[e060]法19条3項の意義と解釈

著作権法19条3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができると規定する。
これを本件についてみるに、本件写真は、「セキスイツーユーホーム」の宣伝誌である「ツーユー評判記」に掲載するために、すなわち「セキスイツーユーホーム」の宣伝広告に用いる目的で撮影されたものであるところ、本件使用も、まさに「セキスイツーユーホーム」の広告である新聞広告に用いたものである。そして、原告本人尋問の結果によれば、一般に、広告に写真を用いる際には、撮影者の氏名は表示しないのが通例であり、原告も従来、この通例に従ってきたが、これによって特段損害が生じたとか、不快感を覚えたといったことはなかったことが認められる。
上記の事情に照らせば、本件使用は、その目的態様に照らし、原告が創作者であることを主張する利益を害することはなく、公正な慣行にも合致するものといえるから、同項によって原告の氏名表示を省略する場合に該当するというべきである。
この点につき、原告は、本件使用は無断使用であることを理由に、同項の適用はない旨主張する。しかしながら、著作者人格権と著作権は別個の権利であり、前者は著作者に専属するものであるのに対し、後者は著作者が他者に譲渡することができるものであることに照らせば、著作物の使用が著作権者の許諾を受けたものであるか否かは、同項の適用の可否とは関係がないものというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。
平成17年01月17日大阪地方裁判所[平成15(ワ)2886]

同項【注:著作権法
19条3項】にいう「著作物の利用の目的及び態様に照らし」とは,著作物の利用の性質から著作者名表示の必要性がないか著作者名の表示が極めて不適切な場合を指すものと解される。
平成18年03月31日東京地方裁判所[平成15(ワ)29709]

被告らは,それぞれが設置する図書館等において,利用者に対する閲覧,貸与等のために本件韓国語著作物【注:日本語の原告著作物の韓国語版をさす】を所蔵しているものである。そして,一般に,図書館等において所蔵する書籍等を利用者へ貸与する際に,当該書籍等に表示されているもののほかに著作者の氏名は表示しないのが通例であり,そのことによって著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく,公正な慣行にも反しないといえる。そうとすれば,書籍等の貸与に当たっては,公衆への提供又は提示に際して付すべき著作者名の表示とは,書籍等に付された表示に尽きるものであり,被告らが本件韓国語著作物を利用者へ貸与する際に改めて著作者名を表示しなかったとしても原告の氏名表示権を侵害する行為があったとはいえない。
平成22年02月26日東京地方裁判所[平成20(ワ)32593]
【コメント】本件の控訴審平成22年08月04日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10033]≫では『被控訴人らが本件韓国語著作物を購入してこれを図書館等において貸与することは,当該著作物が控訴人著作物【注:「原告著作物」のこと】を原著作物とするその二次的著作物であるとしても,二次的著作物の著作者が原著作者である控訴人の氏名表示権を侵害して当該二次的著作物を自ら公衆へ提供又は提示する場合とは異なるものであって,被控訴人らの行為は著作権法19条1項に該当するものではな(い。)』と述べています。

被告らは,本件DVDの商品価値は,撮影されている映像の資料的価値ではなく,編集作業による側面が強いことを理由として,素材となった映像を撮影したにすぎない原告の氏名を表示しなくても,原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないか,又は公正な慣行に反せず,氏名表示権の侵害には当たらない(著作権法19条3項)と主張する。
しかしながら,氏名表示権は,二次的著作物の公衆への提供等に際しての原著作物の著作者名の表示についても認められること(著作権法19条1項)からすれば,仮に,本件DVDの商品価値が補助参加人による編集作業による側面が強いとしても,そのことのみをもって,本件DVDの素材である本件映像を撮影した原告の氏名を表示しないことが,原告が著作者であることを主張する利益を害しないものとは認められず,また,それが公正な慣行に反しないものであるとも認められないから,被告らの前記主張は,採用することができない。
したがって,被告が本件DVDに撮影者として原告の氏名を表示せずにこれを販売したことは,原告の本件映像についての氏名表示権を侵害すると認められる。
平成22年04月21日東京地方裁判所[平成20(ワ)36380]

本件画像が本件入れ墨の複製物と認められることは,上記に説示したとおりであり,本件画像が掲載された本件表紙カバー,本件扉及び本件表紙カバーの写真を掲載した本件各ホームページには,いずれも本件入れ墨の著作者である原告の氏名が表示されていないことは当事者間に争いがない。(中略)被告らは,上記各掲載について,著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると主張 (する。)(中略)しかしながら,本件書籍において,本件入れ墨は,表紙カバー及び扉という書籍中で最も目立つ部分において利用されていること,本件表紙カバー及び本件扉は,いずれも本件入れ墨そのものをほぼ全面的に掲載するとともに,「合格!行政書士南無刺青観世音」というタイトルと相まって殊更に本件入れ墨を強調した体裁となっていることからすれば,読者の本件書籍に対する興味や関心を高める目的で本件入れ墨を利用しているものと認められ,本件入れ墨の利用の目的及び態様に照らせば,著作者である原告が本件入れ墨の創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認めることはできない。(中略)したがって,被告らによる上記各掲載が著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると認めることはできず,被告らの上記主張は採用することができない。
平成23年07月29日東京地方裁判所[平成21(ワ)31755]

著作権法は,著作者の人格的利益を保護するために,著作者人格権としての氏名表示権を認めており,同権利は,二次的著作物の公衆への提供等に際しての原著作物の著作者名の表示についても認められることに鑑みれば,仮に,本件ビデオ映像の価値や本件テレビ番組の編集方法について,被告らの主張する事実が認められるとしても,そのことのみをもって,本件ビデオ映像を撮影した原告の氏名を,同映像を素材として制作された本件テレビ番組に表示しないことが,原告が著作者であることを主張する利益を害するおそれがないものとも,公正な慣行に反しないものであるともいうことはできない。
平成24年03月22日東京地方裁判所[平成22(ワ)34705]

本件著作物のうち,分冊Ⅰに相当する部分については,少なくとも亡Wの著作権が存することは,当事者間に争いがなく,かつ,本件著作物は,本冊において,その著作者として亡W及び原告X4の氏名が表示されていたのであるから,分冊Ⅰにも,本来,少なくとも亡Wの氏名がその著作者名として表示されなければならなかったことになる(法19条1項)。しかし,前記のとおり,分冊Ⅰの表紙及び奥付には,著作者名として被告Y3の氏名が記載されており,亡Wの氏名は記載されていない。そうすると,かかる分冊Ⅰの著作者名表示は,亡Wの氏名表示権の侵害となるべきものであったということができる。
この点に関し被告らは,分冊Ⅰの前付に,「底本」として,本冊が表示され,そこに「著者 W・X4」との記載がされており,また,被告Y3の「まえがき」,原告X4の「『基幹物理学』序文」及び被告Y2の「『基幹物理学』はじめに」に書誌が掲載されていることから,分冊Ⅰが本冊を改訂した著作物であることが明らかにされているとして,法19条3項により,原著作者である亡Wの名を省略することができると主張する。
しかし,書籍の著作者名は,その表紙及び奥付等に「著者」又は「著作者」などとして記載する方法によって表示されるのが一般的であるところ,法14条が,著作物に著作者名として通常の方法により表示されている者を当該著作物の著作者と推定すると規定していることにも鑑みると,通常,読者は,そこに表示された者を当該書籍の著作者として認識するものと解される。そうすると,分冊Ⅰについても,その読者は,その著作者名表示から,著作者が被告Y3であると理解するものと解される。
この点,確かに,分冊Ⅰの前付の底本の表示や「まえがき」等の文章を参照すれば,分冊Ⅰが,本冊を分冊化したものであり,本冊を一部改訂したにすぎないものであることは容易に認識し得るが,この前付は,分冊Ⅰの表紙をめくった書籍の内側に記載されているにすぎず,分冊Ⅰを外側から観察しただけでは,それを読み取ることができない。また,本件において,分冊Ⅰの表紙や奥付に亡Wの名を著作者名として表示することが困難又は不適当であったと解すべき事情は認められない。そうすると,上記のように,前付の記載によって本件著作物の著作者が亡Wであり,分冊Ⅰがそれを分冊化したものであることが認識できるとしても,それを理由に,分冊Ⅰの表紙及び奥付に,亡Wの氏名が著作者名として表示されず,被告Y3が単独著作者として表示されることによって,亡Wがその「創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(法19条3項)と認めることはできない。
よって,公正な慣行に反するかどうかを判断するまでもなく,本件は,著作者名の表示を省略することが許される場合には当たらないから,分冊Ⅰの著作者名の表示は,少なくとも亡Wの氏名表示権の侵害となるべき不適法なものであったというべきである。
平成25年03月01日東京地方裁判所[平成22(ワ)38003]

氏名表示権侵害の成否につき
原告は,被告各番組において原作者として原告の氏名が表示されていないとして氏名表示権侵害を主張するところ,前記のとおり,被告各番組のエンドロールで,「参考文献X著『田沼意次主殿の税』」,「参考文献X著『開国愚直の宰相堀田正睦』」,「参考文献X著『調所笑左衛門薩摩藩経済官僚』」と表示されていたことが認められる。
上記各表示は,原告各小説と併せて「X著」と表示して,その著者が原告であることをその実名の表示をもって示しているものと認めることができる。
そして,「参考文献」との記載によって,被告各番組が原告各小説に依拠して制作されたことは明らかであるから,被告各番組は原告各小説の二次的著作物に該当すると認められるところ,上記各表示は,「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示」(著作権法19条1項後段)に該当するものと認められる。
仮にそうでないとしても,同条3項は,「著作者名の表示は,著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは,公正な慣行に反しない限り,省略することができる」と規定するところ,そもそも,前記のとおり,本件において著作権(複製権,翻案権)侵害が認められるのは,被告各番組のうち,被告番組1については被告番組1-2-1,被告番組2については被告番組2-5-6,被告番組3については被告番組3-4-6,被告番組4については被告番組4侵害認定表現部分,被告番組5については被告番組5侵害認定表現部分に限られ,ほとんどの部分において複製権侵害,翻案権侵害のいずれも成立していないこと,そして,前記のとおり被告各番組のエンドロールにおける上記表示において,「参考文献」として原告各小説が原告の実名とともに表示されており,かかる表示態様である以上,被告各番組が原告各小説に依拠して制作されたことが十分に感得できること,この点,(証拠等)によれば,被告は,シリーズ「THE ナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち」のテレビ番組において,被告各番組と同様に,その回の主要参考文献とした作品については,番組のエンドロールにおいて「参考文献」として当該作品のタイトルとその著者名を併記したものを字幕表示していたことが認められること,それらの諸事情を総合すると,本件においては「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」(同条3項)と認めるのが相当である。
また,歴史小説を題材に制作されたテレビ番組において,番組のエンドロールにおいて題材にされた歴史小説のタイトルとその著者名を併記したものを字幕表示するという方法は,通常行われる方法であるといえるところ,被告が被告各番組において行った前記の表示態様は,上記の方法に沿って行われたものであるから,「公正な慣行に反しない」(同項)ものであると認めるのが相当である。
したがって,同項により,著作者名である原告の氏名の表示を省略することができるものというべきである。
よって,被告各番組の公衆への提供又は提示は,原告の氏名表示権を侵害するものではないと認めるのが相当である。
平成27年2月25日東京地方裁判所[平成25(ワ)15362]≫

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