著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権(広義)の内在的制約
「高槻市建築確認申請書添付図面
非公開処分取消請求事件」平成141224日大阪高等裁判所(平成13(行コ)67 

【コメント】本件において、被控訴人及び参加人らは、「本件文書」に現された情報(「本件情報」)が、「本件条例612号本文」に定める情報に該当するとして、また、本件情報を公開することは、条例により法令上の権利を侵害することになると主張して、本件非公開決定は適法であると主張し、これに対して、控訴人は、本件情報が本件条例612号本文に該当する情報であることを争い、また、これが仮に本件条例612号本文に該当する情報であるとしても、「同号但書ア」に該当する情報であるから、本件非公開決定は違法であると主張しました。 

 [本件条例612号本文該当性]
 
当裁判所も,本件文書は,参加人日本たばこ産業及び参加人ジェイティ不動産らに関する情報であり,これを公開することによって,参加人日本たばこ産業の防犯上の正当な利益を害し,あるいは,参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位,あるいは著作権ないし著作者人格権によって保護された企業秘密という正当な利益を害するものと認める。…
 
(略)
 
控訴人は,本件文書を公開することにより,参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位ないし建築設計上の企業秘密が害されることを争っている。
 
控訴人は,上記の点に関する参加人らの主張が抽象的であるとしてこれを論難するが,本件文書に,大規模研究開発施設の設計に関わる創意工夫が記載されていることは,その文書の性格上明らかというべきであって,控訴人の主張はこれを採用することができない。確かに,本件文書については,これを企業秘密といいながら,その一部分は公刊物において既に公開されており,その秘密の保持についても十分な対策がとられていないのではないかという疑いも存在するが,本件文書の記載の内容,またこれが未だ公開されていない文書であることからすれば,本件文書の公開により,参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位ないし建築設計上の企業秘密が害されると認めるのが相当である。
 
控訴人は,本件文書が著作権法の保護を受ける著作物であることを争うので,この点について判断する。
 
控訴人は,建築設計図面の著作物性は,建築物の構造を二次元の図面に表現するための作図上の諸工夫に創作性が認められる場合に限られるとし,建築設計図たる本件文書の作図において,いかなる点が工夫され,創作的であるかについて何ら具体的な主張立証がされていないので,建築設計図たる本件文書の著作物性を認めることはできないと主張している。
 
しかし,建築家がその知識と技能を駆使して作成した建築物の設計図は,学術的な性質を有する図面として著作権法上保護される著作物であると解すべきところ(著作権法1016号),本件文書は参加人ジェイティ不動産らに属する一級建築士等の資格を有する数十名の従業員が,その知識と技術を用いて,昭和62年から平成3年までの歳月をかけて作成したものであり,当該建築物に求められる高度かつ多様な要求を図面上に反映させたものであると認められるから,本件文書を,学術的な性質を有する図面として著作権法上保護される著作物であると認めるべきことは明らかである。
 
控訴人の主張する「作図上の諸工夫」なるものについては,これが具体的にどのような諸工夫のことをいうのであるかは控訴人の主張自体からも明らかでないが,設計図の作図上の線や符号そのものについての工夫を問題にしているのであれば,そのような工夫は設計図の著作物性を基礎付けるものではないというべきである。
 
被控訴人及び参加人らは,本件文書について,参加人ジェイティ不動産らが著作権たる複製権,著作者人格権たる公表権を有すると主張するのに対し,控訴人はこれを争うので,この点について判断する。
 
著作権法181項前段は,著作者は,その著作物でまだ公表されていないものを,公衆に提供し,または提示する権利を有すると定めている。本件文書を著作物と認めるべきことは前記のとおりであり,その著作者を参加人ジェイティ不動産らと認めるべきことは,引用にかかる原判決が述べるとおりである。そうすると,著作権者たる参加人ジェイティ不動産らは,本件文書についてその公表を行うかどうかの決定権,即ち著作者人格権としての公表権を有すると認めるほかない(この点について控訴人は,本件文書の内容の多くが既に公刊物に登載されているとして,本件文書が未公表著作物であることを争っているが,控訴人の主張によっても,既に公表されているのは本件文書の全体ではなくて,その一部であり,しかもこれらは著作権者である参加人ジェイティ不動産らが編集の上これを公表したものであるに過ぎないから,その一部の公表によって,既に全体が公表されたのと同視するのも相当でなく,本件文書はなおこれを未公表著作物と認めるべきである)。
 
また,著作権法21条は,著作者はその著作物を複製する権利を専有すると定めており,本件文書の著作権者である参加人ジェイティ不動産らが,著作権の内容としての複製権を有することも明らかである。
 
[本件条例612号但書ア該当性]
 
本件条例612号但書ア(以下「本件但書」という)は,人の生命,身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報は,同号本文に該当する情報であっても公開しないことができる情報には当たらないとする趣旨の規定であるが,「人の生命,身体又は健康を害するおそれのある事業活動」とはいかなるものかについて次に判断する。
 
(略)
 
よって,本件文書は,本件条例612号但書アに該当する情報であると認められる。
 
[本件情報を公開することは,法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか]
 
被控訴人及び参加人らは,本件非公開決定が取り消され,本件文書が公開されると,参加人ジェイティ不動産らの著作権ないし著作者人格権,不正競争防止法や民法で保護されている参加人らの企業秘密を侵害することとなるが,このように条例の定めによって法律上保護された権利(参加人らのいわゆる国法上の権利)を侵害することは許されず,本件非公開決定はこれを取り消すべきものでないと主張している。よって,以下においては,被控訴人及び参加人らの上記主張を検討する。
 
(略)
 
本件において,被控訴人及び参加人らは,参加人ジェイティ不動産らが有する企業秘密保持権,あるいは著作権(複製権)ないし著作者人格権(公表権)は,本件条例61項の正当な利益であるのみならず,62項の法令の規定により公開することができない情報にも該当するものと主張している。
 
(略)
 
法人等が有する一般的な企業秘密保持権をもって情報の非開示の根拠とすることは,結局のところ,あらゆる法人情報についてその開示を認めないことと同列であると考えられることからしても不相当である。その故に,本件条例61項は,その非開示事由を,法人等の一般的な企業秘密保持権に求めることなく,公開することによって当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するという,具体的な基準をもって律しているものと解せられ,企業秘密保持権のような広範な概念によって本件条例62項を解釈することは,61項の規定を無意味なものにすることからしても,採用することができない。
 
以上を前提とすれば,本件条例62項に法令の規定により公開することができない情報とは,法令上明文の規定で公開が禁止されている情報,他目的使用が禁止されている情報及び個別法により具体的な守秘義務が定められている情報をいうと解するのが相当である。参加人らの主張にかかる企業秘密保持権については,仮に法人等がそのような権利を有するとしても,そのことの故に,当該情報が本件条例62項に該当するとはいえないのは,先に述べたとおりである。
 
これに対して,著作権(複製権)若しくは著作者人格権(公表権)については,法律が著作権者に当該著作物を複製若しくは公表する権利を認めているのであるから,著作権法による著作物であって,著作権若しくは著作者人格権の対象となっているものは,本件条例62項にいう法令の規定により公開することができない情報に該当するといえそうである。
 
しかし,行政機関の保有する情報の公開に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成11514日法律第43号)は,公表権と情報公開条例との間に調整規定を設けている。すなわち,同法による改正後の著作権法(以下「改正著作権法」という。)1842号(但し,平成13年法律第140号独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律附則6条により3号に繰り下げられた)は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律52号但書に規定する「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に相当する情報が記録されているものを情報公開条例の規定により公開する場合(本件条例612号但書アにより公開する場合がこれに該当する。)には,改正著作権法181項の規定を適用しない旨の規定を置いた。
 
人の生命,身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報については,著作権者の有する権利が国法上のものであるからといって,絶対的なものであり,条例に基づく情報公開請求権に常に優越するものであるとは解し難い。すなわち,このような情報の性質上,国法上の権利の優越性を貫くと,現に人の生命,身体又は健康を害するおそれの発生を防止できず,又はそのような状況を改善することができなくなる場合があるからである。したがって,著作権法の上記改正は,著作権者の有する権利の内在的制約を明文化したものであり,いわば確認規定であると見ることができる。仮にそうでないとしても,このような情報について著作権者の権利行使は濫用となる場合があり,そのような場合,本件条例62項は適用されないと解することができる。控訴人も,本件文書が著作権及び著作者人格権の保護を受ける著作物であるとすれば,なお利益衡量を行うべきであるとして,本件文書の非公開を違法と主張している。控訴人のこの主張は,参加人ジェイティ不動産らの著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用であって,本件条例62項の非公開事由に該当しないとの趣旨であると解されるので,以下においては,この点を中心に検討する。
 
(略)
 
以上によれば,参加人日本たばこ産業が,本件施設の存続に当たって当然の前提とされている諸種の特別の安全対策を遵守していないのではないかとの疑いが存在し,現に参加人日本たばこ産業が本件施設において行う事業活動に対して課せられている諸種の安全対策が,対策として不十分であることを窺わせる状況が存在する一方で,本件施設において発生したジクロロエタン排出事件の発生を受けて,参加人日本たばこ産業がとったと主張する安全対策の当否を検討する上で,本件文書の公開が極めて有用であることが期待される状況が存在すると認められる。そして,既に認定したその秘密保持の態様,一部既公開である事実からすれば,その公開によって参加人ジェイティ不動産らが被る不利益の程度は,公開によって得られる上記の利益に比べてはるかに小さいものと認めるのが相当である。そうすると,人の生命,身体又は健康に対する被害が発生する蓋然性が高く,かつ当該情報を公開することによってその被害を回避し得る可能性があるにもかかわらず,参加人ジェイティ不動産らの著作権,著作者人格権を根拠に本件文書の公開を拒むことは,著作権,著作者人格権の内在的制約により許されるものではなく,仮にそうでないとしても,権利の濫用に該当し,本件条例62項は適用されないというべきである。
 
以上によれば,本件において,本件文書の公開を命ずることが,条例で国法上の権利を侵害することとなって許されないとする被控訴人及び参加人らの主張は理由がない。











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