[e125]学術的文章の侵害性

本件書籍に記載されているような,人体の各器官の構造,各器官と動静脈及び神経叢との各位置関係等についての客観的な事実はもちろん,解剖の手順・手法も,これらに関する考え(アイデア)も,それ自体は,本来,誰に対しても自由な利用が許されるべきものであって,特定の者に独占させるべきものではないことは,当然というべきである。したがって,解剖実習書である本件書籍についていえば,著作権法上の著作物となる根拠としての表現の創作性となり得るのは,表現された客観的事実自体,手順・手法自体やアイデア自体の有する創作性ではなく,これらの創作性を前提にし,これを当然の出発点としてもなおかつ認められる表現上の創作性に限られるものというべきである。他方,本件書籍のような学術の著作物においては,解剖の手順・手法,人体の各器官の構造,各器官相互の位置関係,各器官と動静脈や神経叢との位置関係等について,これを正確に表現することが重視されるため,個々具体的な表現においては,個性的な表現がむしろ抑制される傾向が生じることは,避けられない。そして,これらのことが相まって,このような解剖の手順・手法,人体の各器官の構造,各器官と動静脈及び神経叢との個々的な位置関係についての事実,ないし,これらの手順・手法や事実を前提とした単一の特定のアイデアを記載するときには,個々の文としてみる限り,著作権法上の著作物としての性質(著作物性)の根拠となる表現上の創作性(創作的ないし個性的な表現)は,その存在の余地がなくなる,あるいは,存在は認められても,その類似範囲(それに類似しているとして権利を及ぼすことのできる範囲)は非常に狭くなる場合が多くなることも,避けられないところとなる。もっとも,本件のような学術の著作物においても,ある手順・手法や事実を前提とした単一の特定のアイデアではなく,複数の事項を前提としたあるまとまりをもったアイデアないし思想についてみれば,その表現の仕方には,広い幅にわたって多数のものがあることになるから,著作の幅が広がり,個々の著作者の考え方によって,創作的ないし個性的な表現を採ることが十分に可能になるということができる。
本件書籍についても,その全体を典型とする,あるまとまりのある部分をみれば,上記のような特徴を持った解剖実習のための手引き書として,思想又は感情を創作的に表現した著作物として保護されるに値するものということができる。しかし,その中の単一の特定のアイデアを一つないし二つの文にまとめたにすぎない部分だけを取り上げると,その表現上の創作性ないし個性を認めることができず,これを独立の著作物として認めることができない場合が多いであろうことは,容易に予測されるところである。
平成13年09月27日東京高等裁判所[平成13(ネ)542]

両論文を対比するに当たり,各部位の名称,従来の学術研究の紹介,実験手法や研究方法の説明など,内容の説明に係る部分は,事実やアイデアに係るものであるから,それらの内容において共通する部分があるからといって,その内容そのものの対比により,著作権法上の保護の是非を判断すべきことにはならない。
平成22年05月27日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10004]

確かに、控訴人書籍は、控訴人も序文で自認するように、いわゆるアカデミズムの立場での経済学論文とはいえないものの、日本の企業体制について、諸外国の企業体制との対比、歴史的な成り立ちの検討等を通じて分析を加え、筆者なりの視点からの特徴点を提示するとともに、その理論的な説明の体系化を試みたものということができ、日本経済ないし日本社会に関する学術論文と位置づけることができる。そして、その論理展開の特徴として、控訴人の通商産業省(当時)における勤務等を通じて得た知見に基づく具体例を豊富に提示している点を挙げることができる。
このような控訴人書籍の性格にかんがみ、本件において、被控訴人書籍が控訴人書籍の翻案であるというためには、控訴人書籍中で一定の結論を導くための具体例等として記述された個別の記述部分を取り上げて被控訴人書籍の記述部分と対比した上で、当該記述内容を前後の文脈及び書籍全体の論理展開の中に位置づけ、分析の切り口、事実の提示、その評価、結論に至る論理の運び等の総体としての創作性において、その表現形式上の本質的な特徴を被控訴人書籍が備えるかどうかを判断し、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができることを要するというべきである(最高裁昭和
55年3月28日第3小法廷判決参照)。そして、個別の記述内容それ自体を対比しても共通点が見いだせなかったり、共通点があっても、その論理展開上の位置づけが全く異なっていたり、その論理展開がごくありふれたものとして学術に属する著作物としての創作性を基礎づけるに足りない場合には、被控訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得することはできないといわなければならない。
平成13年03月28日東京高等裁判所[平成12(ネ)1268]≫

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