[e111]写真の侵害性(vs.写真

一般に、特定の作品が先行著作物を翻案したものであるというためには、先行著作物に依拠して制作されたものであり、かつ、先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を当該作品から直接感得できる程度に類似しているものであることが必要である。
ところで、写真技術を応用して制作した作品については、被写体の選択、組合せ及び配置等が共通するときには、写真の性質上、同一ないし類似する印象を与える作品が生ずることになる。しかし、写真に創作性が付与されるゆえんは、被写体の独自性によってではなく、撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであるから、いずれもが写真の著作物である二つの作品が、類似するかどうかを検討するに当たっては、特段の事情のない限り、被写体の選択、組合せ及び配置が共通するか否かではなく、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分、すなわち本質的特徴部分が共通するか否かを考慮して、判断する必要があるというべきである。
平成11年12月15日東京地方裁判所[平成11(ワ)8996]

絵画の複製に当たる「他人の絵画を人の手で模写する場合」と対比すべきは、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影する場合ではなく、写真Aそのものを有形的に再製する場合であるから、写真Aと同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影したからといって、直ちに写真Aの複製になるとはいい難い。まして、写真Bが写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方法を用いているからといって、写真Bをもって写真Aの複製であると解する余地はない
平成7年03月28日大阪地方裁判所[平成4(ワ)1958]≫

写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。
本件写真は,そこに表現されたものから明らかなとおり,屋内に撮影場所を選び,西瓜,籠,氷,青いグラデーション用紙等を組み合わせることにより,人為的に作り出された被写体であるから,被写体の決定自体に独自性を認める余地が十分認められるものである。したがって,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分についてのみならず,被写体の決定における創造的な表現部分についても,本件写真にそのような部分が存在するか,存在するとして,そのような部分において本件写真と被控訴人写真が共通しているか否かをも検討しなければならないことになるものというべきである。
(略)
前述したとおり,本件写真は,作者である控訴人の思想又は感情が表れているものであるから,著作物性が認められるものであり,被控訴人写真は,本件写真に表現されたものの範囲内で,これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が,著作権法上,違法なものであることは明らかというべきである。
この点について,被控訴人Bは,被写体を容易かつ正確に表現できることに最大の利点がある写真について,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真を撮影してはならないとなると,写真による表現行為は著しく制約されることになり,こうした結論が創作活動の動機付けを与えようとする著作権法の趣旨に反することは,明らかである旨主張する。
しかしながら,当裁判所は,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真一般について,そのような写真を撮影するのが著作権法に違反するといっているのではない。特に,先行著作物の被写体を参考として利用しつつ,被写体を決定し,自らの創作力を発揮して新しい写真を撮影することが,著作権法に違反するといっているのではない。当裁判所がいっているのは,先行著作物において,その保護の範囲をどのようにとらえるべきかはともかく,被写体の決定自体に著作権法上の保護に値する独自性が与えられているとき,上記のような形でこれを再製又は改変することは許されないということだけである。したがって,上記のように解したからといって,写真による表現行為が著しく制約されるということに,決してなるものではない。
平成13年06月21日東京高等裁判所[平成12(ネ)750]

一般に,肖像写真は,被写体である人物をどのように表現するかを中心として,写真表現における創意工夫がされるものであるから,複製か否かを判断するに当たっては,人物を表現した部分に重きを置いて,著作物である写真の創作的特徴が複製を主張される写真に再現されているかどうかを検討することが許されるというべきである。上記観点から,1審原告写真1と本件ビラ写真とを対比観察すると,本件ビラ写真は,比較的鮮明な白黒写真であって,1審原告写真1の肖像部分のカラー画像を白黒画像に変えただけのものであることを一見して看取し得るものである上,具体的な表現形式という点でも,1審原告写真1における人物のポーズや表情はもとより,顔の陰影,人物が着用しているローブの状態など,1審原告写真1の撮影者が照明や光量,絞り等の工夫をすることによって表現した創作部分の特徴は,カラー写真が白黒写真に変更された後も,なお,相当程度忠実に再現され,実質的に維持されていると認められる。したがって,本件ビラ写真は,カラーが白黒になり,背景及び被写体である人物の下半身がカットされていても,なお,1審原告写真1の複製物に当たるということを妨げない。
平成16年11月29日東京高等裁判所[平成15(ネ)1464]

本件写真と上記各被告写真とを対比すると,被告写真1は縦横の比率が若干横伸びしたように変更されており,被告写真1及び同3は色調がカラーからモノクロに変更されており,被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されているが,いずれも本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており,その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ,状態で,ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,被告による上記変更には,創作性があるとは認められない。したがって,被告写真1,同3及び同5は,いずれも本件写真の複製物である
平成23年02月09日東京地方裁判所[平成21(ワ)25767等]

(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる。本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。
(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,原告写真1は,群馬県松井田町に所在する国鉄旧丸山変電所の内部を撮影したものであるが,原告書籍1「棄景」が全体の基調としているように,モノクロ撮影を強調しハイコントラストにしたものである。控訴人がこれを翻案したと主張する被告写真1は,被告書籍1「廃墟遊戯」及び被告書籍4「廃墟遊戯-Handy Edition」に収録されているが,これら被告書籍が基調としているように,枯れ葉色をベースにしたカラー写真である。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない。
(3) 被告写真2と原告写真2の関係をみるに,両者とも,栃木県足尾町に所在する足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)を撮影したものであり,建物右下方向からの撮影であって構図の点では近似している。しかし,撮影対象が現に存在する建物跡であることからすると,たとえ構図において似ていても,写真において表現されている全体としての印象が異なっていれば,一方が他方の翻案に該当するものと認めることはできない。撮影時季が違うことは,特に原告写真2でセピア色の中で白色に特徴付けられて写真左下に写っているすすきが,建物の色感覚をそのまま撮影したであろうと印象付けられる被告写真2にはなく,その位置に緑色の植物が写っていることから明らかである。これらの印象の違いと撮影物の違いにかんがみると,被告写真2が原告写真2の翻案に当たるということはできない。
(4) 原告写真3と被告写真3は静岡県修善寺町所在の大仁金山付近の建物外観を撮影したものであり,原告写真4と被告写真4は東京都奥多摩町に所在する奥多摩ロープウェイの機械室内部を撮影したものであるが,いずれも現に存在する建築物の外観あるいは内部を撮影したものであって,撮影方向が違う以上,これら被告写真が原告写真の翻案に当たるということはできない。原告写真3と原告写真4は,モノクロないしセピア色を基調とした写真であり,特に原告写真4はコントラストの強さを持ったものであって,ほぼありのままを伝えようとする印象を持つ被告写真3,4にはない強いインパクトを与えるものとなっている。
原告写真5と被告写真5は,ともに秋田県大館市に所在する奥羽本線旧線跡の橋梁跡を撮影したものであるが,同様に現存する建築物を撮影したものであり構図も違うから,この点において既に被告写真5が原告写真5を翻案したものということはできない。
(5) 以上のとおり,翻案権侵害をいう控訴人の主張はいずれも理由がなく,そうである以上,被告写真1~5が掲載された被告各書籍の発行等について控訴人が主張する複製権,譲渡権,氏名表示権の侵害の主張も理由がない。
平成23年05月10日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10010]

(1) (証拠等)によれば,原告写真は,いずれも猫そのもの又は猫を含む風景を被写体とした写真であること,被告(会社)は,写真集に掲載された原告写真又はそのコピーに,猫の顔の部分を中心に切り取るか,又は猫のほぼ全身部分を切り取った上,更にその目の部分をくり抜く加工を施したことが認められる。これらの加工はいずれも定型的で単純な行為であり,これによって新たな思想又は感情が創作的に表現されたということはできない。したがって,この点について原告写真の翻案権侵害をいう原告の主張は失当というべきである。
(2) (証拠等)によれば,本件看板は,目の部分をくり抜いた猫の写真ないしその複製物を色彩あるいは大きさのグラデーションが生じるように多数(正確な数についての主張はないが,全部で数百枚に及ぶことは明らかである。)並べてコラージュとしたものであり,全体として一個の創作的な表現となっていると認められる一方,これに使用された原告写真又はそのコピーのそれぞれは本件看板の全体からすればごく一部であるにとどまり,本件看板を構成する素材の一つとなっているということができる。そうすると,本件看板に接する者が,原告写真の表現上の本質的な特徴(原告が,それぞれの原告写真を撮影するに当たり,被写体の選択,シャッターチャンス,アングル,レンズ・フィルムの選択等を工夫することにより,原告の思想又は感情が写真上に創作的に表現されたと認められる部分。ただし,原告写真の表現上の本質的な特徴がどこに存在するかについて原告による具体的な主張はない。)を直接感得することができるといえないと解すべきである。
したがって,本件各パネル又は本件看板の作成行為が原告の翻案権を侵害すると認めることはできない。
平成26年5月27日東京地方裁判所[平成25(ワ)13369]

著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決),この理は本件のような写真の著作物についても基本的に当てはまるものと解される。そして,本件においては,原告各写真は,その被写体が原告建物であり,被告各写真は,その被写体が被告建物であり,互いに被写体を異にすることが明らかであり,また,原告表現建物に「建築の著作物」としての創作性が認められないことは前記3のとおりであるから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできないのであり,被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるかについて検討するのが相当である。
(略)
そうすると,被告斜め写真は,構図において原告斜め写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その撮影時期や光量の調整,陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあるから,被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告斜め写真が原告斜め写真の翻案に当たるとは認められない。
(略)
そうすると,被告正面写真は,構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その陰影の付け方や背景においても違いがあるから,被告正面写真が原告正面写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告正面写真が原告正面写真の翻案に当たるとは認められない。
平成26年10月17日東京地方裁判所[平成25(ワ)22468]

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