[c022]覚書の射程範囲/契約締結上の過失
平成14年12月18日東京地方裁判所[平成13(ワ)21182]≫
平成15年07月10日東京高等裁判所[平成15(ネ)546]≫

【コメント】
本件において、原告は、被告らに対し、選択的に、次の請求をしました:
①著作権侵害…被告製品を製作・販売する被告らの行為は,原告が著作権を有する本件基本シナリオを翻案する行為であり,原告の著作権を侵害すると主張して,被告製品の製作・頒布の差止めと損害賠償の支払を求めた。
②債務不履行等…被告製品を製作する被告T及び被告(D1)の行為は,原告に対する業務委託契約違反を構成すると主張し,また,被告製品を販売する被告(D2)の行為は,原告に対する不法行為を構成すると主張して,損害賠償の支払を求めた。
なお、本件における控訴審において、控訴人(1審原告)は、被控訴人ら(1審被告ら)に対し、予備的に、契約締結上の過失等に基づく請求を追加しました。
以下の「事実認定」参照:
「被告(D1)と原告は,平成13年1月5日,本件覚書を締結した。本件覚書では,①被告(D1)及び原告が,「グリーン・グリーン」に関し, 正式契約を締結する意思があること,②被告(D1)が,正式契約の締結に先立ち,本件作品の開発を開始すること,③被告(D1)が,原告に対し,「企画書」「予算概要書」を提出してから,1か月以内に,原告から正式な回答がない場合等には,被告(D1)は,本件覚書を直ちに解除し,その時点で被告(D1)が開発に要した金銭のうち妥当な額の支払を原告に要求することができること,解除され た場合には,途中成果物の無体財産権及び所有権のすべては被告(D1)に帰属する旨などが定められた。
以上の条項に照らすならば,本件覚書は,被告ガンホーが,自己負担で支出した開発資金を原告から確実に受け取るようにする目的で作成されたものとみられる。」
「被告(D1)と原告とは,正式契約締結に向けて交渉を続け,被告(D1)に対して支払うべき著作権譲渡の対価につき,総額3000万円とすることではおおむね合意がされたが,その支払時期やその他の条件等について,結局合意を得るに至らなかった。」

【裁判所の判断(地裁)】
3 争点3(被告らの行為は債務不履行行為ないし不法行為を構成するか)について
(略)
(2) 被告(D1)の債務不履行
原告は,被告(D1との間で,平成13年1月初旬以降,業務委託契約関係が存在するに至ったと主張する。しかし,上記認定のとおり,平成13年1月初旬ころ,原告と被告(D1)は,正式な開発委託契約を締結すべく交渉を継続していたのであり,被告(D1)は,原告に対し,何らの契約上の義務を負っていな い。この点に関する原告の主張は失当である。
また,原告は,被告(D1)との間で締結した本件覚書は,原告及び被告(D1)双方に正式契約の書面を速やかに作成することを双方に義務付けるものであると主張する。しかし,原告と被告(D1)との間で締結された本件覚書は,前記認定のとおり,原告と被告(D1)との間で,被告(D1)が正式契約の前に先行的に開発を行い,その後速やかに両者間で正式な契約を締結するが,一定の事由がある場合に被告(D1)は本件覚書を解除して,原告に対して,既に被告(D1)が支出した開発費用を請求できることなどを内容とするものであり,先行的に開発を進めることとなる被告(D1)が,将来原告から開発費用の支払を受けられることを目的として締結したものであって,被告(D1)に,原告との間で正式契約を締結する義務を負わせることを内容とするものと認めることはできない。したがって,原告の主張には理由がない。
(3) 被告(D2)の行為について
上記(1),(2)の認定によれば,被告(D1)と被告(D2)が開発委託契約を締結した平成13年3月15日,被告T,被告(D1)はいずれも原告に対して,「グリーン・グリーン」に関して何らの契約上の義務を負っていないのであるから,原告の債権侵害を理由とする不法行為の主張については理由がない。
第4  結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。

【裁判所の判断(高裁)】
2 被控訴人らの債務不履行等の主張について
(証拠等)によれば、原判決に摘示のとおりの事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。(中略)当裁判所も、被控訴人Aの債務不履行、被控訴人(D1)ーの債務不履行及び被控訴人(D2)の不法行為についての控訴人の主張は、いずれも理由がないと判断するものである。その理由は、原判決のとおりであるから、これを引用する。
当審における控訴人の主張は、基本的に原審での主張を繰り返すものにすぎないが、念のため本件覚書に関して補足すると、本件覚書は、その作成に至るまでに控訴人代表者と被控訴人(D1)の代表者との間に交わされたEメール及び本件覚書の記載内容を総合するならば、被控訴人(D1)が自己負担で支出した開発資金を 原告から確実に受け取れるようにする目的で作成されたものとみられるのであって、被控訴人(D1)に、控訴人との間で「グリーン・グリーン」の開発について正式契約を締結する義務を負わせることを内容とするものとは認められない
3 契約締結上の過失責任等について
(1) 控訴人は、本件の事実関係の下では、被控訴人(D1)について、契約締結上の過失の法理に基づく損害賠償責任(その他の被控訴人については加担者としての責任)が認められるべきであると主張する。しかし、控訴人の主張は、以下のとおり理由がない。
既に認定判示したところによれば、控訴人と被控訴人(D1)とは、企画中の「グリーン・グリーン」について、被控訴人(D1)が開発業務を、控訴人が販売業務を担当することを前提に、平成12年12月ころから契約を締結すべく交渉を行っており、平成13年1月5日には、両者の間で「グリーン」の開発に関して、被控訴人(D1)が正式契約の締結に先立ち「グリーン・グリーン」の開発を開始すること、両者に正式契約を締結する意思のあることを確認すること等を内容とする本件覚書が取り交わされ、その後、両者の間で正式契約の締結に向けて交渉が続けられたが、支払その他の条件につき、結局合意を得るには至らず、被控訴人(D1)は、「グリーン・グリーン」の販売元を被控訴人(D2)とすることとし、平成13年3月15日付けで被控訴人(D2)との間で商品開発契約を締結したのである。
控訴人は、被控訴人(D1)が被控訴人(D2)と契約を締結し、控訴人との契約交渉を打ち切った行為は、信義に反し、契約締結への控訴人の正当な期待を裏切ったものであると主張するが、契約条件等が折り合わないために契約を締結することが困難と予測される場合に、交渉の打ち切りによって交渉関係から離脱することは、一般に契約自由(契約を締結しない自由)の範囲内のこととして許されるのであって、特別の事情がない限り、交渉を打ち切った側に責任が生ずることはないというべきである。
とりわけ、本件においては、被控訴人(D1)は、自ら開発資金を先行支出して「グリーン・グリーン」の開発を進めており、契約交渉の難航に伴う開発資金の資金繰り等の負担を負う立場にあったのであるから、本件覚書の締結から2か月余を経過しても契約条件について合意が得られないという状況の下で、同被控訴人が契約交渉を打ち切ったことを、不合理ないし信義に反すると評価することはできない。また、本件覚書は、前記認定のとおり、被控訴人(D1)が支出した開発資金を、販売元になる予定であった控訴人から確実に受け取れるようにする目的で作成 されたものとみられるのであり、契約が確実に締結されるであろうとの信頼を控訴人に対して与える性格のものとは解されない。控訴人が契約締結についての期待を抱いたとしても、その期待は、本来、被控訴人(D1)との間で同被控訴人に支払うべき開発費の金額や支払時期について合意が得られ、契約締結に至った場合に初めて満足される筋合いのものである上、本件では、リスクを負って正式契約前に開発業務を進めていたのは被控訴人(D1)であって、控訴人が契約交渉が継続していたことに起因してその地位を格別不利益に変更したというような事情も認められないから、控訴人の期待は、それ自体として法的保護に値するものではないというべきである。
4 結論
以上によれば、控訴人の前記第2の1の(1)及び(2)の各請求はいずれも理由がなく、本件控訴は理由がない。また、当審において追加された予備的請求も理由がない。よって、本件控訴を棄却し、予備的請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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