損害額の認定(条文解説)

ここでは、以下、「法114条損害の額の推定等)」と「法114条の5(相当な損害額の認定)」について解説します。

114条損害の額の推定等)について

故意又は過失によって著作権、出版権又は著作隣接権(以下、これらをまとめて「著作権等」といいます。)が侵害された場合には、その侵害した者に対して、民法709条によって損害賠償を請求することができます。ただ、その際、とりわけ著作権等の知的(無体)財産権の分野では、被害者(権利者)が侵害に対する損害額を立証する(損害額の立証は、訴える側すなわち権利者サイドで行うのが原則です。)ことが容易でない場面が多く、そのため、被害者(権利者)の保護が実質的に弱くなることがあります。そこで、著作権法では、本規定を設けて、挙証責任の転換を含め、権利者サイドの立証責任を軽減させること等により権利者保護を充実させることにしています。
なお、不法行為ではない、すなわち故意又は過失によらない侵害行為(善意無過失による侵害行為)によって侵害者が利益を受けているような場合には、侵害者には、その利益の存する限度において、これ(不当な利得)を権利者に返還する義務があります(民法703条)。

(1)1項について

1項は次のように規定しています:「著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下この項において「著作権者等」という。)が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によって作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行ったときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

本項は、平成15年の法改正によって追加された条項です。法律の専門家でないと一読しただけでは理解できないような規定振りとなっています。
2項に規定するように、著作権等が侵害された場合、「侵害者がその侵害行為により受けている利益額」を権利者が受けた損害額であると推定する旨の規定は以前からありました。ところが、侵害者が受けている利益が少ない場合や、侵害者が受けている利益額を立証することが困難な場合には当該規定は使い勝手が悪いものとなります。そこで、新たに本項が追加されたわけです。

本規定は、典型的には、[A]権利者が正規品の販売を行っている場合に、侵害者がその侵害行為(海賊行為)によって作成された物(海賊版)の譲渡を行った場面を想定しています。すなわち、本規定によって、権利者が請求可能な損害額は、
著作権者等が受けた損害の額
=「その譲渡した物の数量(海賊版の販売数)×「著作権者等がその侵害行為(海賊行為)がなければ販売することができた物(正規品)の単位数量当たりの利益の額
という計算式で求められます。
一方、本規定は、音楽や映像の違法ネット配信も想定した規定となっています。すなわち、[B]権利者が正規のコンテンツをネットで配信している場合に、侵害者がその侵害行為を組成する公衆送信(違法ネット配信)を行ったときは、権利者が請求可能な損害額は、
著作権者等が受けた損害の額
=「その公衆送信が公衆によって受信されることにより、つまりダウンロードにより作成された著作物等の複製物(これを「受信複製物」といいます。)の数量」×「著作権者等がその侵害行為(違法ネット配信)がなければ販売(配信)することができた受信複製物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額」
という計算式で求められます。

上記[A]及び[B]のいずれのケースにおいても、次の2点に注意が必要です:
①上記「著作権者等が受けた損害の額」は、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えないこと。
本項は、権利者自らその侵害品と同数の物を販売することができたであろうということが前提となっていると解されるため、権利者においてそもそも侵害品と同等の物やその代替物を自ら販売していない場合には、本項の適用はないものと解されます。例えば、ある作家が自己の小説(書籍)を出版社とライセンス契約を結んで販売している場合、その作家が当該書籍を自ら販売することはしておらず、また、自ら販売する能力も乏しい場合にまで本項による賠償額の請求を認めるのは、逸失利益の回復という損害賠償制度本来の趣旨からすると行き過ぎであると考えられます。
②譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を、上記「著作権者等が受けた損害の額」から控除すること。
「海賊版の販売がなければ同じ数量(の正規品)が売れたはずだ」と、常に言えるとは限りません。そこで、代替品の有無、市場の特性、海賊版と正規品との価格差等により海賊版の数量ほど正規品は売れなかったとの事情がある場合には、そのことを侵害者サイドで立証すれば、当該事情に相当する数量に応じた価額分だけ本来的な請求額から減額できることを定めています。

(2)2項について

2項は次のように規定しています:「著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。

本項は、「侵害者がその侵害行為により受けている利益額」を権利者が受けた損害額であると「推定」する規定です。例えば、海賊版DVDが販売された場合、その実際に販売された数量に、海賊版業者が得た単位当たりの利益、つまり、当該海賊版DVD1枚当たりの利益額を掛け合わせることにより、権利者が受けた損害額を算定することになります。もっとも、侵害者が侵害行為によって受けている「利益」には、侵害行為によって財産が積極的に増加した場合のみならず、財産の減少を免れたという意味の消極的な利益も含まれると解されます。なお、本項においては、侵害者の得た利益を即権利者の受けた損害額と推定していることから、権利者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比されうる同種同質の利益を受けていることが前提となっていると解されます。したがって、第1項の場合と同様に、権利者自ら侵害品と同種の物又はその代替物を販売していない場合には、本項の適用はないものと解されます。

本項は「推定」規定であるため、侵害者サイドで利益がないことの立証に成功すれば、「推定」は覆ることになります。

(3)3項及び第4項について

3項は次のように規定しています:「著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
4項は次のように規定しています:「前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

著作権者、出版権者(平成26年法改正で追加)又は著作隣接権者は、侵害者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができます(3項)。第3項は、第4項とともに、いわゆる「使用料相当額」を最低賠償請求額とするもので、その算定においては、侵害者が利益を受けているか否かは問いませんし、権利者サイドで侵害された著作物や実演等を実際に商業的に利用している必要もありません。
なお、本項に関しては、平成12年の法改正により、それまで「通常受けるべき金銭の額に相当する額」としていたところから「通常」の文言が削除されました。この趣旨は、既存の一般的な使用料の相場に拘束されることなく、当事者間の具体的な事情を参酌した適正妥当な損害額の認定を可能にすることにあると言われています。したがって、「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たっては、侵害行為の対象となった著作物の性質や内容、その創作的・経済的価値、取引の実情、侵害行為の性質や態様、当事者の関係等、当事者間の個別具体的な諸事情を総合的に参酌して客観的に妥当と認められる額を算定するのが相当であると解されます。

≪法114条の5(相当な損害額の認定)について

114条の5は次のように規定しています:「著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」

本条は「著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟」について適用され、著作者人格権及び実演家人格権の侵害に係る訴訟については適用されません。これは、本条が、財産権としての著作権・出版権・著作隣接権の侵害による損害額の立証を容易化するために設けられている法114条を補完しつつ権利者の保護を図ることを目的としているためです(114条は著作者人格権及び実演家人格権の侵害を対象としていません)。

本条は、損害額を立証するために必要な事実の立証が「当該事実の性質上」極めて困難であるときに裁判所は相当な損害額を認定することができる旨を規定したものです。

この点、民事訴訟法248条(損害額の認定)に類似の規定がありますが、著作権法114条の5の規定はこの民訴法の規定の適用を除外するものではないと解されます。すなわち、損害額の立証が「損害の性質上」極めて困難であるときは、裁判所は、相当な損害額を認定することができることになります。
※民事訴訟法248条(損害額の認定):「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」




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