[c016]事後的な黙示の利用許諾を認定した事例
≪平成18年02月28日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10110]≫

【コメント】
控訴人は、「本件刑事事件」の被告人として死刑判決を言い渡された者です。控訴人は、被控訴人らが、控訴人の著作した小冊子「タイム・リミット魔の時間帯-その1-」(以下「魔の時間帯」という。)及び控訴人が作成した手紙(「本件手紙」)等を引用し、控訴人の顔写真(「本件顔写真」)を使用するなどして、本件刑事事件に関するテレビ番組(「本件番組」)を制作・放送し、本件顔写真、控訴人作成のイラスト(「本件イラスト」)、本件手紙等を掲載して、同番組に関する書籍(「本件書籍」)を制作・出版し、又は、本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供をした行為が、控訴人の肖像権、プライバシー権、名誉権、著作権、パブリシティ権等を侵害するものであるとして、被控訴人らに対し、本件番組及び本件書籍に関係する情報データ等の使用差止め及び廃棄、損害賠償金等の連帯支払、並びに、被控訴人らが違法に上記行為を行ったこと等の確認を求めました。
原判決は、控訴人の上記請求のうち、被控訴人らによる違法行為等の確認を求める部分の訴えについて、過去の事実関係の存否を求める訴えであること及び確認の利益を欠くことを理由に却下し、その余の請求部分については、本件番組を制作・放送すること、本件イラスト、本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること、並びに、被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等について、控訴人による少なくとも事後的な黙示の承諾があったとして、これを棄却しました。控訴人は、原判決を不服として本件控訴をしました。

【裁判所の判断】
2 争点3(本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等を控訴人が承諾した事実の有無)について
(1) (証拠等)によれば,以下の事実が認められる。
(略)
(2) 上記認定の事実によれば, テレビ朝日の番組「ザ・スクープ」の制作スタッフは,本件刑事事件がえん罪事件であることを証明するための報道活動をしている旨の自己紹介をした上で控訴人に取材をしており,控訴人は,この取材に応じて,自己の生活状況等を述べ,併せて,自らが作成した取調べ状況のイラスト(本件イラスト)を渡して積極的に協力していたのであるから,将来,「ザ・スクープ」により本件刑事事件に関する報道がされ,控訴人の情報提供がその報道の一資料として用いられることを十分に理解した上で,取材に協力していたものというべきである。
そして,報道活動の一環として,何らかの形で番組の内容が書籍に掲載されることは,通常,予想されることであるところ,上記認定のとおり,本件番組も本件書籍も,全体として,本件刑事事件をえん罪事件として扱い,控訴人が真犯人であることに疑問を呈する内容であり,控訴人は,控訴人の支援者から,出版された本件書籍を受け取っていたにもかかわらず,これに対して,被控訴人らないしテレビ朝日に対して何らの苦情の申入れや抗議等をすることもなく,本件訴訟の提起までの約10年間を経過したものである。
以上のような事情の下においては,控訴人は,被控訴人らに対し,本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが,本件番組及び本件書籍制作のための情報提供をすること等について,少なくとも事後的に黙示の承諾をしたものと認めるのが相当である。
(3)  控訴人は,被控訴人らに対して,取材上,情報提供をすることと,パテント契約に関して,執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとは法的意味が異なっているのであり,被控訴人らは,パテントに関する何らの法的権利も取得するものではないと主張する。
しかしながら,上記(1)認定の事実から明らかなとおり,控訴人は,本件取材に対して積極的に協力し,自らが作成した本件イラストを渡すなどしていたのであるから,このような控訴人の言動から,控訴人が,本件取材を受けた当時,取材上,情報提供をすることと,控訴人のいうパテント契約に関して,執筆者あるいはテレビ放送局に情報提供をすることとを区別して,被控訴人らに対応していたと認めることは困難である。
また,控訴人は,被控訴人らは,本件番組を制作・放送すること,本件イラスト,本件手紙等を掲載して本件書籍を制作・出版すること,並びに,被控訴人らが,本件番組および本件書籍制作のための情報提供をすること等について,控訴人に確認すべきであったのに,それをしていないと主張する。
しかし,上記(1)の事情の下で,あえて,控訴人に事前に確認しなかったからといって,控訴人が事後的に黙示の承諾をしたとの認定を左右するようなものと なるとはいえない。
さらに,控訴人は,被控訴人Y1に対して小説「ほとほと」の添削者の紹介を依頼していたため遠慮していた上,本件番組の内容を知らず,だれが,どのように,控訴人のいうパテント侵害をしているか分からなかったのであるから,本件番組放送後約12年間,本件書籍発行後約10年間,控訴人が抗議しなかったことをもって,事後承諾があったということもできないと主張する。
しかし,控訴人は,被控訴人らが,控訴人の小説である「ほとほと」を何らかの形で使用したことを前提とする主張をしているとも解されるが,被控訴人らが,「ほとほと」を本件番組,本件書籍又はその他の媒体等で使用したことを認めるに足りる証拠はない。加えて,控訴人は,平成4年9月には,被控訴人Y1から小説の添削者の紹介の依頼を断られたので,それ以降は,被控訴人Y1への遠慮はないはずであり,また,本件番組の放送の数か月後には,本件番組のシナリオの抜粋を入手し,平成6年には,本件書籍の本件刑事事件を扱った部分のコピーを受け取っているのであるから,本件番組の内容や,だれが本件書籍を発行したのか,本件書籍に自己の情報提供がどのように扱われているのかを十分に知り得たはずであって,控訴人の上記主張は,その前提を欠いているというほかない。
(4)  控訴人は,出版権や放映権に関しては,黙示の承諾ということはあり得ず,著作権等のパテント関係については,民法ではなく,特別法が適用され,出版権や放映権に関しては,必ず契約書を作成しなければならず,著作者による黙示の承諾のみでは足りないと主張する。
しかし,出版権とは,著作者等の複製権者が,その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対して設定される権利であるところ,本件は,本件手紙,本件イラスト等を本件書籍に使用(引用)したことが問題になっているのであって,本件手紙,本件イラスト等自体を一つの著作物として出版するということではないから,出版権を論ずる余地はない。また,著作者は,著作権法23条に基づく公衆送信権の一種としての放送権を有するが,控訴人のいう放映権が放送権の趣旨であるとしても,同権利に係る契約の成立要件は,複製権等の他の著作権と異なるところはない。そして,少なくとも,控訴人主張の肖像権,プライバシー権,名誉権,著作権,パブリシティ権等に係る契約であれば,当事者の合意によって契約は成立し,契約書等の書面の作成は,契約成立の要件ではない
したがって,控訴人の主張は,失当というほかない。
(5)  控訴人は,仮に,控訴人と被控訴人らとの間に,パテント契約が存在するとしても,著作権法では,契約書に取決めがない場合には3年で契約が終了するとされているところ,本件において,パテント契約は,現在まで12年を経過しているから,3年を超えた部分については,違法な侵害に当たると主張する。
控訴人は,本件のパテント契約に出版権に関する著作権法83条2項が適用されるべきことを主張する趣旨とも考えられるが,本件が出版権の問題でないことは,上記判示のとおりであるから,控訴人の上記主張も,その前提を欠き,採用できない。
3 以上によれば,原審における控訴人の請求のうち,確認請求に係る訴えは,いずれも不適法であり,その余の請求は,控訴人には,少なくとも,本件番組の制作・放送,本件書籍の制作・出版,本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供等について黙示の承諾が認められるため,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,確認の訴えに係る部分を却下し,その余の請求をいずれも棄却した原判決は相当である。

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