[e124]法律解説書の侵害性

本件における原告各書籍及び本件各書籍のような法律問題の解説書においては,関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明したり,法令又は判例,学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等を解説するなどし,それらを踏まえた見解を記述することが不可避である。しかるに,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,法令や通達,判決,決定等である場合には,これが著作権の目的とすることができないものである以上(同法13条参照),当該法令等の記述そのものが複製,翻案となることはないのはもちろん,同一性を有する部分が,法令や判決等によって当然に導かれる事柄である場合にも,創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,当該部分に係る記述も複製,翻案には当たらないと解すべきである。
また,手続の流れや法令の内容等を法令の規定や実務の取扱いに従って図示したり図表にすること,さらには,手続上通常用いられる書面の書式を掲載することはアイデアの範ちゅうに属することであり,これを独自の観点から分類し,整理要約したなどの個性的表現がされているといった格別の場合でない限り,そのような図示,図表や書式は,創作的に表現した部分において同一性を有するものとはいえないから,複製,翻案に当たらないと解すべきである。
さらに,同一性を有する部分が,ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合にも,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから,一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,複製,翻案に当たらないと解される。
そして,ある法律問題について,関連する法令等の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用等を記述する場合には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令等又は判例等によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのため,これらの事項について説明する場合に,条文の順序にとらわれずに,独自の観点から分類し,通常用いられる表現にとらわれず,独自の表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合でない限り,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。
平成23年09月15日名古屋地方裁判所[平成21(ワ)4998]

原告書籍は,司法書士試験合格を目指す初学者向けのいわゆる受験対策本であり,同試験のために必要な範囲で不動産登記法の基本的概念や手続を説明するものであるから,不動産登記法の該当条文の内容や趣旨,同条文の判例又は学説によって当然に導かれる一般的解釈や実務の運用等に触れ,簡潔に整理して記述することが,その性質上不可避である。
ところで,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や判決や決定等である場合には,これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照),複製にも翻案にも当たらないと解すべきであるし,同一性を有する部分が法令の内容や判例,法令,通達等によって当然に導かれる事項である場合にも,表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。また,一つの手続について,法令の規定や実務の手続に従って記述することはアイデアであり,一定の工夫が必要ではあるが,これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別,法令等の内容や手続の流れに従って整理したにすぎない場合は,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ないから,手続について,実務の手続の流れに沿って説明するにすぎないものである場合も,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえず,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。このように解さなければ,ある者が実務の流れに沿って当該手続を説明した後は,他の者が同じ手続の流れ等を実際の実務に従って説明すること自体を禁じることになりかねないからである。さらに,同一性を有する部分が,法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解であったり,当該手続における一般的な留意事項である場合も,一般の解説書等に記載されていない独自の観点から,それを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じているときは格別,そうでない限り,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし,ある法律問題についての見解や手続における留意事項自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することや手続における留意点を表記することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。
そうすると,法律に従った手続等についての受験対策用の解説書であれば,関連する法令の内容や法律用語の意味を解説し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,判例,法令,通達等によって当然に導かれる一般的な手続を説明しなければならないという表現上の制約があるため,これらの事項について,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,手続の流れを手続の目的に沿って,実務で行われる手順に従い,簡潔に要約し,それを説明する上で普通に用いられる法律用語や手続に関する言葉の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。
平成27年1月30日東京地方裁判所[平成25(ワ)22400]

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