[e146]不当提訴の成否

法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。
以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。
昭和63年1月26日最高裁判所第三小法廷[昭和60(オ)122]

被告は、まず、本訴請求にかかる訴え等の提起・維持は、何ら法律上の根拠がないのに原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を構成すると主張する。
民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法延判決参照)。
これを本件についてみるに、本訴請求のうち、主位的請求にかかる映画の著作物の著作権に基づく請求、著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求及び不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は、前示のとおり結局理由がないものとして棄却すべきものではあるが、被告が原告の製造、販売する本件ゲーム機本体にのみ接続可能なコントローラーであって連射機能を付加した被告製品を原告の了解を得ることなく製造、販売している事実自体は争いがなく、被告による右被告製品の販売行為が映画の著作物についての上映権の侵害行為となり、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであり、あるいは、本件ゲーム機によって映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様は本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当するという原告の法律上の主張については、結果的に当裁判所の採用しないところではあるものの、一応一つの見解としては成り立ちうるものであって、理由のないことが誰の目から見ても明らかであるとまではいえず、本件全証拠によるも、提訴者である原告において右法律上の主張が理由のないことを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知りえたとも認められず、本件訴訟の全過程をみても本訴請求にかかる訴え等の提起・維持が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえないことが明らかであるから、被告に対する不法行為を構成しないというべきである。加えて、当裁判所が原告の予備的請求を一部認容すべきものと判断したように、原告の本訴請求も、その請求の趣旨、原因いかんによっては理由があることになるのであるから、なおさら不法行為を構成しないといわなければならない。
平成9年07月17日大阪地方裁判所[平成5(ワ)12306]

本件仮処分申立てが,相手方に対する違法な行為といえるためには,同申立てに係る審理において,申立人の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであり,しかも,申立人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに,あえて仮処分命令を申し立てたなど,仮処分命令の申立てが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決参照)。
そこで,この観点から,被告が原告らを相手方としてした仮処分命令の申立てが,違法な行為といえるか否かについて,検討する。
前記で認定判断したとおり,原告らが携帯万能
8を販売する行為は,被告が携快電話6について有する著作権を侵害するものではないから,本件仮処分申立ては,結果として被保全権利がなく,理由がないことに帰する。
しかし,前記のとおり,①被告は本件開発委託契約の17条合意により,プログラムのソースコードを除き,携快電話6についての著作権を取得していたこと,②原告らの販売する携帯万能8のデータファイルには,携快電話6のそれと全く同一のファイルが多数含まれており,具体的には,画像ファイル及び携帯電話機情報ファイルが全く同一であり,着信メロディーのサンプル曲である音源ファイルは7個が同一であったこと,③携快電話6と携帯万能8は,起動直後の画面,スケジュール編集画面,メールツール画面,メール転送設定画面,ブックマーク編集画面,着メロ編集画面,画像編集画面,iアプリ作成画面が極めて類似していたこと等の事実経緯に照らすならば,被告が,原告らによる携帯万能8の販売行為を自己の携快電話6について有する著作権を侵害するものと信じたことについては相応の事実的及び法律的根拠があったというべきである。
そうすると,被告の本件仮処分申立ては,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとは認められないから,原告らに対する違法な行為とはならず,不法行為を構成しない。
平成16年01月28日東京地方裁判所[平成15(ワ)5020]

(1) 本訴の提起は違法か
訴えの提起が相手方に対する違法な行為(いわゆる不当提訴)となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるというべきである(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決参照)。
これを本件についてみるに,本訴において原告の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものでないことは,前記において検討したとおりである。他方,本訴の提起が被告の言論活動を弾圧することを目的とした威圧行為であると認めるべき的確な証拠は存在しない。
よって,本訴の提起が違法であるとする被告の主張は理由がない。
(2) 本件告訴は違法か
一般に,告訴,告発をする者は,犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認すべき注意義務を負っており,かかる注意を怠って告訴,告発を行えば不法行為になるというべきである。
これを本件についてみるに,そもそも,本件告訴に係る告訴事実が認められることは,前記において検討したとおりであるから,原告が上記注意義務に違反して本件告訴を行ったと認めることはできない。
よって,本件告訴が違法であるとする被告の主張は理由がない。
平成23年02月09日東京地方裁判所[平成21(ワ)25767等]

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