[c018]写真販売委託契約における許諾範囲が問題となった事例
平成22年03月30日東京地方裁判所[平成21(ワ)6604]

【コメント】
本件は,「本件写真」の著作者である原告が,写真の現像フィルムの賃貸業等を営む被告に対し,①被告が本件写真のデュープフィルム(撮影した写真フィルム複製したフィルム)を作成したこと,②被告が本件写真をカタログに掲載したこと,③被告が本件写真を第三者に貸し出したことが,本件写真に係る原告の著作権を侵害する行為であり,また,④被告がオリジナルフィルムとは逆版の本件写真のデュープフィルムを作成したこと,⑤被告が本件写真をカタログに掲載するに当たって,著作者である原告の氏名を表示しなかったことが,本件写真に係る原告の著作者人格権を侵害する行為である旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき所定の金員の支払を求めた事案です。
被告は,昭和63年7月1日に設立された有限会社アートスペース(平成16年3月6日変更前の旧商号は有限会社アートバンク)を,平成16年7月1日に株式会社に組織変更し設立された会社ですが,原告は,平成5年7月29日,有限会社アートバンクとの間で,以下の内容の販売委託契約(「本件委託契約」)を締結しました。
「1.写真家(判決注・原告)は自己の写真の使用権の販売をアートバンク(判決注・有限会社アートバンク)に委託する。
2.写真家はアートバンクに委託した写真(以下「写真」と称す)の使用権が自己に属することを保証する。
3.アートバンクは「写真」を国内,海外の出版物,広告印刷物,その他あらゆる用途に販売することが出来る。「写真」の発表の際のクレジット表示について写真家はアートバンクに一任する
4.「写真」の売上金はその60%を写真家,40%をアートバンクの比率で配分する。アートバンクは毎月末,その前月の「写真」売上入金を上記比率に従って写真家に現金又は銀行振込みで支払う。なお振込み手数料は写真家の負担とする。
(中略)
7.アートバンクは「写真」の管理保全には細心の注意を払わねばならない。貸出先における「写真」紛失,破損の場合,アートバンクは補償交渉に努力する。入金した補償金は第4条の規定により配分する。(以下略)
8.本契約は年月日(判決注・契約書では空欄のままとなっている。)より2年間有効とし,期間終了1ヶ月前までに解除の申入れなき場合には自動的に更新されるものとする。」

【裁判所の判断】
1 争点1(被告が本件写真のデュープフィルムを作成したことが原告の著作権(複製権)の侵害に当たるか)について
(1)原告は,被告が原告に無断で本件写真のデュープフィルムを作成したとして,被告の上記行為が本件写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害に当たる旨主張する。
(略)
(3)(証拠等)によれば,本件カタログが発行された1995年(平成7年)5月ころ,被告は本件写真のデュープフィルムを作成したこと,被告が本件写真のデュープフィルムを作成したのは,販売の促進を目的として本件カタログに本件写真を掲載したことから,本件写真の使用申込みがあった場合に備えるためであり,本件写真の貸出し頻度が増えることが予想されるため,写真のオリジナルフィルムを貸し出すことによって,顧客の側で紛失したり汚損したりする危険を避けるためであったこと,が認められる。
上記事実によれば,被告による本件写真のデュープフィルムの作成は,本件委託契約の契約期間中に行われた行為であり,かつ,同契約における被告の受託業務,すなわち,原告の撮影した写真の使用権の販売業務に関連して行われた行為であるといえる。
(4)本件委託契約は,写真家である原告が,写真の賃貸業等を行う写真エージェンシー業者である被告に対し,原告の撮影した写真の使用権の販売を委託し,被告が写真の使用権の販売に至った場合には,その売上金を原告と被告とで配分することを内容とするものであり,本件委託契約には,写真の使用権の販売方法等を特に指定したり,あるいは,制限(禁止)したりする旨の約定はなかった。上記事実に照らせば,本件委託契約において,原告は,被告に対し,販売方法を特に限定することなく,本件写真の使用権の販売を委託したものと解される
そして,(証拠等)によれば,原告は,自らも,法人を設立して,自己の撮影した写真の貸出業を行っていたこと,顧客に写真のオリジナルフィルムを貸し出すと,フィルムが汚損されたり破損されたりすることにより使用に堪えないものになるため,オリジナルフィルムからデュープフィルムを作成し,デュープフィルムの方を顧客に貸し出すのを常態としていたことが認められる。
そうすると,被告が,本件委託契約上,写真の貸出しによってオリジナルフィルムが汚損や破損により,使用に堪えないものになるといったことがないように,写真家から預かった写真の管理保全に務める義務を負うこと(第7条参照)に照らしても,原被告間において,写真の貸出しを必ずオリジナルフィルムによって行うことが予定されていたとは考え難く,むしろ,被告においてオリジナルフィルムからデュープフィルムを作成し得ることを前提に,写真の保全管理のため,デュープフィルムを顧客に貸し出すことが予定されていたものと認めるのが相当である。
以上によれば,被告が本件写真のデュープフィルムを作成したことは,本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であったと認められる。
(5)したがって,本件写真のデュープフィルムを作成したことは,本件写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害には当たらず,原告の上記主張は理由がない。
2 争点2(被告が本件写真を本件カタログに掲載したことが,原告の著作権(複製権)の侵害に当たるか)について
(1)原告は,被告が原告に無断で本件カタログに本件写真を掲載したとして,被告の上記行為が本件写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害に当たる旨主張する。
(2)本件写真が掲載された本件カタログは,原告と被告との間の本件委託契約の契約期間中である,1995年(平成7年)5月に,被告の販売委託先であるカメラ東京サービスが発行したものである。
ところで,本件委託契約は,写真家である原告が,写真の賃貸業等を行う写真エージェンシー業者である被告に対し,原告の撮影した写真の使用権の販売を委託し,被告が写真の使用権の販売に至った場合には,その売上金を原告と被告とで配分することを内容とするものであり,同契約の第3条には,受託者である被告の販売活動について,「写真を国内,海外の出版物,広告印刷物,その他あらゆる用途に販売することが出来る。」旨が約定されていた。そして,本件委託契約には,写真の使用権の販売方法等を特に指定したり,あるいは,制限(禁止)したりする旨の約定はなかったことが認められる。上記事実に照らせば,本件委託契約において,原告は,被告に対し,販売先や用途,販売方法を特に限定することなく,本件写真の使用権の販売を委託したものと解される
なお,原告は,自らも,法人を設立して,自己の撮影した写真の貸出業を行っていた者であり,同業務を行うについては,販売促進のために貸し出す写真のカタログを作成することがあったことが認められる。上記事実に照らしても,原告が,本件委託契約を締結するに当たって,被告に対し,販売促進のためのカタログに本件写真を掲載することを特に制限していたとは認められない。
そうすると,被告が,使用権の販売を委託された本件写真の販売促進活動のため,本件カタログに本件写真を掲載したことは,本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であったと認められる。
(3)したがって,本件カタログに本件写真を掲載したことは,本件写真に係る原告の著作権(複製権)の侵害には当たらず,原告の上記主張は理由がない。
(略)
4 争点4(被告が本件写真のデュープフィルムを作成したことが,原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たるか)について
(1)原告は,被告が本件写真について「逆版」のデュープフィルムを作成したとして,被告の上記行為が本件写真に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たる旨主張する。
(略)
(2)(証拠等)によれば,(以下略),が認められる。
そして,本件委託契約においては,写真のデュープ方法を特に指定したり,制限したりする約定はなかったことが認められる。
以上の事実によれば,原被告間において,本件委託契約上,デュープフィルムの作成方法として,オリジナルフィルムとデュープフィルムの乳剤面同士を密着させてデュープする方法を採ることが制限されていたと解することはできず,被告が本件写真のデュープフィルムを上記の方法により作成したことは,本件委託契約に基づき原告から許諾された範囲内の行為であったと認めるのが相当である。
また,そもそも,被告の作成したデュープフィルムによっても,像が左右正向きとなるようにプリントすることも,左右逆向きとなるようにプリントすることも問題なくできるのであるから,オリジナルフィルムとはベース面と乳剤面とが逆となり,ノッチコードの位置が逆となるデュープフィルムを作成しただけでは,本件写真に改変を加えた(像を左右逆とする改変を加えた)ということはできない。
(3)したがって,本件写真のデュープフィルムを作成したことは,本件写真に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害には当たらず,原告の上記主張は理由がない。
5 争点5(被告が本件写真を本件カタログに掲載したことが,原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害に当たるか)について
(1)原告は,本件カタログにおいて,本件写真の著作者として原告の氏名が表示されていないことが,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害に当たる旨主張する。
(2)しかしながら,本件委託契約の第3条には,受託者である被告の販売活動について,「写真を国内,海外の出版物,広告印刷物,その他あらゆる用途に販売することが出来る。写真の発表の際のクレジット表示について写真家はアートバンクに一任する。」旨が約定されていた。上記約定は,使用権の販売を委託した写真の使用(発表)の際に,クレジット表示をするか否か,クレジット表示をする場合にどのような形態で行うかについて,写真家である原告が,これを写真エージェンシーである被告の裁量に任せることを内容とするものであると解される。
なお,原告の運営する法人が写真の貸出業を行うに当たって作成したカタログにおいても,写真の著作者の表示(原告の氏名表示)はされていないことに照らすと,原告が,本件委託契約の締結に当たって,上記約定とは異なり,被告に対して,販売促進のためのカタログに本件写真を掲載する際に著作者の表示(原告の氏名表示)をすべきことを特に要求していたとも認められない。
そうすると,使用権の販売を委託された本件写真の販売促進活動のため,本件カタログに本件写真を掲載する(写真の発表)に当たって,著作者である原告の氏名(クレジット)を表示しなかったことは,本件委託契約に基づき,著作者である原告が被告に対して許諾した範囲内の行為であったと認められる。
(3)したがって,本件カタログにおいて,本件写真の著作者として原告の氏名が表示されていないことは,本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害には当たらず,原告の上記主張は理由がない。

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