[e015]複製権又は翻案権の射程範囲

(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,本件プロローグと本件ナレーションとは,江差町がかつてニシン漁で栄え,そのにぎわいが「江戸にもない」といわれた豊かな町であったこと,現在ではニシンが去ってその面影はないこと,江差町では9月に江差追分全国大会が開かれ,年に1度,かつてのにぎわいを取り戻し,町は一気に活気づくことを表現している点及びその表現の順序において共通し,同一性がある。
しかし,本件ナレーションが本件プロローグと同一性を有する部分のうち,江差町がかつてニシン漁で栄え,そのにぎわいが「江戸にもない」といわれた豊かな町であったこと,現在ではニシンが去ってその面影はないことは,一般的知見に属し,江差町の紹介としてありふれた事実であって,表現それ自体ではない部分において同一性が認められるにすぎない。また,現在の江差町が最もにぎわうのが江差追分全国大会の時であるとすることが江差町民の一般的な考え方とは異なるもので被上告人に特有の認識ないしアイデアであるとしても,その認識自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ認識を表明することが著作権法上禁止されるいわれはなく,本件ナレーションにおいて,上告人らが被上告人の認識と同じ認識の上に立って,江差町では9月に江差追分全国大会が開かれ,年に1度,かつてのにぎわいを取り戻し,町は一気に活気づくと表現したことにより,本件プロローグと表現それ自体でない部分において同一性が認められることになったにすぎず,具体的な表現においても両者は異なったものとなっている。さらに,本件ナレーションの運び方は,本件プロローグの骨格を成す事項の記述順序と同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。しかも,上記各部分から構成される本件ナレーション全体をみても,その量は本件プロローグに比べて格段に短く,上告人らが創作した影像を背景として放送されたのであるから,これに接する者が本件プロローグの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
したがって,本件ナレーションは,本件著作物に依拠して創作されたものであるが,本件プロローグと同一性を有する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分であって,本件ナレーションの表現から本件プロローグの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,本件プロローグを翻案したものとはいえない。
平成13年6月28日最高裁判所第一小法廷[平成11(受)922]

言語の著作物の翻案及び複製は,いずれも,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物を創作するものであり,①既存の著作物の具体的表現に修正,増減,変更等(以下「修正等」という。)を加え,これにより,新たに思想又は感情を創作的に表現して別の著作物,すなわち,二次的著作物を創作する行為が翻案であり(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照),他方,②既存の著作物と全く同一のものを作成する行為,既存の著作物の具体的表現に修正等を加えたが,これによっても新たな創作的表現の付加がなく,二次的著作物の創作に至っていない行為が複製に当たると解される。したがって,新たな創作的表現の付加の有無が,翻案と複製を区別する主要な基準になるものということができる。
平成26年8月27日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10085]

ある者のある作品が他の者(著作者)の複製権又は翻案権を侵害しているといい得るためには、その作品が他の者(著作者)の思想又は感情を創作的に現実に具体的に表現したものと同一のもの、あるいは、これと類似性のあるものであることが必要であるということができる。より具体的に言い換えれば、その作品を著作者が現実に具体的に表現したものと比較した場合、後者中の、著作者の思想又は感情が外部に認識できる形で現実に具体的な形で表現されたものとして、独自の創作性の認められる部分について、表現が共通しており、その結果として、前者から後者を直接感得することができることが必要であるというべきである。
平成13年01月23日東京高等裁判所[平成12(ネ)4735]

著作権法によって著作権者に専有権の与えられている複製あるいは翻案(以下、これらをまとめて「複製・翻案」という。)とはどういうものであるかを具体的にいうと、既存の著作物に依拠してこれと同一のものあるいは類似性のあるものを作製することであり、ここに類似性のあるものとは、「既存の著作物の、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとしての独自の創作性の認められる部分」についての表現が共通し、その結果として、当該作品から既存の著作物を直接感得できる程度に類似したものであるということになる(最高裁判所昭和55年3月28日第三小法廷判決参照)。
なお、ここで注意すべきことは、複製・翻案の判断基準の一つとしての類似性の要件として取り上げる「当該作品から既存の著作物を直接感得できる程度に」との要件(直接感得性)は、類似性を認めるために必要ではあり得ても、それがあれば類似性を認めるに十分なものというわけではないことである。すなわち、ある作品に接した者が当該作品から既存の著作物を直接感得できるか否かは、表現されたもの同士を比較した場合の共通性以外の要素によっても大きく左右され得るものであり(例えば、表現された思想又は感情あるいはそれを表現する手法や表現を生み出す本になったアイデア自体が目新しいものであり、それを表現した者あるいはそれを採用した者が一人である状態が生まれると、表現されたものよりも、目新しい思想又は感情あるいは手法やアイデアの方が往々にして注目され易いから、後に同じ思想又は感情を表現し、あるいは同じ手法やアイデアを採用した他の者の作品は、既存の作品を直接感得させ易くなるであろうし、逆に、表現された思想又は感情あるいはそれを表現する手法や表現を生み出す本になったアイデア自体がありふれたものであり、それを表現した者あるいはそれを採用した者が多数いる状態の下では、思想又は感情あるいはアイデアが注目されることはないから、後に同じ思想又は感情を表現し、あるいは同じ手法やアイデアを採用した他の者の作品が現われても、そのことだけから直ちに既存の作品を直接感得させることは少ないであろう。)、必ずしも常に、類似性の判断基準として有効に機能することにはならないからである。
平成12年09月19日東京高等裁判所[平成11(ネ)2937]

複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である。
平成17年05月17日東京地方裁判所[平成15(ワ)12551]

新たな表現が付加されることにより,二次的な著作物が原著作物との同一性を失い,これに接する者が著作物全体から受ける印象を異にすると認められるときは,二次的な著作物から原著作物の創作的特徴を直接感得することはできないから,その二次的著作物はもはや原著作物の複製ないし翻案ということはできないと解すべきである。
平成16年11月24日東京高等裁判所[平成14(ネ)6311]

ある著作物(原告著作物)におけるいくつかの点が他の著作物(被告著作物)においても共通して見受けられる場合,その各共通点それ自体はアイデアにとどまる場合であっても,これらのアイデアの組み合わせがストーリー展開の上で重要な役割を担っており,これらのアイデアの組み合わせが共通することにより,被告著作物を見る者が原告著作物の表現上の本質的な特徴を感得するようなときには,被告著作物が全体として原告著作物の表現上の本質的な特徴を感得させるものとして原告著作物の翻案と認められることもあり得るというべきである。
平成16年12月24日東京地方裁判所[平成15(ワ)25535]≫

原告作品と被告作品との共通点それ自体がアイデアや創作性のないものにとどまる場合であっても,これらのアイデア等の組合せが作品の中で重要な役割を担っており,これらのアイデア等の組合せが共通することにより,被告作品に接する者が原告作品の表現上の本質的な特徴を感得することができるのであれば,翻案と認められることがあり得ないではないとしても,本件において,個々の画面は異なり,具体的な表現も異なるものであり,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとまではいえない。
平成24年08月08日知的財産高等裁判所[平成24(ネ)10027]

著作権法の保護を受ける著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり,それが著名であるか否かによって,その保護に差異があるということはできない。そして,「翻案」(著作権法27条)とは,前述のように,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうところ,著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得するものであるか否かも,対象となる原著作物が著名であるか否かによって差異があるということはできない(。)
平成17年06月14日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10023]≫

上記複製ないし翻案とされる場面は,その本件戯曲において有している意味・効果を考慮すると,本件戯曲全体に占める重要性や分量が小さく,その余の各場面の占める重要性や分量の方が大きいから,本件戯曲全体が控訴人著作の複製又は翻案であるとすることはできない。
平成14年09月18日大阪高等裁判所[平成14(ネ)287]

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