著作権重要判例要旨[トップに戻る]







著作権譲渡の黙示の合意の成立を否定した事例(8)
100円ショップDVD『SL世界の車窓』販売事件平成220421日東京地方裁判所(平成20()36380) 

【コメント】本件は、世界各地のSLのビデオ映像を撮影した原告が、原告に無断で当該ビデオ映像を編集して作成されたDVD「SL世界の車窓」を被告が販売等したとして、被告に対し、当該ビデオ映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)の侵害を理由とする損害賠償金の支払等を求めた事案です。

 
本件においては、次のような事実関係がありました。

被告は、いわゆる「百円均一ショップ」の最大手として、物品を廉価に販売している流通業者である。

補助参加人(以下、被告と併せて「被告ら」ということがある。)は、テレビ用映画フィルムの配給等を業とする株式会社である。Bは、補助参加人の前代表取締役であり、補助参加人のほか、映像制作を行うことを業とする会社である「オスカ企画を経営している。Cは、補助参加人の専属映像ディレクターである。

原告は、世界各地を取材し、平成14年ころから世界の鉄道動画をデジタルビデオテープ(「DVテープ」)に記録していた(テープ本数15本、撮影時間は約25時間。以下、当該鉄道動画を「本件映像」といい、本件映像が記録されたDVテープを「本件DVテープ」という。)。原告は、本件映像について、その撮影者として、著作権及び著作者人格権を取得した。

被告は、平成1910月ころから、「本件DVD」を税込み315円で販売した。本件DVDは、補助参加人が本件映像を利用して編集・作成したものである。 


 本件映像の著作権の譲渡又は本件映像の利用許諾等の有無について
(1) 事実経過について
 
被告らは,本件における事実経過等に照らして,原告は,本件映像の著作権を放棄し,若しくは補助参加人に譲渡することを黙示的に合意し,又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたなどと主張する。そこで,まず,本件における事実経過について,必要な範囲で検討するところ,…によれば,次の事実が認められる。
 補助参加人の前代表取締役であるBは,平成12年ころ,知人である原告の父親から,当時,カメラでSLの写真を撮影していた原告の身の振り方について相談を受け,カメラではなく,動画を撮ることを勧めてみてはどうかとの提案をするとともに,原告に興味があるのであれば,オスカ企画が保有する機材を貸与してもよい旨の話をした。
 
この話を聞いた原告は,オスカ企画の制作室を訪れ,Bと相談した結果,原告が海外に出かける際に,オスカ企画から機材を借りて鉄道の映像を撮影し,撮影したDVテープは,機材とともに,オスカ企画に渡すこととした。…
 
(略)
 
このようにして撮影された本件映像は,元々,原告の趣味の一環として撮影されたものであって,オスカ企画又は補助参加人において,本件映像を利用して放送番組等を制作することを予定して撮影されたものではなく,また,当初は,その予定もなかった
 
原告が平成163月から5月までの間に中国に出かけていたころ,オスカ企画において,原告が撮り貯めていた映像を利用して,放送番組を制作するという企画が持ち上がった。
 
原告は,中国から帰国した後,オスカ企画に機材を返却するに際し,返却日時の約束を一方的にキャンセルしたり,約束の訪問時間に遅れるなどした。このことに腹を立てたBが,平成16524日にオスカ企画を訪れた原告に対し,これらの行為を強く叱責するなどしたことから,以後,原告とBとが話をすることはなくなった。
 
そこで,Cは,平成16528日,原告が借りていた三脚を返却しにオスカ企画の制作室を訪れた際に,原告に対し,本件映像を利用して放送番組を制作する企画を考えていることを伝えるとともに,撮影された映像の国名や列車名,駅名等の情報を書いた説明書の作成を依頼したところ,原告から,映像のコピーが欲しいとの要望があったため,本件映像をDVテープからVHSテープにダビングして,同年626日に原告に送付した。
 
しかしながら,原告がなかなか本件映像の説明書を作成しなかったため,Cは,原告に対し,電話や手紙等で何度か催促をした。原告は,平成17年正月にCに送った年賀状においては,「ご連絡が遅くなりすみません。時間をみつけビデオ資料整理しますのでもう暫くお待ち下さい」と記載したものの,その後も説明書を作成しなかった
 
Cは,原告が本件映像の説明書を作成しなかったため,自分で資料等を調査して情報を収集し,映像のナレーション等を作成するとともに,映像を編集して,本件作品1及び2を制作した。…
 
この本件作品1及び2は,平成171229日から平成1912日にかけて,秋田放送,新潟放送等の地方テレビ局において放送された。
 
その後,補助参加人は,博美堂から,被告向けの商品として,本件作品1及び2DVDとして販売したい旨の要望を受けて,平成1991日付けで,博美堂との間で,本件作品1及び2の原版を提供して,これを商品として複製の上,販売することを合意する契約を締結した。
 
博美堂は,平成19921日,被告に対し,本件DVD9984枚納品し,被告は,同年10月ころから,その経営する100円ショップ「ダイソー」において,これを販売した。
 
(略)
 
もっとも,…によれば,Bにおいては,本件映像の著作権が補助参加人又はオスカ企画に帰属すると認識しており,Cにおいても,本件映像を利用するために原告の許可が必要であるとの意識がなかったことが認められ,このような両者の認識からすれば,Cが原告に本件映像を利用した放送番組を制作する企画を伝えた際に,当該企画を伝えるだけでなく,当該企画のために本件映像を利用することの許諾まで求めたとは認めることができない(なお,このことは,被告ら自身が,本件映像の著作権について,原告の明示的な譲渡の承諾又は利用の許諾を主張していないことからも,明らかである。)。
 
また,…によれば,Cが原告に対し本件映像を利用した放送番組制作の企画を検討していることを伝えた段階では,本件映像を使用して実際に放送番組を制作できるか否かは,まだ判断ができない状態であって,当該企画自体が明確に確定していたわけではなかったと認められ,このことからすれば,原告が,本件映像を利用した放送番組制作の企画があることを伝えられ,そのために必要となる本件映像の説明書の作成を了解していたとしても,そのことをもって,本件映像を利用して放送番組を制作することについてまで承諾していたと認めることはできない
 
そして,他に原告が本件映像を利用して放送番組又は本件作品1及び2並びに本件DVDを作成することを明示的に承諾したと認めるに足る証拠はないことからすれば,原告が,本件映像を利用して本件作品1及び2並びに本件DVDを作成することを,明示的に承諾していたと認めることはできない。
(2) 被告らの法的主張について
 (1)で認定した事実を前提として,被告らの法的主張について,検討する。
 
[著作権について]
 
被告らは,本件DVテープの所有権が補助参加人に帰属し,補助参加人の許可がなければ,これを利用できないことや,補助参加人が映像制作を業としていることからすれば,本件映像が映像作品に利用されることは当然の前提であり,仮に,そうでないとしても,予測可能であると主張する。
 
しかしながら,仮に,本件DVテープの所有権が補助参加人に帰属するとしても,本件DVテープの所有権の帰属とそれに記録された本件映像の著作権の帰属とは別の問題であり,また,本件DVテープの所有権を有することによって,補助参加人が本件DVテープに記録された本件映像を自由に利用できるものでもない(著作権法451項参照)。さらに,前記(1)で認定した,原告が,オスカ企画から機材一式を無償で貸与されるに至った経緯に照らして,オスカ企画が,原告に機材一式を無償で貸与したのは,原告の父親の紹介により,原告に動画の撮影技術を習得させることを目的としたものであると認められ,本件各証拠に照らしても,当初から,原告が撮影した映像をオスカ企画又は補助参加人の業務に利用することを予定していたとは認められないから,本件映像を映像作品に利用することが当然の前提であり,又は,原告において,そのことが当初から予測可能であったということはできない。
 
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
 
また,被告らは,原告が本件映像の内容を確認することなく,補助参加人が本件DVテープを保管することに同意し,その返還を求めることもなかったことから,原告には,本件映像の著作者として権利行使をする意思があったとはいえないと主張する。
 
しかしながら,原告が,本件映像の内容を確認することなく,補助参加人が本件DVテープを保管することに同意し,その返還を求めることもなかったからといって,そのことにより,原告が,本件映像についての著作者としての権利を放棄するなど本件映像の著作者としての権利行使をする意思がなかったものと認めることはできず,他に,原告が本件映像の著作者としての権利を放棄するなどその権利行使をする意思がなかったと認めるに足る証拠はない。
 
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
 
さらに,被告らは,原告が放送番組制作の企画に異議を述べず,説明書の作成を拒絶しなかったことや,本件作品1及び2が地方テレビ局で放送された後も異議を述べなかったことをもって,原告が,黙示的に,本件映像を利用することを承諾し,又は本件映像の著作権を譲渡することについて承諾していたと認めるべき事情であると主張する。
 
しかしながら,前記(1)のとおり,原告は,本件映像を利用した放送番組を制作する企画が検討されていることを伝えられ,それを認識した上で,そのために必要となる本件映像の説明書の作成を了承していたにすぎず,このことをもって,補助参加人が本件映像を自由に編集して放送番組を制作することや,まして,これをDVD化して販売することや撮影者として原告の名称を表示しないことまでを了承していたということはできない
 
したがって,原告が放送番組の制作の企画に異議を述べず,本件映像の説明書の作成を拒否しなかったことをもって,原告が本件映像の利用や本件映像の著作権の譲渡を承諾していたと推認することはできず,被告らの前記主張は,採用することができない。
 
また,本件作品1及び2の放送がされたのは,いずれも地方テレビ局であるから,東京在住の原告が,当該放送がされたことを認識することは困難であったと認められ,他に原告が当該放送がされたことを認識していたと認めるに足る証拠はない。
 
したがって,原告が当該放送がされた後も何らの異議を述べなかったことをもって,原告が,本件映像を利用することを承諾し,又は本件映像の著作権を譲渡することについて承諾していたという被告らの前記主張は,採用することができない
 
以上のことからすれば,原告は,本件映像の著作権を放棄し,若しくは補助参加人に譲渡することを黙示的に合意し,又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたとは認められない。











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