[e042]アイディアと表現

著作権法によって保護されるのは、直接には、「表現したもの」(「表現されたもの」といっても同じである。)自体であり、思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出す本(もと)になったアイデア(着想)も、それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。
このような立場を採った場合、思想又は感情あるいはそれを表現する手法や表現を生み出す本になったアイデア自体に創作性がなくても、表現されたものに創作性があれば、著作権法上の保護を受け得ることの反面として、思想又は感情あるいはそれを表現する手法や表現を生み出す本になったアイデアに創作性があって、その結果、外観上、表現されたものに創作性があるようにみえても、表現されたもの自体に、右アイデア等の創作性とは区別されるものとしての創作性がなければ、著作権法上の保護を受けることができないことになる。そうでなければ、表現されたものの保護の名の下に思想又は感情あるいはこれを表現する手法や表現を生み出す本になったアイデア自体を保護することにならざるを得ないからである。
平成12年09月19日東京高等裁判所[平成11(ネ)2937]

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であるから、それが自然科学の分野における論文等であつても自然科学的思想あるいは技術的思想を創作的に表現したものであるかぎり、それは著作物であり、著作権法上の保護を受け得るものであることはいうまでもない。しかし、自然科学的分野あるいは技術的分野における「思想の創作」であつても、その創作が表現される文章、図画等の「形式」に関係のない「思想」そのもの、例えば特許法でいう「発明」そのもの、実用新案法でいう「考案」そのものは、著作権法で保護される著作物に当らない。「発明」又は「考案」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法第2条第1項、実用新案法第2条第1項)であり、産業上利用することができる発明又は考案をした者は、その発明又は考案が特許要件、実用新案登録要件を備えているかぎり、特許権又は実用新案権として登録され、特許法、実用新案法上の保護を受け得るが、技術的思想の創作である発明、考案も、それが「言語」あるいは、「図画」、「図表」、「図形」、「写真」等の「形式」(著作権法第10条第1号、第6号、第8号参照)で表現されていないかぎり、その発明又は考案に含まれている抽象的な技術思想、自然科学的、技術的原理・原則は、著作権法でいう「著作物」ではなく、したがつてそれは同法上の保護を受け得ないのである。
昭和58年06月30日東京高等裁判所[昭和57(ネ)3258]

法によって保護されるのは,直接には「表現したもの」自体であり,思想又は感情自体に保護が及ぶことがあり得ないのはもちろん,思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表現を生み出すもとになったアイデア(着想)も,それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。
平成18年12月26日知的財産高等裁判所[平成18(ネ)10003]

著作権法は,思想又は感情の創作的表現を著作物として保護するものである(著作権法2条1項1号)から,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分は,著作権法による保護が及ばない。すなわち,歴史的事実の発見やそれに基づく推論等のアイデアは,それらの発見やアイデア自体に独自性があっても,著作に当たってそれらを事実又は思想として選択することは,それ自体,著作権による保護の対象とはなり得ない。
平成22年07月14日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10017等]

数学に関する著作物の著作権者は、そこで提示した命題の解明過程及びこれを説明するために使用した方程式については、著作権法上の保護を受けることができないものと解するのが相当である。一般に、科学についての出版の目的は、それに含まれる実用的知見を一般に伝達し、他の学者等をして、これを更に展開する機会を与えるところにあるが、この展開が著作権侵害となるとすれば、右の目的は達せられないことになり、科学に属する学問分野である数学に関しても、その著作物に表現された、方程式の展開を含む命題の解明過程などを前提にして、更にそれを発展させることができないことになる。このような解明過程は、その著作物の思想(アイデア)そのものであると考えられ、命題の解明過程の表現形式に創作性が認められる場合に、そこに著作権法上の権利を主張することは別としても、解明過程そのものは著作権法上の著作物に該当しないものと解される。
平成6年02月25日大阪高等裁判所[平成2(ネ)2615]

本件レイアウト・フォーマット用紙の完成に至るまでにたとえ幾多の工夫や試行錯誤があったとしても、それは、本件知恵蔵の紙面構成、レイアウトをどのようにするかのアイデアが完成するまでの工夫や試行錯誤であって、その結果得られた前記のようなアイデアに基づいて本件知恵蔵が紙面の割付け作業を行うためのレイアウト・フォーマット用紙を具体的に作成しようとすれば、その具体的表現は唯一無二とはいえないにしても、本件レイアウト・フォーマット用紙は、限られた表現の一つに過ぎない。このような本件レイアウト・フォーマット用紙を著作物として著作権法により保護することは、結局のところ、本件レイアウト・フォーマットと密接不可分の紙面構成についてのアイデアを特定の者に長期間独占させるものであり、著作権法が予定する表現の保護を超える結果となる。
平成10年05月29日東京地方裁判所[平成7(ワ)5273]

そもそも,学問上の理論それ自体は,著作権の保護の対象となるものではない(。)
平成14年07月26日東京地方裁判所[平成13(ワ)19546]

被侵害部分に記載されているような地層を発見し,その構成を特定し,その層序を決めることは,豊富な経験知識を前提に,膨大な現地調査とそれに基づく根気強い分析をすることを要するものであろうことは,想像に難くない。また,その結果得られた発見や仮説が大きな価値を有することもいうまでもないところである。しかし,著作権法は,発見や仮説そのものを保護し,これらを発見者や仮説の提唱者に独占させようとするものではない。控訴人ら主張のように,素材の取捨選択等の内容の重視を押し進めて,それが独創的であるとの一事をもって,表現に創作性がある,としたり,あるいは内容が同一であることから,表現にも同一性がある,としたりすると,その背後にある発見(発見された事実)や仮説の他者による表明が,事実上極めて困難となり,結局,発見や仮説そのものを保護し,発見者や提唱者によるその独占を認めることにならざるを得ない。このような結果は,著作権法の立場と両立し得ないことが明らかであり,このような結果をもたらす控訴人らの解釈を採用することはできない。
平成14年11月14日東京高等裁判所[平成12(ネ)5964]

著作権法は,事実の発見そのものを保護するものでもなければ,事実に関する仮説(より一般的にいえば思想・感情)そのものを保護するものでもない。したがって,「畑沢火山」が示す仮説が仮説自体としては独創的なものであるとしても,それだけで,その仮説を具体的に表現したものに著作権法上の創作性が認められることになるわけのものではない。そして,「畑沢火山」という用語は,地名と「火山」という用語を組み合せたものにすぎず,その表現方法自体はごく普通のものという以外になく,そこに著作者の個性が表れているとは,到底認めることができない。
平成14年11月14日東京高等裁判所[平成12(ネ)5964]

自然科学論文における著作者の独創にかかる思想内容については,学問は先人の思想,発見をもとにして発展して行くものであり,その利用を禁止することは文化の発展を阻害することになるから,抽象的な理論体系,思想内容については,アイデアや事実など表現それ自体ではない部分に該当するものと解するのが相当である。
平成18年04月26日大阪高等裁判所[平成17(ネ)2410]≫

数学の代数や幾何あるいは物理の問題とその解答に表現される考え方自体は,アイデアであり,これを何らかの個性的な出題形式ないし解説で表現した場合は著作物として保護され得るとしても,数学的ないし物理的問題及び解答に含まれるアイデア自体は著作物として保護されないことは当然である。このことは,パズルにおいても同様であり,数学の代数や幾何あるいは物理のアイデア等を利用した問題と解答であっても,何らかの個性が創作的に表現された問題と解答である場合には,著作物としてこれを保護すべき場合が生じ得るし,これらのアイデアを,ありふれた一般的な形で表現したにすぎない場合は,何らかの個性が創作的に表現されたものではないから,これを著作物として保護することはできないというべきである。
平成20年01月31日東京地方裁判所[平成18(ワ)13803]≫

著作権法にいう「著作物」とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいう。したがって,同法が保護の対象とするのは,「創作的」な「表現」であって,その基礎にある思想,感情又はアイデアではない。
控訴人は,ポニー交通システムのうち,市街中心部を双方向(時計回り及び反時計回り)に循環する市街地循環復路線は,過去に類例がなく,控訴人が新たに考案したものである旨主張する。しかし,そのような路線の設定方法自体は,思想ないしアイデアであって,著作権法が保護の対象とする著作物ではない。よって,市街中心部を双方向(時計回り及び反時計回り)に循環するという路線設定の方法自体は,それが創作的なものであるか否かを問わず,そもそも著作物に当たらないといわざるを得ない。
平成19年03月27日知的財産高等裁判所[平成18(ネ)10058]≫

著作権法は,著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることを定めているから,表現を離れた単なるアイディアは著作物とはいえず,著作権法上の保護の対象とはならない。しかるところ,原告アイディアは,「スーパードリームボール」というスポーツについてのアイディアであって表現ではないから,原告アイディアを著作物ということはできない。原告は斬新なアイディアは著作物というべきであると主張するが,アイディアがいかに独創的であったとしても,アイディアにすぎない以上,著作物たり得ないことに変わりはないから,原告の主張は採用できない。
平成13年12月18日東京地方裁判所[平成13(ワ)14586]

原告書籍と被告書籍は,ゴムバンドの巻き方において共通する部分があるが,その具体的な記述文言は異なっている。
著作権法は,ダイエット法等のアイデアを保護するものではなく,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,ゴムバンドの巻き方において共通するところがあるとしても,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。
平成26年8月29日東京地方裁判所[平成25(ワ)28859]
【コメント】
控訴審平成27年2月25日知的財産高等裁判所[平成26(ネ)10094]≫も同旨:『控訴人は,例えば,控訴人書籍の「たすきがけ巻き」についての記述は,そのアイデア自体画期的なだけではなく,「バンドを8の字にして」,「両腕を上げて,バンザイします」などの説明表現がその言葉の選択において個性的であり,画像も独特であると主張する。しかし,バンドを一定の巻き方で巻くということ自体は,控訴人も自認するとおりアイデア(思想)であるから,著作権法上の保護の対象となるものではないし,控訴人書籍の具体的な記述をみても,「バンドを8の字にして,両手首にかけます」,「両腕を上げて,バンザイします」という説明表現は,説明対象となる一連の動作を表現するための表現としては,ごくありふれており,創作性がある表現とはいえない。また,同記述に付された画像も,モデルが両手首にバンドを8の字状にかけたり,その手を頭上に挙げているポーズを撮影したもので,当該巻き方を表現するためのポーズとしてはごくありふれたものであり,ポーズ自体が創作性のある表現とはいえない。したがって,控訴人の主張は理由がない。』
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