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映画投資組合が購入した映画が減価償却資産に当たらないとされた事例(2)
「映画投資組合法人税更正処分取消請求事件(
ジェネシス事件A)」平成170208日東京高等裁判所(平成15(行コ)153 

【コメント】本件は、映画投資事業組合の組合員である法人が、同組合が銀行から融資を受けて、その融資金を使って映画に係る一切の権利を取得したとして、同映画についての減価償却費及び当該融資に係る未払利息を損金計上して法人税の確定申告をしたのに対し、税務署長が当該減価償却費等の損金計上は認められないとしてした法人税の更正が適法とされた事例です。 

1 事実関係について
(1) 本件各契約等の内容について
 
本件各契約における本件各契約書等の記載内容が,原判決の…とおりであることは,当事者間に争いがない。その記載内容の概要は,次のとおりである。
◆本件組合契約(本件組合契約書及び付属書類である本件組合規約書の記載)
 
控訴人ら契約当事者は,本件組合を結成しこれに参加する。本件組合は,日本国民法の規定に基づく民法上の組合とする。各当事者は,本件組合契約書末尾に記載される金額(8口分合計109578円,控訴人については,0.5口分68486250円)を,平成31129日午後1時までに,ABNアムロ銀行(東京支店)の本件組合名義の当座預金口座あてに送金することによって払い込むものとする。
 
本件組合の目的は,@本件映画の所有権並びにすべての権利,権原及び権益を購入し,A本件映画を世界中で,すべての媒体を通じて商業的に利用することとする。このため,本件組合は,本件映画を購入する契約,本件映画についての全世界における唯一かつ排他的配給者を任命する契約,配給者に本件映画についての購入選択権を付与する契約及びその他の関連諸契約をそれぞれ締結するものとする。
 
上記事業を遂行するため,本件組合は,ABNアムロ銀行と融資契約を締結し,約2062.5米ドル(以下,単に「ドル」という。)相当円貨額の融資を受けるものとし,本件映画購入のため,2772.5万ドル相当円貨額の支払をなす。
 
各組合員は,アメリカ合衆国デラウェア州法人で日本国内に恒久的施設を有しないMLFEとの間で「Meteor Film Enterprises Management Agreement」(以下「本件管理契約」という。)を締結することに同意する。本件管理契約に従い,MLFEは,本件組合の唯一の業務執行者となり,各組合員は,本件組合の存続中は,本件管理契約による業務執行者の任命の取消しをしないことに同意する。
 
(略)
◆本件融資契約(貸主:ABNアムロ銀行,借主:本件組合)
 
約定金額は,2690531250円(本件金員)であり,本件借入金は,貸主が本件融資契約に基づき融資する約定金額に,その後発生するあらゆる利息と,本件融資契約に従って組み入れられる全利息を加えたものである。
 
利息は年率6.07%で月複利とし,延滞利息は上記利率に年率2%を加えた利率とする。
 
借主(本件組合)は,本件借入金が,ジェネシスから本件映画を購入するためにのみ使用され,他の目的のためには使用されないことに同意する。
 
借主は,返済日(原則として,借入日から7年目に当たる日を意味する。)に,1回払いで,貸主に本件借入金残高を返済しなければならない。
 
(略)
 
借主は,ABNアムロ銀行に2つの預金口座(以下「本件各口座」という。)を設定し,MFDC及び保証人(並びにその承継人等)に対し,本件配給契約書,本件オプション契約書,「SECURITY AGREEMENT」と題する担保契約書及び本件保証契約書に関するあらゆる支払を,それぞれ本件各口座にのみ行うよう指示しなければならない。
 
(略)
 
本件融資契約には,その付属書における債権譲渡契約及び口座質権設定契約が含まれている。
 
MLFEとABNアムロ銀行が署名して作成された,本件組合とABNアムロ銀行を契約当事者とする「ASSIGNMENT AGREEMENT」と題する書面(以下「本件債権譲渡契約書」という。)には,本件組合は,本件配給契約書及び本件オプション契約書に基づき,MFDCから受領するすべての権利及びその全金額,本件保証契約書に基づいてHBU銀行がした保証に関するすべての権利並びにこれらに代替するものを本件融資契約に係る債務の担保として,ABNアムロ銀行に譲渡する旨の条項の記載がある。また,本件債権譲渡契約書には,担保とされているMFDC又は本件保証銀行からの支払金額の支払方法について,本件組合名義の本件各口座に直接支払われるものとする旨の記載がある。
 
MLFEとABNアムロ銀行が署名して作成された,本件組合とABNアムロ銀行を契約当事者とする「ACCOUNT PLEDGE AGREEMENT」と題する口座質権設定契約書には,ABNアムロ銀行が,本件各口座に質権を設定する旨の記載がある。
◆本件売買契約(売主:ジェネシス,買主:本件組合)
 
本件映画の価額は,3616726250円である。
 
ジェネシスは,本件映画の世界中における著作権,オリジナル・ネガティブ及び本件映画が化体されている他の有体物に関する権利,権原及び所有権益のすべてを本件組合に売却,譲渡,移転,許諾等するものとし,本件組合は,それらのすべてを購入し,また,取得するものとする。…
 
(略)
◆本件配給契約(ライセンサー:本件組合,配給者:MFDC)
 
「当初契約期間」とは本件配給契約開始の日から7年間をいい,「延長期間」とは本件組合が期間の「延長オプション」(Extension Option)を行使した場合のその後の7年間をいい,両者を併せて「期間」という。
 
(略)
 ライセンサーは,配給者に対し,本件配給契約の期間中,次の権利を単独かつ排他的に与える。
 
@ 配給者の裁量により,題名の選択,変更をすること及び配給者の指定した題名で全世界で本件映画を封切ること。
 
A 配給者の裁量により,本件映画,本件映画のオリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし,編集し,追加し又は変更すること,及び外国版を作成(字幕付け,吹替え等を含む。)すること。
 
B 配給者の選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント,ビデオテープ,ディスクその他を作成させること等(上記ポジティブ・プリント等は,配給者の指示によってのみ上記ラボラトリーから移動又は引渡しすることができ,配給者の同意なしには,本件組合その他のいかなる者にも引き渡されない。)。
 
C 配給者の裁量により,本件映画の広告,宣伝,普及等を行うこと(なお,ライセンサーは,配給者の事前同意なしに,本件映画に関する広告等をすることはできない。)。
 
D 配給者は,本件配給契約の期間を通じ,その供与の時点における慣習に従い,上記の期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ,上記第三者の権利は,本件配給契約の期間終了によって影響されないこと。
 
(略)
 
配給者は,ライセンサーに対し,以下の金員を支払う。
 
(略)
 
純支払保証額(Net Guarantee Payment)
 
純支払保証額とは,最低支払保証額(Net Minimum Guarantee Amount。付表Uに記載の金額3748921624円である。)に本契約締結日の7年目の応答日から支払日までに係る適用利率(年6.07%月複利計算)により計算される利息を加えた金額が,当初の全契約期間における次の金額の合計額を超える部分の金額をいう。
 
(略)
 
配給者は,いわゆる「メジャー」(大手映画配給会社)に本契約を譲渡すること,又は,その裁量により選択するサブ配給会社(sub distributors)に対し本契約上の配給者の権利の使用を許諾することができる。ただし,ライセンサー及び配給者は,本契約に明示されている場合を除き,他方の当事者の事前の書面による同意なしには,本契約上の権利を譲渡することはできない。
 
(略)
 
本契約又は関連契約の失効又は終了は,本契約によって配給者に与えられた又は与えることが合意された本件映画に関する権利,権原等に影響を与えない。ライセンサーの配給者に対する保証等は,本契約の失効又は終了にかかわらず有効に存続するものとする。
 
配給者が本契約に違反したときのライセンサーの権利及び救済は,損失の回復に限られ,ライセンサーは,本契約を終了させる権利,本件映画の配給者の権利等を取り消す権利,又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄する。
 
また,配給者の本件映画に関する権利は,配給者が本契約に基づくライセンサーへの支払をしなくても,終了,解除されることはなく,上記不履行があった場合の,ライセンサーの唯一の救済は,金銭上の損失の回復を求めるための法律上の措置である。
◆本件オプション契約
 
本件組合等は,MFDCに対し,本件組合等の本件映画に関するすべての権利,権原及び権益を購入し取得する,無条件で,取消不能な,かつ独占的な権利及び購入選択権(クラスAオプション)を与える。
 
(略)
 
本件組合の各組合員は,MFDCに対し,組合員の本件組合に対するすべての権利,権原及び権益を無条件で,取消不能でかつ独占的な権利及び購入選択権(クラスBオプション)を与える。
 
(略)
◆本件保証契約(保証人:HBU銀行,相手方:本件組合)
 
保証人(HBU銀行)は,ライセンサー(本件組合)に対し,配給者(MFDC)のネット支払額,純支払保証額並びに固定費用支払額に相当する額の支払を保証し,配給者が前記の各支払をしなかった場合には,原価,費用あるいは保証人又は配給者によって支払われ,源泉される税金の合計額の支払をHBU銀行が要求されることがないという条件の下で支払う。
 
ただし,上記金額の現在価値が最低支払保証額の現在価値を,いずれも年率6.07%月複利の割引率で計算したところで,超えない範囲とする。
 
本件保証契約に基づく支払は,円貨により,ABNアムロ銀行の本件組合名義の本件各口座に払い込まれる。
◆担保契約
 
MLFEとMFDCが署名して作成された,本件配給契約書及び本件オプション契約書に記載された本件組合等の義務の完全な履行を担保することに係る書面には,「SECURITY AGREEMENT Option--MFE to MFDC」と題する書面(以下「本件オプション担保契約書」という。)及び「SECURITY AGREEMENT Distribution--MFE to MFDC」と題する書面(以下「本件配給担保契約書」といい,本件オプション担保契約書と併せて「本件担保契約書」という。)が含まれ,次の事項が記載されている。
 
@ 本件配給契約書及び本件オプション契約書に記載する権利につき,MFDCに,担保を設定し,あるいは譲渡,移転等をすること。
 
A 担保物件は,本件映画から派生する著作物,本件映画のオリジナル・ネガティブ及びその他の化体物件に対する本件組合のすべての権利,権原及び権益であり,各組合員にあってはその組合員としての権益とすること。
 
(略)
◆著作権譲渡担保契約
 
MLFEとMFDCが署名して作成された,本件組合の組合員とされる者のMFDCに対する著作権譲渡担保権付与に係る「Agreement of Assignment of Copyright by way of Security」と題する書面(以下「本件著作権譲渡担保契約書」という。)には,各組合員は,本日,MFDCに対する本件オプション契約に基づく一切の債務の履行等を担保するため,本件映画の著作権を譲渡したことなどが記載されている。
(2) サブ配給契約について
 
本件映画が平成4710日に著作物として最初に公表された際に著作権登録原簿に表示された著作者名は「The Twentieth Century Fox(20世紀フォックス。以下「フォックス」という。)であり,本件映画を実際に全世界に配給したのはフォックスであった。
 
そして,原判決…に説示するとおり,本件取引においては,平成31129日に,上記(1)の本件各契約等のほか,MFDCとフォックスとの間で,サブ配給契約が締結されたものと推認される。そのサブ配給契約の内容は,オリックス映画投資事業第三組合(以下「第三組合」という。)が行った本件取引と類似した取引における「TCFC FILM DISTRIBUTION COMPANY B.V.(本件におけるMFDCと同様の立場にある者。以下「TFDC」という。)とフォックスとの間で平成2629日付けで締結された別件映画についての「SAB DISTRIBUTION AGREEMENT」(TFDCをライセンサーとし,フォックスをサブ配給者とするもの。以下「別件サブ配給契約」という。)と類似するものと推認される(本件のサブ配給契約を以下「本件サブ配給契約」という。)。
 
(略)
(3) 信託契約について
 
また,原判決…に判示するとおり,本件取引と類似する取引における契約内容等からすれば,本件取引においては,前記(1)の本件各契約等のほか,MFDCとABNアムロ銀行との間において,@MFDCは,フォックスが本件サブ配給契約に基づいて平成31129日にMFDCに対して支払ったものと推認される保証支払金額(以下「本件保証支払金額」という。)を信託基金としてABNアムロ銀行に信託し,AABNアムロ銀行は,受託者として,受益者たるHBU銀行に対し,HBU銀行が行った本件保証契約に基づく支払について,MFDCに代わって信託基金から返済する旨の信託契約(以下「本件信託契約」という。)に係る契約書(以下「本件信託契約書」という。)が同日付けで作成されていたものと推認される。
 
そして,上記信託基金となる本件保証支払金額は,少なくとも,本件金員(本件融資契約に基づく融資金2690531250円)を平成311月当時の為替レート等によってドル換算した金額であったものと推認される。
(4) 本件取引について
 
上記認定のとおり,本件取引に当たっては,平成31129日付けで,本件各契約書のほか,本件債権譲渡契約書,本件オプション担保契約書,本件配給担保契約書,本件著作権譲渡担保契約書,本件サブ配給契約書,本件信託契約書が作成されていることが認められ,本件映画に関連するこれらの各契約書は,相互に他の契約の存在を前提としているものであり,これらの各契約書は,一連の取引を構成するものとして,相互に密接に関連し合い,不可分のものとして作成されていたものと認められる。
(5) 本件映画の著作権について
 
3(著作権登録原簿謄本)によれば,本件映画については,平成4710日に著作者をフォックスとして登録され,その著作権は平成5110日にジェネシスから控訴人ら本件組合の組合員に譲渡された旨の登録がされたが,同日控訴人らから更にMFDCに譲渡された旨の登録がされていることが認められる。
2 本件取引の概要について
 
上記1の認定事実によれば,本件映画の売買に関して,平成31129日の同一日付で締結されたとされる各契約は,概要,次の各契約からなるとされている。
 @ 本件組合がABNアムロ銀行から2690531250円の本件金員(20625000ドル相当円貨額)の融資を受ける本件融資契約
 
A 本件出資金のうちの926195000円を本件金員に加えた3616726250円(27725000ドル相当円貨額)を代金額として,ジェネシスが本件組合に本件映画に係る一切の権利を販売するという本件売買契約
 
B 本件組合がMFDCに対し本件映画の配給権等を付与する旨の本件配給契約,及び本件組合がMFDCに対し本件映画のオプション権(購入選択権)を付与する旨の本件オプション契約
 
C MFDCがフォックスに対し,本件映画の再配給権等を付与するとともに,フォックスが本件金員と同額と推認される本件保証支払金額をMFDCに対して支払う旨の本件サブ配給契約
 
D MFDCが,少なくとも本件金員と同額と推認される本件保証支払金額を,信託基金として,ABNアムロ銀行に信託する旨の本件信託契約
 
そして,これらの契約書に関連して,本件保証契約書,本件担保契約書,本件著作権譲渡担保契約書,本件債権譲渡契約書,口座質権設定契約書等が作成されている。
 
なお,…によれば,本件組合は,本件取引に係る手数料として,本件取引をアレンジした「Merrill Lynch International Limited」(以下「メリルリンチ」という。)に対し本件出資金の10%に相当するアレンジメントフィーを,ABNアムロ銀行に対しコミットメントフィーを,業務執行者であるMLFEに対し管理費用をそれぞれ支払うものとされていることが認められる。
3 本件金員の流れについて
(1) まず,本件融資時における金員の流れについてみると,上記12でみた本件取引の概要からすれば,本件組合がABNアムロ銀行から融資を受けたとされる本件金員は,本件映画を購入するためにのみ使用されることとされており,融資がされたのと同一の日に本件映画の売買代金としてこれに本件出資金の一部を加えた金額がジェネシスに支払われるものとされている。また,一方で,同日に本件金員にほぼ相当する金額が本件サブ配給契約に基づく本件保証支払金額として,フォックスからMFDCに支払われ,これが本件信託契約に基づく信託基金として,ABNアムロ銀行に流れていることになる。
 
そうすると,フォックスとジェネシスの間の金員の流れは後に検討するとして,結局,本件金員の流れとしては,ABNアムロ銀行から同銀行における本件組合名義の口座に融資金として入金される形になるが,同時に,信託基金としてほぼ同額がABNアムロ銀行に信託され,その信託基金は,受益者であるHBU銀行による本件保証契約を介して,本件融資契約に基づく返済にのみ使用されることとされており,実質的にみれば,融資に係る本件金員は,同一日付でABNアムロ銀行に環流しているものとみられる。
(2) また,本件融資の返済時点における金員の流れについてみると,本件組合は,本件融資契約に基づき,原則として,元金である本件金員に利率年6.07%月複利による利息を加えた金額である4110594249円を7年後に一括返済することになるが,この返済額は,本件配給契約及び本件オプション契約に基づき,MFDCが本件組合に支払うこととされている純支払保証額(最低支払保証額)3748921624円に延長オプションが行使された場合の延長前払額(390531250円)又は固定費用支払額(261487.02ドル)によってカバーされており,また,MFDCから本件組合に対する上記の支払については,本件保証契約に基づき,HBU銀行が純支払保証額,ネット支払額及び固定費用支払額の支払を保証しているところである(なお,その支払については,上記信託基金が利用されることとされている。)。
 
そうすると,本件金員の返済時点においても,本件組合は,実質的にその返済リスクを負っていなかったものとみられる。
(3) なお,フォックスとジェネシスとの間の具体的な契約関係自体は,必ずしも明らかではないが,後記のとおり,本件映画の権利の流れからみても,本件映画の製作者とみられるフォックスから本件映画の販売会社であるジェネシスに何らかの権利の譲渡等の関係があったことがうかがわれるのであって,このことからすれば,フォックスが支払うこととされている本件保証支払金額に関しては,本件金員がジェネシスからフォックスに流れていることがうかがわれるところである。
4 本件映画に係る権利の流れについて
(1) 前記12の本件取引の概要からすれば,平成31129日の同一日付で,本件映画に係る一切の権利がジェネシスから本件組合に販売されたこととされ,本件配給契約及び本件オプション契約により本件組合からMFDCに,さらには,本件サブ配給契約によりフォックスにその権利の多くの部分が移転していることになる。
 そして,前記認定の本件配給契約書によれば,MFDCは,@その裁量により,題名の選択,変更をすること及び配給者の指定した題名で全世界で本件映画を封切ることができ,Aその裁量により,本件映画,本件映画のオリジナル・ネガティブその他の本件映画が化体されている有体物をカットし,編集し,追加し又は変更すること,及び外国版を作成する(字幕付けや吹替え等を含む。)ことができ,Bその選択するラボラトリー等に本件映画に関するポジティブ・プリント,ビデオテープ,ディスクその他を作成させることができ,上記ポジティブ・プリント等は,MFDCの指示によってのみ上記ラボラトリーから移動又は引渡しすることができ,MFDCの同意なしには,本件組合その他のいかなる者にも引き渡されず,Cその裁量により,本件映画の広告,宣伝,普及等を行うことができ,本件組合は,事前の同意なしに本件映画に関する広告等をすることはできず,D本件配給契約の期間を通じ,その供与の時点における慣習に従い,上記期間を超える期間にわたる本件映画の公開の権利を第三者に与えることができ,上記第三者の権利は,本件配給契約の期間終了によって影響されず,E完成し公開準備のできた本件映画は,直ちにMFDCに交付され,製作進行中の場合は,本件映画の化体された有体物をすべて現状のまま引き渡され,その裁量により,この有体物をカットし,編集し,追加し,削除する等の権限を有し,F自らの名義あるいは著作権者の名義で,本件映画の不正な複製,公開若しくは本件映画の著作権の侵害を防止し,又は,ライセンサー又は配給者の権利の侵害等を防止するため,必要又は適当と認める手段をとることができ(本件組合は,配給者に対し,上記手段をとるために必要な,撤回不能の代理権を与えることとなる。),G本件映画に関するプリント及びその他のフィルムを破棄でき,Hいわゆる「メジャー」(大手映画配給会社)に本件サブ配給契約に係る権利を譲渡し,又は,その裁量により選択するサブ配給者に対し,配給者の権利の使用を許諾することができ,I本件組合及び本件組合員から,包括許諾書を交付されているのである。
 
これによれば,本件組合は,本件映画の使用収益に関して実質的には何らの関与もできないというべきである。これに対し,MFDCは,本件映画につき,その裁量により,自由に使用収益をすることができ,また,その使用収益権をさらに第三者に譲渡することも可能なのであり,MFDCが取得することとなる権利は,本件映画に係る権利者(本件映画の著作権者あるいは本件映画が化体されている一切の有体物の所有権者)として有してしかるべき,本質的,かつ,重要な権利というべきである。
 
確かに,所有者がその所有に係る物件につき,その使用収益権をリースという形で第三者に利用させることはあり得ることである。しかし,本件配給契約及び本件オプション契約によれば,@MFDCが本契約に違反したときの本件組合の権利及び救済は,損失の回復に限られ,本件組合は,本件配給契約を終了させる権利,本件映画の配給者の権利等を取り消す権利,又は本件映画の公開等を規制し若しくは制限することを含むすべての権利又は救済を放棄するものとされ,MFDCの本件映画に関する権利は,MFDCが本件配給契約に基づく本件組合への支払をしなくても,終了,解除されることはなく,その不履行があった場合の,本件組合の唯一の救済は,金銭上の損失の回復のみであるとされていること,AMFDCは,本件組合の本件映画に関するすべての権利,権原及び権益を本件組合から買い取る権利であるクラスAオプション,及び,本件組合の各組合員が本件組合に対して有するすべての権利,権原及び権益を本件各組合員から買い取る権利であるクラスBオプションを付与されていることが認められる。これによれば,本件組合は,本件映画フィルムの所有者として,本件映画の使用収益権を取り戻すなどの権限すらほぼ認められていないのであり,本件組合には,本件映画に係る一切の権利者としての実質的な権利は残されていないものとみざるを得ない
 
しかも,前記認定のとおり,本件組合は,さらに,MFDCとの間において,本件担保契約書,本件著作権譲渡担保契約書も作成しており,これらによってMFDCの上記各権利等を担保している。また,前記のとおり,著作権登録原簿上も,ジェネシスから本件組合の各組合員に対する本件著作権譲渡の登録と同時に本件組合の各組合員からMFDCに対する譲渡担保設定契約による著作権の譲渡登録が行われており,対外的にみても,本件組合ないし組合員の権利者としての地位は実質的には残されていないというべきである。
(2) 以上のとおり,本件組合は,本件映画の一切の権利を取得したとされる平成31129日の同一日付で,直ちに,本件映画に係る権利者として有していてしかるべき本質的かつ重要な権利をすべてにわたってMFDCに与えるものとされ,さらに,MFDCは,同日に,本件サブ配給契約書によって,MFDCが本件組合から与えられた権利のほとんどをフォックスに与えるものとされていることが認められる。
 
そうすると,本件各契約及び本件サブ配給契約上,本件映画に係る一切の権利は,本件映画の著作権及び本件映画の化体された映画フィルム等の有体物の所有権を含めて,そのほとんどが,平成31129日の同一日付で,ジェネシスから本件組合,本件組合からMFDC,MFDCからフォックスへと流れる構造となっているものと認められる。
(3) なお,本件映画に関するフォックスとジェネシスとの間の具体的な契約関係自体は,必ずしも明らかではないが,…によれば,@フォックスは米国における大手の映画製作・配給会社であり,本件映画を全世界に配給していること,Aジェネシスは,本件取引はもとより,別件売買契約を始めメリルリンチ等がアレンジした多数の類似した取引において映画の販売会社として関与しているが,その活動の実態は必ずしも明らかではなく,信用格付けもされていない会社であることが認められる。こうした事実からすれば,ジェネシスが自主的に多数の映画の製作ないし買取りをしているものとは考え難く,フォックスとジェネシスとの間で,フォックスの製作ないし買取りに係る本件映画の権利を何らかの形でジェネシスに移転する旨の契約関係があったことがうかがわれるところである。
5 本件取引の実態について
(1) まず,本件融資契約について考察する。
 
以上に説示したところによれば,本件金員は,平成31129日の同一日付で,ABNアムロ銀行から本件組合へ,本件組合からジェネシスへと流れる一方で,フォックスからMFDC,MFDCからABNアムロ銀行へと環流する構造となっており,ABNアムロ銀行は,何らの金融リスクも負っていないものと認められる。
 
また,本件金員及び利息の返済時においても,信託基金が,本件借入金の返済原資となるように仕組まれているから,結局,本件組合も,実質的にはその返済リスクを負っていないものと認められる。
 
さらに,本件各契約書に係る取引は一連の取引を構成するものとして,相互に関連し合い,密接不可分のものであって,本件融資契約書上,融資される本件金員は,本件売買契約に基づく本件映画の購入代金にのみ使用されるものと明記されているところである。そして,本件売買契約が後記のとおりその実体を欠いたものであることをも勘案すれば,本件融資契約もその実体を欠いたものであって,本件融資契約は,本件映画に係る権利をすべて取得するという形式を整えることにより,本件出資金のみならず本件金員に係る部分も減価償却費とすることを可能にするとともに,本件融資契約に基づく利息の計上によって本件組合に租税回避による利益を与えることを目的として,本件映画の売買代金の約75%の融資があったとの形式を作出したものにすぎず,本件各契約の各当事者において,真実ABNアムロ銀行から本件組合に本件金員を融資する意思も客観的事実も有していなかったものと推認される。
 
したがって,本件融資契約は,成立していないか,少なくとも無効なものであったと認められる。
(2) 次に,本件売買契約について考察する。
 
本件組合は,本件売買契約書上,本件映画に係る一切の権利を取得したものとされているが,前記説示のとおり,本件取引の全体構造に照らしてみると,本件組合が取得したとされる本件映画に係る一切の権利のほとんどは,本件映画の著作権,本件映画が化体されている映画フィルムの所有権を含めて,本件売買契約締結後,直ちにMFDCを経由してフォックスに移転しているのであって,本件組合が取得した本件映画に係る権利は形式的,外形的なものにとどまり,実質的には,本件組合は本件映画に係る権利を何ら取得していなかったものと認められる。
 
そして,控訴人ら組合員の意思等についてみるに,…によれば,本件組合の各組合員は,本件取引をアレンジしたメリルリンチによって作成された説明書(以下「本件説明書」という。)に基づく説明を受けて,本件取引に参加したものと推認されるところ,本件説明書においては,本件取引は,我が国の投資家が組合を結成し,各組合員の出資金と銀行からの借入金に係る金員で映画を購入し,配給会社と映画の配給契約を締結し,配給会社がサブ配給会社を使って全世界に映画を配給するとされているが,投資家が投資によって得る利益については,映画興行の相対的成功度とともに,投資収益を構成する2番目の要素として,映画投資に関する我が国の税法に起因すると説明され,現行の我が国の税法では,減価償却に関する映画の法定耐用年数は2年になっているなど税効果についての説明がされており,また,その説明の対象は,映画の配給や映画に関する権利の売買等を業とする法人等に限られていない。さらに,上記のとおり,本件組合は,本件融資契約に基づく借入金の返済リスクをほとんど負っておらず,本件売買契約上の売買代金の約75%を実質的には全く負担していないものである。これらの事実からすれば,本件組合の各組合員は,本件映画フィルムの所有権を含む一切の権利を取得するという法形式をとることによる減価償却の税効果を重要な要素として,本件取引に参加したものと推認される。そして,本件組合の各組合員は,本件映画フィルムの所有権が課税当局によって認められることによって租税回避の効果を得ようとする意思を有しているものの,本件映画に係る一切の権利を真実取得しようとする意思も能力も有していなかったものと認められる。
 
また,本件各契約書の内容に照らせば,MFDC,フォックス,ジェネシスのいずれの当事者も,本件映画に係る一切の権利を本件組合及び本件組合の各組合員に真実取得させる意思を有していなかったものと明らかに推認することができる。
 
これらを総合的に判断すれば,本件映画に係る一切の権利(著作権,所有権等)は,本件取引によって,ジェネシスから直ちにフォックスに移転したものと認められ,本件組合,ジェネシス,MFDC,フォックスのいずれの当事者の意思においても,本件組合に本件映画に係る一切の権利を実質的に取得させる意思も,客観的事実も認められず,本件売買契約書は,専ら租税回避を目的として,本件組合及び本件組合の各組合員に本件映画に係る一切の権利が移転したとの形式,外観を作出するために作成されたものであったと認められる。
 
したがって,本件売買契約も,成立していないか,少なくとも無効なものであったと認められる。
(3) なお,本件組合は,上記認定のとおり,本件出資金である109578万円のうち,926195000円を本件映画の売買代金(約25%に相当する。)として出えんし(以下「本件出えん」という。),また,メリルリンチに対するアレンジメントフィーのほか,ABNアムロ銀行に対するコミットメントフィー,業務執行者であるMLFEに対する管理費用を支払うものとされていることが認められる。したがって,本件組合にとって,本件取引全体がすべて何らの実体もないものであったということはできない。
 
しかしながら,本件組合が本件出えんをしたことをもって,その出えん額の限度で,本件映画の権利者として権利の一部(約25%)を取得したもの(本件映画に係る一切の権利について,実質的な出えん額に応じた共有持分権を取得したもの)とみることもできないというべきである。すなわち,本件組合が,実質的には本件映画に係る権利を何ら取得しておらず,本件組合が取得したとされる本件映画に係る権利は形式的,外形的なものにとどまるものであることは前記のとおりであって,本件取引の全体構造からみても,本件映画を本来の権利者と本件組合とが共有する状態を想定しているとは考え難いし,本件組合に本件出えんに応じた本件映画の権利者としての権利が残されているものとはいい難い。また,本件説明書においてなされている本件取引の収支計算は,本件組合が本件映画に係る権利(著作権,所有権等)の約25%のみを取得し,この限度でしか減価償却が認められないとすれば,成り立たないものであり,本件組合の組合員が,少なくとも,本件出えんの限度で本件映画に係る権利の一部を取得する意思があったものとみることはできない。
 
むしろ,本件取引の全体構造を検討すると,本件組合は,本件出えんを行うことによって,MFDCひいてはフォックスから,本件映画の興行収入によって生じるグロス支払額等の一定の金銭的利益を得る地位を得ており,他方,本件映画の製作者においても,本件映画製作,配給,広告,宣伝等,本件映画の興行に要する費用のうちの一定額を本件組合に負担させることによって,その興行リスクを軽減する利点があったものというべきであり,本件出えんは,実質的には,本件組合が上記のような金銭的利益を得るために,本件映画に係る権利の移転を伴うことなくされた,映画製作者に対する一種の投資とみるべきものである。そして,…によれば,米国映画業界においては,こうした映画投資による利益分配を期待することが極めて困難となっているところであり,本件融資契約及び本件売買契約は,これを取引に組み込んで,投資者に支払利息の損金計上や減価償却による租税上の利益を得る可能性を付与することにより,このような状況下で映画投資を促そうとしたものであると推認することができる。
 
本件取引は,このような映画投資の実質を有するものとして意味があると認められるところであるが,これによって,租税回避を目的として組み込まれ,実質的な融資や実質的な権利移転といった実体のない本件融資契約及び本件売買契約が,その実体を有することになるものではない。
(4) 以上のとおりであるから,本件融資契約及び本件売買契約は,租税上の利益を得ることを目的として本件取引に組み込まれた,融資契約あるいは売買契約としての実体を有しない仮装の契約であって,不成立又は無効なものと認められる
6 控訴人の当審における主張について
(1) 控訴人は,映画についてはネガフィルムの所有権とは別に著作権等の知的財産権があり,本件売買契約は,その知的財産権をMFDCに与えることが大前提となっており,航空機リースなどと同様である旨を主張する。
 
しかしながら,前記のとおり,本件取引においては,本件組合が本件映画の知的財産権をMFDCひいてはフォックスに移転したにとどまらず,本件組合には,本件映画に係る一切の権利者としての実質的な権利は残されていないものとみざるを得ないのであり(前記4(1)でみたとおり,本件組合は本件映画フィルムの所有者として本件映画の収益権を取り戻す等の権限もほぼ失っていると認められる。),本件組合が本件売買契約によって本件映画に係る権利を取得したものと認めることはできない。控訴人のこの点に関する主張は,採用することができない。
 
なお,本件融資契約ないし本件売買契約の効力についての前記判断が,控訴人の主観的事情のみを根拠としてされたものでないことは,前記説示から明らかである。
(2) 控訴人は,本件組合が本件金員の融資につき,その返済リスクを負わないのは,本件金員の借入れが,いわゆるノン・リコース融資であるからであって,この点をもって,本件融資契約を否認することはできない旨を主張する。
 
しかしながら,本件融資契約が不成立又は無効であるのは,本件組合が,実質的に本件金員の返済リスクを負わないことのみを理由とするものではなく,前記のとおり,本件取引全体の構造からみて,本件融資契約がその実体を欠くものであることを理由としているのであるから,控訴人のこの点に関する主張は,採用することができない。
 
なお,本件金員がジェネシスからフォックスに流れていることがうかがわれることは前記のとおりであるところ,仮に,そうであるとすれば,本件金員は,本件取引において,実質的に循環しているにすぎないことになり,融資の実体を欠くものであることは,一層明らかというべきである。
(3) また,控訴人は,本件売買契約及び本件配給契約のいずれにおいても,準拠法はカリフォルニア州法であると明文で規定されているから,本件各契約の効力やその法的性質を確定するためには,カリフォルニア州の民事制定法ないし判例法に準拠しなければならない旨を主張する。
 
しかしながら,本件においては,本件取引全体の構造及び当事者の真意を探求してその取引の実態を認定するという事実認定の問題が中心とされているのであるし,控訴人が行った本件取引によって生じた経済的効果が我が国の租税法規において,一定の課税要件を満たすか否かが問題とされているのであるから,個別の契約において,当事者が準拠法を定めたからといって,当該準拠法が当然に適用されることになるものではない。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
(4) さらに,控訴人は,本件組合の他の組合員との対比において,控訴人に対する本件更正処分等は租税公平主義に著しく反する処分であり,憲法14条に違反する旨を主張する。
 
しかしながら,本件組合の他の組合員に対して,更正処分等がされたか否かは明らかではない。仮に,本件組合の他の組合員につき,更正処分等がされておらず,たまたま,控訴人ほか1社のみが更正処分等を受けたものであるとしても,そのことのみから控訴人に対し差別取扱いがあったものということはできないし(本件組合の各組合員の本件取引への関与の態様,これによって得た租税回避の利益等は,それぞれ異なるのであって,こうした点を考慮するなどして,被控訴人が更正処分等を行うか否かを決したからといって,これが当然に差別的取扱いに当たるものではない。),本件更正処分等が本件取引とは全く関係のない他の要素を考慮して殊更に行われたものであることをうかがわせるような証拠もない。したがって,差別的取扱いがあったことを前提とする憲法14条違反の主張も,その前提を欠き,失当というべきである。この点に関する控訴人の主張は,採用することができない。
7 結論
 
以上によれば,本件融資契約及び本件売買契約はいずれも有効に成立したものではないというべきであるから,平成312月期における控訴人の所得の計算において,本件融資契約に基づく支払利息の損金算入及び本件映画に係る権利の取得を前提とする減価償却費の損金算入は,いずれも認められないというべきである。したがって,本件更正処分等は適法というべきである。


(参考)
「映画投資組合法人税更正処分取消請求事件(
ジェネシス事件@)」
平成120118日大阪高等裁判所(平成10(行コ)65

【コメント】本件は、民法上の組合である映画投資事業組合の組合員である青色申告法人が、同組合が映画の所有権を購入し、映画配給会社に賃貸したとして、同映画の持分権を減価償却資産としてその減価償却費を損金の額に算入して法人税の確定申告をしたのに対し、税務署長が当該減価償却費の損金算入を否認してした法人税の更正が適法とされた事例です。 

 本件は、控訴人が、本件売買契約によりジェネシスから買い受けた本件映画がエンペリオンの組合員らに共有的に帰属する減価償却資産に当たるとして、控訴人のエンペリオンに対する出資割合に応じて当該資産に係る減価償却費を損金の額に算入したことに対し、被控訴人が、本件売買契約は事実認定・私法上の法律構成による否認により、売買契約としては不成立ないし無効であるとして、本件映画が減価償却資産には当たらないとしたものである。
 
課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済効果に則してされるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われるが、課税の前提となる私法上の当事者の意思を、当事者の合意の単なる表面的・形式的な意味によってではなく、経済実体を考慮した実質的な合意内容に従って認定し、その真に意図している私法上の事実関係を前提として法律構成をして課税要件への当てはめを行うべきである。したがって、課税庁が租税回避の否認を行うためには、原則的には、法文中に租税回避の否認に関する明文の規定が存する必要があるが、仮に法文中に明文の規定が存しない場合であっても、租税回避を目的としてされた行為に対しては、当事者が真に意図した私法上の法律構成による合意内容に基づいて課税が行われるべきである。
 
(略)
 
控訴人は、本件売買契約書所定の買主及び売主の義務は双方とも履行を完了しており、また、本件取引においては、すべて、その個別契約の内容に従って、その内容のとおりの履行(取引)がされているから、本件取引の一環をなす本件売買契約が有効であることは明らかである旨主張する。
 
確かに、エンペリオン(ないし控訴人ら組合員)がジェネシスから本件映画を買い入れる旨の本件売買契約書が存在し、エンペリオンが本件映画の売買代金として所定の金員をジェネシスに支払ったほか、本件取引においては、すべて、その個別契約書の記載内容に従って、その内容のとおりの履行(取引)がされていることについては当事者間に争いがない。
 
しかしながら、本件取引は、CPIIが日本の投資家から映画の製作資金を得るために、CPIIないしはメリルリンチが考案した一連の取引であって、その一環をなす本件売買契約について、その当事者らが本件売買契約書所定の権利義務をそれぞれ履行することは当然のことであって、そのこと故に本件売買契約が本件売買契約書所定の内容のものとして当然有効となるものではない。その理由は次のとおりである。
 
CPIIとジェネシス(ないしメディバル)との本件映画についての原始売買契約が仮に有効であるとすると、原判決も認定するとおり、CPIIは、ジェネシスを通じてエンペリオンから本件映画の代金として8561590850円を受領することができるが、第二次配給契約に基づきIFDに対し借入金相当額である6000万ドル(エンペリオンがオランダ銀行から借り入れた額は6374635012円である。)を支払うこととなっているから、売主であるCPIIは、本件映画等に見合う対価の約25パーセントの代金のみしか得られないにもかかわらず、本件映画等を買主であるジェネシス(ないしメディバル)、ひいては、エンペリオンに移転したことになるが、これはCPIIの意思解釈として著しく不合理であるといわなければならない。
 
控訴人は、被控訴人が「本件借入金(借入元金)は、もともと、CPIIがIFDを通じてHBU銀行に預託していた金員であり、右金員が関係当事者を循環した後、CPIIに戻っているにすぎない」としていることに関して、慢性的な資金不足に悩まされている映画産業界がそのような資金を提供できるはずはないから、本件借入金(借入元金)は、CPIIがHBU銀行に預託していた金員ではない旨主張する。
 
確かに、CPIIないしIFDとHBU銀行との取引内容が定かではない上、オランダ銀行東京支店作成に係る貸出稟議書によれば、本件取引の一環として、IFDがHBU銀行に対して6000万ドルの支払に対する債務の引受けをする旨の記載があることは認められるが、6000ドルが予めCPIIないしIFDによってHBU銀行に預託されていたことを客観的に認めるに足りる証拠はない。
 
しかしながら、エンペリオンは、本件映画の売買代金に充てるために、オランダ銀行から6374635012円を借り入れているが、その返済額である元金及び利息の合計額10035200648円は、本件配給契約に基づいてIFDから最低保証料及び延長アドバンス又はフィックスト支払額としてその同額が支払われることとなっており、しかも、その支払についてはオランダ銀行への融資元であるHBU銀行が保証しており、貸出稟議書によれば、貸付け満期時にはHBU銀行に設定されている(保証)引受額から支払われることとなっていることが認められる。右事実からすれば、HBU銀行は、本件借入金の借主であるエンペリオンに対し、返済額相当額の支払を保証した上、最終的には同銀行に設定されている(保証)引受額から支払われることとなるのであり、銀行の通常業務としては6000万ドルが予め預託されていると解するのが相当であるが、仮に6000万ドルが予め預託されていなかったとしても、本件取引はいずれも同一の日付でされているから、債務引受けとしてCPIIが売却代金のうち借入金相当額の6000万ドルを預託したとすれば、右金員は結局関係当事者を循環したものであり、売主であるCPIIは、本件映画等に見合う対価の約25パーセントの代金のみしか得られないにもかかわらず、本件映画等を買主であるジェネシス(ないしメディバル)、ひいては、エンペリオンに移転したことになることには変りはない。
 
また、ジェネシスとエンペリオンとの本件売買契約が仮に有効であるとすると、本件売買契約書と同一の日付で作成された本件配給契約書の内容からすれば、原判決も認定するとおり、エンペリオンは本件映画等の根幹をなす部分、すなわち、本件映画等を取得するため対価として支払う価値を有する部分についての権利行使がことごとく排除され、当該部分は、本件配給契約及び第二次配給契約により、製作者であるCPIIが保有することになるにもかかわらず、本件映画等を取得するための対価として代金を支払うことになるが、これは買主であるエンペリオンの意思解釈として著しく不合理であるといわなければならない。
 
この点につき、控訴人は、本件配給契約と本件売買契約は同日付けでされているが、本件売買契約により本件映画の所有権を取得した控訴人らが、本件映画の所有者として本件配給契約を締結したことは明白であるし、本件配給契約書は、本件売買契約により本件映画の所有権を取得した控訴人らが、本件映画を賃貸という事業に供するに際し、IFDに対し、安心して十分な収益を得させるために本件映画についての権利行使を認めたものである旨主張する。
 
しかしながら、論理的には、本件売買契約が本件配給契約に先行するとしても、エンペリオンは、本件配給契約によって、IFDに対して本件映画の管理、使用収益及び処分に関するほとんど完全な権利を与え、そのため本件映画の所有者として本来であれば有してしかるべき諸権利の行使が全く認められないこととなる上、本件説明書には、本件映画のタイトルはもとより、映画興業に関する具体的情報は何ら記載されておらず、本件取引に関する各契約書は本件組合契約書を除きいずれもエンペリオンの業務執行者であるエム・エル・フィルムの署名に係る英文のものしかなかったことからすると、映画興業による利益を獲得する目的でエンペリオンないし控訴人ら組合員が本件映画を買い受けたとは認められない。
 
本件取引のうち原始売買契約ないし本件売買契約が通常の売買契約であると解した場合、当事者の意思として著しく不合理であることは前記のとおりであるが、それにもかかわらず、本件取引において、CPII、ジェネシス、エンペリオンが原始売買契約ないし本件売買契約を締結した私法上の真の意思について検討する。
 
CPIIは、原始売買契約によって本件映画等をジェネシスひいてはエンペリオンに対し売却したことになっているが、本件配給契約及び第二次配給契約に基づき本件映画の根幹部分の処分権は、エンペリオンからCPIIに移転しており、また、本件借入金は当事者間を循環したものの、本件出資金は、CPIIに入っており、結局本件取引によってCPIIは日本の投資家からの資金調達ができたことになる。
 
一方、エンペリオンは、本件出資金のほかオランダ銀行からの借入れによって本件映画を購入した上、本件配給契約によってIFDに賃貸したことになっているが、本件配給契約書によれば、仮に、本件映画が大ヒットしたとしても、エンペリオンへの分配金額が損益分岐点を越える場合には、ネット支払額が50パーセントに減額されるなど映画興行による利益の分配を多くは望めない仕組みとなっているが、本件説明書によれば、本件取引による利益は、@映画興行による利益のほか、A組合員の課税上の優遇措置であるとされており、投資家は、組合財産となる映画について、各自の出資持分に応じて減価償却資産にできることを前提に、定率法による減価償却費の計上によって、出資に見合った租税回避の利益が得られることを具体的数字を挙げて説明しており、本件映画が減価償却資産と認められれば、映画興業による利益よりもはるかに大きな利益が得られることとなる。
 
以上の事実によれば、CPIIは、ジェネシス(ないしメディバル)を単なる履行補助者として、本件映画等の根幹部分の処分権を保有したままで、資金調達を図ることを目的として、また、エンペリオン(ないし控訴人ら組合員)は、専ら租税負担の回避を図ることを目的として、原始売買契約ないし本件売買契約を締結したと認めるのが相当である。
 したがって、原判決も認定するとおり、本件取引のうち本件出資金は、その実質において、控訴人ら組合員がエンペリオンを通じ、CPIIによる本件映画の興行に対する融資を行ったものであって、エンペリオンないしその組合員である控訴人は、本件取引により本件映画に関する所有権その他の権利を真実取得したものではなく、本件各契約書上、単に控訴人ら組合員の租税負担を回避する目的のもとに、エンペリオンが本件映画の所有権を取得するという形式、文言が用いられたにすぎないものと解するのが相当である。
 
そうであるとすれば、控訴人が本件映画を減価償却資産に当たるとして、その減価償却費を損金の額に算入したことは相当でなく、右算入に係る全額が償却超過額になるものというべきである。











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