実演家の権利(1)(条文解説)

≪録音権及び録画権≫

著作権法91条は、次のように規定しています:
実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。」(1項
「前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。」(2項

本条は、実演家(法2条1項4号参照)が、その実演を録音又は録画することに関して、一定の場合を除いて、「録音権」又は「録画権」という排他独占的権利を有することを規定したものです。「録音権」・「録画権」は、実演家の財産的利益を保護するために創設された「著作隣接権」の1つです(89条1項・6項)。
実演家は、その実演(法2条1項3号)を録音し、又は録画する排他独占的権利を有します(1項)。ここで、「録音」とは、「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」をいい(2条1項13号)、「録画」とは、「映像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」をいいます(14号)。つまり、「録音」・「録画」には、最初の録音・録画だけでなく、それを固定した物(録音物・録画物)を増製することを含みます。したがって、例えば、歌手の歌を原盤レコードやオリジナルテープに吹き込む場合のほか、その吹き込まれたレコードやテープを増製する場合にも録音権が及ぶため、その増製に関しても当該歌手の許諾を得なければなりません。
なお、著作権法上「録音」・「録画」は「複製」に含まれる概念ですが(法2条1項15号参照)、実演家には「複製権」という概括的な権利は認められておらず、そのため、例えば自己の実演を「写真撮影」や「スケッチ」等によって有形的に再製する者に対して本権利を行使することはできません。もっとも、その写真やスケッチの利用の仕方によってはパブリシティ権や肖像権等の侵害問題が生じる余地はありますので注意してください。
実演に関する録音権・録画権は、実演家が行った当該実演そのものを録音・録画することにのみ及び、当該実演と「類似」した実演(例えば、モノマネ)を録音・録画することに権利が及ぶことはありません。

ワンチャンス主義その他

実演に関する録音権・録画権は、当該権利を有する者から許諾を得て映画の著作物において録音・録画された実演については、原則として及ばないとされています(2項)。
こういうことです。ある実演家(例えば、歌手や俳優)が自己の実演を映画の著作物に録音・録画することを許諾した場合には、その許諾を受けた者が行う当該映画の著作物の増製については当該実演家の録音権・録画権は及ばず、したがって、その増製についてあらためて当該実演家の許諾を得る必要はないということです。これは、映像に関する実演については、「映画の著作物への最初の固定(録音・録画)にのみ権利が及び、その後の利用については実演家の権利が及ばない」とする考え方(いわゆる「ワンチャンス主義」)を採用したものです。ワンチャンス主義は、映画の著作物の製作には多くの実演家が関与していることから、その利用(録音、録画、放送、有線放送、送信可能化、譲渡)に関して画一的に処理し、後の映画の著作物の円滑な利用を確保しようとするものです。なお、ワンチャンス主義に関しては、ローマ条約19条を参照。もっとも、例えば、その映画のサウンドトラックに固定されている音だけを取り出していわゆるサントラ盤レコード(CD)をつくる場合のように、その映画のなかの実演を、「音を専ら映像とともに再生することを目的とするもの」ではない録音物に録音する場合には本権利(録音権)が及び、あらためて実演家の許諾が必要になります。この点、まぎらわしいので注意してください。

実演家には「放送権」と「有線放送権」が認められていますが(法92条1項)、実演家が自己の実演の(有線)放送について事業者に許諾を与えた場合でも、契約に別段の定めがない限り、当該実演の「録音」・「録画」の許諾まで与えたことにはなりません(103条準用63条4項)。したがって、一般的に、実演家がテレビ放送用の番組に「出演」を承諾したというだけでは、そのテレビ放送用の番組を固定物(ビデオテープやDVDなど)に「録音」・「録画」することまで許諾したことにはなりません。そのため、(有線)放送事業者がそのような固定物を作製し又は増製する場合には、あらためて実演家の許諾を得る必要があります。もっとも、実演の放送について実演家の許諾を得た放送事業者は、原則として、その実演を「放送のために」録音し又は録画することは可能です(93条1項本文。次記述参照)。

放送のための固定(法93条)

著作権法93条に次のような規定があります:
実演の放送について第92条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得た放送事業者は、その実演を放送のために録音し、又は録画することができる。ただし、契約に別段の定めがある場合及び当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音し、又は録画する場合は、この限りでない。」(1項
「次に掲げる者は、第91条第1項の録音又は録画を行なったものとみなす。
前項の規定により作成された録音物又は録画物を放送の目的以外の目的又は同項ただし書に規定する目的のために使用し、又は提供した者
前項の規定により作成された録音物又は録画物の提供を受けた放送事業者で、これらをさらに他の放送事業者の放送のために提供したもの」(2項

本条は、放送における実演を有効かつ円滑に利用することができるようにするために、実演の放送について実演家の許諾を得た放送事業者が当該実演を放送のために録音・録画することができる旨を定めたものです。
実演家には「その実演を放送する権利」(放送権)が認められていますが(法92条1項)、実演家が自己の実演の「放送」について放送事業者に許諾を与えた場合でも、契約に別段の定めがない限り、当該実演の「録音」・「録画」の許諾まで与えたことにはなりません(103条準用63条4項)。そのため、一般的に言うと、実演家がテレビやラジオの番組に「出演」を承諾したというだけでは、(その番組を「放送」することについては許諾が推認できるとしても)自己の出演に係る当該番組をビデオテープやDVDなどの固定物に「録音」・「録画」することまで許諾したことにはなりません。したがって、放送事業者がそのような固定物(ビデオテープやDVD)を作製し又は増製する場合には、あらためて若しくは事前に実演家の許諾を得る必要があります。これが原則です。一方、実演家が自己の出演した番組が「放送」されることに関して放送事業者にその許諾を与えている場合に、当該番組中の実演をその「放送のために」録音・録画するときでも、さらに実演家の許諾を得なければならないとするのでは、放送における実演の有効かつ円滑な利用が妨げられるおそれがあります。そこで、本条が設けられているわけですが、以上のような趣旨であるため、「契約に別段の定めがある場合」、及び「当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音・録画する場合」には、原則に立ち返って、いずれの場合にも実演家の許諾が必要になります(法93条1項但書)。ここで、契約に別段の定めがある場合」とは、例えば、出演(放送)許諾契約の中で、自己の実演はライブ(生)放送に限る、とする旨の条項を入れておく場合などをいい、「当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音・録画する場合」とは、例えば、別の新しい音楽番組に使用する目的で既存の音楽番組の中の実演を多数寄せ集めて録音・録画する場合や、音楽番組での実演をドラマやバラエティ番組の挿入歌として使用する目的で録音・録画する場合などが想定できます。

以下の(ア)ないし(ウ)の行為をした者は、「91条第1項の録音又は録画を行なった」ものとみなされるため(2項各号)、特段の事情がない限り、実演家の「録音権」又は「録画権」の侵害行為を行った者と評価されます(以下の行為をするには、原則として、実演家の許諾が必要)。
(ア)「放送のための固定物」(本条1項の規定により作成された録音物又は録画物をいう。以下同じ。)を「放送の目的以外の目的」のために使用し又は提供した者。
(イ)「放送のための固定物」を「当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的」のために使用し又は提供した者
(ウ)「放送のための固定物」の提供を受けた放送事業者で、これらをさらに他の放送事業者の放送のために提供した者(「放送のための固定物」をその放送の目的のために他の放送事業者に提供することは可能)

なお、放送について実演家の許諾を得た放送事業者が当該実演を適法に録音・録画できる場合として、他に、いわゆる自己の放送のための技術的手段としての一時的固定(法102条1項準用44条1項)の制度があります。



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