[e093]年度版時事用語辞典の編集著作物性

著作権法12条1項は、「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と規定し、旧著作権法のように著作物が利用されることを編集著作物の保護の要件としていず、事実やデータ等の著作物でないものも、編集物の素材となることを前提としている。しかしながら、そのことから、編集著作物の複製物、例えば書籍に具体的に記載、表現されているものの全てが選択、配列の創作性が問題となる素材となり得るものではない。
即ち、素材の選択又は配列に創作性の認められる編集物が著作物として保護されるのは、素材の選択又は配列に著作者の個性が何らかの形で現れていれば、当該編集物としての思想又は感情の創作的表現が認められるためであると解されるところ、具体的な編集物に記載、表現されているものの内、その選択、配列の創作性が問題とされる素材が何であるか、どのような意味での選択、配列の創作性が問題となるかは、当該編集物の性質、内容によって定まるものである。
前記のとおり、本件知恵蔵は、今日の社会において用いられている用語の意味内容を分野毎に解説することを目的とした年度版用語辞典であって、その性質、目的からみて、数多ある用語の中から選択された用語とその解説が収集され、これを、経済、政治等の大分類の中の貿易、日本経済、財政、あるいは国会、内閣・行政、地方自治、外交、防衛等の一定の分野毎に、かつ、各分野の中では「新語話題語」及び「用語」欄に分け、「用語」欄は更に中分類して配列されるとともに、これを補足、説明する「F情報」や図表・写真、これらの用語の背景となった社会の傾向の解説記事(「ニュートレンド」)が選択配列されている点に、本件知恵蔵の編集著作物としての創作性が存在すると認められる。してみると、本件知恵蔵の創作的選択及び創作的配列の対象となった素材は、あくまで、右「新語話題語」及び「用語」欄に記載された用語とその解説、「F情報」の記述、図表・写真及び「ニュートレンド」の記述であると解するのが相当である。
他方、原告が本件知恵蔵の素材であると主張する柱【注:版面の周辺の余白に印刷した見出しのこと】、ノンブル【注:頁数を示す数字のこと】、ツメ【注:検索の便宜のために辞書等の小口に印刷する一定の記号等のこと】の態様、分野の見出し、項目、解説本文等に使用された文字の大きさ、書体、使用された罫、約物【注:文字や数字以外の各種の記号活字の総称】の形状は、確かに本件知恵蔵の紙面に記載、表現されているものであるけれど、本件知恵蔵の年度版用語辞典という著作物としての性質、目的から考えれば、編集著作物としての本件知恵蔵の創作の対象となった素材とはなり得ない。また、原告が記事の一つに挙げる「分野見出し」も、本件知恵蔵の右素材の選択又は配列の基準となるものではあるが、それ自体は、収集された素材群が社会事象のどの分野に属するかを示すいわば枠組みに過ぎず、この種の用語辞典において
50音順、いろは順等の音別配列でなく、事項別配列を採用する限り、何らかの「分野見出し」を掲げることは当該書籍にとって必要不可欠であるから、「分野見出し」という紙面構成上の記載をもって本件知恵蔵の素材とすることはできない。
そして、本件知恵蔵の素材であると認められる右「新語話題語」及び「用語」欄に記載された用語とその解説、「F情報」、図表・写真及び「ニュートレンド」に関して、どの用語を取り上げるか、どの解説を採用するか、どの用語との関係でどの図表・写真を採用するかという内容の選択に関与したのが原告であることを認めるに足りる証拠はなく、右素材の選択について、原告の創作的関与を認めることはできない。
また、本件知恵蔵の中での右のような素材の配列の創作性とは、右に見たように、本件知恵蔵の年度版用語辞典という性質及び目的の観点から考えれば、素材である用語とその解説、F情報、写真、図表、ニュートレンド等の素材をどのような大分野、分野に系統的に分類し、各分野の中で、「新語話題語」「ニュートレンド」「用語」に分類し、「用語」欄では更に中分類したかという、いかなる分類、順序で配列したかに見出すべきであって、原告がかかる意味における素材の創作的配列を行ったと認めるに足りる証拠はない。
原告は、本件知恵蔵の紙面における「新語話題語」「用語」「ニュートレンド」「F情報」及び写真・図表の配列を主張する。なる程、本件知恵蔵の「新語話題語」「用語」の掲載された頁を、開いたときに認識できる余白部分と文字や写真・図表の位置、文章が何段組みで、
1行何字、1段何行で印刷するかを決定することを、国語的な意味では、素材である用語とその解説、写真・図表の「配列」と表現できないわけではない。また、これらの紙面上の配列(レイアウト)は、読者の読み易さ、紙面構成上の工夫や美的感覚に基づいて採用されたものであり、その決定、採用までには知的活動が行われ、創作的なものということができる余地もある。しかし、一定の分類法によって配列されることによって、検索の便を図るとともに、相互の関連性が示された各用語の意味の文字による解説とそれを補うための写真・図表という表現された内容こそに価値がある年度版用語辞典という本件知恵蔵の性質、目的に照らせば、著作物としての本件知恵蔵の素材の選択、配列の創作性は、前記のような素材を前記のとおりどのように分類し、どのような順序で配列したかにあるのであって、原告主張のような紙面上の余白と文字や写真・図表の配置、文字を何段組みで1行何字、1段何列とするか等は、編集物である本件知恵蔵の創作性に何らかかわるものではない。そのことは、本件知恵蔵に依拠してその文字による用語解説、写真・図表による補足を、そのまま分類、順序を全て維持しつつ、原告が主張するような具体的な紙面における余白の配置、段数、1行の文字数、1段の行数、文字の大きさ、書体等は全て本件知恵蔵とは異なるものとした書籍を作成することは、編集著作物である本件知恵蔵の複製に当たると解されることからも明かである。してみると、原告の主張する「配列」は、本件知恵蔵の場合、編集著作物としての創作性の対象となる「配列」に当たるものではないから、原告の主張する「配列」を、本件知恵蔵の編集著作物としての創作的配列と見ることはできない。
平成10年05月29日東京地方裁判所[平成7(ワ)5273]≫

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