音楽レコードの還流防止措置(条文解説)

いわゆる「音楽レコードの還流防止措置」については法113条5項に規定されています。当該規定によれば
国内において頒布することを目的とする商業用レコード(以下この項において「国内頒布目的商業用レコード」という。)を自ら発行し、又は他の者に発行させている著作権者又は著作隣接権者が、当該国内頒布目的商業用レコードと同一の商業用レコードであって、専ら国外において頒布することを目的とするもの(以下この項において「国外頒布目的商業用レコード」という。)を国外において自ら発行し、又は他の者に発行させている場合において、情を知って、当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布する目的をもって輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもって所持する行為は、当該国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により当該著作権者又は著作隣接権者の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限り、それらの著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。ただし、国内において最初に発行された日から起算して7年を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した国内頒布目的商業用レコードと同一の国外頒布目的商業用レコードを輸入する行為又は当該国外頒布目的商業用レコードを国内において頒布し、若しくは国内において頒布する目的をもって所持する行為については、この限りでない。

立法趣旨

113条5項に規定する音楽レコードの還流防止措置(以下、本措置という場合があります。)」は、主としてアジア諸国における物価水準の低い地域で、現地市場の物価水準に合わせて相対的に安価に製造・販売されている音楽レコードがわが国に輸入されて国内で流通することによる、音楽レコードに係わる権利者の経済的利益の損失を防ぐために規定されたものです。副次的には、本措置により、わが国の音楽文化の健全かつ積極的な海外普及を促進させるという側面もあります。

還流防止措置の要件

本措置は、「国外頒布目的商業用レコード」を、日本国内での頒布目的をもって「輸入する行為」、当該レコードを日本国内で「頒布する行為」、日本国内での頒布目的をもって「所持する行為」(以下、適宜「輸入する行為等」といいます。)に関して、以下の①~⑤のすべての要件(「頒布する行為」については要件③を除く。)を満たす場合に限って、当該著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなすという取扱いをするものです。

[要件①]

「国内頒布目的商業用レコード」(日本国内において頒布することを目的とする商業用レコードのこと)が、それと同一の「国外頒布目的商業用レコード」(専ら日本国外において頒布することを目的とする商業用レコード)よりも「先に」発行されている、又は「同時に(同日付で)」発行されていること。
本措置は、そもそもが、国外頒布目的商業用レコードが発行された際に、それと同一の国内頒布目的商業用レコードが日本国内においてすでに発行されている状況にあることを前提とするものです。このことから、以下の点に注意する必要があります:
(a) 国外頒布目的商業用レコードのみが発行されている(それと同一の国内頒布目的商業用レコードが発行されていない)場合⇒本措置の適用外
(b) 国内頒布目的商業用レコードは発行されているが、それと同一の国外頒布目的商業用レコードの方が先に発行されている場合⇒本措置の適用外
(c) 国内頒布目的商業用レコードが以前は発行されていたが、それと同一の国外頒布目的商業用レコードの発行の際に、当該国内頒布目的商業用レコードがいわゆる廃盤となっていた場合⇒本措置の適用外 ※この場合、「いつから廃盤となったか」が問題となりますが、実務的には、「レコード会社から小売店等に対して発した当該国内頒布目的商業用レコードの回収に係る通知に記載された受付開始日を当該廃盤の日とみなす。」とする扱いをしているようです。

[注] 「商業用レコード」について:
著作権法上、「商業用レコード」とは、「市販の目的をもって製作されるレコードの複製物」をいい(2条1項7号)、「レコード」とは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの」をいいます(2条1項5号)。これらの定義から、いわゆるレコード盤のみならず、カセットテープや音楽用CD、DVDオーディオなども法上の「商業用レコード」として扱われますが、一方、音が固定されているものであっても、パソコンやスマートフォンなどは、その中に固定されている音を市販することを主たる目的とするものではないため、法上の「商業用レコード」には該当しないと解されます。
[注] 「同一」の要件について:
本措置は、日本国内において先又は同時に発行されている国内頒布目的商業用レコードと「同一」の国外頒布目的商業用レコードに係る所定の行為を規制するものです。ここで、「同一」とは、商業用レコード全体として固定されている音が同一であれば足り、次のような事例においは、なお同一性の要件を満たすと解されます:
(a) ジャケットや歌詞カードなどの附属品だけが異なる場合
(b) 音楽CDとDVDオーディオの違いといった、音を固定する媒体のみが異なる場合
(c) 国外頒布目的商業用レコードにいわゆるボーナストラックが「1曲」だけ追加されている場合(これについては、当該国外頒布目的商業用レコードに対応する国内頒布目的商業用レコードの収録曲数が「12曲以上」である場合に限る、とする実務上の扱いがなされています)
一方、収録曲は同じでも、その曲順が異なる場合には、「同一」の要件を満たさないと解されます。

[要件②]

「情を知って」すなわち要件①の事実を知りながら、国外頒布目的商業用レコード輸入する行為等であること。
税関に対して行う侵害物品の輸入差止申立て等において、権利者サイドで相手方の「知情」を立証する必要があります。このため、権利者としては、国外頒布目的商業用レコードのジャケット等に「情(事情)」(要件①の事実)の内容を適当なやり方で明確に表示しておくことが実務上重要になります(この点、運用基準が用意されています。)。

[要件③]

国外頒布目的商業用レコード「輸入する行為」又は「所持する行為」については、日本国内での頒布目的をもってなされること。
日本国内での頒布目的の有無を判断するに当たっては、一般的に、当該輸入者等の業種や輸入物品の数量等を参考にしながら、個別具体的に判断されることになります。
なお、著作権法上、「頒布」とは、「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」をいい(法2条1項11号)、ここで、「公衆」には、不特定の者又は特定多数を含みますが、「特定少数」は法上の「公衆」の概念には含まれません(2条5項参照)。そのため、いわゆる個人輸入(個人が海外旅行先から、個人的な使用目的や身近な家族、ごく親しい友人などに贈る目的で日本国内に持ち込む行為)については、本措置は適用されません。

[要件④]

国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることによって、それと同一の国内頒布目的商業用レコードの発行により権利者が得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合であること。
ここで「(権利者が)得ることが見込まれる利益」とは、商業用レコードの売上高そのものではなく、いわゆるライセンス料(ロイヤリティー、使用許諾料)をさします。そして、実務上、国外頒布目的商業用レコード1枚当たりのライセンス料を、これと同一の国内頒布目的商業用レコード1枚当たりのライセンス料で除した数値が「0.6以下」である場合に、当該利益が「不当に」害されたものとして扱っています。
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国外頒布目的商業用レコード1枚当たりのライセンス料…(a)100円の場合 (b)150円の場合
国内頒布目的商業用レコード1枚当たりのライセンス料…200円
計算式:①÷②
(a)の場合:100÷200=0.5 ⇒「不当に害された」に該当
(b)の場合:150÷200=0.75 ⇒「不当に害された」に該当せず

[要件⑤]

「国内において最初に発行された日から起算して7年を超えない範囲内において政令で定める期間4年)を経過した」国内頒布目的商業用レコードには適用されないこと、つまり国内頒布目的商業用レコードが日本国内において最初に発行された日から起算して4年以内であること(但書参照)。



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