[c020]写真フィルムの所有権の帰属が問題となった事例(2
平成19年05月30日東京地方裁判所[平成17(ワ)24929]≫

【コメント】
本件は,フリーランスの写真家である原告が,被告からの依頼に基づき,被告発行の雑誌(「サライ」)のために,設定されたテーマに従って撮影した写真のポジフィルムを被告に交付していたところ,被告が,①当該ポジフィルムの写真の一部をデジタルデータ化してサーバのハードディスクに蓄積保存したことにより,原告の当該写真について有する著作権(主位的に送信可能化権,予備的に複製権)を侵害し,②ポジフィルムの一部を紛失したことにより,原告の当該ポジフィルムについて有する所有権を侵害した,などと主張して,①の損害として,主位的に著作権法23条1項及び民法709条,予備的に著作権法21条及び民法709条に基づき,送信可能化又は複製許諾料相当額の所定の金員,②の損害として,民法709条に基づき,ポジフィルム117枚分の所定の金員その他の支払を求めたのに対し,被告が,①については,送信可能化の事実,複製の枚数,損害について争い,また,ポジフィルムの所有権は,当初より被告に帰属し,原告に帰属していないとして,所有権侵害等も否認して,争っている事案です。

【裁判所の判断】
2 争点2(本件交付ポジフィルムの所有権の帰属)について
(1)事実認定
(略)
(2)検討
以上の事実に基づいて検討すると,原告が,ポジフィルム購入時点から,本件交付ポジフィルムの所有権を取得していたものと認められ,当初より被告が所有していた旨の被告主張を採用することはできない。理由は,以下のとおりである。
まず,原告と被告間において締結された,原告が写真を撮影し,撮影された写真が写されているポジフィルムを被告に引き渡すことを内容とする合意の法的性質が,原告が主張するような準委任契約であるのか,被告が主張するような請負契約であるのかについては,その合意の法的性質によって,直ちにポジフィルムの所有権の帰属が導かれるものではないことから,この点をひとまず措くとして,上記合意は,写真という著作物をポジフィルムの形で引き渡すことを内容とするものであり,ポジフィルム自体の所有権と,そこに化体されている著作物である写真の著作権とが別個に考えられるのであるから,費用の負担状況,サライ掲載後の報酬等の支払などの諸事情を考慮した上,原告と被告間の合意において,ポジフィルム自体の所有権をいずれに帰属させることを内容としていたのかを合理的に解釈するのが相当である。
そこで,原告と被告間の取引についてみると,上記1(イ)イのとおり,被告は,フィルム代及び現像代,交通費,打合せ飲食費等の費用について,原告から請求された金員を経費として支払っていたのであるが,実際に納品された具体的なポジフィルムとの関係で,原告がすべてのフィルム代を請求し,これが支払われていたか否かは,必ずしも判然としない。
また,上記1(イ)のとおり,当該写真がサライに掲載された場合には,1頁当たり2万5000円,表紙に掲載された場合には,5万円が,原告に対して支払われたが,これらの支払は,写真の掲載量を基準にした支払であること,上記金額は,二次使用又はそれ以上の複数回の使用を予定して設定されていると考えられる,被告提供に係る「小学館フォトサービス(SPS)」の使用料金額(雑誌での使用について1万5750円,ポスターやカレンダーでの使用について3万1500円)とほぼ同程度であること,原告が,第三者からサライ掲載写真1点についての二次使用の申入れを受けた際に,許諾料として4万円の提示が原告にされ,原告も了承したことなどに照らせば,上記支払金額は,写真の著作物の複製許諾料(複製許諾の対価)であったと考えるのが相当である。
そして,著作物についての著作権と所有権とは,別個に帰属し得るものであるが,著作権者は,当該著作物の所有権を有しない場合,保有する著作権の行使において,事実上,大幅な制約を受けることになるのであるから,当該著作物が,二次使用等が予想される写真の著作物である場合,上記制約を受ける著作権者に対する対価,報酬等の有無なども,所有権の帰属に関する当事者の意思を検討する際の考慮要素になると考えられる。原告と被告間の合意においては,経費としての支払と,上記のとおり,掲載された場合の許諾料の支払があるものの,それ以上に,ポジフィルムの所有権が被告に帰属することを考慮した,対価,報酬等の金員の支払がされたとは認められず,上記の各支払が当該趣旨を含むことをうかがわせる事情も認められない。
さらに,被告は,平成15年11月10日以降,原告から,度々,本件交付ポジフィルムの返還要求を受け,その都度,倉庫を探すなどして対応に努め,原告に対し,返還が遅れたことを詫びるなどした上,自らの所有物であること等を何ら告げずに当該ポジフィルムを返還しているところ,このような被告の対応は,本件交付ポジフィルムの所有権が被告にあるとの認識とは明らかに相反するものといえる。被告は,このような対応をとったことについて,返還したポジフィルムについては,被告において既に不要であったことや,原告との関係を悪化させたくなかったことなどを主張するが,被告にとっては,突然の要求であり,かつ,倉庫等を探すなどして対応を迫られるものであって,そのような対応を必要とする,原告の返還要求が度々されたのであるから,原告との関係を悪化させないためであるとの理由は,原告との取引が,既に途絶えていた当時の状況においては,上記対応を十分説明できるものとは言い難い。
(略)
以上からすれば,原告と被告間で,原告がポジフィルムを購入した時点よりその所有権を被告に帰属させる旨の合意が形成されていたものとは認められず,そうであれば,原告は,当該ポジフィルムを購入した時点において,その所有権を取得しているのであり,そこに,自らの写真による表現を化体して,本件交付ポジフィルムとしていると解されるから,本件交付ポジフィルムの所有権は,原告に帰属すると認めるのが相当である。
(3)被告の反論に対する検討
被告は,まず,原告と被告間の合意は,契約の目的が撮影業務を行うことに主眼があるのではなく,特定のサライの企画に基づき,あらかじめ決められた被写体をサライ編集部の意向に従って撮影し,当該サライに掲載可能な写真のポジフィルムを納品すること,すなわち,仕事の完成引渡しに主眼があるから,請負契約であって,フィルム代,現像代等を負担する被告に,本件交付ポジフィルムの所有権が帰属する旨主張する。
しかしながら,原告と被告間の契約の目的が,原告が被告に対し,サライに掲載可能な写真のポジフィルムを納品することであるとしても,そのことから,直ちに,当該ポジフィルムの所有権の帰属が決められるとはいえないことは,上記(2)において検討したとおりである。そして,被告によるフィルム代等の費用負担が,必要な経費すべてについて行われていたのかは,上記(2)における検討のとおり,判然としないのであるし,それ以上に,被告に所有権を帰属させる旨の意思をうかがわせる事情も認められない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,被告における二次使用に関するコントロール権を確保して,被告にとって貴重な財産である,写真を含むサライの記事全体を守るためには,被告において,納品された写真のポジフィルムの所有権を取得する必要性があることを主張する。
しかしながら,被告が主張する,二次使用に関するコントロール権は,写真のポジフィルムの所有権の帰属にかかわらず,契約等によって対応が可能なものであると考えられるし,被告において制作した記事については,写真を含む当該記事についての編集著作権が成立することが考えられるのであるから,この権利の範囲でも,被告が主張するコントロール権を及ぼすことは可能であると解される。したがって,この点についての被告主張も理由がない。
(略)
さらに,被告は,原告が,被告からの業務の依頼がなくなってから,初めて,すべての原告撮影に係るポジフィルムを返還するように要求したこと,原告と被告間において,ポジフィルムの納品に当たって,その内容,カット数等の明細リストを作成していないこと,原告からの返還要求に際し,掲載使用写真のリストを当初から作成していたわけではなく,その枚数についての主張自体が随時変更されていること,原告から被告に対し,取引期間中,納品したポジフィルムの保管状況について確認したことはないことなどを理由に,原告は,自己の所有物の保管を被告に依頼している認識を欠く旨主張する。
確かに,原告においては,被告との間の本件写真撮影業務に係る期間中,自己の所有物であるポジフィルムの管理に不十分な点があり,その返還要求も時機に応じて適切に行われていたとは言い難い面が認められるが,被告においても,交付を受けた本件交付ポジフィルムについての適切な管理を行っていたわけではなく,原告に何枚を返還(被告の立場によれば譲渡)したのかも記録されていないから,本件においては,双方の管理体制が,ポジフィルムの所有権の帰属の決め手となるわけではなく,原告が時機に応じて適切にポジフィルムの返還要求を行っていないことも,その所有権を否定するほどの根拠となるものではない。したがって,この点についての被告主張も採用することができない。
(4)まとめ
以上から,本件交付ポジフィルムの所有権は,原告に帰属すると認められる。
3 争点3(本件交付ポジフィルムの紛失の有無・枚数)について
(証拠等)によれば,原告が,被告のサライ編集部に対して交付した,本件交付ポジフィルムのうち,実際にサライ誌面において使用されたものは,合計1013枚であること,被告は,現在までに,原告に対し,896枚を返還したこと,別紙「サライ未返却写真一覧表」記載のとおり,残りの117枚について原告に返還されていないこと,被告は,保管する本件交付ポジフィルムをすべて原告に返還していることが認められ,そうであるとすれば,被告は,上記117枚のポジフィルム(以下「本件紛失ポジフィルム」という。)を紛失したものと認められる。
この被告の行為は,原告の本件紛失ポジフィルムについての所有権を侵害する不法行為を構成するものと認められる。
(略)
5 争点5(原告の損害)について
(略)
(2)本件紛失ポジフィルム117枚についての所有権侵害の損害
原告は,この損害について,表紙掲載写真に係るポジフィルムついて,1枚当たり30万円,その他の写真に係るポジフィルムについて,1枚当たり15万円としてその損害額を算出すべきである旨主張するところ,ここでも,①当初の原告と被告間の合意による本件交付ポジフィルム写真の許諾料が,表紙掲載写真について5万円,その他は,掲載頁当たり2万5000円であること,②二次使用等がされる可能性は,写真ごとに異なり得るが,損害を考えるに当たっては,その平均的な程度を考慮すべきであるところ、現実に掲載写真について、第三者からのその二次使用の申込みが行われたのは、わずかな事例にすぎないこと,③ポジフィルムの所有者である原告においても、その管理、保管状況には、前記のとおり不十分な面があり、その財産的価値が高いものと認識されていたとは言い難いこと、④被告が運営する小学館フォトサービスにおいて,破損の場合には,使用料の10倍の料金を請求することがあり得るとしているが,これは,取扱いについて注意喚起するための抑止的な意味をもった表示であると考えられ,実損害額を反映しているとは認められないこと,⑤ネガ保険において保険金額としてカラー写真1点について15万円が定められているが,あくまで保険金額であって,実損害額を示唆するものではないこと等の事情が認められる。
これらの事情を総合考慮すれば,表紙掲載写真に係るポジフィルムについて,1枚当たり5万円,その他の写真に係るポジフィルムについて,1枚当たり2万円が,その損害であると解するのが相当である。そうすると,本件紛失ポジフィルム117枚のうち,表紙掲載に係るポジフィルムが4枚,その他が113枚であり(甲20),その金額は,以下の計算式のとおり,246万円となる。
20万円(5万円×4枚)+226万円(2万円×113 枚)=246万円

コンテンツ契約トラブル事例集 トップ 


     Kaneda Copyright Agency
     カネダ著作権事務所


      Home  メール相談  契約マネジメント  文化庁登録マネジメント  侵害対応マネジメントその他 
      アメリカ著作権局登録マネジメント  著作権判例エッセンス