[c013]翻案権留保の「推定」(法61条2項)が覆された事例
平成18年08月31日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10070]≫

【コメント】
本件は,振動制御システム(「被控訴人製品」)を販売する被控訴人の行為が,振動制御器F3に組み込まれているソフトウェアプログラム(本件プログラム)につき控訴人が有する翻案権を侵害しているとして,控訴人が,被控訴人に対し,著作権法112条1項に基づき被控訴人製品の頒布等の差止めを求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日からの年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案です。

【裁判所の判断】
3 争点2(本件プログラムの翻案権の帰属)について
(1) 控訴人は,控訴人従業員のAがプロジェクトマネージャーとなり,本件プログラムが作成されたこと,控訴人と被控訴人は,遅くとも,平成4年のライセンス料支払開始時までに,著作権の帰属に関する契約内容の実質的な変更に合意し,控訴人が,開発されたプログラムの著作権を有し,被控訴人はライセンス料を支払うという合意が成立したこと等を挙げて,控訴人が本件プログラムの翻案権を有する旨主張する。
(略)
(2) そこで,控訴人の上記主張について検討すると,本件プログラムは,F3契約に従い,被控訴人からの委託を受けて,控訴人の発意に基づき,控訴人従業員のAら(以下「控訴人従業員ら」ということがある。)が職務上作成に当たってこれを完成させたものであり,作成されたプログラムについては,著作権法15条2項に該当することが明らかであるから,別段の定めがない限り,それを開発した控訴人従業員らの使用者である控訴人にプログラムの著作権が認められる。
しかしながら,92年基本契約及び94年基本契約には,控訴人と被控訴人間の契約に基づき開発されたソフトウェアの著作権は被控訴人に帰属するという条項(第16条)があるほか,上記1(3)オのとおり,本件プログラムに係る個別契約であるF3契約にも,「第7条〔著作権〕当該製品開発過程で生じる著作権の対象となりうるものは,甲(注,被控訴人)に帰属するものとする。」との条項がある。これは,上記1(2)のF3契約締結に至る交渉経過にかんがみると,被控訴人の委託により控訴人が開発したプログラムであっても,その著作権を当然に控訴人が被控訴人に譲渡する趣旨のものであると認められる。
したがって,本件プログラムについて,控訴人従業員らが果たした役割や被控訴人の開発能力の有無にかかわらず,上記契約によれば,本件プログラムの著作権は,被控訴人が有することは明らかである。控訴人従業員らが果たした役割等を根拠として,著作権が控訴人にあることをいう控訴人の主張は,控訴人従業員らが果たした役割を検討するまでもなく,失当である。
(略)
(3) 控訴人は,F3契約以前から,被控訴人は,控訴人に対して控訴人開発のプログラムの開発費が支払えず,控訴人が開発したプログラムについて,控訴人が著作権等を有することを前提として,「製造ライセンス料」が被控訴人から控訴人に対して支払われるようになっていたことを根拠として,控訴人と被控訴人間の契約書の文言にかかわらず,控訴人から被控訴人に対し,開発されるプログラムの著作権の譲渡がされないとの合意が,当事者間において,遅くとも平成4年までにされていたとし,本件プログラムの翻案権を含む著作権が控訴人にある旨主張する。
しかし,F3契約について,上記1(2)のとおり,控訴人と被控訴人の間で,内容についての交渉が行われ,双方が意見を述べるなどして条項が定まったものであるが,その交渉経過に照らしても,著作権の帰属に係る条項につき,当事者間で契約文言と異なる合意がされた事情は全く見当たらず,契約文言と異なる解釈をすべき理由は見いだすことができない。かえって,控訴人自身が,交渉において,「F3はメーカであるIMV殿の所有する製品であり,・・・」,「製品所有者たるIMV殿の主権」と述べているように,控訴人は,交渉過程において,その開発したプログラムについて,被控訴人の支配権を認め,その旨を被控訴人にも明らかにしていたのであり,同プログラムの著作権は当然に被控訴人が有することを前提として交渉し,その旨を被控訴人に表明していたことが認められる。
なお,確かに,F2に関して,製造ライセンス料という名目で被控訴人から控訴人に対し金員が支払われていることは認められるが,「製造ライセンス料」という文言のみで,直ちに著作権の帰属が決定されるものではない。「製造ライセンス料」の支払が定められた平成2年のG1・G2契約においても,プログラムの著作権については,被控訴人が有することが明確に定められ,その後に締結された92年基本契約,94年基本契約においても,被控訴人の委託により開発したプログラムの著作権が被控訴人に帰属することが明確に記載されていることは,上記(2)のとおりである。したがって,従前,控訴人が開発したプログラムの著作権を被控訴人が取得する旨の契約条項があったところ,その後に,ライセンス料の支払がされるようになり,著作権の帰属について新たな合意がされたことをいうと解される控訴人の主張は,時間的な関係が事実と齟齬するものであり,主張の前提を欠く。そして,一般的には,「ライセンス料」は,その製造に係る権利を有しているライセンサーが受け取る金員であるが,本件においては,前記1(1)イのとおり,被控訴人内部では,控訴人が製造することを放棄する対価として与えられる金員との認識を有していたこと,控訴人もこれを暗黙のうちに了承していたことをうかがうことができるのであって,「ライセンス料」という語句を使用したことにより控訴人の権利を推認させるものではないし,特に,F3契約交渉の過程において,「ライセンス料」の支払が実態に反するとして問題となり,F3契約においては,「ライセンス料」の支払がされることがなくなったことからも,従前,被控訴人が「ライセンス料」を支払っていたことは,本件プログラムについて被控訴人が著作権を有するとの上記判断を左右するものではない。
(4) したがって,本件プログラムの著作権は,92年基本契約,94年基本契約及びF3契約に基づき,当然に,控訴人から被控訴人に譲渡されたことにより,被控訴人に帰属するというべきであり,本件プログラムの翻案権を含む著作権を控訴人が有する旨の控訴人主張は採用することはできない。
4 争点3(本件プログラムの翻案権の留保の有無)について
(1) 上記のとおり,本件プログラムの著作権は,92年基本契約,94年基本契約及びF3契約により,当然に,控訴人から被控訴人に譲渡されたところ,92年基本契約及び94年基本契約において,著作権に係る条項は,「本契約に基づき開発されたソフトウェアの著作権は甲(注,被控訴人)に帰属する。」とされ,F3契約においても著作権に係る条項は,「当該製品開発過程で生じる著作権の対象となりうるものは,甲(注,被控訴人)に帰属するものとする。」とされているのみで,本件プログラムの翻案権は,譲渡の目的として特掲されていない。そうすると,著作権法61条2項により,上記翻案権は,本件プログラムの著作権を譲渡した控訴人に留保されたものと推定されることとなる。
(2) 被控訴人は,本件においては,上記推定を覆す事実が認められるとして,本件プログラムの翻案権は,控訴人に留保されずに著作権とともに被控訴人に譲渡された旨主張し,控訴人はこれを争うので,以下検討する。
(略)
これら交渉の過程に照らせば,F3契約においては,控訴人と被控訴人間においては,F3に係る本件プログラムについても,将来,改良がされることがあること,控訴人はその改良に積極的に協力するが,改良につき,主体として責任をもって行うのは,被控訴人であることが当然の前提となっていたことが認められる。すなわち,当事者間では,被控訴人が本件プログラムの翻案をすることが当然の前提となっていたと認められるのであって,これは,被控訴人による本件プログラムの翻案権を前提としていたものと解するほかない。
したがって,上記に照らせば,控訴人と被控訴人間では,翻案権の所在について明文の条項は定められなかったものの,本件プログラムを改良するなど,被控訴人が本件プログラムの翻案権を有することが当然の前提として合意されていたものと認めるのが相当である。
イ また,F3契約の条項に照らすと,第2条は,〔基本合意事項〕として,上記1(3)イに記載するところを定めるものであるが,これは,上記アで述べた趣旨を条項としたものというべきであり,控訴人が,「製品完成後においても市場および部品供給上や製品製造上の事情の変化に追随して,当該製品の市場競争力を維持するために必要な貢献」を行うことを規定する。同規定は,本件プログラムの改良等,本件プログラムが翻案される可能性を前提とするものであり,かつ,その翻案について,控訴人は「貢献」を行うとして,飽くまで翻案の主体は,被控訴人とするものであり,被控訴人が翻案権を有することを前提としているものと解することができる。
したがって,F3契約の条項上も,被控訴人が本件プログラムの翻案権を有していることを前提としているものと認められる。
ウ 以上によれば,F3契約において,本件プログラムの翻案権の帰属は,明文で定められているものではないが,控訴人と被控訴人間には,上記翻案権が被控訴人に帰属するものであるという合意が存在し,控訴人が開発する本件プログラムの著作権は,翻案権を含め,被控訴人に譲渡されたものと認めるのが相当である。
(略)
カ また,控訴人は,翻案権を開発を委託する会社に譲渡することは,開発会社として独占的に請け負うことができる優位性を譲り渡してしまうことに等しいもので,社会通念上,あり得ない旨主張する。
しかし,一般的に,プログラム開発会社にとって翻案権が重要であるとしても,プログラム開発会社が開発したプログラムの著作権ないしその一部である翻案権をだれに帰属させるのかは,その対価等とも関連し,当事者の合意によって定まるものであって,本件プログラムの翻案権について,それを譲渡する旨の当事者間の合意があったことは,上記認定のとおりであるから,およそプログラムの著作物の翻案権の譲渡が社会通念上あり得ないとする控訴人の主張は採用することはできない。
(略)
(3) 以上によれば,著作権法61条2項の推定にかかわらず,本件においては,関係各証拠によって,上記推定とは異なる,本件プログラムの翻案権を控訴人から被控訴人に譲渡する旨の控訴人と被控訴人間の合意を認めることができるであり,この合意に基づき,本件プログラムの翻案権は,被控訴人が有するものというべきである。

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