著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権侵害罪(3)
Winny著作権法違反事件平成161130日京都地方裁判所(平成15()2018 

【コメント】本件で問題となった「Winny」とは、次のようなファイル共有ソフトです:

「@ Winnyとは,○○大学の特任教員であったEという人物が,平成13年ころ,WinMXという名称のファイル共有交換ソフトを使用していた者が検挙されたことを知り,より匿名性の高いファイル共有ソフトを自らの手で開発しようなどと考え,平成145月ころ開発したパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という)用のファイル共有ソフトの名称である(以下,バージョンを問わず単に「Winny」という)Eは,自己が立ち上げたホームページから,Winnyを無料でダウンロードできるようにし,その後も,複数回にわたってそのバージョンアップをした。
 
その間,Winnyを利用する者は増加し続け,Winnyの使用方法を解説するホームページや,Winnyを使用する上で必要な情報等を提供するホームページ等,Winnyに関するホームページが多数作成されることとなり,Winnyの利用者は,平成1510月時点で約40万人を超える旨の関係機関の調査結果も報告されるなど,相当多数に上っている。
A Winnyの具体的な機能,動作等については,必ずしもその総てが明らかになっているとはいえないものの,概略次のように理解することができる。
 
Winnyは,特定のサーバーに依存することなく,ファイルの共有ができるファイル共有ソフトである。Winnyを利用してデータを送受信する際には,中央サーバーを介することなく,ノード情報と呼ばれるIPアドレスとポート番号を暗号化した情報を利用して,既にWinnyネットワークに参加している他のパソコンと接続し,これにより自らのパソコンをWinnyネットワークに接続させ,データの送受信を行う。その際,送受信を行うパソコン同士が直接接続される場合もあれば,Winnyを利用している他のパソコンを中継点とし,これを介して,データの送受信が行われる場合もあり,そのいずれの形態で送受信が行われているかは判別できない仕組みとなっている
 
Winnyネットワーク上のパソコンのアップフォルダ内にアップロードされたファイルについては,同ネットワークに参加している総てのパソコンと共有された状態となる。すなわち,当該ファイルについて,暗号化されたその情報のリストが作成され,そのリストの検索により当該ファイルの存在を知った者が,別のパソコンからダウンロードを要求すると,キャッシュ化されたデータが自動的に送信され,暗号化された状態で同パソコンのキャッシュフォルダ内に保存されていき,ダウンロードが完了した時点で,当該ファイルが同パソコンのダウンロードフォルダ内に復元される。ダウンロードする際に,暗号化された状態でキャッシュフォルダ内に保存されたデータは,ダウンロードが完了し当該ファイルがダウンロードフォルダ内に復元された後も,なおキャッシュフォルダ内にそのまま保存され,その結果,同パソコンからも当該ファイルがアップロードされているのと全く同じ状態となる。また,当該ファイルの送受信がWinnyネットワーク上の他のパソコンを間に介在させて行われる場合には,中継点となったパソコンのキャッシュフォルダ内にも当該ファイルの暗号化されたデータが保存されることとなるため,同パソコンからも当該ファイルがアップロードされているのと全く同じ状態となる。当該ファイルをダウンロードするパソコンの側からは,当該ファイルが最初にアップロードされたパソコンからデータのダウンロードが行われているのか,あるいは,その他のパソコンのキャッシュフォルダ内に上記のようにして保存されたデータがダウンロードされているのかは,判別のつかない仕組みとなっている。」

 
なお、本件において以上のような仕組みを有するWinny及びそのネットワークでは、「公衆送信用記録媒体」とは情報が記録された被告人使用のパソコンのハードディスクであり、「自動公衆送信用装置」とは送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフト「Winny2.0β6.6」をダウンロードして使用していた被告人のパソコンであり、「公衆の用に供されている電気通信」とはインターネットである、ということが言えます(判示も同様の見解)。 


 (罪となるべき事実)
 
被告人は,法定の除外事由がなく,かつ,著作権者の許諾を受けないで,平成15924日から同月25日までの間,群馬県…所在の被告人方において,A社(代表者B)が著作権を有する映画の著作物である邦題名「X」及びC(代表者D)が著作権を有する映画の著作物である邦題名「Y」の各情報が記録されているハードディスクと接続したパーソナルコンピュータを用いて,インターネットに接続された状態の下,そのアップフォルダに上記各情報が入った送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフト「Winny2.0β6.6」を起動させ,同パーソナルコンピュータにアクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に上記各情報を自動公衆送信し得るようにし,もって上記各著作権者が有する著作物の公衆送信権を侵害したものである。
 
(弁護人の主張について)
 
(略)
 
以上の事実に基づき,以下,弁護人の主張について,順次検討を加えていくこととする。
@ 弁護人の主張Iについて
 
弁護人は,被告人がアップロードする際に使用した「X」及び「Y」の各DVDには,インデックス機能等,映画館等で上映される場合には存在しない機能が付与されており,映画の著作物には該当しない旨主張しており,映画館で上映される場合のみが,映画の著作物として保護の対象となるかのごとく主張している。
 
しかし,著作権法上,映画の著作物として保護されているのは,映画としての作品ないし表現行為それ自体にかかる知的所有権であって,それらが記録された媒体の如何を問うものでない。もとより,映画館で上映される場合のみが,映画の著作物として保護の対象となるものでないことは明らかである。
 
そして,本件各DVDに収録されている情報は,1本の作品としての映画を視聴し得るものであることが明らかであるから,上記各著作権者が著作権を有する映画の著作物に該当することに疑いを入れる余地はない。
A 弁護人の主張Eについて
 
弁護人は,被告人の使用していた回線は光ファイバーであるから電気通信回線にも有線電気通信にも当たらない旨主張する。
 
弁護人の主張は,本件が,映画の著作物の情報が記録されているハードディスクと接続したパソコンを用いて,これがインターネットに接続された状態の下,Winnyを起動させ,インターネット利用者に上記情報を自動公衆送信し得るようにしたというものであることについて,ここにいう公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行うことをいい(著作権法217号の2),そのうち公衆からの求めに応じ自動的に行うものを自動公衆送信ということ(著作権法219号の4)を踏まえて,本件において「自動公衆送信し得るようにした」というのは,要するに,上記のようなパソコンと公衆の用に供されている電気通信回線とを接続させたことをいう(著作権法219号の5参照)とした上で,被告人が本件で用いたパソコンと公衆の用に供されている電気通信回線とは光ファイバーで接続されているところ,光は電気ではないから,光ファイバーは電気通信回線にも有線電気通信にも当たらないというものであると解される。
 
しかし,電気通信とは,有線,無線その他の電磁的方式により,符合,音響又は映像を送り,伝え,又は受けることと定義されており(電気通信事業法21),換言すれば,電磁波を用いて種々の情報を送信又は受信することが電気通信であり,電気が電磁波の一種であることは多言を要しない。ところで,光ファイバーとは,光を用いて情報を伝達する際に,光の通路として用いるグラス・ファイバーのことをいい,光ファイバー通信とは,光を搬送波に利用する通信である光通信の一種であるところ,光は,物理的には電磁波の一種であり,波長が約1ナノメートルから1ミリメートルの電磁波をいうと解されている。そして,光ファイバー通信は,光という電磁波を利用した電磁的方法により,種々の情報を送信又は受信するものにほかならないのであるから,これが電気通信の概念に含まれるものであることは明らかである。
B 弁護人の主張@について
 
弁護人は,被告人の本件行為は,特定の1名の者に対する送信を可能化したに過ぎず,公衆に対する送信を前提とした送信可能化権侵害には当たらない旨主張する。
 
たしかに,被告人は,自己のパソコンを,初期ノードを設定した1個のパソコンに接続し,それを介してWinnyネットワークに接続していたものである。しかし,Winnyネットワークに一旦接続されてしまえば,これに参加している不特定多数のパソコンとの間での情報のやり取りが可能となり,ファイルを共有する状態となるものであることは,明らかである。そして,当初設定された初期ノードにかかるパソコンは,単にWinnyネットワークに通ずる一つの通過点となるに過ぎず,そこには,同パソコンの使用者の意思等が何ら介在しないであるから,被告人の本件行為が,不特定かつ多数の公衆に対する直接の送信を可能化するものと評価されることは明らかである。
C 弁護人の主張Fについて
 
弁護人は,Winnyが,そのネットワーク内において他人のパソコンを介して情報の送受信を行うプログラムであることから,そこで行われる送信行為は間接送信にほかならず,被告人の本件行為についても,直接送信を前提とした送信可能化権侵害に当たることはないなどと主張する。
 
たしかに,弁護人が主張するように,Winnyネットワーク内における情報の送受信においては,これをアップロードした者とは異なる第三者が使用する複数のパソコンを経由して,その受信者となる者のパソコンに当該情報がダウンロードされるということもあり得る。
 
しかし,そのような場合であっても,上記の経由点となる第三者は,当該情報をダウンロードしようとする受信者の送信要求を受けて,これに応じるなど,いかなる意識的な行為もすることがなく,そもそも,当該情報がダウンロードされる際,自己のパソコンを経由したことすら認識することはないのである。このように,上記第三者は,Winnyを自己のパソコンにインストールするか,Winnyを起動するかという場面においては意識的に行動しているけれども,Winnyを利用して情報をダウンロードしようとした者が,その送信要求をしたのに応じて,これをアップロードしているパソコンからデータが送信されるに際し,その送受信が自己のパソコンを経由する場面においては,何ら自己の意思に基づいて行動することはないのであるから,有意識的に当該情報を中継しているなどとは到底評価することはできない
 
したがって,Winnyネットワーク内における情報の送受信において,その送受信の過程で第三者のパソコンを経由することがあったとしても,それは,単なる通路ともいうべき存在に過ぎないのであって,この点をもって,被告人のパソコンから他のパソコンへの情報の送信が,間接送信であるなどと評価することはできない。弁護人の主張は失当である。
 
また,弁護人は,インターネットを利用した通信において,複数の電気通信事業者が介在する点を指摘し,直接送信を行うことは不可能であるという趣旨の主張もしている。しかし,電気通信事業者は,通信の媒介を行うものとして通信に不可欠の役割を担うものであり,その存在をもってインターネットを利用した通信の総てが間接的なものであるなどとの解釈をとり得る余地がないことは,関連の法解釈及び社会常識等に照らし,余りにも当然というべきである。
D 弁護人の主張Hについて
 
弁護人は,Winnyネットワーク上においては,暗号化され,断片化された状態でデータの送受信が行われるから,被告人がアップロードしたファイルも,それが送信される過程で同一性を失ない,著作権法上の保護が及ばなくなる旨主張する。
 
しかし,送受信の過程で,データが暗号化され,断片化されることがあったとしても,送受信が完了した時点で,受信者の側において,当初アップロードされたファイルがそのままの状態で復元されるのであるから,当初アップロードされたファイルとダウンロードされたファイルとの間に何ら同一性を損なうものではない。弁護人の主張は失当である。
 
(略)
G 弁護人の主張Gについて
 
弁護人は,送信可能化権侵害罪は,中央のサーバーを介して情報が発信されることを予定した構成要件であるから,本件のようなP2Pの事案には適用されない旨主張している。
 
しかし,著作権法にいう「自動公衆送信装置」とは,サーバーやホストコンピュータに限られるものではなく,およそ公衆からの求めに応じて自動的にそこに入力されている映像,音響,文字等を送信するものをいうのであるから,たとえ個人が所有するパソコンであっても,そこに存在するソフトの動作等により上記のような機能を有しているのであれば,「自動公衆送信装置」に該当する。そして,Winnyは,そのネットワーク内でダウンロードが要求されれば,自動的に目的のファイルを送信する機能を有するプログラムソフトであるから,これをダウンロードして使用していた被告人のパソコンが「自動公衆送信装置」に該当することは明らかである。
 
弁護人の主張は,著作権法の構成要件を恣意的に解釈したものに過ぎず,失当である。
H 弁護人の主張Kについて
 
弁護人は,著作権法381項により,公表された映画の著作物が,営利を目的とせず,かつ,観衆から料金を受けない場合は,公に上映することが許容されていることに照らし,その勿論解釈として,非営利で映画の著作物を送信可能化することは,当然に許されるなどという。
 
しかし,著作権法38条は,同法が著作権の制限について定める特別規定の一つであるところ,同条が著作物の送信可能化について何ら触れるものでないことは,明文上明らかである。弁護人は,この点立法の過誤であるなどとも主張しているが,独自の見解を述べるものというほかなく,採用できない。
I 弁護人の主張Nについて
 
弁護人主張の消尽理論という考え方は,映画の著作物に関する頒布権を巡って論じられているものであり,本件に即していえば,被告人が,購入した映画の著作物であるDVD自体を他へ譲渡する場合に,その適用が議論されるものである。本件においては,映画の著作物である各DVD自体の譲渡を問題としているのではなく,そのDVDに収録されている情報を送信可能化した被告人の行為について,その責任が問われているのであるから,そもそも弁護人主張の消尽理論が妥当する場面ではない。弁護人の主張は失当である。
 
(略)
K 弁護人の主張Dについて
 
弁護人は,著作権法上「情報」「映画」「著作物」「直接」という各文言の定義が明らかでなく漠然不明確であるから,著作権侵害罪は,憲法21条,31条に違反するなどという。
 
たしかに,弁護人が主張するように,著作権法には「映画」「情報」「直接」という文言についての定義規定が存在しない。
 
しかし,およそ法令一般において,そこで使用されるあらゆる文言について逐一定義規定を要するものでないことはいうまでもない。そして,「映画」「直接」という文言が意味する内容が,一般常識に照らして明らかであることは,多言を要しない。
 
直接送信という用例にかかる「直接」という文言についても,その日常用語としての意味から何ら乖離するものではない。また,「著作物」という文言についても,著作権法2条において「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」という定義がなされていることに加えて,著作権法10条においてその詳細な例示がなされており,これらの条文等を併せ考えれば,「映画の著作物」という文言が漠然不明確であるとは到底いえない。更に,「情報」という文言についても,たしかに,弁護人が主張するように多義的な文言ではあるけれども,当該著作物の形状,性質,状態,種類及び送信する際に使用する機械の性質,種類等に照らせば,著作権法の条文で使用されている「情報」という文言が意味するところは,自ずから明らかとなるのであり,漠然不明確であるとはいえない。
 
また,弁護人は,著作権侵害罪は,処罰の対象となる行為が限定されておらず,漠然不明確かつ過度に広範であるなどとも主張している。
 
しかし,著作権法上,いかなる場合に著作権侵害行為として処罰されるかは,その個々の条文において明確に規定されている。たしかに,その個別具体的な侵害態様については,種々様々な場合があろうけれども,それらの侵害態様についてまで逐一明記しておかなければならないものでないことはいうまでもない。著作権侵害罪を定める著作権法の規定が,いかなる行為をその処罰の対象とするかについて,他の刑罰法令と同様に,通常の判断能力を有する一般人であれば理解し得る程度の明確性を備えていることは,明らかというべきである。
 
著作権侵害罪が憲法21条及び31条に違反して無効であるなどとする弁護人の主張は,明らかに失当である。
 
(略)
 
(法令の適用)
 
被告人の判示所為は各著作物ごとに著作権法1191号(管理人注:現1項),231項に該当するところ,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法541項前段,10条により1罪として犯情の重い邦題名「X」の著作物にかかる著作権侵害の罪の刑で処断することとし,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法251項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用については,刑事訴訟法1811項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
 
(略)
 
(量刑の理由)
 
本件は,ファイル共有ソフトであるWinnyを用いて2本の映画をアップロードし,アクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に各映画の情報を自動公衆送信できるようにし,各映画の著作権者が有する著作権を侵害したという事案である。
 
被告人は,Winnyを使用することで,廃盤になっていたDVDソフトを手に入れることができたことから,自己も同じように所持している映画等の情報をアップロードして,他の利用者に提供しようなどと考え,本件犯行に及んだというのであり,その動機は,まことに思慮を欠いた安易かつ身勝手なものである。被告人の供述によれば,約1年の間,本件を含め,常時15本から20本程度の映画の情報を次々とWinnyネットワーク上にアップロードしていたというのであるから,相当多数の者によりそれらの映画の情報がダウンロードされ,無料でその視聴の用に供されていたものと推察される。このような被告人の行為は,巨額の制作費,時間及び労力等を費やして映画を制作した著作権者の努力を無にするものであり,かかる著作権侵害行為が蔓延することとなれば,映画を制作しようとする者の意欲を削ぐこととなり,ひいては映画産業が衰退してしまいかねないのであるから,知的財産権の保護が国内外における社会的課題ともなっている中,本件は,まことに悪質な犯行というべきである。各著作権者らの処罰感情が厳しいのも当然である。











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