[e166]製品取扱説明書の編集著作物性

原告は,原告取扱説明書中の説明文,イラスト,絵表示を素材ととらえ,どのような説明文(文章内容及び文字の大小・太細,下線の有無など),イラスト,絵表示を使用しているかを素材の選択と考え,説明文,イラスト,絵表示の相互の位置関係等を素材の配列と考えて主張を展開しているもの解され,これに対し被告は,上記選択や配列はいずれもありふれたものであると主張している。
そこで,原告の主張する説明文,イラスト,絵表示自体が著作権法
12条1項の「素材」ととらえられるとして,その編集著作物性の有無を検討する。
原告取扱説明書中の個々の説明文や原告製品のイラストや絵表示自体は,著作物性における創作性を問題とすることはできても,編集著作物性を検討する場合は,個々の説明文,イラスト,絵表示の相互の位置関係の「配列」の創作性を検討する余地が考えられるにとどまる。
この点について,原告が原告取扱説明書の配列における創作性と主張するところは,原告製品の使用方法,特徴点,生じ得る問題とその対処方法,手入れ方法,各部の名称等,安全上の注意事項及び警告事項等の章立て,使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列していること,生じ得る問題点とその対処方法の説明において,問題点を頁の左に,対処方法を頁の右に配置していること,禁止事項についてはイラストに「
×」印を付していること,注意事項と警告事項を分け,各事項の説明においては頁の左側に絵表示を,その右側上段に各事項を,その右側下段に説明文を配置していること,説明文に沿って適宜イラストをその横や下に配置していること,注意事項等の前には絵表示を置いて注意事項等であることの注意喚起を促していること,以上の点と解される。しかしながら,これらの点は,製品の取扱説明書における,章立て,文章,イラスト,絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ない。
したがって,仮に本件において素材の配列の創作性を検討する余地が考えられるとしても,原告の主張する点において創作性を肯定することはできない。
以上のとおり,原告取扱説明書には編集著作物性を認めることはできない(。)
平成17年02月08日大阪地方裁判所[平成15(ワ)12778]
【コメント】
本件における、以下の控訴審平成17年12月15日大阪高等裁判所[平成17(ネ)742]≫の判断も参照:
控訴人の主張する説明文(文章内容及び文字の大小・太細,下線の有無など),イラスト,絵表示自体を著作権法12条1項の「素材」ととらえて,その編集著作物性の有無を検討しても,控訴人主張にかかる,①控訴人商品の使用方法,特徴点,生じ得る問題とその対処方法,手入れ方法,各部の名称等,安全上の注意事項及び警告事項等の章立て,使用方法の説明においては時系列に沿って説明文を配列していること,②生じ得る問題点とその対処方法の説明において,問題点を頁の左に,対処方法を頁の右に配置していること,禁止事項についてはイラストに「×」印を付していること,③注意事項と警告事項を分け,各事項の説明においては頁の左側に絵表示を,その右側上段に各事項を,その右側下段に説明文を配置していること,④説明文に沿って適宜イラストをその横や下に配置していること,⑤注意事項等の前には絵表示を置いて注意事項等であることの注意喚起を促していることは,いずれも,商品の取扱説明書における,章立て,文章,イラスト,絵表示の配列としてありふれたものといわざるを得ないから,「配列」の創作性を肯定することはできない。
したがって,いずれにせよ,控訴人取扱説明書には編集著作物性を認めることはできないから,複製の有無について判断するまでもなく,控訴人取扱説明書の編集著作権侵害を理由とする請求は,いずれも理由がない。

(1) 編集著作物性
ア 編集著作物の要件
編集著作物とは,「編集物で,素材の選択又は配列によって創作性を有するもの」であるから(著作権法
12条1項),編集著作物として著作権法の保護を受けるためには,素材の選択,配列に係る具体的な表現形式において,創作性のあることが必要である。
イ 取扱説明書の編集著作物性
もっとも,本件のような製品の取扱説明書においては,その性質上,次のような内容や表記方法が要求され,かつ,広く採用されていると考えられる。したがって,製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては,これらの内容や表記方法は,原則としてありふれた表記であるということができる。
(ア) 製品の概要(機能,構造,部品やその名称),取扱方法,発生しうるトラブルやその対処方法,注意ないし禁止事項などを,文章や図面・イラストによって説明する。
(イ) 説明内容を示すタイトルを付けたり,説明内容の重要度に応じて,文字の大きさや太さに変化を付ける,強調のための文字飾りを付す,注意を促すマークを付すなどする。
(ウ) 説明内容を理解しやすくするため,説明文の近くに,製品を簡単にデフォルメしたイラストや,製品そのものの写真を掲載する。
(2) 原告各取扱説明書の創意工夫について
原告は,原告各取扱説明書に表現された創意工夫として,①図面,記号,マーク,具体例の使用,②各種団体公認の表記,③取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行,④文字サイズ,文字飾り,インパクトのある単語,マークによる強調,⑤イラスト図面・記号の使用,記載場所,大きさ等の工夫を挙げる。
しかしながら,取扱説明書においては,一般に,わかりやすく伝える,安全性を図るといった点が要求されるため,前記(1)イのような内容・表記が広く採用されているものであるから,上記①,④,⑤の工夫は,通常行われているありふれたものといえる。また,上記①及び④と,⑤のうち記載場所以外の要素は,既に選択・配列された要素に係る表記上の工夫であって,そもそも,「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しない。
また,上記②については,原告各製品のアピールポイントの1つであるが,アピールすべきポイントが限られると,これらの要素を取扱説明書に記載する素材として選択することやその配列は,自ずと限定されることになり,創作性があるとは認められない。
さらに,上記③については,設置方法,使用方法,取扱説明書の趣旨(取扱説明書の説明),安全上の遵守事項を,どのような順序で配列するかについてであるが,まず,取扱説明書の趣旨が最初に述べられることは当然である。取扱説明書の中心となるべき,設置方法と使用方法については,製品は使用の前に設置する必要があることから,上記の順に配列されるべきである。安全上の遵守事項の記載位置については選択の余地があるが,通常,設置方法,使用方法の前か後という選択しか考えられず,しかも,その内容が重要であることから,前に記載されることはむしろ普通であると考えられる。したがって,原告各取扱説明書について,その順序に原告の権利を発生させるような創作性は認め難い。
(3) 原告各取扱説明書の記載について
原告各取扱説明書に係る,素材の選択・配列の創作性を示す具体的表現として原告が主張する箇所のうち,前記(2)のとおりありふれた表記といえる部分以外のものは,レイアウト上の工夫をいうものにすぎない。
また,原告各取扱説明書の各頁を見ても,写真,図面,説明文の配置については,製品の取扱説明書として一般的なものであるといえ,これを超えた創作性を認めることはできない。
(4) 結論
以上のとおりであるから,原告各取扱説明書は,編集著作物とは認められない。
平成23年12月15日大阪地方裁判所[平成22(ワ)11439]

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