著作権重要判例要旨[トップに戻る]







死者に対する遺族の敬愛追慕の情を侵害する行為と不法行為の成否
「小説文章謝罪広告等請求事件昭和540314日東京高等裁判所(昭和52()1829 

 以上に認定したところに基づき本訴請求の当否につき検討する。
 
まず死者の名誉ないし人格権についてであるが、刑法2302項及び著作権法60条はこれを肯定し、法律上保護すべきものとしていることは明らかである。右のほか、一般私法に関しては直接の規定はないが、特に右と異なる考え方をすべき理由は見出せないから、この分野においても、法律上保護されるべき権利ないし利益として、その侵害行為につき不法行為成立の可能性を肯定すべきである。しかし、この場合何人が民事上の請求権を行使しうるかについてはなんらの規定がなく、この点につき著作権法116条あるいは刑事訴訟法2331項を類推してその行使者を定めるとすることもたやすく肯認し難い。結局その権利の行使につき実定法上の根拠を欠くというほかない。
 
ただ本訴は、死者に対する名誉毀損行為により控訴人自らが著しい精神的苦痛を蒙つたとして、控訴人に対する不法行為を主張するものと解されるのであるから、前記のような請求権者の問題はない。そして故人に対する遺族の敬愛追慕の情も一種の人格的法益としてこれを保護すべきものであるから、これを違法に侵害する行為は不法行為を構成するものといえよう。もつとも、死者に対する遺族の敬愛追慕の情は死の直後に最も強く、その後時の経過とともに軽減して行くものであることも一般に認めうるところであり、他面死者に関する事実も時の経過とともにいわば歴史的事実へと移行して行くものということができるので、年月を経るに従い、歴史的事実探求の自由あるいは表現の自由への配慮が優位に立つに至ると考えるべきである。
 
本件のような場合、行為の違法性の判断にあたり考慮されるべき事項は必ずしも単純でなく、被侵害法益と侵害行為の両面からその態様を較量してこれを決せざるを得ないが、その判断にあたつては、当然に時の経過に伴う前判示の事情を斟酌すべきてある。
 
ところでDは昭和41129日に死亡しているところ、本件文章はその死後44年余を経た昭和491月に発表されたものである。かような年月の経過のある場合、右行為の違法性を肯定するためには、前説示に照らし、少なくとも摘示された事実が虚偽であることを要するものと解すべく、かつその事実が重大で、その時間的経過にかかわらず、控訴人の故人に対する敬愛追慕の情を受認し難い程度に害したといいうる場合に不法行為の成立を肯定すべきものとするのが相当である。
 
しかして、前認定によれば、本件文章に記載された問題の個所が虚偽の事実と認めることはできないから被控訴人の行為について違法性はなく、控訴人主張の不法行為の成立を認めることはできない。











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