[c021]旅行案内書制作に伴う受託者の一般的義務等が問題となった事例
平成17年05月12日東京地方裁判所[平成16(ワ)10223]≫
平成18年05月31日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10091]≫

【コメント】
本件において,原告は,被告の出版・販売に係る国・地域別旅行案内書(「被告書籍」。)の第9版を納品し,さらに,被告の出版・販売する旅行ガイドブックに掲載する写真(「本件写真」)を被告に売り渡したとして,被告に対し,被告書籍第9版の制作委託契約(「本件制作委託契約」)及び本件写真の売買契約に基づき,被告書籍第9版の編集等の報酬及び本件写真の対価のうち未払金750万円等の支払を求めました。
これに対して,被告は,被告書籍第9版の制作委託契約を締結した相手方が原告であったとしても,原告が納品した被告書籍第9版に掲載された各地の空港案内図(「第9版本件空港案内図」)は,訴外会社OFCの著作権を侵害し又はこれを利用したものであったから債務の本旨に従った履行がなされていないとして,原告の被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権の発生を争い,さらに,仮に,原告が被告書籍第9版の編集等の報酬支払請求権を有していたとしても,原告が制作・納品した被告書籍に掲載された各空港案内図(「本件空港案内図」と総称する。)が,OFCの著作権を侵害していたために,被告は,OFCに対して解決金750万円を支払わざるを得なかったから,被告は,原告に対して750万円の反対債権(原告と被告との間の支払合意に基づく支払請求権,債務不履行に基づく損害賠償請求権,制作委託契約上の条項に基づく既払報酬返還請求権ないし不法行為を理由とする損害賠償請求権)を有しており,被告は,原告に対し,平成15年10月15日付の書面で,上記債権をもって原告の被告に対する上記未払金債権と対当額で相殺したことにより消滅したとして,原告の請求を争いました。

【裁判所の判断(地裁)】
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告と被告との間で,被告書籍第9版の制作委託契約が締結されたか)
(略)
(3) 以上のとおり,被告書籍第9版の制作委託契約(本件制作委託契約)は,原告と被告との間で締結されたものと認めるのが相当である。
2 争点3(被告書籍第9版に掲載された第9版本件空港案内図がOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているといえるか)
(略)
エ 小括
以上によれば,第9版本件空港案内図が第9版対応OFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害しているということはできない。
よって,原告が被告書籍第9版の制作に当たりOFC空港案内図に係るOFCの著作権を侵害したとして,債務の本旨に従った履行がなされていないとする被告の主張は,理由がない。
3 争点4(本件制作委託契約上,原告が,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を利用してはならない義務を負っていたか)
(1) 被告は,上記の義務が,委任契約上の善管注意義務の内容として,書籍の制作委託契約上,当然に生じる一般的義務であると主張するので,まず,この点について判断する。
一般に,旅行案内書の制作は,可能な限り数多くの資料を収集して分析,検討して行なうのが通常であるから,旅行案内書の制作委託契約上,制作受託者が,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない義務を当然に負うものとはいえない
(2) 次に,本件制作委託契約上,著作権侵害に至らない態様であっても他人の 出版物を使用しない旨の合意があったか否かにつき判断する。
(略)
ウ 以上のとおり,本件制作委託契約上,原告と被告との間で,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない旨の合意があったとは認められない。
(3) 小括
以上のとおり,委任契約上,一般的に,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない義務が生じるとはいえず,本件制作委託契約上,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない旨の合意があったとも認められないから,本件制作委託契約上,原告が,著作権侵害に至らない態様であっても他人の出版物を使用しない義務を負っていたと認めることはできない。      よって,原告が被告書籍第9版の制作に当たり,第9版対応OFC空港案内図を参考としたことをもって,債務の本旨に従った履行がなされていない旨の被告の主張は理由がない。

【裁判所の判断(高裁)】
3 争点4及び争点8について
(1) (中略)
いずれにしても,控訴人は,当審において,被控訴人には「他人の出版物を模倣・複製しない義務」があると主張する(さらに,控訴人は,「控訴人が他社の成果物を著作権侵害と疑義を受ける程度に複製・模倣して出版することは,…社会的信用を著しく損なうもの…」とも主張しており,被控訴人に対し,「著作権侵害との疑義を受ける程度に他人の出版物を模倣・複製しない義務」をも主張するものと解される 。)。以下,この主張を前提に判断する。
(2) 上記義務が書籍の制作委託契約上当然に生じる一般的義務であるとする控訴人の主張については,当裁判所も採用し得ない ものと判断する。その理由は,原判決のとおりであるので,これを引用する(ただし,「使用しない義務」とあるのを「模倣・複製しない義務」と訂正する。)。
(3) そこで,本件制作委託契約における合意内容に照らし,被控訴人に上記のような義務があることを肯認することができるか否かについて,検討する。
(略)
(c) 以上の諸事情を総合勘案するならば,本件制作委託契約には,被控訴人において,著作権侵害に至らない態様であっても,相当程度に合理的な根拠に基づいて著作権侵害との疑義を受けるような態様で,他人の出版物を模倣・複製しない旨の付随的な債務があったものというべきである。
(略)
4 争点13について
控訴人は,さらに,不法行為に基づく損害賠償請求権による相殺の主張をするが,前記3で検討した内容と実質的に同じであり(本件制作委託契約に基づく付随的債務と同様な債務は,特別な約定がされなくとも,事案によっては肯認することができるものである可能性があり,さらに,契約関係を別にしても,一定の取引関係にある当事者間においても,事案によっては信義則上の観点から,不法行為の注意義務として肯認することができる場合もあり得ないではない。),不法行為責任が成立することも考えられないでもない。しかしながら,仮に不法行為責任を肯定し得たとしても,その相当損害の範囲及び額は,前記3で認めた130万円を超えるものとは認められない。
よって,争点13の控訴人の主張は採用することができない。

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