[c006]ドキュメンタリー映画の完成に向けた覚書の解釈が争われた事例
平成20年07月16日東京地方裁判所[平成19(ワ)11418]

【コメント】
本件は,「本件映画」の製作に参加した原告が,本件映画の製作に参加した被告乙及び同人が代表取締役を務める被告株式会社日本映像民俗社(「被告映民社」)に対して,同人らの間でした合意に基づき,①本件映画のプリント,ネガ原版及びその素材(残ネガ,音素材,サウンドテープ及びスチール写真を含む。以下同じ。)の使用の差止め,②本件映画のプリント,ネガ原版及びその素材の一切を撮影の現場となった沖縄県の久高島(現在は同県南城市所在,以下同じ。)の地域住民の自治組織である久高区(所在地が沖縄県南城市知念字久高231番地2,区長・丙。以下,単に「久高区」という。)に交付すること,及び③本件映画のプリント,ネガ原版などを使用して作成したDVD原版及び製品を廃棄することを,それぞれ求めている事案です。
本件における「争いのない事実等」として、以下参照:
() 原告及び被告乙を含む撮影スタッフは,久高島の年中行事や祭りを題材としたドキュメンタリー映画(本件映画)を製作することになり,同人らは,昭和53年1月ころから昭和54年1月ころまでの間に,その撮影をした。
() 上記撮影が終了した後,上記撮影スタッフは,撮影したフィルムを編集し,本件映画を完成させることになり,同作業に入るに当たって,まず,本件映画の著作権の帰属主体となるべき法人を設立することにした。このようなことから,同年2月26日,被告映民社が設立され,原告は同社の代表取締役に,被告乙は同社の取締役に,それぞれ就任した。
ところが,原告と被告乙との間で紛争が生じ,本件映画の編集作業は中断した。その間,原告は,被告映民社の代表取締役及び取締役を退任し,被告乙が被告映民社の代表取締役に就任した。
() 原告及び被告乙は,昭和57年12月30日,本件映画を完成させることを目的として,本件映画の製作方法等についての覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わして合意(以下「本件覚書合意」という。)をした。
本件覚書に署名した者は,原告,被告乙及び丁のみであり,丁は,仲介者として署名した。本件覚書には,次のとおりの条項(以下「本件条項」という。)が記載されている。
本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。完成した映画のプリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」
() 本件映画は,昭和59年7月ころ完成した。

【裁判所の判断】
1 本件紛争の経緯
(略)
2 被告乙に対する請求の可否について
(1) 本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めを請求することの可否について
原告は,本件覚書の本件条項を根拠に,被告乙に対し,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めを請求している。
しかしながら,本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,「本映画は,映画製作に携わった何人も,版権,著作権,所有権,利用権を主張しない。」というものであり,この記載に基づいて,被告乙が,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を使用しないという具体的な義務を負わされたものと解釈することは困難であり,他にこの解釈を首肯し得るに足る証拠もないから,原告の上記主張は失当といわざるを得ない。
したがって,原告が,被告乙に対して,本件条項に基づき,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めを請求することはできないというべきである。
(2) 本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を,久高島の地域住民の自治組織である久高区に交付するよう請求することの可否について
原告は,本件条項を根拠に,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を,地域住民の自治組織である久高区に交付するよう請求している。
しかしながら,本件条項のうち原告の上記請求部分を基礎付ける記載は,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,「完成した映画プリント,原版およびその素材は,後世沖縄久高島の研究に役立たせるために,久高島ないししかるべき公の機関に提供するものとする。それをどこにすべきかは,実行委員会が甲,乙を加えて協議し,趣旨にかなった最善の措置を決める。」というものであり,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先としては,久高島の自治組織である久高区又は適切な公的機関と例示するのみで,具体的な提供先を規定せず,具体的な提供先は,本件映画実行委員会,原告及び被告乙の協議によって決定するという内容であることが明らかである。
そして,本件において,本件映画のプリント,ネガ原版等の提供先をいずれにするかについて,原告及び被告乙の間では争いがあり(弁論の全趣旨),また,前記1で認定したとおり,上記の者の間でその協議も持たれていないのであるから,本件条項に規定された本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の提供先が久高区に特定されたものということはできない
したがって,被告乙が,本件条項により,本件映画のプリント,ネガ原版等を久高区に交付すべき義務を負っているということはできず,原告の上記の請求を認めることはできない。
(3) 以上のとおり,原告は,被告乙に対して,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止め,並びに本件映画のプリント,ネガ原版及び素材を久高島の地域住民の自治組織である久高区に交付することを請求することはできない。
3 被告映民社に対する請求の可否について
(1) 原告は,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止めと,本件映画のDVD原版及びDVD製品の廃棄を請求している。
しかしながら,前記争いのない事実等及び前記1で認定したとおり,本件覚書には,契約当事者として,原告及び被告乙の署名,押印が存するのみであり,被告映民社の記名捺印はなく,他に被告映民社が本件覚書合意の当事者であったと認めるに足る証拠はないのであるから,被告映民社が本件覚書合意に基づき,何らかの債務を負担することはないというべきである。
(2) この点,原告は,仮に,被告映民社が本件覚書合意の当事者でないとしても,被告映民社が,そのことを理由として本件覚書合意に拘束されないと主張することは,法人格の濫用,信義則違反又は権利の濫用である旨主張するが,本件全証拠によるも,原告の上記主張を基礎付ける事実を認めるに足りず,原告の上記主張は理由がない。
(3) したがって,原告は,本件覚書合意に基づき,被告映民社に対して,本件映画のプリント,ネガ原版及び素材の使用の差止め,並びに本件映画のDVD原版及びDVD製品の廃棄を求めることはできない。

コンテンツ契約トラブル事例集 トップ 


     Kaneda Copyright Agency
     カネダ著作権事務所


      Home  メール相談  契約マネジメント  文化庁登録マネジメント  侵害対応マネジメントその他 
      アメリカ著作権局登録マネジメント  著作権判例エッセンス