描く対象,構図,色彩,絵筆の筆致等により思想,感情を表現し,美的要素を備えるものとして,作者の個性的な表現が発揮されているのであれば,著作権の保護の対象となり得るものと解される。
 
そして,複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうが,美術の著作物である絵画について,複製がされたか否かの判断は,一般人の通常の注意力を基準とした上で,美術の著作権の保護の趣旨に照らして,絵画の創作的な表現部分が再現されているか,すなわち,画材,描く対象,構図,色彩,絵筆の筆致等,当該絵画の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得できるか否かにより判断するのが相当である。
 
本件において,前記認定事実によると,本件鑑定証書1及び2に貼付された本件絵画1及び2の縮小カラーコピーは,本件絵画1を約23%(約4分の1)の,本件絵画2を約16%(約6分の1)の各大きさに縮小したものであり,本件絵画1及び2そのものは提出されていないものの,これらの縮小カラーコピーにおいては,いずれも,画題である「花」が,油彩を画材として,上記構図,色彩及び筆致等により描かれており,その大胆な構図や,単純化された花の表現,鮮やかな色彩の対比や絵の具の塗り重ねによる重厚な印象等,本件絵画1及び2の作風が表れているところである。
 
そうすると,本件鑑定証書1及び2に貼付された本件絵画1及び2の縮小カラーコピーは,通常の注意力を有する者がこれを観た場合,画材,描かれた対象,構図,色彩,絵筆の筆致等により表現される本件絵画1及び2の特徴的部分を感得するのに十分というべきである。
 
したがって,本件鑑定証書1及び2に貼付された本件絵画1及び2の縮小カラーコピーは,本件絵画1及び2の美術の著作物としての本質的な特徴的部分が再現されているというべきであり,当該縮小カラーコピーを作製した被告の行為は,本件絵画1及び2の複製に該当すると認めるのが相当である。
 
被告は,本件鑑定証書1及び2に貼付された本件絵画1及び2の縮小カラーコピーは,著作権法が本来その保護の対象とする芸術性や美の創作性や感動を複製したものではなく,流通の安全性を図り不正品を防ぐための単なる記号の意味合いにすぎないと主張するが,上記認定のとおり,通常の注意力を有する者がこれを見た場合,本件絵画1及び2の美的要素の基礎となる特徴的部分を感得することができるといえるから,被告の行為は複製に該当するというべきであり,被告の上記主張を採用することはできない。











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