[c011]譲渡契約における「放送権」の意味が争われた事例
平成14年10月24日東京地方裁判所[平成12(ワ)22624]/平成15年08月07日東京高等裁判所[平成14(ネ)5907]≫

【コメント】
本件甲事件における原告の主張は,①被告ピープロは,その著作に係る「『電人ザボ ーガー』第1話~第52話」,「『風雲ライオン丸』第1話~第54話」及び 「『快傑ライオン丸』第1話~第25話」(以下,これらを併せて「本件作品」と 総称する。)につき,有線放送権を含めたすべての放送権を原告に譲渡する旨の契約を締結して,原告に対して,本件作品のこれらの権利を譲渡するとともに,別紙記載の本件作品の複製物であるプリント等の素材(以下「本件複製物等」という。)の所有権を併せて譲渡した,②しかるに,被告ピープロは,被告キッズに対して,原告所有に係る本件作品のプリント等の素材を原告に無断で交付し,被告キッズが本件作品を衛星放送及び有線放送し,もって原告の放送権を侵害したものであって,被告キッズ,被告ピープロ及びその代表者の被告Aの共同不法行為である,というものです。上記主張に基づき,原告は,被告らに対し連帯して損害賠償金1500万円を支払うことを求めるとともに,被告ピープロに対して所有権に基づき本件複製物等の引渡しを求めています。これに対し被告らは,本件契約で譲渡した放送権は,地上波による放送のみを対象としたものであって,衛星放送についての放送権及び有線放送権は含まれていないなどと主張し,被告キッズは,同被告は被告ピープロから本件作品を衛星放送及び有線放送する許諾を得ているから,仮に原告がその主張する内容の放送権を取得していたとしても,対抗要件なくしては,被告キッズに対してその権利を主張できないところ,原告は本件作品につき放送権取得の著作権登録を経ていないから本件作品につき放送権を有することを同被告に対して主張できない,などと主張して,原告の請求を争っている事案です。
本件で問題となった、原告と被告ピープロとの間の「本件契約」の内容は概ね次の通りでした:
『原告は,昭和53年,被告ピープロ,同Aとの間で以下の条項を含む内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した(契約書の契約締結日欄には「昭和53年」とのみ記載されており,詳しい締結日は不明である。)。
ア 被告ピープロは原告に対し,本件作品の著作権のうち日本国内全域における放送権を譲渡する。ただし,原告は同権利を「電人ザボーガー第1話~第52話」については昭和57年10月29日まで,「風雲ライオン丸第1話~第54話」,「快傑ライオン丸第1話~第25話」については昭和55年4月30日までは行使せず,上記各期日まで被告ピープロが第三者をして本件作品を放送させることを許諾する(本件契約2条)。
イ 原告は被告ピープロに対し,第2条による本件作品の著作権の一部譲渡の対価として1000万円を支払う(本件契約4条)。
ウ 被告ピープロは原告の放送権を容易ならしめ,かつ第三者による侵害を阻止するため,第2条記載の各期日の3日前までに,可及的速やかに本件作品の各話131話分の日本国内に存在するあらゆるプリントを原告に対し引き渡さねばならない(本件契約5条)。
エ ①被告ピープロは本件契約に基づく被告ピープロの債務を担保するため,本件作品のネガフイルム,インターネガ等作品に関連するフイルム類一切の所有権及び占有を原告に移転する。但し,原告は被告ピープロが当該フイルム類を原告の第2条による権利の行使及び保全を妨げない範囲で自己の費用で利用することを許可せねばならない(本件契約7条1項)。②前項に基づくフイルム類の所有権は本件契約の日付をもって移転するものとし,フイルム類の占有の移転のため,被告ピープロはフイルム類を東京都港区(以下略)原告フイルムライブラリー又は原告の指定する場所に納入せねばならない(本件契約7条2項)。
オ 被告ピープロは,本件作品の放送権の原告への譲渡に関連し,被告ピープロが保有する本件作品の著作権(原告に譲渡した部分を除く)の利用管理を原告に委託し,原告はこれを受諾した。受託条件,費用,利用方法は原告・被告ピープロ間で別途協議して定める(本件契約9条)。
カ ①被告Aは被告ピープロの本件契約に基づく債務につき,原告に対して被告ピープロと連帯してその支払の責に任ずる(本件契約11条1項)。②被告ピープロ及び被告Aは,本件契約上の債務につき,執行認諾約款付公正証書を作成することに同意し,原告より要請ある場合はそのため必要な委任状 及び印鑑証明書を原告に速やかに交付せねばならない(本件契約11条2項)。

【裁判所の判断(地裁)】
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,甲事件については,本件契約により被告ピープロから原告に対し譲渡された本件作品の「放送権」には,有線放送及び衛星放送を行う権利は含まれないから,原告は,被告らに対して,放送権の侵害を理由とする損害賠償を求めることはできない②原告は,被告ピープロに対して,所有権に基づいて本件複製物等の引渡しを求めることもできない,と判断する。(略)
その理由は,以下に述べるとおりである。
2 争点1(本件契約により被告ピープロから原告に対し譲渡された本件作品の「放送権」には,有線放送及び衛星放送を行う権利が含まれるか)について
(1) 
本件契約2条に定められた「放送権」に有線放送及び衛星放送を行う権利が含まれるかどうかは,当該契約の当事者である原告と被告ピープロ及び同Aの契約の際の意思内容により決するものであるが,その意思内容を判断するに当たっては,本件契約2条の契約書の条項全体との関係,対価との相当性,契約締結当時における著作権法の規定,有線放送・衛星放送の状況や業界慣行等の諸事情に加えて,本件契約締結に至った経緯や本件契約締結後における契約当事者の行動内容等をも総合的に考慮して判断するのが相当である。
(2)前記「前提となる事実等」欄記載の事実に(証拠等)を総合すれば,原告は,昭和53年,被告ピープロ,同Aとの間で本件契約を締結したこと,本件契約の契約書においては,前記「前提となる事実等」欄記載の各条項,特に,「被告ピープロは原告に対し,本件作品の著作権のうち日本国内全域における放送権を譲渡する。」(本件契約2条),「原告は被告ピープロに対し,第2条による本件作品の著作権の一部譲渡の対価として1000万円を支払う。」(本件契約4条)という条項が存在することが認められるから,本件契約においては,被告ピープロが原告に対し,1000万円を対価として「本件作品の著作権のうち日本国内全域における放送権」が譲渡されたものと認められる。しかし,本件契約の契約書には,「放送権」の意義を定めた条項は存在しない
(略)
(5) 上記の(2)~(4)によれば,本件契約の「放送権」の文言については,契約書中に定義されていないので,契約の際の当事者の合理的意思を認定すべきところ,本件契約において対価として定められた1000万円という金額で,本件作品131話分すべてにつき,特に放映条件,放映期間の定めなく地上波放送のみならず衛星放送及び有線放送を行う権利も譲渡したと解することは,その前後における契約での対価の額とあまりにかけ離れたことになり,また,本件契約締結当時の著作権法が「放送」と「有線放送」とを明確に区別して規定していること,有線放送については本件契約締結当時既に地域メディアとしての機能を果たす規模で行われていたものの,大勢としては難視聴地域の解消のための無線放送の同時再送信を行うものが多かったこと,衛星放送については放送自体がまだ行われていなかったことが,それぞれ認められる。また,被告Aは,本人尋問において,本件契約の締結の際には,有線放送,衛星放送については認識になかった旨を明確に供述しているものであって,これらの事情を総合すれば,本件契約の「放送権」は地上波放送のみを指すものであって,有線放送や衛星放送を行う権利は含まれていないと解するのが,契約当事者の意思に合致するというべきである。
そもそも原告は,本件契約において,有線放送を行う権利をも譲渡の対象にしたいと考えていたのであれば,契約書に「放送権」とのみ記載するだけでなく,有線放送を行う権利も譲渡対象となっている旨を明記することが容易にできたはずであるのに,それをしていないのであって,この点に照らしても,本件契約の対象については,上記のように認定するのが相当である。
(6) この点について,原告は,本件契約締結時,被告ピープロは資金的に切迫した状況にあったから,譲渡の対象の権利を拡大してでも本件契約を締結して1000万円の対価を得たいと考えており,原告としても本件作品について譲り受ける権利を最大限にしたいと考えていたものであるから,本件契約の対象には,有線放送及び衛星放送を行う権利が含まれていると主張し,それを根拠づける事情として,本件作品の著作権については既に2社が権利を有しており,それらの会社の権利が消滅して初めて原告が権利行使することができるものであったこと,被告ピープロの代表者である被告Aは本件契約の締結を必死に懇願し,本件作品について「ネガごと」譲渡することや著作権のうち譲渡しない部分についても利用管理権を与えることを提案して本件契約締結に至ったこと,原告は本件契約締結後第三者に本件作品の有線放送を許諾したが,被告ピープロの代表者である被告Aは異議を述べなかったこと,日常用語の「放送」は有線放送,衛星放送を含むものとして使用されていることを主張する。
しかしながら,たしかに証拠(被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約締結当時,被告ピープロが資金的に逼迫していたことは認められるものの,上記(3)に認定したように1000万円という対価は有線放送を行う権利及び衛星放送を行う権利をも対象として譲渡したというには低廉にすぎる金額であるし,本件作品について既に2社の権利が設定されているといっても,それは原告の権利行使の始期が繰り下がるということにすぎない。原告による第三者への本件作品の有線放送の許諾についても,被告Aがこれを知っていたと認めるに足りる証拠はない。また,日常用語の「放送」の意味するところのみをもって,本件契約における「放送権」の語の意義を決することができないことも明らかである。
(略)
3 以上によれば,争点2~5について判断するまでもなく,甲事件のうち原告の被告らに対する1500万円の損害賠償請求については,理由がない。
4 争点6(原告は,被告ピープロに対して,所有権に基づき本件複製物等の引渡しを求めることができるか)について
(1)前記「前提となる事実等」欄記載の事実によれば,本件契約の7条1項には,「被告ピープロは本件契約に基づく被告ピープロの債務を担保するため,本件作品のネガフイルム,インターネガ等作品に関連するフイルム類一切の所有権及び占有を原告に移転する。但し,原告は被告ピープロが当該フイルム類を原告の第2条による権利の行使及び保全を妨げない範囲で自己の費用で利用することを許可せねばならない。」と規定されている。また,(証拠等)によれば,被告ピープロは,実際に約10回にわたって本件作品のネガフイルム等を原告から借り出し,海外売りやレーザーディスク,ビデオの製作,第三者に対する本件作品のキャラクターの利用許諾などを行ったことが認められるところ,そうした被告ピープロの行為に対して原告が異議を述べた形跡は何ら窺われない。
(2)上記によれば,本件契約7条1項本文には「本件契約に基づく被告ピープロの債務を担保するため」と明確に記載されており,また,同項但書によれば,原告は,同項に基づいて被告ピープロから占有の移転を受けたネガフイルム等については,同被告の利用が可能なようにこれを保持する義務を負い,これを毀滅したり,第三者に譲渡することなどはできないものであるから,本件契約7条1項の趣旨は,原告による地上波放送の便宜と本件作品が第三者により放送されることを防止するための担保として,ネガフイルム等を原告において保管することを約したものにすぎず,これらのネガフイルム等の所有権を原告に移転することを定めたものではないと解するのが相当である。
(3)以上によれば,甲事件において,本件契約7条1項に基づいて本件複製物等の所有権を取得したとして,被告ピープロに対して,所有権に基づく物上請求として本件複製物等の引渡しを求める原告の請求は,本件複製物等が本件契約7条1項に定める対象に含まれるかどうかを判断するまでもなく,その前提を欠くものであって,理由がない。

【裁判所の判断(高裁)】
第4 当裁判所の判断
1 損害賠償請求について
当裁判所も,原判決と同じく,衛星放送権も有線放送権も,本件契約において譲渡の対象とされた「放送権」に含まれていると認めることができず,控訴人の放送権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がない,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第3 当裁判所の判断」のうち,(所定箇所)に記載のとおりであるから引用する。
(1) 本件契約書第2条は,
「乙(判決注・被控訴人ピープロ)は甲(判決注・控訴人)に対し,作品(判決注・本件作品)の著作権のうち,下記の権利を本書の日付をもって譲渡する。「作品の日本国内全域における放送権」・・・」
と規定している。
ここにいう「放送権」を,どのような意味内容を有するものと解釈すべきか,が本件における最大の争点である。
本件契約書中には,「放送権」の意味についての定義規定はない。そのため,この解釈に当たっては,著作権法の関連規定の内容,関連する事項についての,本件契約を締結した当事者の意思,本件契約に至る経緯等を総合的に考慮する必要がある。
本件契約は,昭和53年(月日は不明)に締結されたものである。著作権法は,本件契約成立後,現在までの間に,何度かの改正を経ている。本件契約締結当時の著作権法(昭和53年法律第49号(昭和53年10月14日施行)による改正前後の著作権法)は,①「放送」の語(公衆によって直接受 信されることを目的として無線通信の送信を行うことをいう。同法2条1項8号) と「有線放送」の語(公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信・・・を行うことをいう。同17号)とを,別個に定義している。②同法23条1項は,(放送権,有線放送権等)の表題の下に,「著作者は,その著作物を放送し,又は有線放送する権利を占有する。」と規定している。③同法29条2項は,「もっぱら放送事業者が放送のための技術的手段として製作する映画の著作物・・・の著作権のうち次に掲げる権利は,映画制作者としての当該放送事業者に帰属する。一その著作物を放送する権利及び放送されるその著作物を有線放送し,又は受信装置を用いて公に伝達する権利」と規定している。④同法39条1項は,新聞紙又は雑誌に掲載された政治上,経済上又は社会上の時事問題に関する論説・・・は,他の新聞若しくは雑誌に転載し,又は放送し,若しくは有線放送することができる。」と規定している。これらの規定によれば,本件契約成立当時の著作権法は,「放送」の語を,無線通信の送信を行うことを意味する語として,「有線放送」の語と明確に区別し,著作物を「放送」する権利である「放送権」を,「有線放送する権利」である「有線放送権」と,明確に区別して用いている,ということができる。
(証拠)によれば,我が国で衛星放送が開始されたのは,平成元年6月であり,本件契約成立当時は,衛星放送技術試験の実験が開始されたばかりの段階にすぎなかったことが認められる。
上に認定したところによれば,本件契約にいう「放送権」の語に,当然に「有線放送権」及び「衛星放送権」が含まれている,と解することができないことは,明らかというべきである。控訴人は,「衛星放送権」は,著作権法上無線放送の一つであるから,当然に「放送」の概念に含まれる,と主張する。しかしながら,ここでの問題は,本件契約における「放送権」の語の解釈である。著作権法において,衛星放送が無線放送の中に入るとしても,そのことから,直ちに,本件契約が締結された昭和53年当時に行われていなかった衛星放送も,本件契約の対象とされていた,ということになるわけのものではないことは,論ずるまでもないことである(逆に,著作権法において,「放送」の中に有線放送は入らないものとされているということだけで,有線放送は本件契約の対象外である,ということになるわけのものでもないことも,当然である。)。
本件契約は,被控訴人ピープロの有する本件作品の著作権の一部である「放送権」を,特に放送条件,放送期間の定めなく譲渡することを内容とするものであり,本件作品の著作権に極めて重大な制限を加えるものであるから,その譲渡対象の範囲の認定は厳格に行い,一定以上の疑問が残るものについては範囲に入らないとするのが,著作権法の立法趣旨に合致する契約解釈である,というべきである。
これを前提にした場合,上に認定した事情の下で,本件契約にいう「放送権」に「有線放送権」あるいは「衛星放送権」が含まれている,というためには,それを認めるに足るだけの相当に積極的な根拠が必要であり,趣旨が明確でない場合には,限定的に解釈するのが相当である,というべきである。
(2) そこで,原告の主張を認めるに足る積極的な根拠が認められるか否かについて検討する。
本件契約締結時における関連する事項についての当事者の意思についてみる。
衛星放送権についてみると,我が国で衛星放送が初めて行われたのは,本件契約が締結されてから約10年後のことであることは上記認定のとおりである。このような客観的な事情に照らすと,本件契約成立当時,当事者は,衛星放送を少なくとも具体的なものとしては契約対象として念頭に置いていなかったとみるのが合理的である。
(略)
有線放送権についてみると,本件全証拠を検討しても,本件契約締結時において,当事者間で,「放送権」に「有線放送権」を含めるか否かについてこれを明示した話合いが行われた形跡は認められない。かえって,本件契約当時,少なくとも,著作権法上は,既に「放送」とは明確に区別されたものとして「有線放送」の概念があったにもかかわらず,本件契約に「有線放送」の文言が全く入っていないのは,本件契約締結時において,「有線放送」について明示の話合いが行われていなかったことを裏付けるとの見方も,十分にあり得るところである。
控訴人は,本件契約当時の著作権法99条が,「放送事業者は,その放送を受信してこれを再放送し,又は有線放送する権利を専有する。」と規定していることを根拠に,放送事業者が無線放送の許諾を受けた場合には,特別の留保のない限り,有線放送の許諾も受けたことになるとし,本件契約においても,有線放送権を留保することを明示していない以上,有線放送権も譲渡の対象となっていると解すべきである,と主張する。しかしながら,控訴人が,本件で有線放送権侵害として問題にしているのは,原送信として有線放送を行うことを許諾した行為である。著作権法99条が放送事業者に認めた有線放送する権利とは,放送事業者が自ら送信し受信した放送を有線放送する権利(再送信権)にすぎない。放送事業者が同条項に基づく再送信権を有するからといって,本件契約において,本件作品の無線放送権の譲渡に伴い当然に,原送信として有線放送を行う権利も譲渡の対象とされたことになるわけのものでないことは明らか である。著作権法99条は,本件契約において有線放送を行う権利が譲渡の対象となることの根拠とはなり得ないものというべきである。
控訴人は,本件契約当時,著作者は,無線放送許諾に当たり,有線放送をも許諾するという慣行があった,と主張する。しかしながら,仮に,当時,著作者が,無線放送許諾に当たり,付帯して有線放送をも許諾する例が相当数あったとしても,それだけで,著作者は,無線放送許諾に当たり,特に留保しない限り,有線放送の許諾をもしたことになる,というわけのものではない。そして,著作者は,無線放送の許諾に当たり,特に留保しない限り,有線放送の許諾をもしたことになる,との扱いを正当化するほどの状況(慣行)が存在したことは,本件全証拠によっても認めることができない。
(略)
以上のとおり,本件契約当時の当事者の意思をみても,本件契約における「放送権」に「衛星放送権」及び「有線放送権」を含むと解するだけの積極的な根拠となるものを見いだすことはできないというべきである。
次に,本件契約に至る経緯についてみる。
(証拠)によれば,本件契約当時,被控訴人ピープロは資金繰りに窮していたこと,このため,被控訴人ピープロが控訴人に資金提供を求めた結果,本件契約が締結され,被控訴人ピープロが控訴人に本件作品の著作権のうち日本国内における放送権を譲渡する対価として,控訴人から被控訴人ピープロに対し1000万円が支払われたこと,本件契約においては,被控訴人ピープロは,控訴人に対し,本件作品に関するネガフィルム等のフィルム類一切の所有権及び占有権を移転するものとされていること(本件契約書第7条),被控訴人ピープロは,本件作品の著作権のうち控訴人に譲渡した部分以外の部分について,控訴人にその利用管理を委託するものとしていること(本件契約書第5条)が認められる。
上記認定によれば,本件契約成立のころ,被控訴人ピープロが資金繰りに窮していたこと,そのため,本件契約成立に至る交渉において,控訴人は,被控訴人に対して相当に強い立場に立ち得る状況にあったことは,明らかである。しかし,これらの事情は,本件契約の対象に衛星放送権及び有線放送権を含むあらゆる種類の放送についての権利が含まれるための条件の一つが存在したことを意味するものとはなり得ても,直ちに,本件契約の対象に衛星放送権あるいは有線放送権が含まれると解すべき積極的根拠となるとまでは評価することができない。
(略)
本件契約における放送権譲渡の対価の額(1000万円)も,「放送権」に「衛星放送権」及び「有線放送権」が含まれると解する積極的な根拠となり得るものでないことは,明らかである。
他に,本件契約における「放送権」に「衛星放送権」及び「有線放送権」を含むと解するに足るだけの積極的な根拠は,本件全証拠を検討しても見いだすことはできない。
弁論の全趣旨によれば,控訴人は,放送に関連する業務を行う株式会社であることが認められる。このような控訴人にとって,本件契約を締結する際に,本件作品の放送に関するすべての権利を譲り受けようとするのであれば,本件契約書にその趣旨を明記することは容易であったはずである。すなわち,本件契約当時の著作権法上,「放送」とは別に「有線放送」の概念が明記されていたのであるから,本件契約による譲渡の対象に有線放送を含めるのであれば,そのことを契約書に明記することは十分に可能であったということができる。また,本件契約当時に衛星放送が行われていなかったとしても,将来発生する放送形態をも含め放送に関するすべての権利を含み得るように,契約書上に明記することも十分に可能であったというべきである。前記のとおり,本件契約成立に至る交渉において,控訴人は,被控訴人ピープロに対して相当に強い立場に立ち得る状況にあったのであるから,控訴人が,上記のことを契約書に明記させることは極めて容易であったということができる。それにもかかわらず,本件契約書には,そのことが明記されていないのであるから,そのことによって生じた不明確さによる不利益は控訴人において甘受すべきである,といわれても,やむを得ない,いうべきである。
(3)  上述のとおり,「衛星放送権」も,「有線放送権」も,本件契約における「放送権」に含まれると認めることはできないから,放送権侵害を理由とする控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。これと同旨の原判決は,正当である。
2 本件動産の引渡請求について
当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の本件動産の引渡請求は理由がない,と判断する。その理由は,次のとおりである。
本件契約書第7条は,
「1 乙(判決注・被控訴人ピープロ)は本契約に基づく乙の債務を担保するため,作品のネガフイルム,インターネガ等作品に関連するフイルム類一切の所有権および占有を甲(判決注・控訴人)に移転する。但し,甲は乙が当該フイルム類を甲の第2条による権利の行使および保全を妨げない範囲で自己の費用で利用することを許可せねばならない。
2 前項に基づくフイルム類の所有権は本契約の日付をもって移転するものとし,フイルム類の占有の移転のため,乙はフイルム類を東京都港区東北新社フイルムライブラリー又は甲の指定する場所に納入せねばならない。乙がフイルム類を第三者に保管せしめているときは,乙は甲の承諾を得たうえ上記の納入に代えて乙よりかかる第三者に対し,以降甲のためにのみフイルム類を有すべきことを指示し,第三者が,かかる指示を承諾した旨の書面を甲に交付することができる。」
と規定している。
控訴人が,本件契約に基づき,被控訴人ピープロから本件作品に関するフィルム類一切の所有権の移転を受けたことは,同条の規定するところから明らかであるというべきである。
同条1項本文には,本件作品に関するフィルム類一切の所有権を移転する目的は,被控訴人ピープロの控訴人に対する債務を担保するためであることが記載されている。また,同項ただし書には,控訴人は,控訴人の権利行使及び保全を妨げない範囲で,上記フィルム等を被控訴人が利用することを許可しなければならないとされている。しかしながら,上記フィルム類の権利移転の目的が債務担保のためであることや,控訴人による同フィルム類に対する権利行使に対し一定の制約が課せられていることは,いずれも,上記第7条1項の解釈として,上記の制約の付された所有権が控訴人に移転すると解することを何ら妨げるものではない。上記の点は,本件契約書第7条1項の明文の規定に反して,上記フィルム類の所有権が控訴人に移転しないと解する根拠としては十分でない,というべきである。
原判決が,本件契約が上記フィルム等の所有権を控訴人に移転するものではない,としたのは誤りである。この点において,当裁判所は,原判決と見解を異にする。
しかしながら,本件全証拠を検討しても,被控訴人ピープロが本件作品のフィルム等,本件動産を現に占有していることを認めることはできない。控訴人の本件動産の引渡請求は,結局,理由がないことに帰する。
第5 結論
以上によれば,控訴人の甲事件請求をすべて棄却した原判決は正当である。

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