[e163]編集著作権(英単語集)の侵害性

(証拠等)によれば、被告が被告辞典に収録した文例の選択は、前記の新聞、雑誌を資料としたほか、各種の辞典、英語に関する文献を基準、参考として行われたものと認められるところ、これらの多くの資料の一つとして「要語集」が使用され、そこからも一部の相当数の文例が選択されたものと認めざるをえない。
右の「要語集」から一部の文例を選択した行為は、新聞、雑誌から文例を選択した行為と同視すべきものではない。なぜなら、新聞、雑誌は、英語の語法について一定の方針の下に文章が選択され、編集されたものではないことが明らかであるから、その膨大な文章中から特定の語法の文例を選択することは、独自の創作性を有する選択行為であって、何ら新聞、雑誌の編集者の編集行為に依拠したものではないが、先行する同種の辞典中に掲げられている特定の語法の文例を同じ語法の文例として自己の編集する辞典に取り込む行為は、当該辞典の編集者が行った選択行為に依拠したものというべきだからである。
ところで、一般に、学術的著作物においては、先人の学術的研究の成果、すなわち先行する学術著作物を参照し、これを参考として、後行の著作が行われることが多く、むしろ、良心的な学術的著作物ほど、右のように同種文献を参照し、参考とする度合が高いものというべく、その結果、著作物の内容も相当似かよったものとなることがありうるところである。そして、このこと自体は、学問の性質上、社会的に相当な行為であって、当然に許容され、これをもって、先人の学術的著作物を模倣したということはできない。編集著作物においても同様に、先人の学術的編集著作物を参考とした上で、自ら素材の選択を行った結果、相当似たものとなることがありうる。素材の選択の幅が限られている場合には、同一のものを選択しなければ、いずれか一方の学術的価値に疑問を生じることにもなりかねず、これをもつて先行の選択行為を模倣したというのは適当でない。これに対し、素材の選択の幅が広く、先人の著作物を参考とした上で、なお独自の選択を行うことがいくらでも可能であり、異なる素材を選択しても、それが適切なものである限り学術的価値をそこなうおそれがないときまで、安易に先人の選択した素材をそのまま又は一部修正して利用することは、その素材の選択に費やされた先人の努力に只乗りすることであり、学術的著作物といえども、先人の選択行為を模倣したとのそしりを免れないものというべきである。このことは、英和辞典の編集においても当てはまり、文例の選択に関していえば、慣用的文章については右の前者の選択の幅の狭い場合に該当し、慣用的でない文章については右の後者の選択の幅の広い場合に該当するというべきである。
以上の観点に立てば、前記の被告が「要語集」に収録された文例のうちから相当数の文例をそのまま又は一部修正して被告辞典に収録した行為は、原告の文例の選択に依拠し、これを模倣したもので、その限度で、原告の有する「要語集」についての編集著作権を侵害するものといわなければならない。
昭和59年05月14日東京地方裁判所[昭和50(ワ)480]≫
【コメント】
次の、本件における控訴審昭和60年11月14日東京高等裁判所[昭和59(ネ)1446]≫も参照してください:ところで、言語辞典のような編集物の編集活動は、主として、それ自体特定人の著作権の客体となりえない、社会の文化資産としての言語、発音、語意、文例、語法などの言語的素材を当該辞典の利用目的に即して収集、選択し、これを一定の形に配列し、所要の説明を付加することなどから成り立つものであるが、例えば見出し語に対する文例が多数ありうるものであって、選択の幅が広いというように、当該素材の性質上、編集者の編集基準に基づく独自の選択を受け容れうるものであり、その選択によって編集物に創作性を認めることができる場合と例えば見出し語に対する文例選択の幅が狭く、当該編集者と同一の立場にある他の編集者を置き換えてみても、おおむね同様の選択に到達するであろうと考えられ、したがってその選択によって編集物に創作性を認めることができない場合がある。そして、後者の場合、先行する辞典の選択を参照して後行の辞典を編集しても、それは共通の素材を、それを処理する慣用的方法によって取り扱つたにすぎないから、特に問題とするに足りないが、前者の場合において、後行の辞典が先行する辞典の選択した素材をそのまま又は一部修正して採用し、その数量、範囲ないし頻度が社会観念上許容することができない程度に達するときは、その素材の選択に払われた先行する辞典の創造的な精神活動を単純に模倣することによってその編集著作権を侵害するものというべきである。

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