Baker v. Selden(1879)
アイディア-表現二分法”(idea-expression dichotomy)に関するリーディングケース)

事案の概要

本件は、「独自の簿記システム」(a peculiar system of bookkeeping)を解説することを目的とした一連の書籍に関して著作権の取得を主張するSelden側が、当該著作権の侵害を理由として、Baker(被告)を訴えた事案です。
原告サイド(Selden側)がその著作権を主張した一連の書籍は、当該簿記システムを説明した序論的文章、書式、罫線、見出しなどで構成されており、当該簿記システムの実際の使い方が実例をもって示されていました。この簿記システムは、複式簿記(double entry)を用いた場合と同様の結果をもたらすものでしたが、「独自の縦列[欄]の配置と見出し」(a peculiar arrangement of columns and headings)によって、1ページ又は見開き2ページに、1日、1週間、又は1カ月の全体の事業内容(収支)を示せるようになっていました。Baker(被告)は、その出版した書籍の中で、簿記の結果に関する限り同じような結果が得られる、Selden側の簿記システムと「似ているプラン[案・方針]」(a similar plan)を用いましたが、縦列[欄]については、Selden側の簿記システムとは異なった配置をし、また、見出しについても異なったものを使用しました。かりに、Selden側がその書籍の中で解説している「システムの利用」(the use of the system)に対する排他独占的権利を有するとすれば、Baker(被告)が当該権利を侵害していないと主張することは、たとえ異なった配置を用いていたとしても、難しくなります。逆に、もし当該システムが広く公共の自由利用に供されているとするなら、Baker(被告)によって出版された書籍がSelden側の書籍の著作権を侵害していると主張することは難しくなります。「科学上の真理」(the truths of a science)又は「技術・技芸のやり方[方法]」(the methods of an art)が世の中の共有財産となっている場合には、いかなる著作者も、彼自身のやり方で、それらを表現し、又はそれらを説明し、利用する権利を享有することになります。
Bakerは、Selden側の一連の書籍で解説され、実例が示されていたものと同じ「システム」を使っていました。本ケースにおける最大の論点は、Selden側が、その書籍の中で示されている「簿記のシステム又はそのやり方」(the system or method of bookkeeping)を利用することに対して排他独占的権利を有するか、という点です。
なお、本ケースの結論を先に言いますと、最高裁は、「空欄(白紙)の会計帳簿は、著作権の対象とはならない」(blank account books are not the subject of copyright)、並びに、Seldenの書籍の対する著作権は、同じようなシステム(プラン)を用いて会計帳簿を作成すること及びその利用をすることに対して、排他独占的権利をも付与するものではない、と認定しました。

重要判示部分

簿記をテーマ[主題]とした書籍は、たとえそれがすでに広く知られているシステムを説明的に記述するものに過ぎないであったとしても、著作権の対象となりうることに疑いはないが、その場合でも、あくまで書籍としての著作権を主張できるにとまる。… 医薬(新旧を問わない。)の組成と使用、すき、腕時計若しくは撹乳器の構造と使用に関する(専門)書籍、又は、絵を描いたり染色する際の色の混合と塗り方、遠近画法の効果を生み出すための線の引き方に関する(専門)書籍は、いずれも著作権の目的となるが、何人も、かかる(専門)書籍に対する著作権が、そこで述べられている技術(art)や製作方法(manufacture)に対する排他的権利をも与えていると主張することはできない。書籍に対する著作権は、それが他人の作品の著作権を侵害するものでなければ、そのテーマ[主題]に関するノベルティー[斬新さ・目新しさ・新規性]にかかわらず、すなわち、そのようなノベルティーが不足していても、有効である。記述され又は説明されている技術や物事のノベルティーは、著作権の有効性とは全く関係がないのである。書籍の著作者に、そこで述べられている技術に関する排他的な財産権を、そのノベルティー[新規性]に関する審査がいまだ公式に行われていない段階で、付与するならば、それは、公衆を驚かせるものとなるばかりか、一般大衆に対する詐欺的行為となり得る。それ(ノベルティー[新規性]に関する審査を行った上で排他的財産権を付与すること)は、特許の領域に属することがらであって、著作権の射程範囲ではない。技術や製作方法に関する発明や発見に対する権利主張は、その排他的権利が取得される前に、特許庁(the Patent Office)の審査を受けなければならず、政府からの特許付与によって初めて確保され得るものである。

There is no doubt that a work on the subject of bookkeeping, though only explanatory of well known systems, may be the subject of a copyright, but then it is claimed only as a book.… A treatise on the composition and use of medicines, be they old or new; on the construction and use of ploughs, or watches, or churns; or on the mixture and application of colors for painting or dyeing; or on the mode of drawing lines to produce the effect of perspective would be the subject of copyright; but no one would contend that the copyright of the treatise would give the exclusive right to the art or manufacture described therein. The copyright of the book, if not pirated from other works, would be valid without regard to the novelty, or want of novelty, of its subject matter. The novelty of the art or thing described or explained has nothing to do with the validity of the copyright. To give to the author of the book an exclusive property in the art described therein when no examination of its novelty has ever been officially made would be a surprise and a fraud upon the public. That is the province of letters patent, not of copyright. The claim to an invention or discovery of an art or manufacture must be subjected to the examination of the Patent Office before an exclusive right therein can be obtained, and it can only be secured by a patent from the government.

… ある種の混合薬[調剤医薬]が、治療(技術)を施す際に非常に有用であることがわかっている。もし、その混合薬の発見者が(普通の医者が一般的に行っているように)そのテーマに関して書籍を執筆してこれを出版しても、その者は、当該混合薬の製造や販売に対する排他独占的な権利は一切取得することはない。なぜなら、彼は、それを一般大衆に与えた(開放した)からである。その発見者が当該混合薬に対する排他独占的権利の取得を望むのであれば、彼は、物質の新規な技術、製造方法若しくは組成として、当該混合薬に対する特許を取得しなければならない。彼は、望めば、自身の書籍に対する著作権を主張することができるが、そのことは、彼に、その書籍の印刷及び出版にかかる排他独占的権利を保証するものに過ぎない。以上と同じようなことは、その他のあらゆる発明や発見に関しても当てはまる。

… Certain mixtures are found to be of great value in the healing art. If the discoverer writes and publishes a book on the subject (as regular physicians generally do), he gains no exclusive right to the manufacture and sale of the medicine; he gives that to the public. If he desires to acquire such exclusive right, he must obtain a patent for the mixture as a new art, manufacture, or composition of matter. He may copyright his book if he pleases, but that only secures to him the exclusive right of printing and publishing his book. So of all other inventions or discoveries.

我々の目の前にあるケースに話を戻すと、Seldenは、その書籍によって、独自の簿記システム(a peculiar system of bookkeeping)を説明し、記述し、並びに、1ページ又は見開きのページに、固有の[独自の]見出しをもって、罫線と空欄の縦列を用いて、その方法(method)の実例を示したことがわかる。さて、いかなる者も、Seldenの書籍、すなわち、当該(簿記システムの)技術の指導を伝えることを意図した書籍としてのその実質的で重要な部分を印刷又は出版する権利を持つことはないが、一方、いかなる者も、Seldenがその書籍の中で解説した当該技術それ自体を実践し及び利用することができるのである。技術を利用することは、それを説明する書籍を出版することとは全く別物である。簿記に関する書籍の著作権は、その中で述べられているプラン[案・方針]に基づく会計帳簿を作成し、販売し、及び利用する排他独占的権利を保証するものではない。… そして当然のことながら、当該(簿記システムの)技術を利用するに際しては、会計帳簿の罫線や見出しは、その技術に付随するものとして、必然的に[どうしても]使われなければならないものである。

Recurring to the case before us, we observe that Charles Selden, by his books, explained and described a peculiar system of bookkeeping, and illustrated his method by means of ruled lines and blank columns, with proper headings on a page or on successive pages. Now whilst no one has a right to print or publish his book, or any material part thereof, as a book intended to convey instruction in the art, any person may practice and use the art itself which he has described and illustrated therein. The use of the art is a totally different thing from a publication of the book explaining it. The copyright of a book on bookkeeping cannot secure the exclusive right to make, sell, and use account books prepared upon the plan set forth in such book. … And of course, in using the art, the ruled lines and headings of accounts must necessarily be used as incident to it.




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