[e169]適法引用の要件(2)

【主従関係】

ここに「引用」とは、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録することであり、また「公正な慣行に合致し」、かつ、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれる」ことという要件は、著作権の保護を全うしつつ、社会の文化的所産としての著作物の公正な利用を可能ならしめようとする同条の規定の趣旨に鑑みれば、全体としての著作物において、その表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができること及び右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められることを要すると解すべきである。
そして、右主従関係は、両著作物の関係を、引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、内容及び分量並びに被引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘って確定した事実関係に基づき、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観念に照らし、引用著作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められるかどうかを判断して決すべきものであり、このことは本件におけるように引用著作物が言語著作物(
C論文)であり、被引用著作物が美術著作物(本件絵画の複製物)である場合も同様であって、読者の一般的観念に照らして、美術著作物が言語著作物の記述に対する理解を補足し、あるいは右記述の例証ないし参考資料として、右記述の把握に資することができるように構成されており、美術著作物がそのような付従的性質のもの以外ではない場合に、言語著作物が主、美術著作物が従の関係にあるものと解するのが相当である。
(略)
以上を要するに、本件絵画の複製物は
C論文に対する理解を補足し、同論文の参考資料として、それを介して同論文の記述を把握しうるよう構成されている側面が存するけれども、本件絵画の複製物はそのような付従的性質のものであるに止まらず、それ自体鑑賞性を有する図版として、独立性を有するものというべきであるから、本件書籍への本件絵画の複製物の掲載は、著作権法第32条第1項の規定する要件を具備する引用とは認めることができない。
昭和60年10月17日東京高等裁判所[昭和59(ネ)2293]≫

以上検討したところ、とりわけ、控訴人書籍が「意見主張漫画」として、漫画という表現形式によって意見を表現したものであり、被控訴人書籍は、右意見に対する批評、批判、反論を目的とするものであること、及び、被控訴人書籍に引用された控訴人カットは、控訴人漫画のごく一部にすぎず、右批評、批判、反論に必要な限度を超えて、控訴人漫画の魅力を取り込んでいるものとは認められないことを考慮すれば、被控訴人書籍においては、被控訴人論説が主、控訴人カットが従という関係が成立しているというべきである。
控訴人カットに独立した鑑賞性があることは認められるけれども、控訴人書籍と被控訴人書籍の右関係に照らせば、そのことによって、被控訴人論説と控訴人カットとの右主従関係が失われるということはできないのである。
平成12年04月25日東京高等裁判所[平成11(ネ)4783]≫

本件詩は15行から成るものであるが、本件書籍にはその全文が掲載されていること、本件詩は、前記学年文集に原告の自筆による原稿が写真製版された形で掲載されていたところ、本件書籍の65頁の中央部に、これがそのまま複写された形で掲載されていること、右の頁は、本件詩の下部に「中学の文集でAが書いた詩。強い信念を感じさせる。」とのコメントが付されている以外は余白となっていること、本件書籍の本文中には本件詩に言及した記述は一切ないことが認められる。
右認定の事実によれば、本件書籍の読者は本件詩を独立した著作物として鑑賞することができるのであり、被告らが本件書籍中に本件詩を利用したのは、被告らが創作活動をする上で本件詩を引用して利用しなければならなかったからではなく、本件詩を紹介すること自体に目的があったものと解さざるを得ない。
右のとおり、本件書籍のうちの本件詩が掲載された部分においては、その表現形式上、本文の記述が主、本件詩が従という関係があるとはいえない(むしろ、本件詩が主であるということができる。)から、被告らが本件詩を本件書籍に掲載した行為が、著作権法上許された引用に該当するということはできない。
平成12年02月29日東京地方裁判所[平成10(ワ)5887]≫

【非著作物への引用の可否】

本条項の立法趣旨は、新しい著作物を創作する上で、既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから、所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから、利用する側に著作物性、創作性が認められない場合は、引用に該当せず、本条項の適用はないものである。
平成10年02月20日東京地方裁判所[平成6(ワ)18591]≫

同項【注:著作権法32条1項】の立法趣旨は,新しい著作物を創作する上で,既存の著作物の表現を引用して利用しなければならない場合があることから,所定の要件を具備する引用行為に著作権の効力が及ばないものとすることにあると解されるから,利用する側に著作物性,創作性が認められない場合は「引用」に該当せず,同項の適用はないというべきである。
平成22年05月28日東京地方裁判所[平成21(ワ)12854]

被控訴人は,著作権法32条1項における引用として適法とされるためには,利用する側が著作物であることが必要であると主張するが,「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」を要件としていた旧著作権法(明治32年法律第39号)30条1項2号とは異なり,現著作権法(昭和45年法律第48号)32条1項は,引用者が自己の著作物中で他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく,報道,批評,研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において,正当な範囲内で利用されるものである限り,社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと,同法32条1項における引用として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって,本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても,そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではなく,被控訴人の主張を採用することはできない。
平成22年10月13日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10052]

旧著作権法とは異なり,現行著作権法32条1項における「引用」として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件ではないと解すべきである。
平成26年5月30日東京地方裁判所[平成22(ワ)27449]

【その他】

編集物の素材として他人の著作物を採録する行為は、引用に該当する余地はないものと解するのが相当である。即ち、著作権法32条1項の第一文は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。」と定めているから、引用した側の著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる引用された著作物の利用に、その引用された著作物の著作権は及ばないことは明らかである。
これに対し、同法
12条は、1項において、データベースに該当するものを除く編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する旨を定めた上、2項において、「前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。」と定めているから、1項の要件を充足し著作物として保護されるいわゆる編集著作物の複製等の利用の際に必然的に生ずる編集物の部分を構成している素材の利用に、その素材の著作物の著作権が及ぶことを意味することも明らかである。してみると、編集物の素材として他人の著作物を採録する行為を引用にあたるものとして、編集物の複製等の利用の際の素材の著作物の利用に、その著作権が及ばないものとする余地はないものというべきである。
平成7年12月18日東京地方裁判所[平成6(ワ)9532]≫


本件においては,引用する側の表現であると主張する本件記者会見における(配布資料を含む)説明,批判,反論等と被告が引用される表現であると主張する本件各霊言及びその活字起こしファイルとは,同時ではなく1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられたものであり,また伝達媒体としても異なるところから,これらを理由として,著作権法32条1項の「引用」に当たらないと解する余地もあると考えられるが,以下においては,仮に「引用」に当たるものとして,同項の他の要件について検討する。
平成24年09月28日東京地方裁判所[平成23(ワ)9722]

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