実演家人格権(条文解説)

「実演家人格権」とは、実演家(法2条1項4号参照)が享有する「氏名表示権」(法90条の2・1項)及び「同一性保持権」(法90条の3・1項)をいいます(法89条1項)。「実演家人格権」は、文字通り、実演家の人格的利益を保護するために認められる権利です。
(注)「著作者人格権」(法17条1項)1つである「公表権」(18条1項参照)に相当する権利については規定されていません。これは、実演は公衆への著作物の伝達行為(公表)を前提とするものであり、実演を公表するかしないか決定できる「公表権」なるものを認める意義がないからです。

≪氏名表示権(90条の2

著作権法90条の2は、実演家が、その「実演」(法2条1項3号参照)を公衆へ提供又は提示するに際し、どのような実演家名を表示するのか、又は実演家名を表示しないのかということを決定する権利を有する旨を、また、実演の円滑な利用を確保する観点から、所定の場合には実演家名の表示を省略できる旨等を規定しています。

実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有します(1項)。これが「氏名表示権」です。氏名表示権は、実演家の人格的利益を保護するために与えられる、自己の実演を公衆へ提供又は提示するに際して、実演家名を表示するのか否か、また、表示するとしたら「氏名」で表示するのか、「芸名その他氏名に代えて用いられるもの」で表示するのかを決定する権利のことです。WIPO実演及びレコード条約5条(1)に同旨の規定が置かれています。ここで、「芸名その他氏名に代えて用いられるもの」には、例えば、実演家の愛称などが含まれますが、氏名表示権を有するのは個人としての実演家であるため、グループ名やバンド名はこれに該当しないと解されます。

実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従って実演家名を表示することができます(2項)。実演の利用者としては、当該実演につき「既に実演家が表示しているところに従って」表示をしていれば、原則として(当該実演家の別段の積極的な意思表示がない限りは)、氏名表示権侵害の問題にはならないことを規定したものです。実演の利用者の便宜を考慮した規定と言えます。なお、無名の実演についての利用についても同様の扱いができるものと解されます(ある実演につきそもそも実演家名を表示していない場合には、その実演を利用する者も無名表示(実演家名を表示しない)のままとしておけば足りる)。

実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる、とされています(3項)。実演の円滑な利用を阻害しないための規定です。実演の利用の実態に配慮して、著作者に認められる「氏名表示権」(法19条1項)の場合よりも省略できる場面を広く認めている点に注意を要します(法19条3項との規定振りの違いに注意)。ここで、「実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」とは、例えば、ホテルのロビーなどでBGMとしてCDを流す場合などが想定され、一方、「公正な慣行に反しないと認められるとき」とは、例えば、歌手のライブ演奏を放送する際にバックの演奏家の氏名表示を省略する場合や、映画のエンディングロールでエキストラ(俳優)の氏名表示を省略する場合などが考えられます。

所定の行政機関が行う情報公開との関係で、「氏名表示権」が適用されない場合があります(4項各号)。

≪同一性保持権(90条の3

著作権法90条の3は、次のように規定します:
実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする(1項)。
前項の規定は、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変については、適用しない(2項)。

著作者が「その著作物及びその題号の同一性を保持する権利」(法20条1項参照)を有するのと同様に、実演家は、「その実演の同一性を保持する権利」(実演の「題号」の同一性を保持する権利は明示されていません)を有します。実演家の人格的利益を保護するために規定されたもので、WIPO実演及びレコード条約5条(1)に同旨の規定が置かれています。
著作者人格権の1つである「同一性保持権」が「著作者の意に反して著作物及びその題号の変更、切除その他の改変を受けない」権利である(法20条1項)のに対して、実演家人格権の1つである「同一性保持権」は、「自己(実演家)の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けない」権利であるという点で異なっています。ここで、「名誉又は声望」とは、実演家が社会から受けている客観的な評価をいい、実演家の名誉感情等の主観的な評価は含まれないと解されます。
そのような同一性保持権は、「実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」又は「公正な慣行に反しないと認められる改変」には及びません。前者の例としては、再生機器の性能から実演の音声や映像などが正確に再生(伝達)できないような場合が考えられ、後者の例としては、映画を放送する際に放送時間に合わせて再編集(カット)する場合や、映画を紹介(宣伝)する際に出演俳優の演技の一部だけを見せる場合などが考えられます。

≪実演家人格権の一身専属性(法101条の2)≫

実演家人格権は、「実演家の一身に専属し、譲渡することができない」とされています(法101条の2)。この規定は、実演家人格権の一身専属性、すなわち、実演家人格権がその性質上一身専属権であること、及びその不可譲渡性を定めたものです。
実演家人格権は、実演家の一身に専属することから、実演家の死亡によってそれと同時に消滅し、相続の対象となることはありません。もっとも、実演家が死亡した後であっても、その実演家が生存しているとしたならば実演家人格権の侵害となるべき行為については、一定の要件の下で禁止されていて(法101条の3。後述)、この実効性を担保するための規定も設けられています(法116条参照)。

≪実演家の死後における人格的利益の保護(法101条の3)≫

著作権法101条の3に次の規定があります:
「実演を公衆に提供し、又は提示する者は、その実演の実演家の死後においても、実演家が生存しているとしたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該実演家の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」
本条は、実演家人格権が実演家の死亡とともに消滅することとなるため(法101条の2)、実演家の死後におけるその人格的利益の保護について規定したものです。

ここで「実演家が生存しているとしたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為」とは、氏名表示権(法90条の2・1項)、同一性保持権(90条の3・1項)を侵害する行為のみならず、法113条(1項・3項)に該当して侵害とみなされる行為を含むと解されます。
本条の実効性を担保するために、実演家の死後におけるその人格的利益を保全できる者が定められています(法116条)。このように、実演家人格権は実演家の死亡と同時に消滅するのですが、本条及び法116条の規定によって、実演家の死後におけるその人格的利益の保護は、実演家死亡後も相当長期にわたって続くことになりますので注意してください。
ただし書き中「行為の性質」とは、「実演家人格権の侵害となるべき行為」が主体的か、付随的か、また、その行為が積極的か、消極的かということを意味し、「行為の程度」とは、「実演家人格権の侵害となるべき行為」によって作成された侵害複製物の部数やその頒布領域、当該侵害行為の頻度等を意味すると解されます。「社会的事情の変動」とは、社会的価値観の変化や社会的制度の推移等を意味しています。

実演家の死後においてその人格的利益を侵害する行為は「犯罪」であると捉えられており、本条に違反した場合には、刑事罰として罰金が科せられますので注意してください(法120条参照)。



     Kaneda Copyright Agency
     カネダ著作権事務所


      Home  メール相談  契約マネジメント  文化庁登録マネジメント  侵害対応マネジメントその他
      アメリカ著作権局登録マネジメント  著作権判例エッセンス