著作物の利用の許諾(条文解説)

著作権法63条は、次のように規定しています(1~5項):
著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。」(1項
「前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。」(2項
「第1項の許諾に係る著作物を利用する権利は、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができない。」(3項
「著作物の放送又は有線放送についての第1項の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。」(4項
「著作物の送信可能化について第1項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第23条第1項の規定は、適用しない。」(5項

本条は、著作権を行使する基本的態様として、著作権者が著作物の利用を他人に許諾できる権限を有すること、及びその許諾の内容について規定したものです。
著作権者が自己の著作権を「行使」する最も基本的で普通のやり方は、自己の著作権に係る著作物を経済的に利用する権限を他人に付与することです。この点、現在、著作権の国際的な枠組みを支えている最も重要な条約の1つであるベルヌ条約では、そこで認めている各種の権利(著作権)について、「著作者は、…(著作物の利用を他人に)許諾する排他独占的な権利を享有する」(“Authors…shall have the exclusive right of authorizing…”)などと規定しています(例えば、ベルヌ条約9条(1)参照)。つまり、著作権は、他人に一定の(経済的な)利用行為を許諾することをその中心的な権利行使の態様としている、と言えそうです。著作権者は、現実には、著作権のこの基本的な権利行使の態様である利用許諾によって、いわゆる「著作権使用料」(「ライセンス料」・「ロイヤリティー」・「印税」などとも呼ばれています。)を得ています。著作権が「著作財産権」と呼ばれるのは、まさにこのような事情が背景にあるからです。

≪1項について≫

著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾する(ライセンスを供与する)ことができます(1項)。第三者の立場から言うと、保護期間の経過していない他人の著作物の利用を欲する者は、著作物の自由利用が許される場合を除き、著作権者から当該著作物の利用についての許諾を受けておかなければなりません。この許諾を得ておかないと、著作権を侵害することになります。利用許諾契約(ライセンス契約)の際には、「ライセンス料」や「ロイヤリティー」の名目で、著作権者(ライセンサー)が一定額の金銭を当該第三者(ライセンシー)に要求するのが通常です。これによって著作権者の経済的収益が図られることになります。
利用許諾(ライセンス供与)は、著作権者と著作物の利用を求める者との間の「利用許諾(ライセンス)契約」(出版契約、放送契約、映画化契約等)によってなされます。許諾によるこの利用権は、債権的な効力しか有しません、つまり、著作権者と許諾を受けた者との間には、債権債務関係しか存在しません。そのため、著作権者が同一範囲内での著作物の利用許諾を別の第三者に与えた場合に、許諾を受けた側でこれに文句をつけることは、当該契約が独占的な利用許諾であるような特別な場合を除いて、原則としてできません。また、同じ事例で、許諾を受けた側でそのような第三者の当該著作物の利用行為に対して文句をつけることもできません。しかし、以上のような事態は、許諾を受ける者(ライセンシー)にとってはあまりおもしろいことではありません。そこで、ライセンス契約において、「著作権者は当該著作物を同一の利用方法で第三者に許諾を与えることはできない」旨の特約がなされる場合があります(このような特約を一般に「排他的許諾」とか「独占的許諾」と言って、かかる特約の付されていない一般的な許諾(「単純許諾」などと呼んでいます。)と区別する場合があります)。両者の違いを簡単に解説すると、例えば、ある小説家Aが出版社Bに対して出版の許諾を与える場合に、
① その許諾が「排他的(独占的)許諾」であるときは、AはB以外のCDE…の出版社に対して同一の著作物の出版許諾を与えることは許されず、あえてこれを行えば、Bより契約違反を理由として損害賠償などの責任を追及されることになります。
一方、
② その許諾が「単純許諾」であるときは、AはB以外のCDE…の出版社に対して同一著作物の出版許諾を与えることが可能であり、Bはそれ(Aの許諾行為)に対して何ら異議を述べることはできません。さらに、CDE…の利用行為(出版)に対して異議を述べることもできません。
利用許諾契約が書面によって取り交わされることが最も適切であることは勿論ですが、判例においては、いわゆる「黙示の利用許諾」を認定する事例も多くみられます。黙示の包括的許諾を認定した例もあります。しかしながら、一方で、黙示の利用許諾を認めなかった例もあり、紛争の未然防止のために、当事者が事前にお互いの意思を明確化(書面化)しておくことが重要であることに変わりはありません。

≪2項について≫

著作権者から著作物の利用許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において当該著作物を適法に利用することができます(2項)。その許諾の範囲を超えた利用は当然にはできません。当たり前の話です。例えば、ある小説家Aからその小説(著作物)の「朗読」(口述権に属する)についての許諾を得た者は、その小説を公の場で朗読することはできますが、これを、例えば「出版」することは許されず、あえて出版行為を行えば小説家Aの著作権(複製権・譲渡権)を侵害することになり、Aより発行差止や損害賠償の請求を受ける可能性があります。
なお、本項でいう「利用方法」とは、複製や演奏、上映、公衆送信等といった著作物の利用態様、著作物の複製部数・利用回数・利用時間(期間)などをいい、一方、「条件」とは、著作物利用の対価の額やその支払方法、独占的な利用か非独占的な利用か等の条件をいいます。

≪3項について≫

許諾に係る利用権は、著作権者の承諾を得ない限り、勝手に他人に譲渡することはできません(3項)。契約当事者間の信頼関係に配慮した規定です。したがって、ある利用権が著作権者の承諾を得ずに第三者に勝手に譲渡された場合、当該譲渡はその譲渡契約の当事者(譲渡人と譲受人)の間では有効ですが、当該第三者(譲受人)は、自己が当該利用権を取得したことを著作権者に対抗することができない(自分の地位を法律上有効に主張することができない)ため、結局、その第三者(譲受人)の当該利用行為は、著作権者に対する関係では当該著作権の侵害となります。

≪5項について≫

この規定は少々わかりずらいのですが、著作物の送信可能化に関し、許諾時に付される条件の中で「送信可能化の回数」と「送信可能化に用いる自動公衆送信装置(サーバー)」に関するものについては、この2つの条件に違反した場合においても契約違反となるだけで著作権(公衆送信権)侵害とはしない旨を規定したものです。本規定は、送信可能化行為を伴う利用条件(送信可能化の回数及び送信可能化を行うサーバーの特定)違反と、送信可能化行為を伴わない利用条件違反とのアンバランスを解消するためのものです。
送信可能化契約において、例えば、「送信可能化の回数は10回までとする」とか、「送信可能化に用いるサーバーは○○社製の××に限る」といった利用条件が付されていた場合、何ら手当てがなされていないと、かりに当該利用条件(送信可能化の回数及び送信可能化を行うサーバーの特定)以外の利用条件に従っていたとしても、例えば、①当該特定のサーバーの一時的な修理・点検等のため、一時的にネットワークの接続を切って別のサーバーに接続するようなときでも、サーバーの特定に関する上記利用条件に違反することになるため、著作権者の経済的利益にほとんど影響がないにもかかわらず、①のような行為は、公衆送信権を侵害すると解されるおそれがあります。
一方、送信可能化行為を伴わない利用条件に違反した場合、例えば、②特定のサーバーに著作物をアップロードしておくことができる契約期間を超過させた場合、著作権者の経済的利益に重大な影響があるにもかかわらず、かかる違反行為は著作物の利用行為(ここでは送信可能化行為)を伴わなくても実施することができるため著作権(公衆送信権)侵害とはなりません。単に債務不履行(契約違反)が問題となるに過ぎません。
②のような行為が①のような行為よりも著作権者の経済的利益に大きな影響を与えるにもかかわらず、①の行為だけが著作権侵害となるとすることはバランスの面で妥当性を欠くと考えられるため、①のような行為を行ったとしても、送信可能化の回数及び送信可能化を行うサーバーの特定以外の利用条件を遵守している限りは当該行為を著作権(公衆送信権)侵害とはしないとする本規定が設けられた次第です。

その他の論点

著作物の利用許諾契約が増加しているにもかかわらず、当該許諾契約における利用者(許諾を受けた者)は、当該著作物に係る著作権が第三者に譲渡された場合に、引続き当該著作物を利用することについて、著作権の譲受人に対抗することができず、利用者の地位が不安定になっているとの指摘があります。
図式化すると[著作権者と利用者で利用許諾契約を締結]→[その後、著作権者が第三者に著作権を譲渡]→[著作権の譲受人は、利用許諾契約を承継しないため(利用者は譲受人に対抗できないため)、利用者は引続き著作物を利用できなくなる]…といった具合です。
この点、同じ知的財産権法の分野に属する特許法における「通常実施権」(特許法78条)については、「通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。」(特許法99条)との規定があり、上記のような事態における利用者(通常実施権者)の保護を担保(通常実施権の対抗力を承認)しています。
これに対し、著作権法においては、現在のところ、「(通常)利用権」なる法定の権利は創設されておらず、また、特許法99条のような規定も設けられていません。契約意識の高い当事者間では、利用許諾契約を締結する際に、当該著作権が第三者に譲渡された場合に備えた利用者(被許諾者)の継続利用を可能にするための条項を挿入すること等で対処していますが、このような最低限の方策すら採っていないケースの方が圧倒的に多いのが実情です。
以上の問題に関しては、以前から有識者の間で(文化審議会著作権分科会で)議論がされていますが、確定的な結論を得るには至っていない状態です。



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