氏名表示権(条文解説)

「著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。」―これは、著作者が享有する「氏名表示権」を規定したものです(法191項)。「氏名表示権」は「著作者人格権」の一つです(法17条1項)。

19条1項は、著作者に「著作物の著作者(創作者)であることを主張する権利」を認めるために、自己の創作物にどのような著作者名(実名か、変名か、無名か)を表示するかを決定する権利は、原作品やその複製物についてであろうと、その二次的著作物についてであろうと、そのいずれかを問わず、著作者が有することを定めたものです。ベルヌ条約6条の2(1)には、著作者は、「その財産的[経済的]権利とは別個独立に、当該権利が移転された後においても、著作物の著作者であることを主張する権利(the right to claim authorship of the work…を有する。」と明記されています。

「氏名表示権」とは、著作者が自己の著作物の創作者であることを主張するために、その著作物の原作品に又はその複製物に著作者名を表示するのか否か、表示するとしたら実名を表示するのか変名(ペンネーム・雅号など)を表示するのかを決定する権利(その二次的著作物における原著作物の著作者名の表示についても同様)です。著作者名を表示すべきところを表示しない行為(実名又は変名を削除する行為)はもちろん、著作者に無断で著作者の実名又は変名を勝手に代えて表示する行為、無名・変名の著作物に著作者の実名を加えて表示する行為などはいずれも氏名表示権の侵害となります。また、他人の著作物をあたかも自分の著作物であるかのように装って利用する行為(いわゆる盗作・剽窃行為)は、著作権の侵害問題になりうることはもちろん、真の著作者名を表示していない点で氏名表示権の侵害問題ともなりえます。

「氏名表示権」については、これを純粋に著作者の人格権利益の保護のためだけに認められていると解するよりも、真実に即した著作者の氏名表示を担保するという意味で、公益上の要請から捉えることも可能です。つまり、氏名表示権については、公表権(法18条1項)のように、著作者の同意があれば侵害成立が阻却されることを前提とするような規定(18条2項参照)が設けられていないこと、著作者が他人名義で氏名表示をすること又はさせることまで許容する規定が設けられていないこと、かえって著作者ではない者の実名等を表示した著作物の複製物を頒布する氏名表示権侵害行為については公衆を欺くものとして刑事罰の対象となり得ることをも別途定めていること(121条)からすると、「氏名表示権は、著作者の自由な処分にすべて委ねられているわけではなく、むしろ、著作物あるいはその複製物には、真の著作者名を表示することが公益上の理由からも求められている」ものと解されます(「ジョン万次郎銅像事件」参照)。
(注)著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物(原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者名として表示した二次的著作物の複製物を含む。)を頒布した者には刑事罰が科される旨が規定されています(法121条)。

なお、公的機関が行う情報公開との関係で、所定の場合には氏名表示権が働かないことが明記されています(法19条4項各号参照)

≪利用者の便宜≫

著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示することができます(法19条2項)。つまり、著作者が別段の積極的な意思表示(例えば、それまで用いていたペンネームを変更したり、実名表示に切り替えたりすること)をしない限り、著作物の利用者がその著作物についてすでにその著作者が表示しているところに従って著作者名を表示していれば氏名表示権の侵害とはならない、ということを意味しています。

≪著作者名の表示の省略≫

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができます(法19条3項)。例えば、音楽著作物をBGMとして利用する際の作詞家・作曲家の氏名表示の省略が、典型的にはこれに該当すると考えられます。この場合、かかる省略行為は氏名表示権の侵害とはなりません。「著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」とは、著作者名を省略しても、他の者が著作者であるとか、無名の著作物であるとか、といった誤解・錯覚等を公衆に生じさせないような場合をいいます。また、本条による著作者名の表示の省略が認められるためには、すでにそのような省略行為を容認しうる「公正な慣行」が確立している必要があります。



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